羽化
19 件の小説地平線
来た道、波にさらわれ、途切れた 波の音、さざなみ、ただキレイで 世界にはボクとキミだけみたい 薄暗い、仄暗い、朝焼けの景色 キミの瞳に何が映る? キミの心、守りたかった いまでは粉々に割れたガラスみたいに キミは戻らない 波の音、さざなみ、ただキレイだった 海、空が反射する、煌めく飛沫 鳥の声、透き通る風、塩の匂い 世界にはボクしかいないみたい 重たい砂、冷たい水、ボクを笑う風の音 走っても、走っても、キミに追いつけない ただ、無邪気に笑うキミに追いつく事ができない キミの優しい笑い声が波に消える ねぇ、ボクはここにいるよ 待って 諦めたくない 朝焼けの空 薄暗い、仄暗い、静かな海 どこまでも行ける気がした どこまでも続いてしまう気がした 終わりのない地平線に キミが消えてしまわないように ただ、抱きしめさせて 愛しい人
心
ーーふと、考える。 自分が傷付いたなら、相手を傷付けても良いのだろうか。 傷が付いたら、何で返せばいい? わたしは、あなたを抱きしめたいのだと思った。 痛い、 傷付いた、 苦しい。 幸せな人は、きっと他人を傷付ける事は選ばないと思う。 不幸な人ほど、傷を浴びてきた人ほど、心が擦り切れて、痩せ細って、泣いているのだと思う。 それが言葉の刃であり、武器であり、凶器になっているだけだと思う。 どうして人は愛し合えない? どうして人は傷付けあう事を選ぶ? キミがわたしを言葉で刺すなら わたしは、キミを抱きしめると思う。 理由はわからない。 ただ、痛かったね、大丈夫だよって。 多分、人でいたいのだと思う。 体温、心臓の音、生きているっていう可能性を愛したいのだと思う。 ただ、それだけだと想う。 傷付いたキミにいつか届きますように、 祈りを込めて。
思慮
スイカの美味しいところだけ かじって捨てるような無責任さ その浅い感性が その醜い感性が その暴力的な感性が わたしは受け付けない
境界線
「キミの事、壊してしまおうか」 首を撫でられる。 ガラスの破片 もう戻らない 忘れた原型 割れた卵は孵らない 灰色の社会 濁っていく キレイだったセーラー服は ただのシンボル もう戻れない 歩くしかない 響くアンチノミー 廊下、光の乱反射 痛いくらいキミがまぶしい 砕けた未来 いっそ、いっそ この手で壊してしまおうか キミの眼球に触れる 冗談だよ 「キミの事、壊してしまおうか」 ーー笑えないね
(かっこわらい)
キミの幻、霞んで消える 理想化してたのはボクの方 誘惑、幻影、蠱惑的 笑っちゃう 水面下、四面楚歌、背水の陣 笑っちゃえ いつから、子供じゃなくなるの いつから、大人になれるの 戻りたい過去なんて、ない ただ死ぬまで生きるだけ 世界の憂鬱(笑)
夏の思い出
スイカみたいに弾けた 赤い花が咲く、咲く、乱れる 君の肢体はとてもキレイで 花火みたいに赤が反射する 鉛の重たい匂いと憂鬱が ボクの記憶に焼きついた。
アリス・アンチノミー
結局、わたしはどちらなのだろう 右と左 どちらか選べない 人生は選択の連続だ 白か黒か選べと言われる でも社会で必要なのは灰色だ。 心の彩度まで落としちゃおう。 みんなの心を量産中。 色の無い世界はどこか落ち着く。 まわりがぼんやりする 空飛ぶ金魚だって消えやしない。 数学と国語 正しいのはどちら? 選べやしない。 選ぶ意味もない。 意味のない言葉の羅列を作って遊んでる。 1.2.3のティータイム。 今日もお誕生日の数字を当てましょう、遊びましょう。 灰色のプレゼント。 みんなと変わらないお揃いのアバター。 お母さんとお父さん 必要なのはどちら? 選べはしない。 必要なのは道徳だ。 生命を天秤にかける事が狂ってる。 アンチノミー、時計の針は動かない。 わたしの体内は止まる。 アリスだってこんな世界は選ばないだろう 空飛ぶ金魚は遠くに消える。 無邪気な子供時代みたいに遠く、遠く。 灰色を選べば選ぶほど、金魚はかすむ。 わたしは、選べない事を選んでいる。 空飛ぶ金魚を追いかけて、階段から落ちた。 そうやって夢の中で目が覚める。 それが灰色の現実だって思い知る。 アンチノミー、教えてアリス。 この世界でどうやって息をする? 遠くで金魚が泳いでいる。 子供の笑い声がする。ねぇ、アリス。 御伽話みたいに解決しようよ。
空飛ぶ金魚
今日は悩み相談会。 大人に呼ばれて部屋に入る。 そこから、ぼんやりする 大人はわたしに悩みがないか聞くけれど、 いつの間にか大人の悩みを聞いている 話しているのは良い子のわたしで 本当のわたしは空飛ぶ金魚を眺めている。 ガラスの中みたいに 音も光も鈍くなる 硬い椅子 冷たい机 生ぬるい夏の風 金魚の数はどんどん増えていく。 数が何を表しているのかは、わからない。 ただ、大人を満足させればいいのだ そうすれば、解放される 苦痛だったのだろうか 何かはわからない。 重たいまぶたをあける まどろみの中、わたしがわたしを眺めていた 気付けは違う椅子の上で目が覚める 夢だったのか 現実だったのか 空飛ぶ金魚だけが わたしのまわりを泳ぐのだ 現実と空想を曖昧にしながら 金魚だけがすべて知ったまま宙を泳いでいる
雨とかき氷
雨の日は憂鬱だ。 かき氷みたいに音もなく溶けてしまえたらいい。 あまいシロップ 冷たい氷 ただのお砂糖と、ただの凍らせたお水 それだけなのに、わたしは誘惑される。 甘いかき氷 舌の上で溶けて消える甘さは 透明で無邪気だった頃の心みたい。 わたしは代用品じゃない このひとくちすら選んでいるのは、わたしだ カップの底には、シロップの水溜り 夕焼け空が反射して揺れている 気付けば空は晴れていた。
加工
今日もいい子にします 今日もいい子でいます フィルターかけちゃえばへっちゃら お目々ぱっちり光も入れて 今日も笑顔でいます 今日もご機嫌でいます 大人の言う通りにすれば 社会からはみ出さないんだって 笑顔のスタンプ貼り付けて 心の彩度は低めでいよう いい学校に入って いい会社に入って いい人生を送る それが正しい人生の教科書 あれ? ねぇ、心はどこにあるの? 道徳だけ見当たらない 学歴と引き換えに 何を失っている? 加工フィルターとっちゃえ 他人を傷付けるくらいなら プリント破いてサヨナラしちゃえ さよなら、ルッキズム 競争社会、人を傷付けてまで欲しいものなんてないよ 美化された人生なんて、クソ喰らえだ