ヒマジン

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ヒマジン

趣味はアニメとラノベを見ることです。

怪奇現象相談事務所⑦雨女編(三)

「ここら辺かな…」 俺は隣町の雨女が出現すると噂の河原へ来ていた。 大雨の中、傘を差し河原周辺を歩いていると 背後から気配がした。嫌な予感がしながらも 俺は恐る恐る振り向いた。 「テメェ、こんなところで何やってんだ?」 振り向くと、金髪に耳ピアスと不良な印象の男子だった。 金髪に…ピアス… 「どなたでしょうか…」 ここら辺の家の住人は老人が多いため、若年者は珍しい。 「怪しいなぁ、雨の日にこんな所にいるとは、それに嫌な気配がプンプンするぜ」 金髪の男子はこちらを睨み、その後不敵な笑みを浮かべ、近づいてきた。 話を聞いていないのか、聞こえていないのか… 先程よりも大きな声を出し、 「…嫌な気配?何のことだ」 そう言うと金髪の男子は首を触り、チッと舌打ちをした。正確には舌打ちは聞こえなかった。雨の音で遮られたためだ。だが、口元が若干の動きを見せたため舌打ちをしたのがわかったのだ。 「嘘ついてんじゃぁ、ねぇよ、悪魔憑きが」 悪魔憑き?何の話なんだ… 確かに俺は霊とかは見れる、だが悪魔に憑かれたりはしていない…はず。いや、待てよ… そこで、木霊幽夜は一つの仮説に考えついた。 先日、礼堂を庇いとあるモノから攻撃を受けた。 それは呪いか将又、霊か。 それとも… “悪魔“か。 「…テメェ、オレに楯突く気か?いいぜ、やってやるよ」 多分、彼は俺に憑いているモノが 見えているのだろう。 だが、俺は幽霊以外のことはからっきしわからない、なら… 「待ってくれ、俺に何か憑いてるんだろ?話し合いをしよう」 「あぁ?悪魔憑きに貸す耳なんざ、ねぇんだよ!!」 瞬間、腹部に激痛が走る。見ると、金髪の男子の拳が鳩尾に五センチメートル程食い込んでいた。 声にならない声が自分から聞こえる。 飛沫が飛んだのが見える。息ができない、 数秒すると、呼吸ができるようになった。 酸素を求めるように呼吸をする回数が段々と増える。 「…ちょっと待っ」 息が整った時宜を得たように首に向かって、 金髪の男子が肘に勢いをつけ、叩きつけた。 俺は気絶した。最後に見た彼の顔は憎悪に塗れた、 全てを呪っているようなそんな顔だった。 同日、同時刻。 ピンポーン チャイムが鳴る。 看板を見ると、怪奇現象相談事務所と書いている。 「はーい、今出るよー」 中からは男性の声かそれとも、声の低い女性の声がした。 「おかえり、幽、ゃ。えっと、どなたでしょうか」 出てきたのは女性だった。黒髪ロングで浮毛が目立っていた。 「えっと、木霊さんの同級生の礼堂知沙です」 「そうなのか、私は物野恵という。よろしく」 「よろしくお願いします」 玄関前で互いにお辞儀をしているのは不条理なものであった。 「ところで、気になってたんですけど、何で 口周りにカレーがついているんですか?」 「へっ!?」 間の抜けた声を出し、口周りをハンカチで物野は拭った。 「…ん」 目が覚め、木霊は辺りを見渡す。 周りには札や盛り塩、一つの"小箱"があった。 部屋の広さは五畳くらいだろうか。あまり広くはない。 自分の身体を見ると、気絶する前までなかった 傷や痣ができていた。多分、気絶した後も 何度か蹴られたりしたのだろう。 部屋の端に扉を見つけ、動こうとする。 その瞬間、手の方からジャラッと音が鳴る。 鎖で繋がれていたのだ。だが、何故だろうか ここまで一度も取り乱したり、恐怖を感じなかった。 人間。行き過ぎた感情を持つと噛み続けたガムが 味がしなくなるかのように もしくは、一回受けたネタを何度も披露する 芸人かのように 何も感じなくなるというのは本当だったのか。

