現世に帰ることになりました
仁菜の意識が回復に向かっているせいか、頭の魂と肉体を繋ぐ糸が、目に見えて太くなっていた。地獄の管理タブレットに表示された『復活者』の欄に、仁菜の名前が移動した瞬間、見学者としての滞在は終わりを告げた。
現世に生き返ることが決まった仁菜は、地獄の空気を名残惜しそうに吸い込んだ。洗濯地獄、アイロン地獄、料理地獄、収納地獄——彼女が手を入れた場所は、どこも少しずつ人間らしさを取り戻していた。
アゼルは、仁菜の前に立ち、何か言いたげに口を開いたが、すぐに閉じた。彼の表情には、複雑な心境が滲んでいた。
「……次に会う時は、ちゃんと迎えに行く」
不器用な言葉だった。けれど、その言葉には、確かな約束の温度があった。
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カテゴリー: ファンタジー
投稿日時: 2025/11/16 3:34
佐伯すみれ
初めまして。拙い作家ですがよろしくお願い致します。他にもNola、小説家になろうでも活動しています。