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翌日もユウヤは同じ時刻である、七時二十分に目を覚ました。正確には、七時二十分と二分五十七秒。ベットから起き上がるまで数十秒が経ち、更に起床時間は延長される。しかし頭が覚醒しており、眠りという既存から脱しているのは事実である。やがて彼は目を片方ずつ開き、髪の毛を白いシーツからゆっくりと剥がしていった。徐々に体に重心が斜めに掛かっていく。
肩が布団から飛び出ると、微かに寒さを感じた。布団と部屋の空気との境目が生まれて、風が体に入り込んできたようだった。次に手首、指先が外界に触れる。足を伸ばすと、布団の後方から親指がはみ出し、汗が風に濡れた。んん、という声を漏らすとともに、腕が天井に向けて伸びていく。両腕を完全に伸ばし終えると、表情筋に力が入り、自然と欠伸が出た。背中が上側に引っ張られ、胸が前に押し出され、腹部が逸らされる。肩を下ろして、暫く放心する。ベッドに対して垂直の体勢になり、一度布団の中の足の付け根から膝までの膨らみを見やり、熱を感じ取る。布団の中は暑かった。
頭と背中を掻いて、ユウヤは布団を蹴るように身体から剥いだ。ベッドからようやく降りる。肩を軽く揉んで腕を回すが、特に何も効き目はないような気がした。
カーテンが開きっぱなしだったことに今更気がついた。日差しがもう既に照っている。テーブルの上には何冊かの本と空き缶やら紙屑やらが散滞している。飲みかけが溢れていたりしないだろうか、とふと思ったが、すぐに消えた。冷蔵庫の方へと歩き出す。
台所に着く前に足がコンセントに引っかかりそうになった。扇風機の置く場所に困っていた。そんなに広い部屋ではないので、仕舞おうにも仕舞えず仕舞いだった。もう夏なんてずっと昔に過ぎているというのに。欠伸をもう一度する。
冷蔵庫の中には、ヨーグルトが二個と麦茶、食べかけの昨日の夕飯の野菜炒めの盛られた皿が入っていた。ヨーグルトを取り出す。冷蔵庫を閉めて食器棚からスプーンを取り出して足をおぼつかせながらテーブルの前に座る。椅子はあまり好きではないので置いていなかった。床に座り込む。
テーブルの上の乱雑を一旦手で掃き退かせて、スプーンとヨーグルトを置いて朝食を食べ始める。ものの数秒で平らげ、スプーンをシンクに放って容器を捨てる。酸味が乾いた口に張りついた。うがいをすれば良かったと今更感じた。うがいのついでに顔に水を浴びる。
取り敢えずテレビを点けてみる。いつもと同じ、ニュース番組が流れる。毎日変わらぬ時間帯に放送しているものだ。当然面白くもなんともなかった。暗いニュースが多かった。哀しい知らせが大半を占めていた。暗い報道が多いなあ、と眠気混じりにユウヤは半開きの目でテレビの画面を眺めた。どうせ後で何もかも忘れてしまう。覚えているのなんて、一粒の種みたいな量の報道だけだろう。
交通事故のニュースを尻目に、着替えを始める。脱いだ寝巻きを床に放り、クローゼットの中から長袖のシャツを取り出す。今日は昨日よりも暖かいだろうか、春がさらに近づいてきている。
服を着替え終えると、話題のカフェ・バーのニュースがやっていて、目に入った。どうやら近い街にある店らしい。ここからなら、駅で二つ分くらいか、それぐらいの近さのようだった。名前はカフェ・ゼブラと書かれていた。近いうち、暇な時にでも寄ってみようかな、と不意に思った。
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カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2025/8/22 15:56
最終編集日時: 2025/8/23 11:39
アベノケイスケ
小説はジャンル問わず好きです。趣味は雑多系の猫好きリリッカー(=・ω・`)