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怪奇現象相談事務所⑦雨女編(三)

怪奇現象相談事務所⑥雨女編(二)

何で人の家の前、ウロウロしてんだよ。 顔を引き攣りながら思う。 「まあ、何かの気のせいじゃないか?」 「うーん。思う所はあるけど、気に しないことにする」 若干のモヤモヤはあるが、今追っても追いつかない だろうし、外は少し出ただけでも汗を掻く くらいに暑いので出来れば出たくない。 「外暑いから中に入らない?」 と俺は物野さんを事務所へ案内する。 「うん」 事務所に入るや否や、倒れ込むようにして物野は ソファに寝転がる。 「せめて汗拭いてから、ソファに寝転がって よ」 「幽夜、喧しいぞ」       物野は服をパタパタさせ、汗拭きシートを手に取る。 「あ、そういえば」と眉を上げ、人差し指を立てる。 「どうかしたの?」 首の汗を拭いている物野の方に目をやる。 「いや、前にあげた武器達の名前とかつけたの か、聞こうと思ってたんだ。」 「…まだ決めてなかったな」 「それならさ、今日武器の名前決めない?」 と汗拭きシートを片手で丸め、ソファの傍にある ゴミ箱へ放りながら言った。 あ、はずれた。 ゴミ箱の真横に転がった、汗拭きシートを 拾い捨てると。 「でも俺、ネーミングセンス皆無だよ?」 「だね、幽夜が小学生の時に私が拾った犬に名前 付けてほしいって言ったら、イヌダロウだからねー タロウならまだしもダロウって…クフフ」 上品に口元に手を添え、忍び笑いをする。 自分で言うのは良いけど、他人に言われると癪に障るな… 俺が眉を顰めていると、苛立っていることに 気がついたのか、物野さんが。 「ごめんって。真剣に悩んで出た名前があれだったからさ 面白くって」 「まあ、いいけど」 口を尖らせ、「ふんっ」とソッポを向く。 「そうだなー。銃の方は蜘撃とかどうだ?」 浮毛をピンっと立たせて、聞き及ぶ。 「かっこいいんじゃない?」 「じゃあ、決定だ」 御満悦な表情を浮かべ、ソファにもたれかかる。 「次は…懐中電灯みたいなやつだな…」 物野さんの言葉を遮るようにして、俺は 「それは俺が決めるよ」と言った。 「うーん。球響にする」 「おっ。いいねー」 その途端、くぅーと物野の腹が情けない音を立てる。 「物野さん。お腹空いたの?」 「うん、朝も昼も食べてないから。幽夜の家で食べようかなって」 少し頬を赤らめ、照れ臭そうに言う。 いい歳した大人が何やってんだか… 物野さんは研究の時以外は、いつも自堕落な 生活送ってたっけ。それで中学の時は毎週掃除しに行ってたな… 瞳を閉じ、物野の部屋の様子を思い浮かべ、 感慨にひたる。 「何か、幽夜がため口になってから距離が縮まった 気がするなー」 と俺が考えていたことが分かったかのように、 物野さんはニマッと笑みを浮かべる。 「そうかな?まあ、取り敢えず夕飯にしようか」 夕飯を食べ終わると、物野は「また来るね」 と満悦な様子で事務所を出た。 物野さんが帰るのを確認すると、俺は「ふう」 とため息を吐いた。 まさかカレーを5杯おかわりするとは… 武器を作っている時とは打って変わって、 自堕落な彼女に感嘆する。 「さて」と事務所の椅子に座り、雨女について 調べ始めた。 ネットには、目撃情報以外には特に、被害など があるとは記載されていなかった。 少年との証言がことなるな… 顎を撫で、疑念を持ち、憮然とした表情を 浮かべる。 「…明日は大雨か」 ネットのニュースに書いてある、天気予報が 視界の端に映る。

