王女の影は、恋を知らない
「貴方がいてくれて良かった」
そんな言葉を掛けられるたびに胸が苦しくなるのはいつからだっただろうか。
王女の幼少期から護衛として、ずっと、その言葉と敬愛に満ちた眼差しを受けることには慣れていたはずなのに。
すらりと伸びた手脚に艶のある長い髪。いつの間にか目線が高くなり身長差は縮み、かわいらしかった幼児はすっかり歳頃の姫君と成られた。姫が微笑むだけで花が咲いたように皆癒され心奪われる。訓練の合間に、その姿が拝見できるだけで心が動く。つい目で追ってしまいたくなる衝動を必死になって抑えつける。
最近の自分はどうしようもなく、静かな罪悪感に苛まれていた。彼女に対して、何かを望んでいるわけではない。その白い肌に触れたいとか、並んで歩きたいなどという不遜な願いは、微塵も持ち合わせていないはずだった。ただ、純粋な忠誠心という器からはみ出してしまう、ほんの僅かな熱が恐ろしいのだ。主君としてではなく、1人の女性としてその佇まいに見惚れてしまう瞬間がある。その一瞬の迷いそのものが、私にとっては己との誓いを裏切る、許されざる背信のように思えてならなかった。
向けられる屈託のない笑顔は、いつも眩しく、あまりにも無防備だ。彼女の私への信頼には、微塵の疑いも、邪念も、私を男として意識するような色事の気配すら含まれていない。私という存在を、世界の何よりも安全で、決して自分を裏切らない絶対の盾だと信じ切っている。その、あまりに透き通った無垢な信頼に触れるたび、私の内側にある仄暗い欲情が、醜く濁った泥のように浮き彫りになっていく。彼女が「騎士」である私に全幅の信頼を預けてくれればくれるほど、私の胸の奥では、名前も付けられないような不埒な熱がひっそりと首をもたげ、自制心を締め付ける。彼女の清らかな光が強ければ強いほど、私のなかに生まれる影は、より深く、黒くなっていくのだ。
3
閲覧数: 179
文字数: 1091
カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2026/9/20 22:08
はるきち
いいねやコメント失礼しますm(_ _)m
心身健康な時だと出来るのですが、最近読める時と読めない時の差が激しくて…_(:3 」∠)_
こんなやつですが、よろしくお願いいたします