Tommy
5 件の小説昼下がりの一幕
「なぁ、住吉、武田」 「うん」 「うぃ」 「なんだ今の返事」 「武田的トレンド」 「あーね、分かるわ、そういうの」 「やっぱり? 住吉」 「……本題に入っていいか?」 「どーぞ」 「好きなゲームがリメイク版として発売されたんだけどさ」 「なんてゲーム?」 「幼馴染とハッピーエンドに至ろうとしたがツンデレヒロインが僕を離したくないと抱きしめてきた」 「いきなりどうした? 頭でも打ったか?」 「やめてあげろ、武田……吉岡もきっと疲れてるんだ」 「いやゲームのタイトル」 「長くね」 「四十四文字は流石に長い」 「別にいーだろ……それで、そのゲームがリメイクしたのだ、が」 「DA.GA?」 「税込36,000円」 「諦めな」 「つーか、それ売れんくないか?」 「いや、初日で完売だった」 「よほど人気のゲームなんだな」 「なんか裏ありそう」 「ねーよ……普通に人気なんだよ」 「しかし、それを買いたいとなると、銭が要りますなぁ」 「始めるか、〇〇栽培」 「やめとけ。幼馴染もツンデレヒロインも顔を拝めなくなるぞ」 「うーん、どうするべきか」 「「うーん」」 少年たちの議論は続く。
おおやじ
台風が来るそうだ。 それも、今年一番の。 僕は台風の番号とか、最大風速とかよく知らないから、 「あー。取り敢えずベランダのもの部屋に入れるか」 ということしか思わなくて、それはまるで自動販売機のような対応で、たまに来る【お客】に、冷た〜い(あと2ヶ月したら暖か〜いになる)飲み物を贈るだけ。 テレビの中では専門家とか芸能人だとかがコメントを撒き散らしている。 彼等の言葉は色とりどりで、いかにも真摯なものもあれば、子供の屁理屈みたいなものさえある。 さっきも書いた通り、何せ僕には知識というものがないから(正確には、偏りすぎているから)、胡散臭いものでも、本当なのか? と少しだけ信じてしまう。 これは、とても怖いことだ。 この小さな知識では、その分野に関する「安全地帯」を守りきれないからだ。 自動販売機は、お金を貰ってはじめて、ペットボトルや缶を吐き出す。 もう少し、知らなくちゃなぁ……なんて思いながら、明日の休みを楽しみにしてたりする。
漆黒の風(を自称する中2)のサイクリング
俺は疾風のライダー、【北斗】! 今日も相棒「隆盛号」(自転車)と共に坂を駆け降りるぜ。 さぁ、眼下に迫るは大きな坂。 この町で1番急な坂と言われてるぜ。 しかし! この俺にかかればMAXスピードで駆け降りれるのぜ。 ヒャッハー! おおっ、風が気持ちEーー! 最高だぜ!! ・・・・・・おおっと、わすれるところだった。 このまま坂を降りたらt字路になるんだったな。 ギリギリで減速して曲がるのぜ。 ーーその頃、北斗の家ーー 私は北斗の母よ・・・・・・って何で私は自己紹介してるのかしら? まぁいいわ。 私は今、昼ごはんを作っている所。 って言っても、そうめんなんだけどね。 「北斗! 出来たわよー!」 ………返信なし。 もう、また部屋でゲームに夢中なのかしら? 困った子・・・・・・て、そういえば。 「あんた、自転車のブレーキ壊れてたわよ!」
潮騒と少女