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怪奇現象相談事務所⑥雨女編(二)

怪奇現象相談事務所⑤雨女編(一)

ある梅雨の時期の大雨の日。 (今日は一段と風が強いな…) 中学生の少年が飛ばされないよう傘を強く握る。 この日はいつも以上に薄暗く、風も強かった。 少年は不気味に思い、足早に帰路に つく。 (居残りでいつもより遅くなっちゃったな…) そんな事を考えながら、ミシミシと音を たてる傘をより一層、強く握り締める。 (何だろ、あれ…) 少年の目線の先には、数十メートル 先にある河原の近くに立っている 女性が見える。 (危ないな、声かけた方が良いかな。 ん?何か持ってる…) 大雨で川は氾濫していた。 そして顔に落ちてくる、水滴を拭いながら 目を凝らし、ジッと女性の持っている ものを見る。 「ッ……」 女性が手に持っていたもの、いや、 引きずっていたものは小学生低学年の 男子だった。 男子は抵抗もせず、ただひたすらに引き ずられていた。 (やばい、人を呼ばないと…) 人を呼ぼうにも、雨で声が掻き消される と判断し、少年は恐怖でその場でジッと 見ることしか出来なかった。 次第に小学生の男子は、目が覚める。 男子は必死に抵抗を始める。 女性は川で一番流れが強い所に着いたのか 必死に抵抗する男子を川に落とす。 男子は全身をバタバタとさせて、もがいて いたが段々と動かなくなり、なすすべもなく 流されて行った。 (え…嘘だろ…) 中学生の少年は口を押さえ、恐怖で 腰を抜かし、その場に倒れ込む。 ドサ… その音を聞いた女性は少年の方を向く。 そして、少年に指を差した。 「え…?」 少年はやばいと本能で悟ったのか、 気づけば全速力で家まで走っていた。 「途中で雨女も見失ったのか、 後ろを見ると追って来きていませんでした。 また出てくるのではないかと、不安で 眠れなく、日常生活もまともに送れないので 相談させていただきました。 と、いう内容です」 話し終わると、礼堂はソッと紙をポケットに しまった。 「なるほど、実体件もあったのか… ま、取り敢えず少年に会いに行かない とな」 俺は立ち上がり、礼堂を見下ろしなが ら言った。 「そうですね、電話番号これです」 資料に書かれている電話番号を指差す。 そういえば…と俺はおもむろにスマホ を取り出す。 「連絡先交換しないか、その、何か あったときの為にさ」 断られないか心配をしながら言った。 勿論、そんなことはないとは思うが。 「いいですよ。連絡先あった方が 何かと便利ですしね」 動揺することなく、礼堂はスマホの 連絡先を教える。 