新芽

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新芽

こんにちは、またははじめまして!初心者です。 このアプリを使ってからまだ間もない新入りですが、数少ない投稿を読んでくださったら嬉しいです。

雨のち、泡沫。〜総集編〜

みなさんコンチニハ〜! 新芽です🌱✨ 連載中の『雨のち、泡沫。』の ♯1〜♯6までを総集編としてまとめてみました! 各話であらすじをつけてたので、それも消しました。 まだまだ続きますが、とりあえずの総集編です。 ぜひ読んでいってみてください! 〈♯1〉 初めは雨が降る。 誰かの感情を無視して、ひとり静かに降る。 でも、泡沫。 そんなの一瞬だ。 雨が降るのは、泡沫に過ぎない。 しとしと。 見て見てと言わんばかりの窓越しの雨を横目に、 フヲはある家の中でのんびりくつろいでいた。 住宅街の一軒の家には猫が住んでいる。 真っ黒の毛並みに濃い緑の瞳を持った、幼いを少し過ぎた猫だ。 すると、雨宿りにきたのか、窓ぶちに1羽のツバメが降り立った。 「ふー…、ひどい湿気だ」 独り言を言うと、ツバメはフヲに気付いた。 顔を歪め、まずいまずいと飛び立とうとする。 フヲは反射的に声が出た。 「ちょ、ねぇ待って」 声を掛けられるとは思ってもいなかったようで、 ツバメは目をぱちくりしながら振り返った。 「あ、…」 面と向かうと何を言えばいいか分からなくなる。 「えっと…フヲは何もしないから」 堅苦しい口調で、とりあえず自分の安全を伝える。 「…そうなの?信じるよ?」 疑心暗鬼気味に、ツバメは窓ぶちにちょこんと座る。 「………」 しばらく居座ってもフヲが興味のなさそうに目を伏せているので、 ツバメは本当に手は出さないなと察し、思い切って声を掛けた。 「…アンタ、ここの猫?」 「!  ……うん。フヲって名前」 少し驚いたものの、信じてもらえたんだという喜びで、 条件反射的に返事をした。 「フヲ?鳥のじゃん。猫なのに面白いね」 「そっちは?」 「僕?そうだなぁ。野生だから無いなぁ」 「ふぅん?じゃあフヲが付けたげる。…じゃあ、君はスワロー!」 ツバメって意味なんだよ」 「…へー、なかなかいいじゃん?」 「でしょう!」 警戒心がふわりと溶けたふたりはすっかり打ち解け、 窓越しに楽しそうに話す。 スワローと名付けられたツバメは、 寒いと伝えたいらしく、顔をしかめさせて大袈裟に激しく震えた。 わかりやすいなぁ、とフヲは窓を器用に開ける。 スワローは素早く家に入り、うっとりと目を細めた。 「あったか〜い。たまにここ、来ていい? この辺りに巣を作ったの。来月辺りヒナが巣立つんだ。 8月頃には南に渡るから、 用意のために街を離れて河川敷で眠るから もうここには来ないわけ。だから、あと2ヶ月!2ヶ月だけ!」 「いいけど…。来年、またこの街に渡って来る?」 「さあね。運が良ければね」 そうなんだ、と軽くうなずき、フヲは開けたままの窓をきちんと閉めた。 「僕はオスだからね。卵はメスが温めるんだけど、 たまに餌を探しに巣を離れるから、そのときだけ代わって卵を温めるんだよ。 あと、巣の周りの警備担当もしてる。今、抜け出してきたんだ」 スワローはそう語って、ぬくもりのあるコルクの本棚にぺちゃっと溶けるように座り込んだ。 「ツバメの事情なんざ知らないけど、いいの?戻らなくて」 無責任な様子に呆れ気味で尋ねると、あはは、とスワローは軽快に笑った。 「大丈夫だいじょうぶ!少しくらいサボっても平気だよぉ〜」 真面目で責任感の強いフヲは、 お茶目で無責任なスワローと正反対だが、 仲良くなれそうだな、と素直に嬉しくなった。 それから、ふたりはよく話した。 ヒナの成長でメスが巣を離れることが増えたのか、日に日にスワローは 家を訪れる時間は減っていった。 が、僅かな手が空いた時間に家へ来て、毎日会話をしていた。 渡り鳥のスワローは、世界中を飛び回るため外の世界の物知りで、 知っている限りのその素晴らしさを語った。 そして、飼い猫で外に出たことのないフヲは、外に興味を持った。 そんな中、フヲの家の人たちの中ではある話が進んでいた。 近いうちに、引っ越しをするという話だ。 フヲはそのことを知らない。スワローもだ。 そして、その引越し当日。 一家はバタバタしていた。スワローは来ていないので、 暇になったフヲはいつも居る部屋を出て居間に向かった。 空いている居間のドアから覗くと、家族は、 やって来た引越しセンターの人と話し合ったり書類を書いたり、 様々な家具を動かしたりしていた。 何が起きているかさっぱりなフヲは、邪魔にならないよう 居間を通り過ぎて玄関に向かった。 と、玄関のドアが僅かに開いていることに気づいた。 急いで入って来た引越しセンターの人がしっかり閉めなかったのだろう。 フヲは、ただただ目を輝かせていた。 好奇心が抑えられなかったフヲは、ドアの隙間から外の 世界に飛び出した。 〈♯2〉 「…っうっわぁ…」 窓越しでしか見たことのない外に足を踏み入れたフヲは、 ただ唖然としていた。 と、そこへスワローが飛んできた。 フヲを見るなり、驚いた顔をする。 「フヲ、何で外に⁈」 「あ…」 訳を話すと、スワローは気まずそうな顔をした。 「…それって…さーぁ〜…」 「?」 きょとんとするフヲに、スワローは誤魔化し笑いをして言った。 「じゃあ、外を案内してあげるよ!」 実はスワローは気づいてしまっていた。 フヲの家は、引越しをするということに。 ようやく外に出られて喜びに満ちているフヲに、 それを言うのは心苦しい。 いけないと分かっていながらも、 スワローは黙ることしかできなかった。 「…あれ?」 戻った家に、いつも笑いかけてくれる家族の姿はなかった。 あれからスワローにたくさん外を案内され、大満足したフヲは、 道を覚えているというスワローと家に戻った。 だが…。 静まり返った家。 家具もなくなり電気も消え、人の温もりさえ 消え去った家に、フヲは意味がわからなかった。 「…何も、…ない」 「………」 訳を知っているスワローは胸が痛んだが、 わからないふりをした。 「…、出掛けたんじゃない…?」 「…っで、でも物も無くなってるし…!」 認めたくない。認めたくない…! でも。でもー…!! 「…みんな、…家を引越したの…?」 「ー…!」 流石に勘づいたフヲに何と声を掛けたらいいのかわからず、 スワローは気まずそうに慰めた。 「……大丈夫。きっとまた、会えるよ。 家で、待ってよう。そしたらきっと戻ってくるよ。 おかえりって、…迎えよう?」 思わず涙声になる。 フヲは鼻を啜りながら、堪えるように答えた。 「…うん」 その頃外では、ふたりが出会った時のやさしい雨とは大違いの、 追い討ちを掛けるような土砂降りが降っていた。 〈♯3〉 それから数日間、フヲとスワローは空っぽな家でふたり静かに過ごした。 食料は、時々巣に戻るスワローがついでに獲ってきてくれる 虫や落ちていた食べかすで凌いだ。 フヲは、一歩も外に出なかった。 片時も、この思い出の残った家を離れたくなかったのだ。 待っていたかった。 きっと帰ってくるから。 ずっと、ずっと、家族の帰りを待っていたーー…。 「…ねぇ」 玄関をずっと見つめているフヲに声を掛ける。 振り返らないので、そのままスワローは続けた。 「あのさ、食料、もうない感じなんだ。 春だし、虫はわんさかいるよ。うちのヒナもよく育ってる。 