ざぱーん、ざぱぱーん。 白い砂浜を潮が打つ音が聞こえる。 そこに立つ1人の少女。 太陽を照り返すような白いワンピースに身を包み、麦わら帽子の作る影法師を踏む少女。 「あぁ、どうすればいいんだろう」 そう呟く。 しかし、眼前の大洋は答えない。 ーーここは限界灘。 人々の憂いと想いの場である。 ♢♢♢♢♢♢♢♢ 少女は憂いていた。 「私は、ダメなのかもしれない」 まぶたを伏せる。 その瞳は星屑のような砂を映していた。 しかし、彼女はきっとーーそんな物質的なものではなくーー深い、深い物を見ているのだろう。 それは例えば、【心】だとか。 或いは、【記憶】と言っても良いかもしれない。 「多分、弱いからだ。 ……心も、身体も」 悲観的な言葉が出てくる。 【言葉は心と繋がっている】。 彼女は以前、そのことを本で知っていた。 それでも。 頭では『いけない』と思っていても、口をついてしまう。 これも弱者の性なのだろうかーー。 自嘲が悲しみを縫った。 「こんなに嫌なこと、ないよ」 そしてそれは、段々と『悔しさ』に変わってくる。 「くそう、私に力があれば」 悲痛な叫びは、あいも変わらず大海原へと消えてゆくのみ。 「はぁ……」 少女は、半ば諦めていた。 どれだけ嘆いても叫んでも。 自分の慟哭は、彼ーー海には聞こえない。 ♢♢♢♢♢♢♢♢ 大海を夏色に染める夕陽。 共に、一日を閉じる夜のカーテンが降りてくる。 少女は知っていた。 良い加減、自らの憂いを断ち切らねばならないことを。 よって、最後ーー最後に一言だけ、ぼやくことにした。 「あぁ、本当にどうすればいいんだろう。 職員室に、一人で入るには……」 ざぱーん。ざぱぱーん。 潮騒は今日も、響いている。
初號機に乗って
朝日が輝く、眩しい朝。 早起きした僕はコーヒーを飲みながら、大人な気分を満喫していた。 「ンッンー。実に素晴らしい気分だ。 口笛でも吹きたいいい気分だ。 ……さて、あとどのくらいこのElegance Timeが続くのかな?」 ちらりと時計を見る。 学校には7時30分に家を出れば間に合う。 そして早起きして頭が冴えた僕の計算では、あと一時間はゆっくりできるはずだ。 「どれどれ?」 長い針は、30をさしている。 おお、天才! 伐採! 大喝采! 「よし、次は短い針だが……フフ、僕の予測能力はかの天才棋士、○生……ぶ……ブッフォッッ!!」 な、何ィィ!! 余りの驚きでコーヒーを噴き出す。 でも拭いてる場合じゃない。 なぜならーー! 「な・ん・で、短針が【8】になってんだよぉぉ!!」 予定時間を余裕でオーバーしていたからだ!! ♢♢♢♢♢♢♢♢ 「うぉぉぉっ!」 全力で叫びながらペダルを踏む。 時速40キロ(体感)で走っているのは、僕の愛機【トムトム初號機】。 自転車のくくりでは、トップクラスのスピードを誇っている!……と思う。 「くそっ、まだ到着しないのかっ」 足が痛い。 風が僕を阻む。 もう諦めようか、遅刻は変わらないんだしな…… そう思った時。 「はっ!」 脳裏に浮かぶ顔。 (ママ上、パパ上、我が妹!) 僕の醜態を知れば、彼等は大いに悲しむだろう。 そして、晩飯はハンバーグからそうめんに変わるだろう。 ーーやめるわけにはいかん! 「(足を)止めるじゃねえぞ……!」 気合を入れ直した僕。 そのまま、一気に坂を駆け降りた。 ♢♢♢♢♢♢♢♢ 「はぁ、はぁ」 つ、着いた。 腕時計は「8:45」。 ーー充分、許容範囲内だ! 「やったッ! 運命に勝ったッ!」 拳を天空に掲げる。 みんな、僕は勝利したよ。 「トムトム初号機もよく頑張ってくれたな」 そう言って、自転車の頭(に当たるであろう部分)を撫でる。 「全部お前のお陰だ。これからもよろしくな、相棒」 あ、やべ。涙出たかも。 「それじゃあ、しばしさよならだ。 てんきゅうふぉーえばー」 僕は走り出す。 鐘の鳴る、学園へと。 ♢♢♢♢♢♢♢ 朝日が差し込む教室。 笑い合う生徒たち。 「…………そんなもん、いない」 そして、カレンダーの【日曜】の文字……。 「誰もいねぇぇ!!」 頭を抱えて叫ぶ。 そんな僕の気持ちを代弁するように、窓の外には通り雨が降っていた。 ーーあぁ、トムトム初号機も大丈夫じゃないな……。 ーー終わりーー