夜礼堂が帰った後、自室のベッドに転がり 呟く。 「よかった…」 次の日 今日は梅雨にしては、珍しく晴天だった。 「予定では二人と聞いていたのですが…」 黒髪メガネのいかにも、真面目そうな 中学生の少年が言った。 「ああ、予定が入ったらしくてですね…」 そう、礼堂から今朝、今日は家族と出かけると いう旨を連絡が送られてきたのだ。 丁寧、かつ申し訳無さそうに。 「そうなんですね」 少年は不平な顔を浮かべた。 何か礼堂に用事でもあったのか?と 考えながら何処となしにその表情に違和感 を覚えた。 「これ場所の地図なんですけど」 スッと机の上に少年は雨女が出没する 場所が記載されている紙を差し出す。 「隣町ですか。見やすい地図で助かります」 地図には、近くにある店舗の名前、行き道など が事細かく、丁寧に書かれていた。 すると、中学生の少年がモゾモゾと体を 動かしているのに気がついた。 「どうかされましたか?」 少年は剣呑な表情をして「えっと…」と 話す。 「すみません。僕中学生三年生で受験も 控えていて、勉強をしないといけないので これで失礼します」 少年は立ち上がり、「これ相談料です」と 一千円札を二枚机に投げるように、置いていき、 逃げるようにして少年は玄関から、飛び出していった。 何だったんだ、一体。 少年の勢いに押され、驚愕し固まっている と、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。 今日は次から次に何だってんだ。 「ハア…」とため息を吐き、曇った顔で 玄関の扉を開ける。 「やっ。また来たよ」 玄関前には見知った顔の人物が立っていた。 いつも通りの疲れて目つきが悪くなっていて、 浮毛がある黒髪ロングの女性だ。 「物野さん。何か用事でも?前に武器は 貰ったし…」 「いや、普通に世間話がしたくて来た」 「マジで…いや」 流石に帰ってくれとは、言いづらいな。 何せ、俺がいつも使っている武器は、この 物野恵さんが作ってくれているのだから。 すると、「んー」と物野は額に手を当てて言う。 「それにしても、幽夜って野良猫に餌付けして るの?」 「…えっ?してないけど…」 窮した表情で「だって」と物野は口に出す。 「さっき、玄関から猫が出て来てたよ?」 「は?」 意味がわからなかった。先程玄関から 出ていたのは猫ではなく中学生の少年の はずだったのだ。 「えっと、さっき出て行ったの中学生の 相談相手なんですけど…」 「そうなの?数分前から幽夜の家の前で ウロウロしてて、玄関が開いたと思ったら 猫だったんだけど。その相談相手の中学生? はいなかったし」

