命奪う前に、心奪いました②

 お待たせしました、と声を掛けると、女はゆっくりと振り向いた。  ある程度の距離を保って向かい合っているにも関わらず、化粧品の匂いや香水の匂いが風に乗って鼻を刺激する。  かなりの厚化粧と一目でブランド品と分かる洋服で完全に武装しているが、実年齢は五十を軽く超えている。  “彼女”曰く「そうやって武装して男に可愛く思われたいだけの、可哀想なおばさん」という事だが、俺は別に可愛いとは思わない。 「殺してくれた?」  腕を組んで、真っ赤なルージュを引いた唇で、女は開口一番そう言った。 「……ええ」 「そう」  次いで、短く呟くと俺に背を向けて柵の向こうの夜景を眺める。  後悔していますか、とその背に問えば、「別に」と僅かに苛立ったような返事。
和菜
和菜
「小説家になろう」で小説を書いてます。 誰かの目に止まったらいいなぁ……