顔
僕には顔がない。
比喩とかではなくて、本当にのっぺらぼうだ。目のくぼみとか鼻の出っ張りがかろうじて分かるくらいで、つるんとしている。目は見えるし喋れるし鼻も利くけれど、肝心の器官はどこにもない。つまるところ、漫画のモブだ。キャラデザがシンプルで、顔のパーツが省略されがちなアイツ。
つまり、僕はこの世界のモブなのだ。
いつもの通学路を歩く。この交差点を渡れば、僕の通う高校くらいしか行くところはない。僕と同じく顔がない奴が、半分くらいだろうか。高校生といえば青春真っ盛り。物語で焦点を当てられやすい時期だ。比較的多くの人間が、何かしらの主役、脇役になっている。
学校の敷地に入ると、野球部が朝練をやっている。さすがに顔のある奴が多い。個性的な奴はもちろん顔があるが、めちゃくちゃ普通なアイツも、意外と顔がある。普通な奴の近くには、大体ぶっ飛んでる奴がいて、平凡なアイツはいつも振り回されている。
顔のない僕たちは、平坦な日々を送っている。退屈だけど、疲れなくて良い。顔のない人はあまり感情がなく、この毎日に不満を持たない。顔が欲しい、と燃える人を見たことがない。
ただ生きているだけでいい。本来そうであるはずなのに、若干寂しいのは、この世界が顔のある人とない人に分かれているせいだと思う。
顔のない僕だけど、普通に暮らしている。意外に思われるかもしれないけど、彼女もいる。何の障壁もなく成立した恋愛関係なんて、特に注目されないものだ。
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カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2025/11/6 14:16
そら
きままに書きます。