さよならの代りに
ずっと言えなかったことがある。
今朝の厚着が鬱陶しいと感じるほどの陽気に包まれた正午過ぎ。君が突然口にした言葉は、僕のそれを急かした。笑い話も、悩みも、全部話していた僕が言えていないたった一つのこと。
関係が変わってしまうのが不安で言えなかったこと。
「『さようなら』って、もう会えないような気がしちゃうから別の言葉の方がいいよね~」
まだ少し幼かった君の何気なく言っていた言葉がふと頭によぎる。しかし、もう会えない可能性の方が高い今となっては関係のない話なのだろうか。
いつもは「さよなら」の代りに「またね」と言っていたが、その言葉は無責任な気がして少し憚られた。
いっそ、さよならの代りに言ってしまおうか。思い切って口を開く。
「ずっと君のこと……感謝しています。」
言えなかった。別れ際に言うには、あまりにも残酷な言葉な気がしたから。