アステリズムのノイズ①
一章 耳をすましている
一話 まだ聞こえてこない
一ノ瀬さんはひどく魅力的な人だった。
おはようございまーす、とまっすぐな彼女の声が聞こえると、目が覚めて背筋が伸びる。制服を着崩すことなく、でもシャツの袖はいつも捲っていた。黙って本を読んでいると思えば、近くの女子生徒と談笑をしている。しばらくすると前髪をちょんまげにして遊んでいる。綺麗だ。
授業中に真っ直ぐ手を挙げているのを見ると、教科書の表紙に載せられそうなくらい絵になる。髪を耳にかける仕草も、控えめなペン回しも、全てが目を引いた。決してアイドルのような美人ではない。しかし彼女にはなにか、恐ろしいほどの魅力があると思う。中学生には似合わないような。
それに比べて僕はどうだろう。何か目立った取り柄はない。数学は得意だけど、天才の友達の裕士郎には敵わない。古典と英文法は壊滅的だ。一ノ瀬さんはどの教科もよくできた。彼女には「苦手」というものが存在していない、ような気がしてしまう。足なら男子である僕の方が速いだろうが、彼女は運動においても目立つ方だった。去年の体育祭では、一部の先輩から歓声が上がっていた。
作文や絵ではときどき賞を取り、運動もよくできて、テストだってかなり上位で。
得体の知れない魅力。隙のなさ。以上の点から僕は一ノ瀬さんを目で追ってしまう。彼女の弱点を見つけたいけれど、始業式から一ヶ月経った今でも収穫はない。
かさかさ、と横で課題を終わらせる生徒の筆記音がする。廊下で駄弁ってる男子の低音は、心地よく腹のあたりに響いてくる。机と椅子を引きずる音、キーホルダーが重なって揺れる音、運動部だろう、朝練が終わって寝てる奴のいびき。
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カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2026/5/13 12:57
Stella