でも、フヲは胃が繊細っぽいから、虫は控えた方がいいんだよね。 虫なんて小さいものじゃ、毎日フードを食べてた 飼い猫の腹の足しにはなり難いし、かといって大きい虫も、 ツバメじゃ獲るには苦戦するんだ。 人間の食べかすやパンクズも、あるにはあったけど小さいし、 この間に地域清掃キャンペーンをやってて、そういうものは もうほとんどない状態なんだ。 …だから、しばらく食料はーーー」 「うん、平気」 聞くのが辛かったのか、どうでもいいのか、 フヲは掠れた声で遮った。 「……じゃあ、巣の様子見てくるから…」 見ているのが辛くなりスワローはそう言い残して、 古く汚れ蜘蛛の巣の張った窓を潜った。 そのとき。 ガガガーーーッッッ。 大きな軋んだ機械の音が頭にキーンと響いた。 玄関の方から聞こえてくるようだ。 「「……⁈⁈⁈」」 驚いたのはフヲも同じだったようで、 最近元気のなかったペタンコの耳がぴーんと立っている。 嫌な予感が頭をよぎる。 スワローは思わず声を出した。 「っ僕が見てくる!」 そのまま窓から飛び立ち、外側から玄関の方へ飛んでいった。 人影がある。 屋根から覗くと、数人の作業服を着た人が居た。 紙や小型機械を手にして、話し合っている。 その側に、大きなブルドーザーが2台、停めてあったのだ。 その内の1台に人が乗っていて、ブルドーザーを操作して動くか確認していた。 ガガーッと再び大きな音がし、耳を塞ぎながら人々はこんな話をしていた。 「今回立て壊す家はここですよね?」 「あぁ、相違ない。最近引越した、葉衣さん宅だ」 「了解でーす。もうここは売地にする予定らしいので、 家をまるごと立て壊しちゃっていいでしょーか?」 「やってくれ。じゃあまず、家の中から解体していこうか」 スワローはゾッと、血の気が引いた。 この家は壊されてしまうんだ! しかも、家の中からって…。 フヲが居るのに! 一方、フヲは心配そうに玄関を見つめていた。 胸が不安で押しつぶされそうだ。 と、そこへひとりの従業員が入ってきた。 新入りっぽい、若い男性だ。 その人は、自分を見るなりビクッと肩を跳ねさせた ボロボロの猫を見て、おやおやと優しい顔をした。 「ここの元飼い猫かな?よくある、引越しに置いていかれたとか。 引越し先じゃペットは飼えないから、みたいな」 違うよ、とフヲは言いたかった。 家族は、引っ越す時にフヲが外に出掛けていたから連れて行けなかっただけだ。 わざと置いて行ったりなんてしてない。 不安そうなフヲを見て、男性はごめんねと言い、続ける。 「それか、野良猫かな?ここ数日空き家だったから、入ってきちゃったとか。 どっちにしろ、ここに居たら危険だよ?」 だが、フヲは震えながらも、大切な我が家を離れたくない一心で、床に張り付いた。 しかし男性は、保健所に連絡をし始めてしまった。 プルル…。 「あっ、はい、もしもし。すみません、こちら◯◯会社なんですけども。 立て壊す予定の空き家に猫が1匹居まして。 引き取って頂けないでしょうかーーー」 これはまずいと、フヲは数日振りの外に飛び出した。 男性は気づいていないようなので、そのまま道を走る。 スワローはいなくなったが、フヲは歪めた顔でがむしゃらに走った。 雨が降り始め、ざあざあとフヲの心を打ちのめした。  〈♯4〉 「はぁっはぁっ」 雨に打たれながら、フヲは夕方の住宅街を走っていた。 戻る家がなくなった。 どうすればいい? もう家族には会えないのか? スワローを置いてきてしまったけど、大丈夫なのか? これから、野良として生きなければならないのか? …フヲは、もう終わりなのかーー……? ピチャピチャと足元で水がはねる。 寒気がして、近くの公園に逃げ込んだ。 雨宿りの出来そうな遊具を探す。 適当に飛び込んだのは、トンネル型の遊具だった。 そこには10代ほどの紺色の髪の少年が、俯いて座り込んでいた。 次の瞬間、ふたりの目が合った。 少年は驚く様子もなく、植物と対面しているように落ち着いた顔をしていた。 僅かな怒りが宿ったその少年の漆黒の瞳は、どこか切ないようにも見えた。 少年も、フヲの深い緑の瞳の辛さを感じ取った。 先に声を掛けたのは少年だった。 「……アンタ、猫?」 …は? 猫だよ。 話しかけられたと思えば、猫がどうかの確認だった。 なんだと思ったのか。 言葉も通じないので、軽く頷く。 するととたんに少年の頬が緩み、 さっきまでの暗い表情が嘘のような穏やかな顔で笑った。 「あははっ。すごいな、人間の言葉理解できるのか。 最近の猫って賢いなぁ。アンタ、飼い猫でしょ?様子でわかる」 どうやら、さっきのは反応の確認のための適当な質問だったようだ。 彼は猫に詳しいらしく、フヲの種類も言い当ててみせた。 よく知ってるね、と驚いてみせると、それを合図のように少年はまた笑う。 「表情豊かな猫だなぁ。感情表現すごい」 そりゃあそうだよ、猫は喋れないだけで、どの生き物の言葉もわかるんだもの。 そんなフヲに気づかず、少年は一方的に猫愛を語り出した。 そして少年は宵と名乗り、家出をしてきたことを話した。 宵は、フヲも家族と事情や距離があること、ひとりぼっちであることを感じ取った。 フヲは家族に会いたいと思っているが、 宵は何が何でも家族と顔を合わせたくない様子だった。 喧嘩をしたのか、事情はわからないが、宵はそのことは話さなかった。 「とにかく、俺らって似た境遇っぽいな」 宵はフヲに通じていることを分かった上で話しているようで、 雨が上がっても家には帰らないと宣言した。 すると、宵はフヲの首周りを眺め言った。 「アンタ、長毛だから隠れてたけど、首輪してんじゃん。 やっぱ飼い猫だったんだ」 毛を掻き上げ、その緑の首輪を目を凝らして覗き込む。 「……ん?」 さらにじっくりと見つめ、宵は毛を抑える全ての指から親指だけを動かして首輪を擦った。 「濡れてるけど…確かに窪んでるな。何か文字が浅く彫られてるっぽいぞ?」 そうなの?ときょとんとするフヲに尋ねる。 「ちょっと、ごめんけど首輪外していい?」 うん。でも痛くしないでね? 宵は上目遣いでこちらを見上げる猫を軽く抑えて、人間で言う襟足の部分をいじくり回す。 小さな取手のようなものを手探りで見つけ、摘んで手前に引っ張ると、カシャンと僅かな音がした。 「お、取れたか?」 首輪の左右を掴んで優しく離していくと、詰まることなくスルリと取ることができた。 「よし。ちょっと待ってろ」 宵は博物師のように、片目を閉じてジーッと首輪の凹みを見つめる。 首輪は外すことなくつけていたので、フヲの毛は首輪の跡のような歪な状態になった。 後味が悪いと言うか、何とも言えない毛の違和感に首元がムズムズしながらも、利口にフヲは座っていた。 一方、宵は宵で、平らになりかけているほんの僅かな凹みを読み取ろうと必死で目を大きく開いていた。 「えーーーとー………。文字、だよな…」 本来なら、緑の首輪には深く文字が彫られていて、一目でわかるようになっているのだ。 だが5年ほど経ったが故に、徐々に埋まっていって見え辛くなってしまったようだ。 「これ、漢字か……?」 なんとなくぼんやりと文字が浮かんでくる。 「は、『はいふおと』…?あ、『はごろもふおん』か? ん?  なんだこれ??」 困惑する宵だが、流石にこの2択なら名前的に当てはまる方は想定がつく。 「葉衣譜音…はごろも、ふおん、か」 珍しめの名前だねぇとフヲに声をかけるも、宵も自分の名前も少し変わっていることに気づいて照れ笑いをした。 