孤月

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孤月

初めましてー!書くのも投稿するのも初めてです。よろしくお願いします。

ただいま

 ここはどこだろう。最初に目に入ったのはビルを覆い尽くす緑。人気はなく荒れ果てていた。なんでこんなところにいるのか。わからない、世の中はわからないことばかりだ。  俺はある日突然病にかかった。植物化。体中から芽が生え蔦が絡み、花が咲く。最終的には物言わぬ木になってしまう。現代の医療では治せない、諦めなさいと言われた。絶望した。何もかも手につかなくなって、自暴自棄になった。その間にも親は必死に金に糸目をつけず治療法を探し、全国の医者に見せ、怪しい霊媒師にまで頼った。失敗だった。騙され、金も、家も、全てを奪われた。悲劇としか言いようがない。両親が最後に選んだのは、新技術、コールドスリープの被験体だった。タダという言葉に寄せられ、確立してもいない技術に全てをかけた。  とりあえず動かないことには始まらない。蔦が絡む体は動きにくいが動けないほどではない。屈伸をしたり、腕を回したり、動くことを確かめ歩き出した。壁にあった大きな穴から外に出る。やはり景色は緑一色。コンクリートは割れ、隙間からバカみたいに太い蔦や木の根が這いまわり、街を完全に飲み込んでいる。分かりきっていたことだが、触って本物だと認識すると、どうしようもなく不安になってくるものだ。何年経ったのか、両親たちはどうなったのか、この世界に何があったのか_____。何もわからないのだから尚更だ。  しばらく歩くと、甘い香りが漂ってくる。俺の腕にある忌々しい花と同じ匂い。草を掻き分け、大きな根を飛び越える。そこにあったのは大きな木、そして俺の腕にあるのと全く同じ花だった。頭の中に最悪の想像が浮かぶ。今まであった植物たちは人間の成れの果てだ。  俺は気づいたら走り出していた。こんなところにはいられない。吐き気を飲み込み、息を切らし、もつれそうな足を必死に動かす。  行き着いたのは最初に目覚めた施設だ。知らなければならない。世界がこうなった理由を。手がかりを探す。目についた部屋を開けると埃を被ったコンピューターが一台。震える手で電源ボタンを押すと画面が光る。奇跡的に補助電源が生きていたようだ。マウスを握り、動かす。映された真実は想像を絶する残酷さを孕んでいた。  最初は淡々と記録がされているだけだった。成功を確信しているようだった。だか、病は止められなかった。むしろ悪化していた。中盤、狂気が顔を出す。研究員の一人が俺と同じ病気を発症した。原因は俺。不完全な冷却システムは俺の細胞を変化させ、体から微細な胞子が放たれていた。換気システムにより驚異的な感染力でそれは世界中に拡散していった。人々の体から次々と芽が出て、蔦が絡ませ、花を咲かせて、最後には動かぬ大樹になった。  「俺のせいだ……」 画面に激しいノイズが走る。両親が最後に見つけた希望。それは人類を滅ぼす悪魔の苗床になってしまった。  植物たちが一斉に揺れる。さわさわと俺に囁きかける。 「おかえり。お父さん」 脳裏に響く、愛おしい声。俺の体から生まれたかわいい、かわいい子供達。  正体が分かれば、怯える必要などない。近くにある大きな大樹に向かう。優しく抱きしめると、優しい風が吹いてくる。足が根に変わる。手が、体が、自分の意思が緑と混ざり合っていくのを感じる。かつて大都会と言われた緑の海の中心で、俺は物言わぬ木になった。 「ただいま」

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