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怪奇現象相談事務所⑤雨女編(一)

怪奇現象相談事務所④

「…う、うん?…痛!」 机にぶつかった背中を摩りながら 起き上がる。 壁に飾っている、時計の短針が見える。 短針は七時を指していた。 (七時…) 礼堂が相談に来た時刻は、五時。 ということは… と寝起きで冴えない頭を使って考える。 「に、二時間たってる!?礼堂は…」 その途端、ガチャと玄関から扉が開く 音が聞こえる。 「あ、起きてましたか!」 コンビニの袋を持ち、玄関で靴を 脱ぎながら礼堂は言った。 「あ、ああ。それで、何でまた来たんだ?」 コンビニの袋に目に映る。 「これお礼とお詫びも兼ねて、夜ご飯 を買ってきたので食べて下さい」 そう言いながら袋の中からコンビニ 弁当を取り出す。 「ありがとう?」 キョトンとしながら礼を言う。 「いえ、私があんな相談したから 木霊さんが…」 今にも泣きそうな顔になる。 「ちょ、ちょっと落ち着いて、 怪我もしてないし。ほら! 取り敢えず事務所でお茶でも飲んで!」 ピンピンと動きながら事務所に 招き入れる。 「ありがとうございます。本当に すみません」 落ち着いたのか、一息ついて事務所の 椅子に礼堂は腰を下ろす。 「さっきも言ったけど気にしないで 良いからね、怪我もしてないし」 (ちょっと痛いけど…) 「ありがとうござます。霊の件も… あ、相談料は…」 「んー…退治できなかったからな。 要らないよ」 首を横に振りながら言った。 「そう言う訳にはいきません!」 ドタっと机に手を置き、こちらに 視線を向けてくる。 「そこで提案があるのですが、ここで 雇ってくれることはできないでしょうか!」 …は? 「無理にとは、言いませんが…」 下を向きながら礼堂は言った。 「でも、給料とか少ないぞ?」 難しい顔をしながら聞く。 「構いません、というか要らないです」 即答する。 「…分かった。だが、給料は払う。あと、 礼堂は霊が見えないだろ?どうやって 手伝うつもり何だ?」 難しい顔を続け、首を傾げながら 質問する。 「それなんですが…」 と言いながらスマホを見せてきた。 「ネットからでも相談出来るっていう サイトを作ったんです。それで…」 彼女が言うにはこういうことだった。 自分はサイトから相談内容をまとめて 俺に渡し、その相談を俺が解決する。 道案内などは彼女がするようだ。 「どうでしょう?」 礼堂は不安気に、俺の顔を伺う。 「うん、分かった。雇うよ」 流石にここまでされては断れない。 「本当ですか!」 礼堂の顔がパッと明るくなる。 「それじゃあ、明日から頼む」 「はい!」 安堵の表情を浮かべながら、ぺこりと お辞儀をし、礼堂は事務所を出て行く。 「何だか、今日は色々あって疲れた」 ハア…とため息を吐き、自室に戻る。 明日は土曜日、学校は休みだ。だが、 事務所は営業しなければならない。 面倒くさい。 あ、礼堂明日用事あったらどうしよう。 聞いておけば良かったと、徐々に不安になる。 次の日 ピンポーン 午前八時に玄関から、我が家の チャイムが鳴り響く。 「はーい」 事務所で仕事をこなしていた、俺は 玄関の扉を開ける。 「おはようございます。木霊さん、 今日からお願いします」 目の前には鳶色の髪と目、そして 清楚な色の服を着た女子が立っていた。 「お、おう」 苦笑いをしながら事務所に案内する。 「土曜日なのに悪かったな」 お茶を淹れながら礼堂に言った。 「いえ、私が望んだことなので…」 ………… 少しの沈黙が流れる。 「そ、そういえば。これどうぞ」 沈黙に耐えきれなくなった、礼堂は 机の上に資料を差し出す。 「これは?」 机の上に置かれた資料を見ながら、 首を傾げる。 「昨晩、サイトに早速相談が来たんです」 (結構有能なサイトだな…) と心の中で思った。 「それで、相談内容は?」 数枚の資料を手に取りながら言った。 「はい、相談内容ですね」 資料とは別の紙をポケットから 取り出し、礼堂は話し始めた。 「どうやら、“雨女”という都市伝説の 相談でして…」 「雨女?」 会話を遮るようにして、礼堂に 疑問をとばす。 「雨女というのは、雨の日に現れる怪異 で前から学生からの目撃情報が多数あった そうです」 そういえば今は七月の上旬、その雨女 の話が本当であれば… 机の上に置いていたお茶を飲みながら 考える。

