左右の扉

 このまま眠れたらいいのになぁ……。  腕枕をしてもらいながら、私はこのところずっとそう思う。汗をかいた彼の肌の匂いがとても心地よい。  あと一時間くらいしたらいなくなってしまうが、仕方がないこととは諦めている。  好きになったのは私の方だ。  田舎から上京し、大学を卒業して入社一年目。入って最初の仕事で、発注書の桁を間違えるという決して小さくはないミスをした。頭の中が真っ白になってしまった私だったが、懸命になってリカバリをしてくれたのが、秋山武志。彼だった。  発注先に連絡し、作り直した発注書を持って、一緒に取引先まで出向いて頭を下げてくれた。 「よくあることだから。でも、気をつけてね」  部長にこっぴどく叱られた私を、陰で優しくなぐさめてくれもした。
べるきす
文芸短編小説をメインにアップしております。 なにかを感じ取っていただける作品を目指して^_^ もしかしたら対象年齢少し高めで、ライトではないかと思いますが、ご興味をお持ちいただけましたら幸いです☺️ 名刺がわりの作品としては「変愛」を。 もしご興味いただけましたら、少々長いですが「This Land is Your Land」を読んでいただければ幸いです。