葉衣譜音は、フヲの飼い主の一家の母親だ。 「『葉衣譜音』と、『フヲ』…?これ、アンタの名前か。あと、住所がある」 住所‼︎これで、家族がどこに引っ越したかわかるはず。 だが、宵が住所を読み上げたとき、その期待は砕け散った。 それは、前の住所だったからだ。 フヲの様子を見て、宵もこの住所はフヲの家ではないなと把握する。 「連絡先は書かれてないな…。とりあえず、検索してみるか」 宵はスマホを取り出して、画面を開いた。 スマホは通知音がたくさんなっていた。家出をしたらしいので、心配した家族が連絡をしているのだろう。 それを宵は無視して、検索欄に「葉衣譜音」と打ち込む。 開かれたページはSNS。誰かのアカウントの画面だった。 名前は…「葉衣家」だ‼︎ やはりそれは、フヲの飼い主のSNSだった。 これまでの投稿をあさるが、連絡先などは載せられていなかった。 すると、最新の投稿のところに、こうアップされていた。 『引っ越しました!場所は言えませんが、素敵な家です。 飼い猫が居なくなっちゃってまして、フヲっていうんですけど。黒で、緑の目なんです。見かけた方はコメントしてね!』 「…やっぱり、連絡先は書かれてないけど、フヲ、アンタ心配されてるよ。………いいね、大切にされてて。俺は、家族に何もーーー」 宵はそこまで言って口をつぐみ、調子を変えて明るく言った。 「投稿と一緒に家の画像もアップされてるから、この家と背景を元に調べてみよう。 うまく家が見つかれば、フヲはまた家族と会えるよ。俺も協力する」 宵の様子は気がかりだが、それはとても有り難い。 大きく頷き、フヲは外を見た。 雨があがりそうだ。 似た境遇の少年・宵と、フヲは太陽の照る外へ1歩踏み出したのだった。  〈♯5〉 「うーん…やっぱり遠い所なのかなぁ」 公民館の人の集まるホールで、宵はぶつっと呟いた。 猫は入れないので、フヲは出入り口で待ち構えている。 宵は片手に持つフヲの飼い主の新居地の写真に視線を移し、ため息をついた。 「ここの人はもうほとんど聞き込みしたかな」 ウィーン、と自動ドアが開く。 宵が顔を出すと、出入り口の側で香箱座りをしていたフヲは耳をピンと立て、こちらに駆け寄ってきた。 見上げてくるフヲの目には、期待の輝きが宿っていた。 う、と言葉に詰まる。宵は苦し紛れに言った。 「収穫無し、…だったよ」 がっくしと項垂れるフヲを励ます。 「大丈夫、この公民館に来る人はだいたいお年寄りだから。新築の家とか気にしてなくて知らなかっただけだよ」 「………にゃ」 「ほら元気出す!次は市役所とか交番とか政府公認代表の所にいってみよう」 この頃ずっと近所で聞き込みをしていたおかげで、最近は宵もフヲの言っていることが分かってきている。 「あのー、この辺りの場所知りませんか?」 フヲの飼い主・葉衣譜音の最新インスタ投稿の背景だけをスクショして切り取った写真を通行人に見せた。 「知りませんねぇ。隣町じゃないですかな?」 「隣町…そうですか、ありがとうございます」 宵がぺこっと頭を下げる下で、フヲも「にゃん」と鳴く。 通行人の丸眼鏡のおじいさんはフヲに視線を投げ、にっこりと微笑んだ。 「目に入れても痛くない、かわいい猫ちゃんだねぇ。坊やのうちの子かな?」 「あ、いえ、迷い猫です。この子が留守の間に家族が引っ越して。置いていかれたみたいで」 「ほう」 おじいさんは宵とフヲを交互に見て、優しい顔で目を細める。 「でも、君たちは本当の兄弟みたいだねぇ」 「えっ!」 ふたりは顔を見合わせて笑い出す。 そんな様子を見て、おじいさんはまた微笑んだ。 「お家探し、頑張ってねぇ。おじさんも、見つけたら教えてあげるよ」 「! あ、ありがとうございます!」 顔を輝かせ、大きなお礼を言う。 笑顔で手を振るおじいさんに深々とお辞儀をしながらフヲと向かった場所は、駅。 「やっぱり、この街ではないのかも。お金は持ってるし、電車で遠出だってできる。 猫は乗れないけど、俺のリュックなら入ると思うんだよね。静かにできる?」 「にゃ!」 自信満々のフヲに頷き、駅への足を速めた。 入り口から中に入り、隣町行きの電車の切符を入手する。 リュックの中のフヲは、きつい姿勢で不満だらけの顔をしていた。 「このホームだな。フヲ、ここに電車が来るからまだ我慢してろよ」 「う、にゃあ……」 フヲの小声の返事は、騒がしいホームには聞こえていない。 この待っている間にも聞き込みができるかなと、宵がポケットから写真を取り出したときだった。 「宵?」 ふと背後から名を呼ぶ声がして振り向くと、宵の隣のクラスの犁彌(りみ)がいた。 天然のふわふわとした茶髪をまとめて1束に結っていて、頭のてっぺんからかわいらしいアホ毛がぴょこんと出ている。大きくまつ毛の長い綺麗な目に小さな口がちょんとついていて、出かけていたのか小さなカバンを背負い、オシャレな服装をしている。その美女に周りの人がザワザワと騒ぎ出す中、犁彌は突然大きな声を出した。 「宵!宵だっ‼︎ 何でこの駅に⁈」 動揺する間も無く、犁彌は宵の肩を掴んでぐわぐわ揺らす。 「何してたのっ…⁈ みんな心配して捜してたんだよ。家出したっきり本当にずっと帰ってこないって、宵の家族から連絡があって。ずっとどうしてたの!何でこんな場所に居るのっ…‼︎」 一方的に犁彌が話し出す。 犁彌は向かいの家で、昔から一緒の幼馴染なのだ。 「り、犁彌」 「後で話は聞くから!とりあえず宵の家族に連絡…っ」 「!」 犁彌が、宵の家族と電話で会話を始め出した! (まずい…、もう家族とは会いたくないのに…!) リュックの中のフヲは、いまいち状況を理解できていず困惑している。 そのときだ。 ププァーーーッ。プシューーー。 電車が来た‼︎ ウィーー、とドアが開き、乗客がどんどん出てきた。 高校生のふたりはたくさんの人に押され、徐々に電車から離れていってしまう。 その人混みで宵と犁彌は引き離されていく。 (チャンスだ!) 宵はなんとか電車の出入り口に近づけた。 間も無く、電車が発車する。いける! しかし、人混みが過ぎた途端に電話を切った犁彌がこちらに走ってきた。 「っ………!」 ガシッと手首を力強く掴まれる。 「まっ、てっ…‼︎ また逃げるつもりでしょ…!」 犁彌に掴まれている腕に体温が感じられてきて、必死で電車から下ろそうとしていることがわかった。 「来るな…!俺はもう家には帰らない……っ」 「だめ!心配されてるのよ⁈ 分かってるでしょ、だから帰ってきてよ!」 犁彌の正論に心が少し動いたが、宵は両親に投げられた言葉を思い出してぎゅっと唇を噛んだ。 憎い!あんな所、帰るもんか…‼︎ 『ドアが閉まります。ご注意下さい。』 「!」 犁彌の手にいっそう力が入り、電車から落ちそうになる。 「犁彌‼︎ 分かってくれ、俺はもう家には…‼︎」 「そんなこと言わないでよ!私、宵がいない間、ずっと寂しかったんだよ⁈ また私に同じ気持ちにさせる権利、宵にないじゃん…‼︎」 犁彌の大きな瞳に涙が浮かぶ。 その途端、犁彌の手の力が緩んだ。 『ドアが閉まります。ご注意下さい。』 「宵!」 するっと、腕が解けた。 ウィーン。ガシャン。 プシューーー。 電車が発車し、ホームに残された犁彌は頬に涙が流れていた。 怒っている様子もなく、嘆いている様子もなく、目元を濡らしながら静かな目で犁彌はこちらを見つめている。 だんだんホームから遠ざかり、犁彌の姿が小さくなっていく。 