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怪奇現象相談事務所④

怪奇現象相談事務所③

「相談に乗ってくれますか?」 「え?」 こんなにすぐに来るとは思わなかった。 「相談できるんですよね…だった…ら…」 そう言うと、礼堂はドサッとその場に 倒れ込んだ。 「大丈夫か!?」 ハッと我に返り、礼堂に声をかけ、 体を抱き抱える。 (体が熱い。霊の影響か) 今も背中に憑いているモノを見ながら そう思った。 「大丈夫だ。今事務所に運ぶから」 事務所に入り、ソファに礼堂を 寝かせる。 (取り敢えず、熱冷まシートと 応急処置として津塩を使うか…) 熱冷まシートをデコに貼り、肩に 津塩を振り撒く。 数時間経つと、礼堂の目が覚めた。 「ん…?」 「あ、起きたか。これ飲みな」 起きたばかりの礼堂に水を渡しながら 微笑みかける。 「あ、ありがとうございます。あと、 急に倒れてしまってすみません」 ぺこりと頭を下げる。 「全然いいよ。それで、応急処置は 一応したけど、どう?」 先程、礼堂が玄関で倒れた時よりも 顔色は良くなっている。 「あ、何で私が困っているって分かった んですか?」 「昨日、礼堂の背中に霊か呪いの類の モノが憑いていたからな」 昨日の様子を思い浮かべながら言った。 「憑いてる?見えるんですか?」 驚いた表情をしながらこちらを見る。 「まあ、この事務所やってるからな。 それで、相談内容はこの件だろ?」 「はい、そうなんです。昨日からずっと 体調とかが悪かったり、家族にも影響が あったりして…」 (身近な人を巻き込むタイプか…) 顎を触り、下を向いて考える。 「あの!何とかなりませんか?」 グイっと顔を近づけて言った。 「少し待っててくれ」 礼堂から離れ、俺は、昨日物野さんから 貰った武器を引き出しから取り出した。 「それは?」 「説明は後でするから。取り敢えず背中を こっちに向けてくれないかな」 「は、はい」 ソファから立ち上がり、クルッと後ろを 向く。 (効くとは思っていないけどやる価値は あるかな…) カチッとボタンを押す。 「ど、どうでしょうか」 礼堂は心配そうに聞いてくる。 「もう少し待ってほしい」 すると、礼堂の背中に憑いてモノは ブクブクと動きだし、離れていった。 「よし、離れた!」 「ほ、本当ですか!」 「あ、ああ」   (!?まずい!?」 礼堂に憑いていたモノは、俺に向かって 黒い渦のようなものを向けてくる。 「何だ、あれ…」 その途端、体に衝撃が走る。 「ゔっっっ」 事務所の机に思い切り当たり、体からは ゴリゴリっと、鈍い音がする。 「木霊さん!」 視界が霞む。視界の右端には、換気のため に開けていた窓から礼堂に憑いていたモノが 出て行く。 そして、正面には目に涙を浮かべ ながら不安そうにこちらを見ている礼堂知沙 の姿が映っていた。

