第十一幕:狂宴

図書館を出たあとも、彼女はまるで熱に浮かされたかのように、記憶喰いの話を続けていた。 夕日を通り越し、宵闇が迫る街の裏通りを歩きながら、白い息が夜の冷たい空気に溶けていく。時折、彼女はうっとりとした夢見心地の声で呟いた。 「もし、本当にいるなら、どうやって呼べばいいのかしら。夢の中で呼んだら来てくれるかしら。ねえ、あなたはどう思う?」 彼は彼女の横を歩きながら、口元だけはいつものように柔和な笑みを湛えていた。しかし、その内面では、抑えきれない焦燥と苛立ちが渦巻いていた。彼女の言葉の一つ一つが、彼の脳をざらつかせ、神経を逆撫でする。 思考は隣から香る甘く濃厚な芳香に毒され、時空が歪み、足元から少しずつ地面が崩れていくような感覚に囚われていた。彼女は、さらに言葉を紡ぐ。 「もし、記憶喰いが私の前に現れてくれるなら……私は、全部差し出すわ。記憶も、理性も、名前も。全部、喜んで喰べてもらう。だから——」
さきち
さきち
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