『宵がいない間、ずっと寂しかったんだよ⁈』 犁彌に言われた言葉を思い返し、ズキンと胸が痛んだ。 知らなかった。犁彌は幼馴染だけど、遠い存在で縁が薄れている関係だと思っていたんだ。 「……犁彌」 ごめん。ごめん。でも。 「俺は、進むって決めたから」 犁彌と最後に目の合った電車のドアに向かって、ポツリと呟く。 電車は前に進んでいた。隣町に向かって、真っ直ぐに。 〈♯6〉 「おぉ〜っ!隣町の匂いだ〜!」 駅をでた宵は、思わず大きな声を出した。 聞き込みをしてきた結果、地元の街にはフヲの家はなさそうだったため、隣町へ探す場所を移すことになったのだ。 「にゃ〜っ」 リュックで猫の鳴き声が聞こえてきて宵はハッとした。 「あー、ごめんフヲ。ほら」 ジーっとチャックを開けると、やつれた顔をしたフヲがのそのそと出てきた。 「お疲れ様…。電車は無事乗り切ったよ」 あはは、と苦笑しながら声を掛ける。 ブルブルっと身体を振るわせた後、げっそり状態でフヲは暑そうに「ナァーン」と鳴いた。 「暑いね、気候の違いもちょっと差があるのかも。涼しい所ないかなぁ」 そのとき、ザザーンと波の音がした。 「…!」 耳を澄ませる。確かに聞こえる! 「そう遠くないよ。近くに海があるかも!行こうっ」 「ニャア!」 揃って駆け出す。 だんだん波音が大きくなってくる。 走りに走り、見えてきた視線の先にはー… 「海だーーっ!」 大きく広がる綺麗な砂浜の海だ。 フヲもご機嫌で海辺を走り回り出す。 数時間ぶりの狭くない開放感がたまらないのだろう。 つられて宵も海に向かって駆ける。 ザザーン、バシャッ。 足首にまで浸かる海水が気持ちよくて、宵はズボンをたくし上げた。 小学生のようにはしゃぐ宵を追いかけようと、フヲは平気そうに海に飛び込む。 「あはは、あはは……」 時間は短く過ぎ、気づけば朝日が見え出している。 「長く居過ぎたね…。どうする?今晩。電車賃でほとんど使ったし、そんな安く泊まれるとこ、あるかなぁ」 宵は財布を覗き込みながら唸った。 海水で濡れた足が乾き出している。 夕日は水面に映り込み、目を細めないと見られないほどの眩い光を放っている。 ザザー、ン…。 静かな海の波音は虚しく聞こえ、なんだかぼーっとしてしまう。 「今日も、野宿か」 はは、と苦笑いをして、宵は財布をしまうついでにリュックを探り始めた。 そのとき、誰も居なくなったと思っていた海辺から大声がした。 「酷いです!あたし頑張ってるのに、そんな言い方ってないと思いません⁈」 振り返ると、20代ほどの男女の姿があった。 スラっとしていて、赤い派手なラッシュガードを着ているポニーテールのギャルっぽい女性と、似たような格好の短髪の厳つそうな男性だ。 ただし、女性はサーフボードを脇に抱えており、男性の方はメガホンを持って笛を首にさげていた。 「ダメダメなんだよ、お前のボトムターン。あんなんじゃ方向転換や加速ができないだろ」 「そんなことないです、ちゃんと出来てます!見てたじゃないですか!」 ふたりは揉めているようで、暴言が行ったり来たりと飛び交っている。 「ボトムターンって、サーフィンの技って聞いたことあるよ」 その様子を見ていた宵が言った。 あの女性はサーファーなのか? 「もうたくさんだ。お前の監督なんて誰がやるか!」 「さようなら!こっちだってもう限界!」 最後には女性の方が吐き捨てた。 男性は怒ってずんずんと海から離れていく。 それを見ながら、女性のサーフボードを抱える腕にぎゅっと力が入っているのがわかった。 「ん?」 女性はふと宵たちに気がついて目を丸くすると、駆け寄ってきて恥ずかしそうに謝った。 「ごっごめんね君たち!怖かった?大丈夫…?」 宵たちは焦りつつも、女性の態度にしっかりとした優しさがあるのを感じる。 「平気です。えっと、あなたは大丈夫ですか…?」 「あ……はは…。まあちょっと、余裕はないかも」 苦し紛れに言った女性が首を少し傾けると、赤茶色を帯びたポニーテールがぽわんっと揺れた。 彼女は本当にギャルのような雰囲気があったが、全然そんなことはないらしい。 確かにネイルもピアスもしていないし、濃いメイクもしていない。 単純に、派手なデザインが好きなだけだという。 宵たちが自己紹介すると、彼女は雅(みやび)と名乗った。 雅はサーファーで、さっきの監督と、サーフィンのコンテストの優勝のために特訓をしていたらしい。が、口うるさくてつい喧嘩を売ってしまい、見事に監督はそれを買ってしまったようだった。 「だって、ね、聞いてよ。あたし結構、基礎はできてるのよ?プロにも認められたんだから。でもあのオッサンってば、方向がどうの速度がどうのって、いちいち突っかかってくるの!あったまにきちゃって」 雅は監督にとてもストレスが溜まっていたらしく、淡々と愚痴を言ってきた。 宵が苦笑いしているのに気づき、雅はまたすぐ謝った。 「ごめんね!愚痴りに来たわけじゃなくて。でもスッキリした! …あーあ、コンテスト、どうしよ…。 …あたしさ、サーフィンにいろいろ賭けてきたのね?コンテストの賞金で生活費とか組み立ててきたの。ほら、だからさ、コンテストの練習を指導する人がいなくなっちゃったら、もうオワってるんだよね。笑えるでしょ」 宵は、笑えなかった。 見捨てられた雅、親を見捨てた自分。 なんだか、胸がズキズキ痛くなった。 「…見捨てられたってさ、見捨てた側の人の気持ち、考えたこと、ある?」 いつの間にか口が動いた。 「…えっ?」 雅は驚いた顔をしたけど、真剣そうに考え込んだ。 「…見捨てた側も、辛かったりするってこと?」 雅は海を眺めながらそう言って、宵の目を見た。 「…」 俺は…。 好きで見捨てただけで。 辛くなんてなかった。 でも、もしかしたら。 「…そう、かもですね」 そうとしか、言えなかった。 「…宵くんは、見捨てたの?」 「はは、そんなことありませんよ」 へぇ、と宵を見つめた後、雅はぽつりと言った。 「…もし見捨てた側が辛いとしても、見捨てられた側はもっともっと辛いと思うよ」 そうなのか。 俺が、今、少しでも辛いなら。 母さんは、父さんは、もっとー…。 「…見捨てる、られる、ね。 人間って、複雑だね」 雅の言葉に、宵は少し頷いた。 難しいんだ、人の心は。言葉よりも何倍も。 すると、フヲが鳴いた。 「ニャアン」 その途端、ふにゃっと身体の力が抜けた。 フヲの鳴き声を聞くと、空気が和んで、何もかもどうでもよくなるんだ。 「はは。フヲ、空気読まないなあ」 雅もフヲを撫でて微笑む。 「かわいい。フヲくん」 褒められて満更でもないようで、フヲは嬉しそうにくねくねした。 「ぷっ」 つい吹き出す。 雅もつられて笑う。 ザザーン、ザザーン、波の音。 夕日が宵たちを照らす。 笑いながら、雅は言った。 「ね。君たち、行く宛ないんでしょ。うち来てよ」 「え」 目を丸くするふたりに、雅は多少強引に話を続ける。 「旅でしょ?ならさ、あたしの家泊まってかない?練習に付き合ってくれたら、好きなだけいていいよ。宿泊費無料!食費無料!その他諸々無料!ど?」 「…本当なら、…ぜひ‼︎」 顔を輝かせる宵たちに、もちろん、と雅はニカっと笑った。 「アパートとかじゃないよお〜?ふふ、意外かもしれないけど、あたしちゃんと家持ってるんだから!一人暮らしだから普通よりは狭めだけど、充分いい家だと思うから」 言うなり、雅は背を向けて海の反対方向に歩き出した。   〈『雨のち、泡沫。〜総集編〜』おわり〉

