タミコ

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タミコ

楽しく好きな時にやります。高校生です

居場所

それは演技でもなく、俺そのものだった。 誰よりも大きな声で挨拶して、誰よりも明るく話しかけて、 誰よりも楽しそうに笑う。それが、俺の“普通の姿”だった。 そのままでいれば、きっと輪の中に入れる。 そう信じて、中学の三年間を過ごした。 でも現実は違った。 「お前、空気読めよ」 「テンションきついって」 「まじでうざいんだよ」 その言葉が、少しずつ俺を削っていった。 高校入学の日、桜が風に舞っていた。 (高校でも同じことを繰り返したくない。) 俺は深呼吸をして、新しい教室の扉を開けた。 「下田晴翔って言います、よろしく!」 最初の数日は順調だった。 笑いも取れたし、席の近いやつともゲームの話で盛り上がった。 けれど、何かが少しずつずれていく。 俺が話し始めると、誰かが別の話をする。 俺が笑うと、変な嫌な空気になる。 「またあいつかよ」 「テンションきついんだって」 背後から聞こえたその言葉が、頭の中で何度も反響した。 だから俺は、空気を読もうと努力した。 何を話せばいいか話題を選んだ。 話しかけるタイミングを考えた。 それでも、なぜか俺は浮いていた。 昼休み、俺の周りだけぽっかり空白ができる。 お母さんが朝早くから作ってくれた弁当も一人で食べる。 けれど、その弁当をトイレの個室で、吐いてしまった。 胃の奥が焼けるみたいに熱い。膝が震える。 「なんで…なんで俺って、こんなに空気が読めないんだろ。」 声は掠れ、涙が落ちる。情けなくて、悔しくて、苦しかった。 その日の放課後、忘れ物を取りに教室へ戻ると、誰かが窓際の 席に座っていた。見覚えのある横顔。 いつもイヤホンをしていて、見るからにガタイのいい高槻だ。 高槻の机の上のノートには、びっしりと文字が並んでいた。 「なにそれ!!」 また考えるより先に、口が動いていた。 高槻は少し驚いた顔をしてから言った。 「俺バンドしてるんだけど、それの歌詞。」 「へえ…すげぇ!見ていい?」 俺はまたテンションが高くなってしまった。 けれど高槻は「いいよ」と言って、ノートを差し出してくれた。 そのノートには、孤独とか、叫びとか、飲み込んだ言葉とか。 俺の知らないはずの感情が並んでいた。 「……すげぇ!!すげぇよ!高槻!」 俺がそう言うと、高槻は少し目を細めた。 「ほんとかよ、そんなに?笑」 「うん!なんか、すげぇいい歌詞!」 その瞬間、教室の空気が少しだけやわらいだ気がした。 それから高槻とは、放課後によく話すようになった。 俺は歌詞の感想を言い、高槻は次の曲のイメージを話す。 初めて友達ができたみたいで、その時間は本当に楽しかった。 ある日、図書室で本を探していると、頭上から本が落ちてきた。 「うわっ」 とっさに受け止める。 「ご、ごめん!大丈夫?」 脚立から慌てて降りてきたのは綺麗な黒髪の可愛い女の子だった。 落ちてきた本は俺の大好きなミステリー小説。 「え!これ、好きなの?!」 またいつの間にか、声が出ていた。 「うん。このシリーズの本、今読んでるんだ〜」 その言葉に、胸がまた弾んだ。 「俺も推理するの好き!絶対当てたくなる!」 女の子は少しだけ驚いた顔をして、それから小さく笑った。 それがきっかけで、よく二人で話をするようになった。 女の子は三浦美香という名前で、隣のクラスだということや、 部活はテニス部だということ、この本のシリーズはどの巻が一番 面白いとか、表紙のデザインは昔のほうが良かったとか。 たわいもない話なのに、不思議なくらい時間が早く過ぎていった。 その日は、体育祭のリレーの練習の日だった。 いつも無口で大人しい山城が、バトンを落としてしまった。 周りからは「あいつ、なにしてんだよ…!」という言葉や舌打ちが聞こえたが、そのとき俺の口が、勝手に開いた。 「ドンマイ!次で取り返そう!」 その日の放課後、無口なはずの山城が俺に走り方を教えて欲しいと言うので、体育祭が終わるまで教えることになった。 山城は無愛想だけど、ちゃんと俺の話を聞いて頑張っていた。 時々、山城のリレーの練習に高槻と三浦も付き合ったり、 高槻のライブに皆で見に行ったりした。 いつの間にか俺達は、四人でいる時間が増えた。 高槻のライブを見に行った帰り道、四人で並んで歩く。 「晴翔の感想、毎回具体的すぎんだろ笑」 「だって!本当のこと全部言ってるからな!」 三浦と山城がクスクスと笑う。 