あん弧

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あん弧

人間観察好き。 私の言葉が、少しでも誰かの心に響くことを願って、言葉を紡いでいきます。 フラットな人とサバサバしてる人尊敬する……😶 (人間不信気味の優柔不断人間) 色々趣味あるので話しかけてくれたら嬉しいです🫥

コノ町ノ古キ愛ノ呪イ

透き通った髪に、紅く染まった瞳。 慈愛に満ちた存在の背には、白く大きい翼。 人はそれを、天使と呼ぶ。 昔々 人々ハ 天ノ使イヲ 崇メ称エタ 白イ翼 紅イ瞳 慈愛ノ象徴 ソレハ 己ヲ 天使 ト呼ンダ ソレハ 人ヲ 町ヲ 全テヲ 救ツタ 全テニ 等シク 愛ヲ 与エタ 人ニハ富ヲ 町ニハ豊作ヲ 世界ニハ希望ヲ コノ町ハ ソレニ 愛サレタ ダカラ コノ町ハ ソレニ 愛ヲ 返シタ 人々ハ ソレヲ 美琴 ト名付ケタ ソノ名ヲ ソレ─美琴ハ 喜ンダ 次ニ 人々ハ 供エ物ヲ 捧ゲタ 美琴ハ 不要ダ ト言イ 断ツタ 仕方ガナイ ト人々ハ ハジメ 祠ヲ 建テタ 美琴ハ 喜ンダガ 申シ訳ナイ ト言ツタ 美琴ハ 私ガ 勝手ニ シタコトダ ト言ツタ 人々ハ ソノ言葉ニ 反抗シタ 私タチハ 何モ デキナイノダカラ セメテ 貴方様ニ 恩ヲ 返シタイノデス 美琴ハ 有難ク 受ケ取ル コトニシタ ソウシテ 天使ト 人間ハ 深イ 繋ガリヲ 得タ コノ街ハ 天使ノ 加護デ 栄エテイルノダ

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コノ町ノ古キ愛ノ呪イ

終電

私は今、電車に乗っている。 なんの理由もない。 ただ遠くに、遠くに行きたかった。 乗り込んでから、どれくらい経ったのだろう。 どのくらい走ったのだろう。 ここはどこなんだろう。 外はもう暗い。 周りに人は、いない。 多分ここに子供がいたら、「怖い」と泣きじゃくるだろう。 でも、私にとってはどうでもいいことだった。 どうでもいいから、早く遠くに行きたかった。 もう、あんな場所に居たくない。 居る必要だって、無い。 だったら、逃げてしまえばいい。 別に、なにか計画立てをしていた訳じゃない。 そんな面倒なことはしたくなかった。 ぼうっとしていた。何もかも嫌になった。 そんな時だった。この電車を見つけたのは。 行先も、時間もわからない。だけど、 「逃げられる」 そう思った。本能的に。 苦しかった、辛かった、最悪だったこの場所から。 ただ、逃げたかった。 気づいたら、私の足は迷うことなく電車に向かった。 まだ新しい記憶を思い出しながら、時間をやり過ごした。 暇だったし、電車内は少し不気味だったから。 でも、不思議と苦しくなかった。 不気味な雰囲気の中、私の心身は軽かった。 苦しさからの開放感か、未知への好奇心か。 どうでもいいことを、考えてみる。 誰に言うでもなく、小さな独り言を呟いていた。 虚無感と睡魔に誘われながら、揺られ続けた。 何故か眠るのは勿体ないと思ったから、眠らなかった。 体感2,3時間ほどだった。 「終電です」 掠れた機械音声が、車内に落ちた。 (ああ、終わってしまった。) そう思った。 旅にも終わりが来るんだな、なんて当たり前のことを思う。 緩い動きで電車を降りる。 機械音声の合図で、電車は動く準備をする。 扉を引き摺る様に閉じた電車は、ゆっくりと車庫へ向かう。 少しの間、電車を見つめていた。 (あのまま乗っていても良かったかも) 巫山戯たことを思えるくらいには、気が楽になっていた。 何とか身体を前に進め、改札を出る。 澄んだ空気が、心地よかった。 この場所について気になったけれど、調べないことにした。 その方が、楽な気がしたから。 多分、ここはひとつの街だ。 人の気配がないのは遅い時間だからだろう。 少し、歩いてみることにした。 なるべく音は立てず、奥へと進む。 ゆっくり進んでいると、急に視界が開けた。 足元は崖で、これ以上行けば落ちてしまう、そんな場所に出た。 息を呑んで顔を上げた、次の瞬間。私は目を奪われた。 自然豊かな森林に囲まれた住宅街。 至る所に草花が咲き、月明かりに照らされ仄かに光っている。 人工的な光はなく、やはり人の気配は感じられない。 不気味なのに、恐ろしいのに、何故こんなに綺麗なのか。 どうして、こんなに落ち着くのだろうか。 私は、立ち尽くすことしか出来なかった。 それ以上、動けなかった。 あまりにも、非現実的な場所だった。 ここに居たい。 ここがいい。 こんなこと、初めて思った。 もう感じられないと思っていた。 気づいたら、視界はぼやけ歪んでいた。 それでも、この場所は綺麗に見えた。 知らない世界だった。 怖い。でも、ここに居たい。 不思議な感覚だった。 そして私は、ここにいると決めた。 例え、世界から外れた場所だったとしても。 危険な目に会うとしても。 頼れる相手がいなかったとしても。 何かに取り込まれているとしても。 ここに居ると、ここに居たいと、思ってしまったから。 いつの間にかしゃがみこんでいた私は、迷うことなく前に進む。 もっと、この場所を知るために。 この場所を、愛するために。 知らなかった、失った感情を取り戻すために。 私は笑いながら、月に向かって、誰にも聞こえないよう呟く。 「ありがとう。ココに連れてきてくれて。」 終電

