第八話 路上教習

翌日、俺はいつものように交差点に来ていた。鈴木さんから聞いた話をホロ子さんにしてみたが、思っていた反応とは違った。 「金澤? 知らないわよそんなヤツ。アタシ、生きていた時の記憶が無いんだってば。もう忘れたの? 記憶力ニワトリなの? バカなの?」 「ぐぬぬぬ」 相変わらずの減らず口である。せっかくこっちが親切で言ってやってるというのにこの態度だ。 「それより、今日から路上教習なんだけど。アンタも付き合いなさいよ」 「路上教習って具体的には何をするんだよ」 「外で知らない人を脅かしたりするんだって」 これは後から爺さんに聞いて判明したことなのだが、ホロ子さんが取得しようとしているのは幽霊免許の中でも『驚型免許』というものらしい。彼女のように生前の記憶がない幽霊は基本的にこの驚型ルートしかないようだ。記憶があれば、家族の夢枕に出たりしてホッコリさせる『忠型』や、誰かの背後霊や守護霊としてベッタリくっつく『応型』などがあるらしい。『驚型』は文字通り、誰かを驚かせて霊の存在自体を現世で伝承させることを目的とした免許である。 「ところで、なんで君の路上教習に俺が付き合わなきゃいけないんだ?」 「何かあった時のフォロー役として、生きてる人が一人は必要なんだってさ」
吉口一人
吉口一人