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雨のち、泡沫。〈♯6〉

あらすじ 飼い猫のフヲは、外出しているときに引越した家族と離れてしまう。家も取り壊され、戻る家を失ったフヲは、公園で家出をした少年・宵と出会い、絆を作った。フヲの家探しのため隣町に行こうとするが、駅で宵の幼馴染・犁彌に鉢合わせしてしまう。なんとか犁彌から逃れ、電車は隣町へーーーー……。 ー本編ー 「おぉ〜っ!隣町の匂いだ〜!」 駅をでた宵は、思わず大きな声を出した。 聞き込みをしてきた結果、地元の街にはフヲの家はなさそうだったため、隣町へ探す場所を移すことになったのだ。 「にゃ〜っ」 リュックで猫の鳴き声が聞こえてきて宵はハッとした。 「あー、ごめんフヲ。ほら」 ジーっとチャックを開けると、やつれた顔をしたフヲがのそのそと出てきた。 「お疲れ様…。電車は無事乗り切ったよ」 あはは、と苦笑しながら声を掛ける。 ブルブルっと身体を振るわせた後、げっそり状態でフヲは暑そうに「ナァーン」と鳴いた。 「暑いね、気候の違いもちょっと差があるのかも。涼しい所ないかなぁ」 そのとき、ザザーンと波の音がした。 「…!」 耳を澄ませる。確かに聞こえる! 「そう遠くないよ。近くに海があるかも!行こうっ」 「ニャア!」 揃って駆け出す。 だんだん波音が大きくなってくる。 走りに走り、見えてきた視線の先にはー… 「海だーーっ!」 大きく広がる綺麗な砂浜の海だ。 フヲもご機嫌で海辺を走り回り出す。 数時間ぶりの狭くない開放感がたまらないのだろう。 つられて宵も海に向かって駆ける。 ザザーン、バシャッ。 足首にまで浸かる海水が気持ちよくて、宵はズボンをたくし上げた。 小学生のようにはしゃぐ宵を追いかけようと、フヲは平気そうに海に飛び込む。 「あはは、あはは……」 時間は短く過ぎ、気づけば朝日が見え出している。 「長く居過ぎたね…。どうする?今晩。電車賃でほとんど使ったし、そんな安く泊まれるとこ、あるかなぁ」 宵は財布を覗き込みながら唸った。 海水で濡れた足が乾き出している。 夕日は水面に映り込み、目を細めないと見られないほどの眩い光を放っている。 ザザー、ン…。 静かな海の波音は虚しく聞こえ、なんだかぼーっとしてしまう。 「今日も、野宿か」 はは、と苦笑いをして、宵は財布をしまうついでにリュックを探り始めた。 そのとき、誰も居なくなったと思っていた海辺から大声がした。 「酷いです!あたし頑張ってるのに、そんな言い方ってないと思いません⁈」 振り返ると、20代ほどの男女の姿があった。 スラっとしていて、赤い派手なラッシュガードを着ているポニーテールのギャルっぽい女性と、似たような格好の短髪の厳つそうな男性だ。 ただし、女性はサーフボードを脇に抱えており、男性の方はメガホンを持って笛を首にさげていた。 「ダメダメなんだよ、お前のボトムターン。あんなんじゃ方向転換や加速ができないだろ」 「そんなことないです、ちゃんと出来てます!見てたじゃないですか!」 ふたりは揉めているようで、暴言が行ったり来たりと飛び交っている。 「ボトムターンって、サーフィンの技って聞いたことあるよ」 その様子を見ていた宵が言った。 あの女性はサーファーなのか? 「もうたくさんだ。お前の監督なんて誰がやるか!」 「さようなら!こっちだってもう限界!」 最後には女性の方が吐き捨てた。 男性は怒ってずんずんと海から離れていく。 それを見ながら、女性のサーフボードを抱える腕にぎゅっと力が入っているのがわかった。 「ん?」 女性はふと宵たちに気がついて目を丸くすると、駆け寄ってきて恥ずかしそうに謝った。 「ごっごめんね君たち!怖かった?大丈夫…?」 宵たちは焦りつつも、女性の態度にしっかりとした優しさがあるのを感じる。 「平気です。えっと、あなたは大丈夫ですか…?」 「あ……はは…。まあちょっと、余裕はないかも」 苦し紛れに言った女性が首を少し傾けると、赤茶色を帯びたポニーテールがぽわんっと揺れた。 彼女は本当にギャルのような雰囲気があったが、全然そんなことはないらしい。 確かにネイルもピアスもしていないし、濃いメイクもしていない。 単純に、派手なデザインが好きなだけだという。 宵たちが自己紹介すると、彼女は雅(みやび)と名乗った。 雅はサーファーで、さっきの監督と、サーフィンのコンテストの優勝のために特訓をしていたらしい。が、口うるさくてつい喧嘩を売ってしまい、見事に監督はそれを買ってしまったようだった。 「だって、ね、聞いてよ。あたし結構、基礎はできてるのよ?プロにも認められたんだから。でもあのオッサンってば、方向がどうの速度がどうのって、いちいち突っかかってくるの!あったまにきちゃって」 雅は監督にとてもストレスが溜まっていたらしく、淡々と愚痴を言ってきた。 宵が苦笑いしているのに気づき、雅はまたすぐ謝った。 「ごめんね!愚痴りに来たわけじゃなくて。でもスッキリした! …あーあ、コンテスト、どうしよ…。 …あたしさ、サーフィンにいろいろ賭けてきたのね?コンテストの賞金で生活費とか組み立ててきたの。ほら、だからさ、コンテストの練習を指導する人がいなくなっちゃったら、もうオワってるんだよね。笑えるでしょ」 宵は、笑えなかった。 見捨てられた雅、親を見捨てた自分。 なんだか、胸がズキズキ痛くなった。 「…見捨てられたってさ、見捨てた側の人の気持ち、考えたこと、ある?」 いつの間にか口が動いた。 「…えっ?」 雅は驚いた顔をしたけど、真剣そうに考え込んだ。 「…見捨てた側も、辛かったりするってこと?」 雅は海を眺めながらそう言って、宵の目を見た。 「…」 俺は…。 好きで見捨てただけで。 辛くなんてなかった。 でも、もしかしたら。 「…そう、かもですね」 そうとしか、言えなかった。 「…宵くんは、見捨てたの?」 「はは、そんなことありませんよ」 へぇ、と宵を見つめた後、雅はぽつりと言った。 「…もし見捨てた側が辛いとしても、見捨てられた側はもっともっと辛いと思うよ」 そうなのか。 俺が、今、少しでも辛いなら。 母さんは、父さんは、もっとー…。 「…見捨てる、られる、ね。 人間って、複雑だね」 雅の言葉に、宵は少し頷いた。 難しいんだ、人の心は。言葉よりも何倍も。 すると、フヲが鳴いた。 「ニャアン」 その途端、ふにゃっと身体の力が抜けた。 フヲの鳴き声を聞くと、空気が和んで、何もかもどうでもよくなるんだ。 「はは。フヲ、空気読まないなあ」 雅もフヲを撫でて微笑む。 「かわいい。フヲくん」 褒められて満更でもないようで、フヲは嬉しそうにくねくねした。 「ぷっ」 つい吹き出す。 雅もつられて笑う。 ザザーン、ザザーン、波の音。 夕日が宵たちを照らす。 笑いながら、雅は言った。 「ね。君たち、行く宛ないんでしょ。うち来てよ」 「え」 目を丸くするふたりに、雅は多少強引に話を続ける。 「旅でしょ?ならさ、あたしの家泊まってかない?練習に付き合ってくれたら、好きなだけいていいよ。宿泊費無料!食費無料!その他諸々無料!ど?」 「…本当なら、…ぜひ‼︎」 顔を輝かせる宵たちに、もちろん、と雅はニカっと笑った。 「アパートとかじゃないよお〜?ふふ、意外かもしれないけど、あたしちゃんと家持ってるんだから!一人暮らしだから普通よりは狭めだけど、充分いい家だと思うから」 言うなり、雅は背を向けて海の反対方向に歩き出した。   〈#7へ続く〉

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私の家の、父という異物。

うちの父は、坊主なんだ。 うちの父は、髭剃りが下手なんだ。(壊滅的) うちの父は、耳のとなりにほくろ(いぼ?)が3つあるんだ。 うちの父は、いつの間にか後ろにいてにこにこしているんだ。 うちの父は、リビングのドアの前に棒立ちして、 ずっとこっちを見ているんだ。 うちの父は、目が合ったらニヤァってするんだ。 うちの父は、毎月10回は「いちご狩り行こう」って言うんだ。 うちの父は、さりげなく私のオヤツを盗むんだ。 (そして、ビールのおつまみにするんだ) うちの父は、オムレツを作るつもりでスクランブルエッグを 作ってしまったことがあるんだ。 うちの父は、お礼がぎこちなくて棒読みなんだ。 うちの父は、テレビを見てる私の前にやってきて、 そこで爪切りを始めるんだ。(お邪魔虫、どけや) うちの父は、飼い犬に超好かれていると思い込んで、 馴れ馴れしく触って耳の中べろべろに舐められたことがあるんだ。 うちの父は、私がノベリーで小説書いてるとカーテン閉めにきた フリして横目でガン見してくるんだ。 うちの父は、大切な私の父だ。 (でもオヤツ買って返せ) (そしてたった今、机に足をぶつけてわざとらしく 『wow!』って言ってチラッとこっち見たんだ)