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終電

君に「いいね」はあげられない。

最近、気になる人がいる。 その人と会ったことは無いけれど。見つけた時、運命だと思った。 だから、「いいね」をあげた。 数日後、またあの人を見た。 あの人は、新しい服を買ったらしい。 とても似合う服だと思ったから、「いいね」をあげた。 次の日も、その次の日も。 また「いいね」をあげた。 それから1週間くらい経った。毎日あの人を見れた。 だから「いいね」をあげ続けた。飽きるくらいに、あげた。 でも、あの人には届かない。 たった一つの、「いいね」なんていう評価で。 本当の思いが伝わる訳が無いから。 ある日から、あの人と会えなくなった。 突然だった。 でも、消えたわけではないと信じた。 だから、待った。 1人で、暗い部屋で、ずっと。 でも、あの人とは会えなかった。 ずっと待っていた。朝も、昼も、夜も、ずっと。 寝れない日も、何も食べれない日もあった。辛かった。 それでも、会えなかった。 何もかも嫌になって、泣いた。 部屋もぐちゃぐちゃで、自分自身もボロボロになった。 会ったこともない人に期待した自分が、嫌になった。 勝手に好きになって、期待して、勘違いしただけだったのに。 自分のせいと、わかっていたのに。 あの人を恨んで、憎んでしまった。そして、私は… 全部、壊してしまった。 ごめん、なさい。 もう、君に「いいね」はあげられない。 できることなら、本当のハートを渡したかった。 でも、もう無理だから。 さよなら、私の‪×××××。

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君に「いいね」はあげられない。

別れの春、捨てた希望へ

春。 私の、嫌いな季節。 街を歩けば嫌でも視界に入ってくる桜も。 そこかしこにある桃色の服や雑貨も。 しつこく耳に残っている軽やかな音色も。 全部、全部。 嫌いになった。 目障りで、耳障りで、華やかさが邪魔で。 それなのに、皆楽しそうで。 私だけが、別世界に残されたような感覚で。 それが、羨ましくて、でも嫌で。 どうしようもなくて。 八つ当たりだって、わかってる。 こんなことしても無駄だって、理解してる。 自分の本当の気持ちだって、気づいてる。 だけど、私は受け止めきれなかった。 逆に、春に嫌われた。 でも、それで良かった。 嫌われれば、何も考えなくていい。 気にしなくていい。 もういい。 そう、思ってた。 だけどまだ、どこかで願っている。 自分の心の奥深くで、叫んでる声が聞こえてくる。 見えないフリをしてたのに。 聞こえないフリだってしたのに。 自分が、馬鹿らしいと思った。 もしも、時間を戻せるなら。 どこまで戻せばいいんだろう。 君と分かりあった時。 君と初めて話した時。 君を、見つけた時。 やり直したい時間、沢山ある。 でも、それは都合が良すぎるから。 なら私は、もう一度プロローグを見る。 君と出会わない世界線で、最初からやり直す。 それで、負けヒロインみたいに、馬鹿らしく生きていく。 私と君のエンドロールに、互いの名前が載る。 その願いが叶う世界は、どれほど幸せなのだろう。 でも。 その答えを知ってしまったら、 もう二度と戻れないと思うから。 さようなら、私の─ 希望だった、君。

