天使の骨 2

天使の骨 2
 「こっちが明滅する蝶で、こっちが人間でいうところの脳波が確認された、つまりは生きている鉱物。そして最後が、天使の骨だ」  「天使の骨、ですか」  「あぁ、言葉の通り、天使の骨さ」  どうして天使の骨を観察するのか。そもそも、天使が存在するということなのか。そういった僕の疑問を透かして見たように叔父は説明を付け加えた。  「天使といってもね、身体的な特徴から便宜的にそう名付けられただけで、特別、宗教的な意味合いが名付けの意図にあるんじゃない。っと、当初は考えられていた。この生物が、面倒だから天使と呼ぶけど、最初に見つかったのは五年前だ。日本へと密入国しようとしていた船に、なぜか天使だけが乗っていた。警察から送られてきた天使は法則性があるらしい言葉のような音を発したが、世界のどの言語とも類似性がみられず解析はできなかった。我々は天使を保護し、マニュアルに則って実験を行った。でも今までに紹介した生物たちのような際立った能力は確認できず、翼の生えた人間でしかなかった。こう、パタパタっ、と飛ぶことも無かったし」  叔父は鳥が飛ぶような真似を両手で小さくした。そしてここで一度話を区切った。話をしている相手の僕が、自身の背後に位置していることにやっと気付いたように躰を扉の方向からこちらに向け直した。遅れた髭が振り向きの勢いを受けて左右に揺れた。  「そんな天使だがね、保護から一年後に急死したんだ。原因は不明だ。天使は光合成をすることが実験で分かって朝昼夕の三回、陽の光を浴びさせていたんだが、夕日を浴びている途中に突然意識を失い、そのまま生体反応をも失った。観察している対象が亡くなった場合、その観察は死後も継続される。どういった腐り方をするのか、だとかを記録するんだ」  叔父はそこまで話すと口を噤んでしまった。そして彼の内側で何かしら思案しているのだろうことが見て取れる難渋な表情を顔面に浮かべた。そして僕に言った。  「どうして僕はこうも天使について説明しているのかね」  「ええと、なんでだったかな、忘れました」
山口夏人(やまぐちなつひと)
山口夏人(やまぐちなつひと)
好きな作品 「K君の昇天」梶井基次郎 「中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃」三島由紀夫 「狐媚記」澁澤龍彦 「阿修羅花伝」赤江瀑 「芽むしり仔撃ち」大江健三郎 「ぬばたまの」須永朝彦 「火星植物園」中井英夫 「半島を出よ」村上龍 「トビアス」山尾悠子 「獣の奏者」上橋菜穂子 「有頂天家族」森見登美彦 「宝石の国」市川春子 2005年6月11日生 ある文学賞に応募したけど、箸にも棒にもかからなかった作品を挙げてます。