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雨のち、泡沫。〈♯5〉

あらすじ 飼い猫のフヲは、ある日憧れのある外の世界に足を踏み入れる。 帰った家に引っ越した家族の姿はなく、 フヲに外の世界への興味のきっかけを与えたツバメ・スワローと、 静かな家を過ごすが、取り壊しの業者が来て逃げ出す。 戻る家を失ったフヲは、公園で、家出をした宵という少年と出会う。 手伝ってくれるという宵と、フヲは家探しを始める。 ー本編ー 「うーん…やっぱり遠い所なのかなぁ」 公民館の人の集まるホールで、宵はぶつっと呟いた。 猫は入れないので、フヲは出入り口で待ち構えている。 宵は片手に持つフヲの飼い主の新居地の写真に視線を移し、ため息をついた。 「ここの人はもうほとんど聞き込みしたかな」 ウィーン、と自動ドアが開く。 宵が顔を出すと、出入り口の側で香箱座りをしていたフヲは耳をピンと立て、こちらに駆け寄ってきた。 見上げてくるフヲの目には、期待の輝きが宿っていた。 う、と言葉に詰まる。宵は苦し紛れに言った。 「収穫無し、…だったよ」 がっくしと項垂れるフヲを励ます。 「大丈夫、この公民館に来る人はだいたいお年寄りだから。新築の家とか気にしてなくて知らなかっただけだよ」 「………にゃ」 「ほら元気出す!次は市役所とか交番とか政府公認代表の所にいってみよう」 この頃ずっと近所で聞き込みをしていたおかげで、最近は宵もフヲの言っていることが分かってきている。 「あのー、この辺りの場所知りませんか?」 フヲの飼い主・葉衣譜音の最新インスタ投稿の背景だけをスクショして切り取った写真を通行人に見せた。 「知りませんねぇ。隣町じゃないですかな?」 「隣町…そうですか、ありがとうございます」 宵がぺこっと頭を下げる下で、フヲも「にゃん」と鳴く。 通行人の丸眼鏡のおじいさんはフヲに視線を投げ、にっこりと微笑んだ。 「目に入れても痛くない、かわいい猫ちゃんだねぇ。坊やのうちの子かな?」 「あ、いえ、迷い猫です。この子が留守の間に家族が引っ越して。置いていかれたみたいで」 「ほう」 おじいさんは宵とフヲを交互に見て、優しい顔で目を細める。 「でも、君たちは本当の兄弟みたいだねぇ」 「えっ!」 ふたりは顔を見合わせて笑い出す。 そんな様子を見て、おじいさんはまた微笑んだ。 「お家探し、頑張ってねぇ。おじさんも、見つけたら教えてあげるよ」 「! あ、ありがとうございます!」 顔を輝かせ、大きなお礼を言う。 笑顔で手を振るおじいさんに深々とお辞儀をしながらフヲと向かった場所は、駅。 「やっぱり、この街ではないのかも。お金は持ってるし、電車で遠出だってできる。 猫は乗れないけど、俺のリュックなら入ると思うんだよね。静かにできる?」 「にゃ!」 自信満々のフヲに頷き、駅への足を速めた。 入り口から中に入り、隣町行きの電車の切符を入手する。 リュックの中のフヲは、きつい姿勢で不満だらけの顔をしていた。 「このホームだな。フヲ、ここに電車が来るからまだ我慢してろよ」 「う、にゃあ……」 フヲの小声の返事は、騒がしいホームには聞こえていない。 この待っている間にも聞き込みができるかなと、宵がポケットから写真を取り出したときだった。 「宵?」 ふと背後から名を呼ぶ声がして振り向くと、宵の隣のクラスの犁彌(りみ)がいた。 天然のふわふわとした茶髪をまとめて1束に結っていて、頭のてっぺんからかわいらしいアホ毛がぴょこんと出ている。大きくまつ毛の長い綺麗な目に小さな口がちょんとついていて、出かけていたのか小さなカバンを背負い、オシャレな服装をしている。その美女に周りの人がザワザワと騒ぎ出す中、犁彌は突然大きな声を出した。 「宵!宵だっ‼︎ 何でこの駅に⁈」 動揺する間も無く、犁彌は宵の肩を掴んでぐわぐわ揺らす。 「何してたのっ…⁈ みんな心配して捜してたんだよ。家出したっきり本当にずっと帰ってこないって、宵の家族から連絡があって。ずっとどうしてたの!何でこんな場所に居るのっ…‼︎」 一方的に犁彌が話し出す。 犁彌は向かいの家で、昔から一緒の幼馴染なのだ。 「り、犁彌」 「後で話は聞くから!とりあえず宵の家族に連絡…っ」 「!」 犁彌が、宵の家族と電話で会話を始め出した! (まずい…、もう家族とは会いたくないのに…!) リュックの中のフヲは、いまいち状況を理解できていず困惑している。 そのときだ。 ププァーーーッ。プシューーー。 電車が来た‼︎ ウィーー、とドアが開き、乗客がどんどん出てきた。 高校生のふたりはたくさんの人に押され、徐々に電車から離れていってしまう。 その人混みで宵と犁彌は引き離されていく。 (チャンスだ!) 宵はなんとか電車の出入り口に近づけた。 間も無く、電車が発車する。いける! しかし、人混みが過ぎた途端に電話を切った犁彌がこちらに走ってきた。 「っ………!」 ガシッと手首を力強く掴まれる。 「まっ、てっ…‼︎ また逃げるつもりでしょ…!」 犁彌に掴まれている腕に体温が感じられてきて、必死で電車から下ろそうとしていることがわかった。 「来るな…!俺はもう家には帰らない……っ」 「だめ!心配されてるのよ⁈ 分かってるでしょ、だから帰ってきてよ!」 犁彌の正論に心が少し動いたが、宵は両親に投げられた言葉を思い出してぎゅっと唇を噛んだ。 憎い!あんな所、帰るもんか…‼︎ 『ドアが閉まります。ご注意下さい。』 「!」 犁彌の手にいっそう力が入り、電車から落ちそうになる。 「犁彌‼︎ 分かってくれ、俺はもう家には…‼︎」 「そんなこと言わないでよ!私、宵がいない間、ずっと寂しかったんだよ⁈ また私に同じ気持ちにさせる権利、宵にないじゃん…‼︎」 犁彌の大きな瞳に涙が浮かぶ。 その途端、犁彌の手の力が緩んだ。 『ドアが閉まります。ご注意下さい。』 「宵!」 するっと、腕が解けた。 ウィーン。ガシャン。 プシューーー。 電車が発車し、ホームに残された犁彌は頬に涙が流れていた。 怒っている様子もなく、嘆いている様子もなく、目元を濡らしながら静かな目で犁彌はこちらを見つめている。 だんだんホームから遠ざかり、犁彌の姿が小さくなっていく。 『宵がいない間、ずっと寂しかったんだよ⁈』 犁彌に言われた言葉を思い返し、ズキンと胸が痛んだ。 知らなかった。犁彌は幼馴染だけど、遠い存在で縁が薄れている関係だと思っていたんだ。 「……犁彌」 ごめん。ごめん。でも。 「俺は、進むって決めたから」 犁彌と最後に目の合った電車のドアに向かって、ポツリと呟く。 電車は前に進んでいた。隣町に向かって、真っ直ぐに。 〈♯6へ続く〉

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52Hzの鯨

あなたは、52Hzの鯨を知っていますか? 52Hzの鯨は、他の鯨が聞き取れない高い52Hzの周波数で 鳴く正体不明の個体です。 他の鯨に声が聞こえない孤独な鯨なのです。 その鯨に寄り添った曲があります。 例として挙げます。↓ BTS(韓国のアイドル)の曲に、 「Whalien 52」 という学曲があります。 これは、52Hzの鯨の 「どれだけ叫んでも世界に声が届かない孤独」 を表しています。 そして、Saucy Dog (日本のバンド)の曲に、 「この長い旅の中で」 という楽曲があります。 これは、「52Hzの鯨たち」という小説の映画化したものの 主題歌になっています。 さらに、アニメ【推しの子】の B小町(ガールズアイドル)の曲に、 「深海52Hz」 という楽曲があります。 これは、 「届かなくても、深海から君に向かって52Hzの声を響かせる」 という切ない意味合いがあります。 そして、有名なMrs.GREEN APPLEの曲にも 「鯨の唄」 という楽曲があります。 これは、 「僕らは声を聞き合う」 鯨も人間も感じる儚い美しさを表しています。 このように、52Hzの孤独な鯨には、様々なの楽曲があります。 これを機に、 「自分の声が誰にも届く」 という幸せを、改めて感じてみてはどうでしょうか。

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お見本。

はい!募集のお見本です。 参考にしてくださいませ。 私は、ミセス推しです!! 箱推しですが、ひろぱ(ギター)が1番ですかね。 世界で13位。レコード大賞3連覇。 日本で今1番売れてるアーティスト。 ボーカルが、映画、朝ドラ、他にも多々活躍。 ギターが、得意な韓国語で韓国のテレビ出演。 キーボードが、大ヒットドラマ出演。 ダンスもできる珍しいバンド。 ボーカルが変顔上手で、ふざけたがり。 ギターが、面白くて変。 キーボードが、かわいくて天使。 何このバンド? 尊い。 歌詞が良い。歌が上手い。演奏最高。 面白い。かわいい。かっこいい。センスいい。完全無欠。 はーーーーー、好き。 私、ゼンジン未到の最終日当たったんですよ! 楽しみすぎるゥ〜〜✨ 台風だけは来ないで。。 これ、最後まで読んでくれてる人は、 わけわからんか、引いてるか、JAM'Sか、のどれかですね。 ミセス好きな方は、コメントで!