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別れの春、捨てた希望へ

ハンドクリーム

「手、貸してごらん」 この季節、人肌の温もりと共に囁かれた言葉だった。 誰に言われたのかは曖昧で、 それでもこの言葉は、私の中に残っていた。 別に、特別な言葉でもない。 それなのに、 暖かくて、 幸せで、 おまじないみたいで。 手のひらにある冷たさなんて、全く気にならなかった。 なのに、 あの手が離れていった後、残ったのは冷たさだった。 …ふと、昔のことを思い出した。 そこに、見慣れたハンドクリームがあったから。 確かに、あの時塗ってもらったものだった。 別に、思い入れがあるわけでもない。 しかし、そのハンドクリームに目を惹かれてしまった。 つい、買ってしまった。 家に帰り、少し後悔した。 自分の単純さに驚きつつ、ハンドクリームに手を伸ばした。 買ってしまったんだからと言い聞かせ、少しだけクリームを掬う。 ほのかに香るシトラスが、心を落ち着かせた。 それでも、求めていたものとは違った。 香りも、感触も、着け心地も、決して悪くはない。 でも、違った。 温かさも、優しさも、温もりも何も無い。 ただ手を保護するだけのものだった。 もう一度、あの感覚が欲しい。 なんとも言えない温かさを感じたい。 もう、叶わない願いだとはわかっているけれど。 心に穴が空いたような、時間が止まったような。 そんな気がした。 目の前が揺らいで、それが嫌で。 ハンドクリームを放ったまま、眠りについた。 …あの頃から、どれだけ時間が過ぎたのか。 数えれば、それはそれは長いもので。 なのに、感じた時間は短くて。 それでも、たくさんの思い出が溢れている。 そして今、私はハンドクリームを手に取って。 「手、貸してごらん」 と、おまじないをかけた。

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ハンドクリーム

生きることがそんなに偉いか

わからない。 なんで、生きてることが偉いのか。 命の大切さをわかってるから? 毎日頑張ってるから? 辛くても、前を向こうとしているから? …それの、どこが偉いんだよ。 適当に息をしてるだけのくせに。 ただの義務だと思ってるだけのくせに。 へらへらして、何もかも諦めただけのくせに。 なにが、「生きてるだけで偉い」だよ。 ふざけんな。 こっちは毎日に絶望してるのに。 生きる意味なんて失ったのに。 何もかも諦めたのに。 …自分を捨てたのに。 なんで、「死にたいなんて言わないで」って言うんだよ。 生きるのだって、消えるのだって、お前に関係ないじゃんか。 それなのに… なんでいつもいつも、消える選択を奪うんだよ。 消えたいのに。 苦しいのに。 もう嫌なのに。 消えるなって言ってさ。 なんで、お前が他人の人生を決められるんだよ。 もう、いいじゃん。 十分生きた。 もう終わったんだよ。 生きる意味がないんだから。 こんなのが生きてたって、迷惑なだけだ。 もう、終わりにしよう。 …それでも。 どんなに消えたくても。 こんな苦しい思いはしたくないと願っても。 何もかも諦めても。 お前は、手を離してくれないんだ。 それに。 自分だって。 本当は、心の奥底で願ってたんだ。 まだ、生きてたいって。 周りから、どんなに貶されても。 罵倒されても。 苦しめられても。 たった一つの、小さな小さな希望が。 絶対に、離れて行ってはくれないから。 だったら、最期までちゃんと生きてやる。 何十年先で、惨めに倒れる時まで。 全て失っても、最期まで抗ってやる。 自分の運命に。 それで、世界に何億といる人間に言ってやるんだ。 「別に、諦めたんならそれで構わない。けどな」 「ぼーっとすんな。お前の人生は、まだ終わってない」