その瞬間、なぜか胸が熱くなって、足を止めた。 「急でごめん。俺さ、昔から空気読めない奴って言われてて。」 三人が振り向く。声が少し震える。けれど、言葉が止まらない。 「ただみんなと仲良くなりたくて、笑って明るく振る舞ってさ。 無理して明るくしてるとかそんなんじゃなくて、それが本当の俺 なんだけど、もっと努力して嫌われないようにって。でも違った。 空気読もう、もっと静かにしないと、って頑張れば頑張るほど、 浮いて、遠ざけられて、うざい、空気読めよって言われて。」 拳を強く握った。 「高校でも中学みたいになったらどうしようって、毎日考えてた。教室入るたびに、今日は何も間違えないよなって。変なこと言ってないよなって。トイレで吐いたこともある。ほんと情けないよな。でもそれくらい、怖かった。」 喉が焼けてしまいそうなくらい熱くなる。 「……本当は、今も怖い。お前らといるの、本当に楽しいんだ。 今までで一番、生きてる中で一番ちゃんと笑えてる。でもさ、ふとした瞬間に思うんだよ。これ、いつまで続くんだろうって。急に終わったらどうしようって。俺がまた何か間違えて、気づかないうちに、この関係壊しちゃうんじゃないかって。」 沈黙が、やけに長く感じた。 心臓の音だけがうるさい。 やっぱり言うんじゃなかった。 なんで俺は、こうやって余計なことを言うんだ。 重い話なんて、誰も聞きたくないに決まってるのに。 自分から嫌われにいってどうするんだよ。 そのとき、高槻が言う。 「別に大丈夫だろ。」 三浦が、迷いなく続けた。 「うん、そんなに心配しなくても大丈夫。」 山城は、三浦の言葉に続けて大きく頷いた。 その時、胸の奥にずっと詰まっていた何かが、音を立てて崩れた。 息がうまく吸えない。 視界がぐらりと揺れる。 ああ、俺、嫌われてなかったんだ。 怖がらなくてよかったんだ。 喉の奥が熱い。 声を出したら全部こぼれそうで、必死に歯を食いしばる。 泣くな。泣いたら重くなるだろ。 空気壊しちゃうだろ。 でも、もう無理だった。 目の奥がじわりと滲む。 こらえきれなくなった涙が、何粒も落ちる。 笑おうとしても、顔がぐしゃぐしゃになって、うまく笑えない。 「……ッ、ありっ…がとぅッ」 やっと絞り出した声は、情けないくらい震えていた。 次の瞬間、ぐいっと肩を引き寄せられた。 高槻の太い腕が、俺の肩に回っている。 乱暴なくせに、力は妙に優しい。 「安心しろ。俺達はそんな簡単に離れたりしねーから。」 少しだけ笑いながら言う。 「お前がどんだけ空気読めなくても、俺らは別に困ってねーし。 むしろ助かってることのほうが多いしな。」 三浦と山城が目を細めて頷いた。 「だから逃げんな。勝手に一人になるなよ。」 その言葉で、張りつめていた糸がぷつんと切れた。 涙が止まらない。 必死に拭っても、次から次へと溢れてくる。 声にならない。 いつも無愛想な山城が照れくさそうに笑う。 「まあ、晴翔が嫌でも、僕らが離れることはないだろうね笑。」 その不器用な宣言に、胸がぐしゃぐしゃになる。 俺は泣きながら、何度も、何度も頷いた。 もう、無理して友達を作ろうとしなくてもいい。 声が震えてもいい。涙が出てもいい。 それでも、隣にいてくれる人がいる。 俺は、もう一人じゃない。 「よし!明日も学校だし、早く帰ろ!」 三浦の声に背中を押されて、俺は笑いながら歩き出す。 俺はきっと、これからも完璧にはなれない。 空気を読めない日もあるし、余計なことを言う日もある。 でも、それでもいい。間違えても、立ち止まっても。 きっと明日も、くだらないことで笑うんだろう。 その中に俺がいる未来を、今はちゃんと想像できる。 それだけで、前に進める気がした。 あとがき 先日、とある映画を観ました。 そこに出てきた男の子は、空気が読めないと言われたり、 そのせいでいじめられていた過去があるような子でした。 もし彼に、ちゃんと受け止めてくれる友達がいたら。 もし彼の声が、きちんと届く場所があったら。 そんなことを考えているうちに、「この子を主人公にして、 なんとかしてあげたい!」と思い、この物語を書きました。 本当はもっとゆっくり丁寧に、喧嘩や恋愛なども書きたかったん ですが、今回は短編なので展開はかなり早めです。 そのぶん感情だけはちゃんと詰め込んだつもりです。 もしまた時間が取れたら、長編小説を書きたいと思います。 最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。 この物語が、あなたの心にも少しだけ響いていたら嬉しいです。

