「ATANAL」 序章
国立ロードフォード魔法学園とは、約600年もの歴史を誇る由緒正しい国唯一の国立魔法学園である。
4年制の学園では、学年ごとに制服の襟の色が変わる。4年生にもなれば、学園の建設者であり、世界の誇る大魔法使い「ロードフォード大魔法使い」の愛用していたペンダントに使用されていた紫色の襟を身にまとい、生徒それぞれが自身の夢のための最後の準備を始める。
難しい試験を突破した大魔法使いの卵たちが、最高の教育と最高の仲間たちと日々を共にする。世界有数の魔導書を惜しみなく使い教育を受けてきた生徒たちの未来は明るく、今までも数々の有名な魔法使いを排出してきた。
学園長の話は約2時間続くところを、副学園長に止められ何とか1時間で切る事ができた。痺れてきた足を癒しながら教室に戻る。終業式は終わり、明日から春休みだ。
「えーてことで春休みの宿題は、今流行りの魔薬の新しい情報をひとつでもいいから持ってくること。以上」
先生はまるで、「今日の夜ご飯はカレーライスです。」と言うかのようなテンションで言い放った。当然ながら、教室内は騒然とする。
教室内がザワつくのを無視しながら、プリントを鞄にしまう。すると教室の最前列に座る1人の男子生徒が手を挙げた。
「すみません。今流行りの魔薬って、ポラリスのことですよね?」
「そうそう。人の魂を使い人の魂を操るとっても危険な魔薬だよ。一応言っとくけど、情報を探る際に好奇心から誤ってポラリスに手を出しちゃダメだよ。ま、そこら辺の良識はみんなあると思うけどね」
すると続けてもう1人の女子生徒が追撃を入れる。
「なんでもいいから新しい情報を持って来るって、最悪生徒同士で情報を共有してもバレないと思うんですけど、その場合の処分はどうなっているのでしょうか?」
「良い質問だね。君は将来、良い魔法使いになるだろうね。わざとでもわざと出なくても、手に入れた情報が被る場合もあるだろう。なので、情報が被っていればいるほど成績の点数を下げさせてもらうよ」
教室中から批難の声が充満する。先生は足元の、教壇に隠れて見えないが、自分が今立っているであろう小さな木箱の安定性を確かめる。そして、そのどよめきを抑えるかのように咳払いをひとつし、また大きく口を開いた。
「この宿題は比較的危ないし、コスパも悪い。なので、任意にしようと思っている」
クラス中が息を飲むのがわかった。
すると、再び先程の男子生徒が声を上げる。
「つまりそれは、実質宿題なしということですか?」
生徒の歓声の声がチラホラと聞こえてくる中、先生は大きく頷いた。
「確かに、今回は実質宿題は無いと言っても過言ではない。しかし、こちらも大きな特典を用意してある。」
すると先生は懐をまさぐりながら、2枚のチケットを取り出した。
「今回の宿題で、私が最も使えると判断した情報を持ってきた上位6名にだけ、世界大図書館へ行く権利を与えよう。そして大幅な成績加点。この宿題はチームで行ってもいいが、6名以上になる場合はチケットの配分を予め決めておくように。あと、嘘つき防止のため、我が学園の誇る嘘鑑定機にも案内する権利を与えよう。嘘ついてた場合は痛い目を見るからな。それでは、HR終わり!解散!」
学園の廊下はいつもと変わらず喧騒としている。
学園の2階、階段を昇って左にずっと行った先には自分の所属するクラスの個人ロッカーがある。春休みの準備のため、ロッカーの荷物から必要なものだけ取り出して閉めようとしたところを、1人の青年に止められた。
「なぁセス・ショーン君。君は勿論優等生として、今回の宿題を受けるつもりでいるよね?」
質問なのに何故か確信に満ちた声色で聞いてくることに違和感を覚えながら、またロッカーを閉めようとする。しかし閉めようとしたロッカーの扉を手で抑えられ、傲慢な態度で1歩詰め寄られた。
「実はちょうど僕も宿題をやろうと思っていてね、どうだい?僕と一緒にやらないかい?」
そう言って差し出してきた右手を横目で見る。傷の一切ない綺麗な手だ。攻撃魔法を得意とするものによく見られる切り傷や打撲のような跡もない、まっさらな手。コイツ、本当にこの学園の生徒なのか?ならもう少し努力の跡があってもいいと思うのだが。
そんな関係ないことを思いながら、差し出してきた手は無視し、彼を見た。こんなやつクラスにいたっけ。
「悪いけど、確かに俺はこの宿題をやろうとした。でも1人でだ。足手まといはいらない」
「そう言ってる奴ほど死にやすい。それかヤクに手を出して退学だね」
自信満々に答える彼に少しムッとする。
「さっき俺の事を優等生だと言ってくれていたけど、君の中の優等生はヤクに手を染めるほど馬鹿なのかい?なら皮肉に対応できなかった俺に落ち度があるね」
彼の眉間に少しだけ皺がよるのが分かる。俺は勢いよくロッカーの扉を閉めた。すると彼は焦って勢いよく掴んでいた扉から手を離す。
「たしかに。俺は宿題を受けるつもりでいる。だが生憎、俺は君のことを一切知らない。突然知らない奴に声をかけられたんだ。同じ学年なのは分かるけど何組なんだい?俺より優秀なら、一緒に宿題を受けてあげてもいいけど」
すると、彼の目が少し細められるのがわかった。まるでこの質問を待っていましたとでも言うべき様な表情だ。
「あるよ、ひとつだけ。君に勝っていることが」
口角が少しだけ上がる。
「僕は多分、君より人を殺せる」
学園中に、帰宅をせかすチャイムが鳴り響いた。