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生きることがそんなに偉いか

似つかないドッペルゲンガー

何もかも飲み込んでいく影は 心なんて知りもせず ただ私を、黒く沈めるの そんなのは、必要ない だからもう付き纏わないで お願い、離れて もう要らないの お願いだから… それなのにいつまでもいつまでも 執拗に付き纏ってくる 何度願っても どれだけ走っても いつだって私のそばにいる 朝昼は貴方に見つめられて 夜は貴方に沈みそうになる 皆なんで気にしていないの? 執拗に取り憑くこの存在に 私はもう限界なのに… 貴方は私の何になりたいの? それとももう私の一部なの? 24時間365日 私ずっと貴方に憑かれてるの 愛とか憎いとか知るわけないでしょう? もううんざりよ 私が望むのは 貴方から離れたい、それだけ だって貴方は 私から 本当を奪っていくのだから… ◇◆◇ 私は心がわからない それでも君を知りたいの 私の全て捧げてもいいから 大丈夫 ずっと一緒だよ 離れたりしない 怯えなくて良いの 私が君を守るから 最近の君は不思議だね 急に走ったり 何か呟いたり 心配だなぁ… でも大丈夫、私はそばにいるからね 私たちは二人で一人 他の人間とは訳が違うの 私の願いは 君と消えたい、なんて こんなの意味わかんないよね ねえ、何をそんなに怖がっているの? 一緒に遊ぼう きっと楽しいよ でもごめんね、ずっとは無理かも 明るいのは苦手なの 代わりに夜は沢山遊ぼう 朝が来るまで、2人きりで 私に沈んじゃっていいよ 君は凄い疲れてるでしょう 何も隠さなくて良いから ホントの気持ち、私に頂戴 ◇◆◇ きっと私たちは 分かり合えないわ 生きる世界線が違うんだもの 私は貴方から離れたい 貴方は私と消えたいなんて 正反対な考え方ね 訳分からなくて 笑っちゃうわ ねぇ、私やっぱり貴方が嫌い 奇妙でなんだか悪魔みたいだから それでも私に取り憑いてたのが 貴方で良かったのかもしれないわ だって貴方じゃなかったら 私は壊れていたと思うから ◇◆◇ 君と会うことは 叶わないんだね 生きてる世界が違うから 私は君と消えたいのに 君は私から離れたいなんて こんなに違う思いだったんだね ごめんね 今まで縛り付けていて それでも、やっぱり君を愛してる 君は天使で私は悪魔で 出会っては行けなかったのかも それでも君と出会えて良かった だって君のそばにいたから こんなに幸せになれたんだ …ねぇ、聞こえる? 私たち、全然似てないわね それでも私、思ったの 似てない似たもの同士かなって 性格も思考も感情も 確かに全く似てないけれど 姿形は瓜二つでしょ? やっぱり何かの運命かしら 私たち、出会えて良かった 何も壊れない二人の世界で ホントの幸せに気づけたから ありがとう。 私の愛する、ドッペルゲンガー。

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似つかないドッペルゲンガー

餅はよく伸びる。 伸びるから、長生きすると言われる。 確かに、縁起が良いのかもしれない。 でも、食事中の事故の原因でもある。 餅が喉に詰まった。 餅を食べていたら窒息してしまった。 子供が噛み切れず飲み込んでしまった。 餅は、縁起が良い。 でも、危険な食べ物だ。 餅ひとつで、命の危険に陥る場合がある。 私は思う。 こういう食べ物こそ、無事に食べ切れるとその1年が良いものになるのではないかと。 よく、神は平等と言う人がいる。 私はあまり神を信じてはいないが、この言葉は本当なのではないかと思う。 良いことが続くと、いつか不幸がやってくる。 悪いことがあると、その後には幸せになれる。 餅も、1つの試練のようなものでは無いだろうか。 人間が作ったものだとしても、神はそれに運命を託したのではないだろうか。 餅を食べ切れれば、1年の始まりは無事に過ごせる。 普段神を信じない私も、信じてみようと思う。 1年の始まりに食べる餅を、私にとっての神に見立てて。