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雨のち、泡沫。〈♯4〉

あらすじ 飼い猫のフヲは、ツバメのスワローと出会い、 外の世界に興味を持つ。 家を引っ越す日に外の世界に出たが、 戻った家に家族の姿はなく、さらに家の建て壊しの業者が来て、 フヲはスワローを置いて雨の中を走ったが…? ー本編ー 「はぁっはぁっ」 雨に打たれながら、フヲは夕方の住宅街を走っていた。 戻る家がなくなった。 どうすればいい? もう家族には会えないのか? スワローを置いてきてしまったけど、大丈夫なのか? これから、野良として生きなければならないのか? …フヲは、もう終わりなのかーー……? ピチャピチャと足元で水がはねる。 寒気がして、近くの公園に逃げ込んだ。 雨宿りの出来そうな遊具を探す。 適当に飛び込んだのは、トンネル型の遊具だった。 そこには10代ほどの紺色の髪の少年が、俯いて座り込んでいた。 次の瞬間、ふたりの目が合った。 少年は驚く様子もなく、植物と対面しているように落ち着いた顔をしていた。 僅かな怒りが宿ったその少年の漆黒の瞳は、どこか切ないようにも見えた。 少年も、フヲの深い緑の瞳の辛さを感じ取った。 先に声を掛けたのは少年だった。 「……アンタ、猫?」 …は? 猫だよ。 話しかけられたと思えば、猫がどうかの確認だった。 なんだと思ったのか。 言葉も通じないので、軽く頷く。 するととたんに少年の頬が緩み、 さっきまでの暗い表情が嘘のような穏やかな顔で笑った。 「あははっ。すごいな、人間の言葉理解できるのか。 最近の猫って賢いなぁ。アンタ、飼い猫でしょ?様子でわかる」 どうやら、さっきのは反応の確認のための適当な質問だったようだ。 彼は猫に詳しいらしく、フヲの種類も言い当ててみせた。 よく知ってるね、と驚いてみせると、それを合図のように少年はまた笑う。 「表情豊かな猫だなぁ。感情表現すごい」 そりゃあそうだよ、猫は喋れないだけで、どの生き物の言葉もわかるんだもの。 そんなフヲに気づかず、少年は一方的に猫愛を語り出した。 そして少年は宵と名乗り、家出をしてきたことを話した。 宵は、フヲも家族と事情や距離があること、ひとりぼっちであることを感じ取った。 フヲは家族に会いたいと思っているが、 宵は何が何でも家族と顔を合わせたくない様子だった。 喧嘩をしたのか、事情はわからないが、宵はそのことは話さなかった。 「とにかく、俺らって似た境遇っぽいな」 宵はフヲに通じていることを分かった上で話しているようで、 雨が上がっても家には帰らないと宣言した。 すると、宵はフヲの首周りを眺め言った。 「アンタ、長毛だから隠れてたけど、首輪してんじゃん。 やっぱ飼い猫だったんだ」 毛を掻き上げ、その緑の首輪を目を凝らして覗き込む。 「……ん?」 さらにじっくりと見つめ、宵は毛を抑える全ての指から親指だけを動かして首輪を擦った。 「濡れてるけど…確かに窪んでるな。何か文字が浅く彫られてるっぽいぞ?」 そうなの?ときょとんとするフヲに尋ねる。 「ちょっと、ごめんけど首輪外していい?」 うん。でも痛くしないでね? 宵は上目遣いでこちらを見上げる猫を軽く抑えて、人間で言う襟足の部分をいじくり回す。 小さな取手のようなものを手探りで見つけ、摘んで手前に引っ張ると、カシャンと僅かな音がした。 「お、取れたか?」 首輪の左右を掴んで優しく離していくと、詰まることなくスルリと取ることができた。 「よし。ちょっと待ってろ」 宵は博物師のように、片目を閉じてジーッと首輪の凹みを見つめる。 首輪は外すことなくつけていたので、フヲの毛は首輪の跡のような歪な状態になった。 後味が悪いと言うか、何とも言えない毛の違和感に首元がムズムズしながらも、利口にフヲは座っていた。 一方、宵は宵で、平らになりかけているほんの僅かな凹みを読み取ろうと必死で目を大きく開いていた。 「えーーーとー………。文字、だよな…」 本来なら、緑の首輪には深く文字が彫られていて、一目でわかるようになっているのだ。 だが5年ほど経ったが故に、徐々に埋まっていって見え辛くなってしまったようだ。 「これ、漢字か……?」 なんとなくぼんやりと文字が浮かんでくる。 「は、『はいふおと』…?あ、『はごろもふおん』か? ん?  なんだこれ??」 困惑する宵だが、流石にこの2択なら名前的に当てはまる方は想定がつく。 「葉衣譜音…はごろも、ふおん、か」 珍しめの名前だねぇとフヲに声をかけるも、宵も自分の名前も少し変わっていることに気づいて照れ笑いをした。 葉衣譜音は、フヲの飼い主の一家の母親だ。 「『葉衣譜音』と、『フヲ』…?これ、アンタの名前か。あと、住所がある」 住所‼︎これで、家族がどこに引っ越したかわかるはず。 だが、宵が住所を読み上げたとき、その期待は砕け散った。 それは、前の住所だったからだ。 フヲの様子を見て、宵もこの住所はフヲの家ではないなと把握する。 「連絡先は書かれてないな…。とりあえず、検索してみるか」 宵はスマホを取り出して、画面を開いた。 スマホは通知音がたくさんなっていた。家出をしたらしいので、心配した家族が連絡をしているのだろう。 それを宵は無視して、検索欄に「葉衣譜音」と打ち込む。 開かれたページはSNS。誰かのアカウントの画面だった。 名前は…「葉衣家」だ‼︎ やはりそれは、フヲの飼い主のSNSだった。 これまでの投稿をあさるが、連絡先などは載せられていなかった。 すると、最新の投稿のところに、こうアップされていた。 『引っ越しました!場所は言えませんが、素敵な家です。 飼い猫が居なくなっちゃってまして、フヲっていうんですけど。黒で、緑の目なんです。見かけた方はコメントしてね!』 「…やっぱり、連絡先は書かれてないけど、フヲ、アンタ心配されてるよ。………いいね、大切にされてて。俺は、家族に何もーーー」 宵はそこまで言って口をつぐみ、調子を変えて明るく言った。 「投稿と一緒に家の画像もアップされてるから、この家と背景を元に調べてみよう。 うまく家が見つかれば、フヲはまた家族と会えるよ。俺も協力する」 宵の様子は気がかりだが、それはとても有り難い。 大きく頷き、フヲは外を見た。 雨があがりそうだ。 似た境遇の少年・宵と、フヲは太陽の照る外へ1歩踏み出したのだった。  〈♯5へ続く〉

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雨のち、泡沫。 〈♯3〉

あらすじ 飼い猫のフヲはある日、ツバメのスワローと出会い、 外の世界に興味を示す。 ある日隙を見て外に出たが、帰っても家族の姿はなかった。 フヲがいない間に、家族は引っ越したのだ。 項垂れるフヲにスワローは寄り添うがー…。 ー本編ー それから数日間、フヲとスワローは空っぽな家でふたり静かに過ごした。 食料は、時々巣に戻るスワローがついでに獲ってきてくれる 虫や落ちていた食べかすで凌いだ。 フヲは、一歩も外に出なかった。 片時も、この思い出の残った家を離れたくなかったのだ。 待っていたかった。 きっと帰ってくるから。 ずっと、ずっと、家族の帰りを待っていたーー…。 「…ねぇ」 玄関をずっと見つめているフヲに声を掛ける。 振り返らないので、そのままスワローは続けた。 「あのさ、食料、もうない感じなんだ。 春だし、虫はわんさかいるよ。うちのヒナもよく育ってる。 でも、フヲは胃が繊細っぽいから、虫は控えた方がいいんだよね。 虫なんて小さいものじゃ、毎日フードを食べてた 飼い猫の腹の足しにはなり難いし、かといって大きい虫も、 ツバメじゃ獲るには苦戦するんだ。 人間の食べかすやパンクズも、あるにはあったけど小さいし、 この間に地域清掃キャンペーンをやってて、そういうものは もうほとんどない状態なんだ。 …だから、しばらく食料はーーー」 「うん、平気」 聞くのが辛かったのか、どうでもいいのか、 フヲは掠れた声で遮った。 「……じゃあ、巣の様子見てくるから…」 見ているのが辛くなりスワローはそう言い残して、 古く汚れ蜘蛛の巣の張った窓を潜った。 そのとき。 ガガガーーーッッッ。 大きな軋んだ機械の音が頭にキーンと響いた。 玄関の方から聞こえてくるようだ。 「「……⁈⁈⁈」」 驚いたのはフヲも同じだったようで、 最近元気のなかったペタンコの耳がぴーんと立っている。 嫌な予感が頭をよぎる。 スワローは思わず声を出した。 「っ僕が見てくる!」 そのまま窓から飛び立ち、外側から玄関の方へ飛んでいった。 人影がある。 屋根から覗くと、数人の作業服を着た人が居た。 紙や小型機械を手にして、話し合っている。 その側に、大きなブルドーザーが2台、停めてあったのだ。 その内の1台に人が乗っていて、ブルドーザーを操作して動くか確認していた。 ガガーッと再び大きな音がし、耳を塞ぎながら人々はこんな話をしていた。 「今回立て壊す家はここですよね?」 「あぁ、相違ない。最近引越した、葉衣さん宅だ」 「了解でーす。もうここは売地にする予定らしいので、 家をまるごと立て壊しちゃっていいでしょーか?」 「やってくれ。じゃあまず、家の中から解体していこうか」 スワローはゾッと、血の気が引いた。 この家は壊されてしまうんだ! しかも、家の中からって…。 フヲが居るのに! 一方、フヲは心配そうに玄関を見つめていた。 胸が不安で押しつぶされそうだ。 と、そこへひとりの従業員が入ってきた。 新入りっぽい、若い男性だ。 その人は、自分を見るなりビクッと肩を跳ねさせた ボロボロの猫を見て、おやおやと優しい顔をした。 「ここの元飼い猫かな?よくある、引越しに置いていかれたとか。 引越し先じゃペットは飼えないから、みたいな」 違うよ、とフヲは言いたかった。 家族は、引っ越す時にフヲが外に出掛けていたから連れて行けなかっただけだ。 わざと置いて行ったりなんてしてない。 不安そうなフヲを見て、男性はごめんねと言い、続ける。 「それか、野良猫かな?ここ数日空き家だったから、入ってきちゃったとか。 どっちにしろ、ここに居たら危険だよ?」 だが、フヲは震えながらも、大切な我が家を離れたくない一心で、床に張り付いた。 しかし男性は、保健所に連絡をし始めてしまった。 プルル…。 「あっ、はい、もしもし。すみません、こちら◯◯会社なんですけども。 立て壊す予定の空き家に猫が1匹居まして。 引き取って頂けないでしょうかーーー」 これはまずいと、フヲは数日振りの外に飛び出した。 男性は気づいていないようなので、そのまま道を走る。 スワローはいなくなったが、フヲは歪めた顔でがむしゃらに走った。 雨が降り始め、ざあざあとフヲの心を打ちのめした。  〈♯4へ続く〉