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怪奇現象相談事務所③

怪奇現象相談事務所②

「はい、もしもし」 受話器を取り、耳にあてる。 「もしもし、幽夜?前に言ってたもの完成したよ」 電話からは、声の低いクールな 感じの女性の声が聞こえてくる。 電話越しに喋っている女性は 物野恵という八歳年上の知り合いで、 小学生の頃からお世話になっている。  「本当ですか?!今から取りに 行くので待っていて下さい」 「その必要はないぞ」 「へ?」 間の抜けた声を出してしまった。 「今、幽夜の家の前にいるからな」 (メリーさんかよ…) すると、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴る。 「はーい」 玄関の扉を開けると… 目の前には、浮毛が少しある黒髪ロング に、疲れているのか目つきの悪い女性が 立っていた。 「久しぶり、幽夜」 「まだ、一ヶ月しか経ってないんですけど」 苦笑しながら言った。 「まあ、いいや。取り敢えず入って 下さい。」 「うん」 余程、外が暑かったのか。 ヨロヨロと歩く物野を支えながら歩く。 事務所に入り、椅子に座る。 「電話で言ってたのモノ、これなんだけど…」 そう言って物野は、机の上に 一つの箱を差し出す。 「開けても良いですか?」 「うん」 許可を得ると、すぐさま箱を 開ける。 「これは…」 箱の中身を見ると、懐中電灯の ようなものが入っていた。 「対幽霊用の武器だよ、人間には 聞かないから安心してね」 「それ、前にも聞きましたよ」 軽口を叩きながら、それをじっくりと 見る。中心部にボタンが付いているの が分かった。 「そのボタンを押すとば使えるよ」 その言葉を聞き、カチッとボタンを 押す。すると、懐中電灯の光と全く異なる 光が放出される。 その光は、物野の方にあたった。 「ちょっと、眩しいって」 怒り顔で物野は言った。 真剣な面持ちで話す。 「それは幽夜しか使えないんだから 絶対に他の人に渡したらダメだよ」 「わかってますよ、前にくれたやつも 大切にしまってありますから」 そう、先程の相談のときに使っていた 武器も、この物野恵が作ってくれていた。 作り方はよくわからないが、俺の血液 には、霊を祓うというものがある。 なので、武器を作ってもらう前には 注射器一本分の血液を持っていかれるのだ。 「よし、用は済んだから私は帰るね」 立ち上がり、出口の扉を開ける。 「その、ありがとうございます。また、 機会があればよろしくお願いします」 物野に向けて、お辞儀をする。 「うん、また機会があれば。あと、 敬語使わなくて良いから」 「はい、分かりまし…分かった」 「うむ、よろしい」 忍び笑いで物野は言った。 「それじゃ。またね」 手を振りながら帰る物野を見送ると 事務所に戻った。 事務所の仕事を終えて、自室のベッドに 倒れ込む。一日にあったことを振り返り ながら深い眠りについた。 次の日 いつも通り、教室に入る。 だが、いつもとは違うところがあった。 礼堂知沙が欠席していたのだ。 彼女は欠席どころか遅刻すら一度も したことがない。 普通なら風邪を引いているとかの理由を 思い浮かべるだろうが、俺は昨日の アレを見てしまっていた。 鳥肌がたち、冷や汗が止まらなくなる程の 彼女の背中に憑いている霊…いや、呪いの類を。 「これ、礼堂の家に持って行ってくれないか?」 教師が男子に数枚のプリントを差し出す。 「すみません、今日用事があるので…」 隣の男性が困り顔で断っている。 「先生、俺が持って行きますよ」 立ち上がり、教師に向けてニコッと 笑いかけながら言った。 「おお、木霊か。助かるぞ」 教師はこちらにプリントを差し出す。 「悪い、助かった」 男子が感謝の念を向ける。 教師に向けたときと同じようにニコッと 笑いかけた。 俺としては礼堂に用事があったから 都合が良い。 学校が終わると早速、礼堂の家へと 向かった。 ピンポーンと礼堂の家のチャイムを鳴らす。 「はい…」 中から暗く沈んだ声が聞こえてくる。 「どちら様でしょうか」 チェーンの隙間から顔を覗かせる。 「同じクラスの木霊幽夜なんだけど。 先生からプリント預かってたから渡しに 来たんだ」 ソッとチェーンの隙間からプリントを渡す。 「ありがとうございます。…それでは」 「ちょっと待って」 扉を閉めようとする礼堂を呼び止める。 俺は、ポケットから事務所の住所が 書いてある紙を取り出し、礼堂に渡す。 「何かあったらここに来て」 「え?」 驚いた表情を浮かべて固まっている礼堂を 背にして家へ帰る。 家へ帰り、一階の事務所へ入ろうとした 途端…コンコンと玄関の扉が叩かれる 音が聞こえる。 急いで玄関へと戻り、ガチャと扉を 開けると…そこには、茶髪の小柄な女子… 礼堂知沙が今にも倒れそうな顔で、息を 荒くしながら言う。 「相談に乗ってくれますか?」

