スカフィズム

一昔前、この大陸は東の国と西の国の二国があり、長年冷戦状態にあったが、鉱山の優越や貿易の差異が徐々に歪みを生み出し、ついには戦争へと発展した。 西の植民地に産み落とされた私は生まれながらの奴隷であった。言葉を理解し、自我が芽生える頃には感情を封殺する痣があるのは当たり前になっていた。反骨精神などとっくに潰えている。私にも家族がいて、家計は全くままならないなか地獄を這って生きていた。私にも家族がいる。母親は、私が見ても妙な人で、この地獄の中希望をいだいていた。 「きっと大丈夫」 「いつか楽になる」 「耐え抜こう」 それが口癖だった。母はおしとやかで気は強い方ではないが芯のある人である。どんなに殴られ、蹴られ、鍵棒で焼かれようとそれはずっと変わらなかった。バカにされ、冷ややかな目で見られてもその信念を変えることはなかった。ただ、私の感情を封殺し、作業ロボットに仕上げた軍人に「目上の言うことを聞け」と教え込まれていたので母の言いつけを守りじっと耐えていた。私には父と兄が居たらしいが、私が生まれて早々に死んでしまったらしい。そんな中でも母は強かった。 七年後、実年齢十三のときに転機が訪れる。西の国が敗北し、東の国によって大隆が統一されたのである。それによって植民制度が撤廃、保護されたのである。港に船が向かってくる光景に、泣き出したり肩を組んだりなど思い思いの方法で歓喜の意を表した。私は混乱していてただ呆然と眺めているだけだったのである。船に乗り込み、甲板でも呆然と立ち尽くしていたところ 「まだ13だものね。実感が無いのでしょう。もう我慢しなくてもいいの。自由になれたのよ。」
ホネナシちきん
ホネナシちきん