もしもし、おつきさま

もしもし、おつきさま
きみが、わたしに触れたとき。 それが寒い冬でほんとうによかった。 きみの、体温がよくわかりますから。 わたしが、錆びた金具の身であってよかった。 夏、灼熱の太陽に溶けようとも。 きみの温度が、この身によく伝わるのですから。  それは、両手の指と腕を合わせた数よりもっとずっと前のことでした。長身の男と、柔らかな栗色をした髪の女性が、その部屋に住むようになりました。その女性は身重らしく、すこし大きな椅子に座って、よく何かを書きつけていました。夜の幕が被さるころ、男はその部屋に帰り、穏やかな表情で何か彼女に話しかけていました。わたくしがなぜ、そのようなことを詳しく知っているのかというと、わたくしからよく見える部屋だったからなのです。わたくしの立つ建物と隣の建物はともに、少し大きな集合住宅で、それはそれは賑やかな優しい場所でした。  しばらく経ったころです。長身の男がまだ出かけているころ、彼女が産気づきました。ひどく、苦しそうに唸っており、わたくしの耳にも届くほどの声の大きさでした。その声を聞きつけ、他の住人たちが彼女のもとに駆けつけ、かつて産婆をしていたという老婆が、赤子を無事にとりあげました。
歩道橋
歩道橋
はじめまして。