無善悪

無善悪
【久世辰美 クゼタツミ】  容姿端麗な父母でした。しかし、それを引き継いだのは兄だけです。  僕は家族の誰一人とも似ていません。醜く吊り上がったこの目はきっと、顔も名前も知らない、母の不倫相手に似たのだと思います。  僕の顔を気に食わない父からよく、暴力を振るわれていました。警察に訴える勇気もなく、六年もの間、僕は父の道具として生きていました。  母はある日(夜中だったと思います)、意識が朦朧としている僕を叩き起こして言いました。 「逃げましょう」  と。返す言葉に悩んでいると、母は無理矢理僕にランドセルを背負わせて僕の腕を掴み、飛び出す勢いで外に出ました。  「走って」と言われたので、僕はとにかく走り続けました。  散々走った挙句に着いた場所は、おんぼろのアパートでした。
井出元 悠来
井出元 悠来
いでもとゆうらです。よろしくお願いします。 プロフィール画像は、自作イラストをAI加工したものです。