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雨のち、泡沫。 〈♯2〉

あらすじ 飼い猫のフヲは、渡り鳥のスワローと出会って 出たことのない外の世界を知る。 一方、フヲの家は引っ越す準備を進めていた。 引越し当日、何も知らないフヲは隙を見て 外の世界に飛び出した! ー本編ー 「…っうっわぁ…」 窓越しでしか見たことのない外に足を踏み入れたフヲは、 ただ唖然としていた。 と、そこへスワローが飛んできた。 フヲを見るなり、驚いた顔をする。 「フヲ、何で外に⁈」 「あ…」 訳を話すと、スワローは気まずそうな顔をした。 「…それって…さーぁ〜…」 「?」 きょとんとするフヲに、スワローは誤魔化し笑いをして言った。 「じゃあ、外を案内してあげるよ!」 実はスワローは気づいてしまっていた。 フヲの家は、引越しをするということに。 ようやく外に出られて喜びに満ちているフヲに、 それを言うのは心苦しい。 いけないと分かっていながらも、 スワローは黙ることしかできなかった。 「…あれ?」 戻った家に、いつも笑いかけてくれる家族の姿はなかった。 あれからスワローにたくさん外を案内され、大満足したフヲは、 道を覚えているというスワローと家に戻った。 だが…。 静まり返った家。 家具もなくなり電気も消え、人の温もりさえ 消え去った家に、フヲは意味がわからなかった。 「…何も、…ない」 「………」 訳を知っているスワローは胸が痛んだが、 わからないふりをした。 「…、出掛けたんじゃない…?」 「…っで、でも物も無くなってるし…!」 認めたくない。認めたくない…! でも。でもー…!! 「…みんな、…家を引越したの…?」 「ー…!」 流石に勘づいたフヲに何と声を掛けたらいいのかわからず、 スワローは気まずそうに慰めた。 「……大丈夫。きっとまた、会えるよ。 家で、待ってよう。そしたらきっと戻ってくるよ。 おかえりって、…迎えよう?」 思わず涙声になる。 フヲは鼻を啜りながら、堪えるように答えた。 「…うん」 その頃外では、ふたりが出会った時のやさしい雨とは大違いの、 追い討ちを掛けるような土砂降りが降っていた。  〈♯3へ続く〉

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雨のち、泡沫。 〈♯1〉

初めは雨が降る。 誰かの感情を無視して、ひとり静かに降る。 でも、泡沫。 そんなの一瞬だ。 雨が降るのは、泡沫に過ぎない。 しとしと。 見て見てと言わんばかりの窓越しの雨を横目に、 フヲはある家の中でのんびりくつろいでいた。 住宅街の一軒の家には猫が住んでいる。 真っ黒の毛並みに濃い緑の瞳を持った、幼いを少し過ぎた猫だ。 すると、雨宿りにきたのか、窓ぶちに1羽のツバメが降り立った。 「ふー…、ひどい湿気だ」 独り言を言うと、ツバメはフヲに気付いた。 顔を歪め、まずいまずいと飛び立とうとする。 フヲは反射的に声が出た。 「ちょ、ねぇ待って」 声を掛けられるとは思ってもいなかったようで、 ツバメは目をぱちくりしながら振り返った。 「あ、…」 面と向かうと何を言えばいいか分からなくなる。 「えっと…フヲは何もしないから」 堅苦しい口調で、とりあえず自分の安全を伝える。 「…そうなの?信じるよ?」 疑心暗鬼気味に、ツバメは窓ぶちにちょこんと座る。 「………」 しばらく居座ってもフヲが興味のなさそうに目を伏せているので、 ツバメは本当に手は出さないなと察し、思い切って声を掛けた。 「…アンタ、ここの猫?」 「!  ……うん。フヲって名前」 少し驚いたものの、信じてもらえたんだという喜びで、 条件反射的に返事をした。 「フヲ?鳥のじゃん。猫なのに面白いね」 「そっちは?」 「僕?そうだなぁ。野生だから無いなぁ」 「ふぅん?じゃあフヲが付けたげる。…じゃあ、君はスワロー!」 ツバメって意味なんだよ」 「…へー、なかなかいいじゃん?」 「でしょう!」 警戒心がふわりと溶けたふたりはすっかり打ち解け、 窓越しに楽しそうに話す。 スワローと名付けられたツバメは、 寒いと伝えたいらしく、顔をしかめさせて大袈裟に激しく震えた。 わかりやすいなぁ、とフヲは窓を器用に開ける。 スワローは素早く家に入り、うっとりと目を細めた。 「あったか〜い。たまにここ、来ていい? この辺りに巣を作ったの。来月辺りヒナが巣立つんだ。 8月頃には南に渡るから、 用意のために街を離れて河川敷で眠るから もうここには来ないわけ。だから、あと2ヶ月!2ヶ月だけ!」 「いいけど…。来年、またこの街に渡って来る?」 「さあね。運が良ければね」 そうなんだ、と軽くうなずき、フヲは開けたままの窓をきちんと閉めた。 「僕はオスだからね。卵はメスが温めるんだけど、 たまに餌を探しに巣を離れるから、そのときだけ代わって卵を温めるんだよ。 あと、巣の周りの警備担当もしてる。今、抜け出してきたんだ」 スワローはそう語って、ぬくもりのあるコルクの本棚にぺちゃっと溶けるように座り込んだ。 「ツバメの事情なんざ知らないけど、いいの?戻らなくて」 無責任な様子に呆れ気味で尋ねると、あはは、とスワローは軽快に笑った。 「大丈夫だいじょうぶ!少しくらいサボっても平気だよぉ〜」 真面目で責任感の強いフヲは、 お茶目で無責任なスワローと正反対だが、 仲良くなれそうだな、と素直に嬉しくなった。 それから、ふたりはよく話した。 ヒナの成長でメスが巣を離れることが増えたのか、日に日にスワローは 家を訪れる時間は減っていった。 が、僅かな手が空いた時間に家へ来て、毎日会話をしていた。 渡り鳥のスワローは、世界中を飛び回るため外の世界の物知りで、 知っている限りのその素晴らしさを語った。 そして、飼い猫で外に出たことのないフヲは、外に興味を持った。 そんな中、フヲの家の人たちの中ではある話が進んでいた。 近いうちに、引っ越しをするという話だ。 フヲはそのことを知らない。スワローもだ。 そして、その引越し当日。 一家はバタバタしていた。スワローは来ていないので、 暇になったフヲはいつも居る部屋を出て居間に向かった。 空いている居間のドアから覗くと、家族は、 やって来た引越しセンターの人と話し合ったり書類を書いたり、 様々な家具を動かしたりしていた。 何が起きているかさっぱりなフヲは、邪魔にならないよう 居間を通り過ぎて玄関に向かった。 と、玄関のドアが僅かに開いていることに気づいた。 急いで入って来た引越しセンターの人がしっかり閉めなかったのだろう。 フヲは、ただただ目を輝かせていた。 好奇心が抑えられなかったフヲは、ドアの隙間から外の世界に 飛び出した! 〈♯2へ続く〉

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