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やきそば

この前、私は人生でなかなかの失敗をした。 といっても別に大げさな話ではない。 カップ焼きそばのソースを、湯切り前に入れてしまっただけ の話である。 あの日の私は、とにかくお腹が空いていた。 フタを半分はがし、ソースの袋を取り出す。 説明は読まずに、ためらいなくソースを麺にかけた。 そのあと何事もなかったようにお湯を注ぎ、三分待ち、 シンクへ向かった。 湯切り。ジャー。 薄茶色のお湯が流れていく。 私はその光景を見ながら、頭の中でゆっくりと考えた。 「あれ?これ、もしかして…」 理解した瞬間、人は声も出ないのである。 こうして完成した焼きそばは、匂いもしなかった。 近所迷惑になりそうな、あの美味しい香りが、ゼロである。 早速食べてみたが、無味。いや、正確には麺味。 仕方なくマヨネーズを大量投入したところ、今度は「マヨネーズ を絡めた麺」という新ジャンルが誕生した。 一口目で期待は見事に裏切られたが、冷蔵庫の奥から発掘した ソースを使って、なんとか完食した。 だいたい人生の失敗は、もうすぐゴールというところで起きる。 あのとき流れたソースは、私の慎重さだったのかもしれない。 そんなことを考えながら、私は今日も説明書きを一応読む。 でもたぶん、またいつかやると思う。 人間とは、そういうものである。

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油性ペン

わたしがまだ小学校低学年だったころの話である。 その頃のわたしは、とにかくヒマであった。 ヒマな子どもというのは、ろくなことを考えない。 ある日、ふと思ったのだ。 「お腹に顔を描いて踊ったら、ぜったい面白い!」 なぜそんなことを思ったのかは、今となっては謎であるが 多分、テレビかなにかに影響されたのだろう。 しかし当時のわたしの脳内では、それは満場一致で、 「最高に面白いもの」として可決された。 問題は何で描くか、だが、当時のわたしの目に入ったのが 油性ペンのマッキーである。 当時のわたしは、油性と水性の違いを「なんとなく濃いか薄いか」くらいにしか認識していなかった。 つまり、“消えるかどうか”という重大な観点がすっぽり抜け 落ちていたのだ。 わたしは鏡の前で服をまくり上げ、自分の腹というキャンバスに、思いきりブッサイクな顔を描いた。目は左右で大きさが違い、 口はやたらデカく、歯はなぜか一本だけ飛び出している。 今思えば、なぜあんなにも悪意に満ちたデザインにしたのか 自分でもわからない。そして踊った。腹をぷるぷるさせながら、 「ほら見て!腹ダンス!」 とお母さんに見せたら、お腹を抱えて笑ってくれたことを 今でも覚えている。しかし、問題はその夜である。 お風呂に入り、ふとお腹を見たときだ。 「あれ?まだ消えてないなぁ。」 ゴシゴシ。…消えない。ゴシゴシゴシゴシ…… 当時のわたしは、泣きそうになりながらも頑張って擦ったのだが、お腹は赤くなり、ブサイクな顔が残っただけであった。 しかもタイミングの悪いことに、翌日は体育だった。 小学校低学年の更衣室は、ただの騒がしい場所であるが、友達が お腹のブサイクな顔を見つけるチャンスにもなりうる。もしも 見つかってしまったら、以降、学校に行けなくなるであろう。 なので、その日のわたしは常に壁際をキープし、しゃがんで お腹を隠しながら、そーっと着替えた。 結局その顔は、お腹に一週間も居座り続けたが、なんとか誰にも 気づかれずに、その一週間をやり過ごすことができたのだった。 今でもたまに思う。なぜ、よりによって油性だったのか。 しかしまあ、子どもというのはそういう生き物である。 消えないものだとは知らずに、思いきり描いてしまう。 あのブサイクなお腹の顔は、わたしの絶望的な一週間であると 同時に、ちょっとだけ誇らしい思い出でもある。 なにしろ、あれが人生初の「体を張った芸」だったのだから。

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