宇佐田 琴美

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宇佐田 琴美

初めまして!他の誰でもなく自分の性癖に刺さる作品を作ることがモットーの宇佐田 琴美です(*´ω`*) Twitter: @usakoto_account

霊柩車

朝のホームルームの時間。少し遅れて、担任の教師が神妙な顔付きをしながら教室にやってきた。一年一組の女子生徒が亡くなったらしい。 (一組……妹のクラスだな) 優斗は同じ高校に通う一年生の妹を心配した。優しく、誰とでも仲の良い彼女のことだ。きっとクラスメイトの死に心を痛めているに違いない。 「これから霊柩車がグラウンドを一周してから火葬場へ向かうそうだ。全員外に出て黙祷すること。それから一限の授業は自習だ」 それだけ平坦な声で伝えると、担任はそそくさと教室を後にした。 自殺だって……。 何でだろうね、いじめかな……。 方々でそんな囁きが聞こえる。 教室から出ると、他のクラスの生徒達も続々とグラウンドへ向かい始めていた。 グラウンドで、真ん中を開けるようにして各クラスの生徒たちが整列する。優斗は一年生の方へ目を向ける。何人かの女子生徒が泣いている。その中に妹の姿を見つけ、ああ、あそこが亡くなった子のクラスか、と思いを馳せる。 やがて霊柩車が到着し、助手席から降りた父親と見られる男性が遺影を手を深々と一礼する。そうしてまた車内に戻ると、霊柩車は徐行しながらグラウンドの中央を走る。 「あっ……」 霊柩車が優斗の正面からやってきて右にカーブした時、霊柩車の後ろに一人の女生徒が立っていることに初めて気が付いた。 『……、……』 その女生徒は、何かを呟きながら霊柩車の後ろをついて回っている。露出している顔も手足もこの世のものとは思えないほど青黒く変色している。 否、この世のものでは無いことは、一目見ればすぐに分かった。 女生徒の首はまるできつく縛った巾着袋のように絞扼し、頭は風船のように大きく膨らんでいたからだ。 口はぽかりと黒い穴を開けていて、だらしなく涎を流している。目はぎょろりと飛び出して酷く充血していた。 『……ダヨ、……』 女生徒はやはり何かをブツブツと呟きながら、大きな頭を揺らして霊柩車のあとをついて歩いていた。 まだ何かを見間違えるにはあまりにも真昼間で、晴天の日。優斗はそれを信じられない思いでただ見つめるしか出来なかった。 『シャシ……メダヨ、……シン……』 写真……? 写真がなんだと言うのだろう。 この異形の女生徒を、自分以外に認識している人間はいないのだろうか。そう思い周りに目を向けるも、皆神妙な顔付きで霊柩車をただ見つめているようにしか見えない。 『ダメ……ダヨ……、』 やがて霊柩車はグラウンドを一周すると、長くクラクションを鳴らして学校を去った。ゆらゆらと揺れる、巨大な頭の女生徒を連れたまま。 あれは、何だったのだろう。 おしまい

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霊柩車

フラッシュ

夜寝る前、暗い部屋でベッドに入ったままスマホをいじるのが朋花の至福のひとときだ。 「あ、のんちゃんインスタ更新してる。これスタバの新作じゃん。良いなー」 友人のSNSを一通りチェックし、それからケータイ小説を読み、気が付くと深夜零時を超えていた。 「明日も学校なのに……早く寝なきゃ」 そう思いはするものの、一度見始めてしまうとなかなか切りよく止めることができない。朋花が見ているのは「怖い話」。ぞくりとするようなショートストーリーの数々に、どんどんはまりこんでいく。 零時半までには寝よう。いや、一時までには。あと十五分だけ。 ふと顔の前に、何かが横切ったような風を感じる。 「ん……なに、虫?」 スマホの白い画面と自分の間を、左手でさっと払う。 もちろん何もない。 気のせいか。そう思って、またスマホのスクロールに夢中になる。 『ハァ……』 「なにっ……!?」 突如、低く呻くような溜息のような声がすぐ耳元で聞こえた。布団を頭まで被り、朋花は思わず身を固く縮める。 (何か……いるっ……?) 心臓がバクバクと大きな音を立てる。布団の中でしばらくじっとしているが、自分一人の部屋はいつも通り、エアコンのヴーンという小さな起動音が聞こえるだけだ。 「……」 心臓の音が静まってから、朋花はやっと布団から顔を出す。スマホのライトを起動して室内を見回すも、やはり八畳しかない部屋の中に他の人間などいない。 やっぱり気のせいだ。怖い話なんて読んだから、小さなことに一々過敏になっているだけだ。 もしかしたら幽霊かもだなんて、もう高校生なのに恥ずかしい。そう思い、朋花はスマホのカメラを起動してフラッシュをオンにすると、部屋の写真を撮る。 カシャッ。 暗い部屋に、カメラのフラッシュが光る。 画面にはなんてことはない自分の部屋がピンぼけで写っていた。 「もう……やっぱり何もないじゃん」 馬鹿なことをしていないで、早く寝よう。そう思ってカメラを終了しようとした時、指先が画面に触れインカメラに切り替わった。 「あっ」 カシャッ。再びフラッシュが光った瞬間。 『アアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア』 画面に大きく写し出された白い顔の女が、赤い黒目を左右バラバラの方向に向けながら絶叫した。 おしまい

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フラッシュ