お直し屋5
※ これはハムスタさんの「お直し屋」のリレー小説です。私のオリジナル作品ではごさいません。
「ウーーーーアーーーークソガあああ」
彼は漫画家。以外にも売れっ子らしく、第12巻まで順調に進んでいた。
だが、13巻からスランプ。は、前置きでつまりネタが無いのだ。
ここまで何も考えずバンバン出版したのが悪いのだが、彼はそれを認めたくないらしい。
「ったくよー……仕方ねぇ。思いつかないものはしょうがない。コンビニにでも行くか。」
ウイィィーーン
「ありゃしたー」
「はぁああ……」
どうやらアイディアは思いつかなかったらしい。
「なんでだろーなぁー……はっ!そうだそうだきっとそうだ!」
そう叫ぶと男は全速力で家に帰り、思いっきり音をたててドアを開けた。
「やっぱり……」
彼の部屋はまるでゴミ箱のようだった。
散乱した下着、散らばった漫画。決まりつけはコーラのボトルが2、3本倒れている。
男が言うには環境が悪いらしい。
散らかった部屋、締切りに厳しい編集社、うるさい大家。
その他もろもろが絡み合わさって最悪の環境が出来ているというのが彼の言い分だ。
こんな環境さえなかったら……!
ブツブツ言いながら外に出た。
するとどうだろう。まるで引き寄せられるように狭い路地に入った。
古いボロボロの看板があり、そこには「霊思(れいし)路地」と書いてあった。
「こんな雰囲気の漫画出したら売れそうだな……」
そして何かに引っ張られるようにズンズン奥へと入っていった。
そしてたどり着いた場所は……
「お直し屋……?」
なんだそれ。くだらない。
引き寄せられるような感覚はもうない。ボロボロだが、廃墟にも見えなかったので、中に入ることにした。
「ほぉー……」
色とりどりの糸。白いミシン。学校にあった懐かしい感じの救急箱。
そして…数百個の3寸ほどの小瓶。その中には何も入ってないものもあったり、灰色の雨雲のようなものが浮いていたり、太陽のような明るい光が見えたり。
とにかく色んなものがごちゃごちゃしていた。
「いらっしゃいませ」
そこには世界三大美女にいてもおかしくはない。それは美しい女性が立っていた。
まるでそう。銀狐のような女性だ。とても長い、銀色の髪。吸い込まれるような、深い江戸紫色の瞳。
そして何より。何枚も重ねられた着物。平安時代の貴族のような服装だ。袖から見える手はしなやかで、肌は雪のように白い。
男が口をあんぐりとあけていると、その女が密のような甘い声で囁いてきた。
「ここはお直し屋。どんなものでも治し、直すことが出来ます。人形、怪我、思い出までも……」
「かっ、環境を直すことは出来ますか?!」
「ええ、もちろん……ですがそのためにはお代を頂戴しなければ……」
「お、お代?」
やはり金がいるのか…
ガックリとうつむくと女が言った。
「それはあなたの記憶です。」
「えっ記憶?」
思わず顔を上げた。
「あい」
その女はニコニコと笑っていたが、どこか不気味な影が見えた。
「じゃ、お、俺の幸せな記憶、全部アンタにやるよ!だから…俺の環境を直してくれ!」
「もちろん。では。」
その瞬間、男は気を失った……
「……ん……」
男は自分が何なのかを思い出せずにいた。フラフラと自分の家らしきところに帰り、男は自分に自問自答した。
「俺は……俺はなんのために生きてるんだ?」
男の記憶に幸せな記憶などない。本当の幸せを知らない男は、自分を探すため、アパートの屋上から千鳥足で足を踏み外した。
「ふふふっ」
銀狐の女は満足そうに小瓶を眺めた。
「今回は記憶を取り戻すことは無かったようね」
舐めるように小瓶を眺めていると、小瓶の中の煙が個体になってきた。そしてしばらくすると、その煙は春の太陽のような明るい光ができた。
「あともう少しよ、月丸。」
嬉しそうに女は写真を見た。そこには銀狐の女と
銀色の柴犬がいたのだった。