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怪奇現象相談事務所②

怪奇現象相談事務所

「ねえ、知ってる?」 廊下から女子が少し勿体ぶりながら 言っているのが聞こえてくる。 「何を?」 勿体ぶって聞いてくる様子に 隣を歩いている女子は怪訝そうに言った。 すると声のトーンを低くして話し始めた。 「この学校変な噂があるらしいよ。 例えば、夜この学校に肝試しに来ると必ず 行方不明になるとか。朝一で登校して来た 生徒が校庭で首のない少年を見たとか」 辺りの空気が一気に重くなり、二人の 表情が強張る。 話始めた方の女子がニッと笑う。 「まあ、全部でまかせだけどねー」 いつも通り、能天気な声で喋る。 自然と辺りの空気もパッと軽くなった。 「もう、やめてよー」 笑いながら女子達は廊下をコツコツと 歩いていく。 「うーむ」 声を出しながら、先程の女子の 会話を盗み聞いていたのは 俺、木霊幽夜。高校二年生だ。 さっきの女子の会話を思い出す。 「夜、肝試し、行方不明、」 ブツブツと呟く。 「何あれ…」 勿論、一人でそんなことを呟いていると クラスメートから不審な目で見られる。 キーンコーンカーンコーン 下校のチャイムが鳴り、周りの人 は荷物を持ち、帰り始める。 (俺も帰るか…) 荷物を持ち、扉から出ようとすると、 ドン…と誰かにぶつかる。 その途端、全身に鳥肌がたち、同時に 冷や汗が止まらなくなる。 目の前で尻餅をついていたのは、 同じクラスの女子、礼堂知沙だった。 「だ、大丈夫?」 震える声を押し殺し、冷や汗をかいた 手を服で拭って、手を差し出す。 「は、はい、大丈夫です」 手を取りながら礼堂は言った。 礼堂と目が合う。 「ど、どうかしましたか?」 礼堂は不安気に俺の顔を覗き込む。 「い、いや、何でもない」 我に返り、腕で冷や汗を拭い ながら言う。 「そうですか…では、急いでいるので…」 そう言うと、礼堂はそそくさと 教室の中へ駆け込んでいった。 ふう…とため息を吐き、先程の事を 思い出す。 礼堂の肩…いや背中全体から霊の 塊のようなものがこちらをジッと 見ていた。思い出すだけでゾッとする。 「アレは、まずいな」 礼堂の背中全体を覆っていた霊の数を 思い出しながら、木霊幽夜は家へ 向かった。 家の付近まで来ると、家の入り口に 人影があるのに気がついた。 「すみません、何か用事でしょうか」 「あ、相談に来たんですけど…」 見た感じ、会社員の中年の男のようだ。 「ここで合ってますかね?」 六月の下旬だからなのか、額から 汗を流し、その汗をハンカチで拭いながら 中年の男は言った。 (高校生…?) 心の中で中年の男は少しばかり怪しむ。 「はい、合ってますよ。暑いでしょうから 中へどうぞ」 「良かった…ありがとうございます」 安堵の表情を浮かべる中年の男を中へ 招き入れる。 荷物を床に置き、中年の男に聞く。 「それで、相談内容は何でしょうか」 俺の家は店舗兼住宅の建物だ。 そして、一階で営業をしているのが、 この“怪奇現象相談事務所”だ。 先程、用意したお茶を一口飲んで から中年の男は話し始めた。 「はい、最近肩に重りを乗せられた ように重かったり、寝る前にベッドから 変な音が鳴るんです。ろくに仕事も できなくて…」 (ラップ現象か…」 うーむと顎を触り考える。 確かに中年の男の肩には黒いモヤの ようなものがある。 「分かりました。少しお待ち下さい」 そう言って、引き出しから袋を取り出す。 「それは?」 「津塩と言って、弱い霊を祓うときに 使う自作の塩です」 「本当に効くんですか?」 怪訝な表情を浮かべて言った。 「効きますよ」 中年の男の肩に二、三回津塩を振り撒く。 「え…」 驚いた表情で肩を回す。 「ちょっと軽く…」 その言葉遮るように言う。 「まだですよ。少し止まっていて下さい」 すると、引き出しから銃のようなものを 取り出し、肩から離れようとして動いている 黒いモヤに向ける。 「へ?」 中年の男は間の抜けた声を出す。 銃からは光の球のようなものが出る。 ヒュっとそれは、肩の黒いモヤに直撃する。 すると、ギョっと、嫌な音を立てて 黒いモヤは、灰のように消えていった。 「よし、肩の様子はどうでしょうか?」 俺は、銃のようなものを引き出しに しまい、ニコッと笑いかける。 「は、はい。すごい、良くなりました」 肩を回しながら中年の男は言う。 「良かったです。えと、一応相談料 何ですが…」 「はい、これで」 財布から一千円札を二枚取り出し、 机に差し出す。 「また、何かあったら来てください」 「はい、ありがとうございました」 中年の男は、深く頭を下げてから 軽やかな足取りで帰っていく。 見えなくなると、ゆっくりと扉を閉めた。 (さてと…どうするかな…) 事務所に戻り、俺は椅子に座った。 すると、プルルル…と電話がかかってくる。 丁度いいタイミングだ。 「はい、もしもし」

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怪奇現象相談事務所