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餅

どうか、いつかの未来で。

20XX/8/25 21:50 青く澄んだ空に、煙が溶けだしていく。 黒い霧が、辺りに立ちこめる。 火事だ。 誰かがそう叫び、辺りは騒然とした。 ひとつの家を見つめ立ち尽くす人々。 周りには消防隊が駆けつけ、赤く燃える炎を消していく。 数分後、家から炎は消えた。 焼け焦げて今にも崩れそうな家は、火災の深刻さを物語っている。 死傷者無しの報告に、人々は哀れみつつもその場を立ち去った。 その家に少女が取り残されているとは、思いもせずに。 少女は、机の傍で横になっていた。 何もかも諦めた、そんな姿で。 ああ、なんで─ なんで、私は消えないのだろう。 思い出も、財産も、全て消えていったのに。 なんで私だけ、残されなければいけないのだろう。 少女は、炎の中へ消えていった家を見つめながら思った。 私も、消えてしまいたい。 消えてしまえば、何もかも捨てられるんだろう。 思い出も、愛も、自分自身も。 私は、屑だ。 作ってきた思い出の価値が、わからない。 注いでくれた愛情の価値が、わからない。 自分の価値さえも、わからない。 まるで何もわからない、幼稚な子供だ。 いや、そんないいものでは無い。 分けてもらった恩を仇で返すような、ただの屑だ。 邪魔でしかない屑は、消し去ってしまえばいい。 誰かが作った勝手なルールだとしても、世間はそれを信じている。 だから、私みたいな屑は世界の障害。 要らないと言われ、罵詈雑言を浴びせられるくらい当然だ。 それでも稀に、助けようと手を差し伸べてくる人間もいる。 手を掴めば、楽になれるんだろうか。 普通に、生きていけるのだろうか。 いや、そんなことは高望みだ。 どうせまた、同じことの繰り返し。 多くの人を巻き込んで、結局また邪魔になるんだろう。 それならば。 少女は、先程とは別人のような表情で、ゆっくりと立ち上がった。 不安定な足取りで、それでも着実に歩みを進めていく。 少女は1枚の写真の前で、動きを止めた。 触るだけで灰になりそうなその写真に何が映っていたのかは、誰にもわからない。 ただ1人、少女を除いて。 少女は写真が崩れるのも厭わずに、震える腕で抱きしめていた。 写真に込められた思い出も愛情も、少女にはわからないだろう。 それでも、その写真の大切さは、ちゃんと伝わっていた。 止まっては進みを幾度か繰り返し、少女は窓際まで辿り着いた。 急に、少女はスカートの裾を破った。 そして傍にあったペンで何かを記し、無造作にポケットに入れる。 少女は深呼吸して、不器用に笑った。 少女の中で止まっていた時間が、動き出したような気がした。 後悔も、絶望も、不安も。 幸福も、欣幸も、希望も。 全てのことを受け止めて、少女は旅に出た。 それは終わることのない、永遠の旅だった。 少女は旅立つ直前、優しく微笑んでいた。 誰かが希望を繋いでくれる、そう信じて。 拝啓 この手紙を見ている貴方へ。 貴方が見る頃には、私はもう旅立っているのでしょうね。 なんだか切ない気もするけれど…後悔はしてないの。 今まで辛かったし、終わりにしたかったのも事実。 だけど、大切なものに気づけたから。 私は最初から最後まで屑だったけど。屑なりに、楽しめたと思う。 一つだけ、伝えたいことがある。 例え生まれ変わったとしても、 また同じ人生が良いと思えるように生きて。 思いたくないとしても…どうか今を、ちゃんと生きて。 これが、我儘で屑な私から送れる言葉。 じゃあまた、いつかの未来で。

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どうか、いつかの未来で。

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探す。 探す。 本当を。 貴方の人生の、エンドロールを。 あの時、何があったのか。 何処へ、行ってしまったのか。 私は、どうしたら良かったのか。 何を、信じれば良いのか。 私の人生に、どんなエンドロールが似合うのか。 ああ、もう会えないのかなぁ…。 もう一度合って、ちゃんと、伝えたかった…。 「      」...って。 ...いや、もう無理か。 ごめんね、貴方を想っていたのが...こんな私で。 ...ばいばい。 …………  …そこに、居るの? …良かった、また会えた。 心配、してたんだよ。 何があったのか、何処に居たのか。 ずっと、ずっと探してた。 …もう、大丈夫なんだね。 はは、もう、探すの…疲れちゃってたから。 あん、しん…した…。 …話したい事…たくさん、ある…んだ。 これから、は…いつでも、話せる…ね。 「     」…。   (…大好きだよ。)

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