黑山羊文學

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黑山羊文學

Novelee内企画【黑山羊文學】

【黑山羊文學】S ─エ ス─

 黑 山 羊 文 學       S ─エ ス─  【S ─エ ス─】  Sisterの頭文字からきた隠語。  血の繋がりのない少女同士の情熱的な関係を表し、友情とも恋愛ともつかない少女同士の擬似姉妹的な親密な関係のこと。 ███ 目 次 ███  束髪             市丸あや  沈香のかほりを手繰り寄せて  にゃあ🐾  月夜に冴へる薔薇のやうに   四季人  おてがみ           文月ゆる  泪の海に溺れて        CürrØꕤ︎︎                         黑山羊文學   束髪      市丸あや  ーー前略。親愛なる浪江お姉様。  あゝ。  これでもう、私(わたくし)は何通、こうして貴女にお手紙を認めている事でしょうか。  私の文箱には、まだ二通しか、貴女からのお手紙はございません。  ええ、ええ、  決して、返事を催促などしておりません。  ただただ、私は待っております。  遠い異国の華やかな文化や、高尚な文学を学ばれておられる貴女のお邪魔など、荒唐無稽も甚だしいと、さして学も華もない私とて、理解しております。  ただ、ただ、  許されるならお姉様、私の他愛ないワガママを、どうか、どうか、聴いていただけませんでしょうか?  ねえ、お姉様。  私、日本髪を辞めましたのよ?  お姉様と同じ、お姉様が憧れ夢見て旅立ったお国と同じ名前の髪型に致しましたの。  だからお姉様。  私にもお姉様にも似合う、綺麗なサテンのおリボンを、選んでいただけませんか?  お揃いなんて、女々しくていやあよと仰っては嫌よ?  私…絢子の初めてのワガママなんですから。  聴いて頂けますわよね?  浪江お姉様。  私きっときっと、そのおリボンが似合うハイカラな淑女になりますから。  だから、ね、  お返事、お待ちしております。  絢子より浪江お姉様へ。  かしこ。   沈香のかほりを手繰り寄せて                にゃあ🐾  お手紙ありがたうござゐました。  頂きましたお手紙を、今、嬉ゝとして何度も何度も讀み返しております。  杜若色のインクがとても素敵で貴女らしく、封筒を開けたその時の文香も、貴女そのものでした。  あの文香は、いつも貴女がハンケチに忍ばせてゐるかほり袋の、沈香のかほりと同じでしたね。お手紙ですら、貴女は私を夢中にさせるなんて、夲當に憎い方。  手と手が觸れたあの時の事をふと思ひ出しては、また頬が熱くなるのが分かります。絹の樣な貴女の肌が觸れ、細く綺麗な指先が、私の掌に書いた言葉。あの時も、ふわりと貴女から沈香のかほりがして、私はドキリとしました。  掌に書かれた『幸』  微笑む貴女に、魅せられた私。  あの日、互いの手首に結んだ運命の樣な眞つ赤なりぼんが、今も尚解かれる事無く私の心に結ばれてゐます。  今すぐそのりぼんを手繰り寄せて、貴女に逢えたらいいのに。  切に、願ふばかりです。   月夜に冴へる薔薇のやうに                  四季人  親愛なる仔猫ちやんへ、  お手紙ありがたう。  あなたのまごゝろのこもつたのを感ぢて、大変嬉しかつたわ。  もみぢのやうなあなたの小さな手が認めた文字のひとつびとつが、恰も可愛ひ聲で聴こえてゐる哉やうだつたのよ。言葉のひとつびとつが、あなたの眞赤で可憐な口脣から発せられてゐるのだと想ふと、わたし喜びで胸が苦しくなつてしまふの。おかしいわね。  仔猫ちやん。わたしはあなたに逢ひたいわ。  あなたの艷髮を優しく撫で乍ら、満開の蘭の咲く硝子室で一日中を過ごして良いかしら。  若し本當に叶ふのであれば、如何なにか倖せでしようね。  理解るかしら。あなたの云ふ通り、世間には人があふれてゐるのに、わたしを此な気持ちにする人はあなた、唯独りよ。  ぢつは、此の手紙を書く迄に、わたし非常に迷つてゐたのよ。あなたに逢ひたい余に、此の家を出て行かふとしたのよ。あなたが寝静まつた頃に此方を発つ汽車に乗れば、あなたに逢へると思つたわ。  而、出来なかつたわ。斯な事をして、あなたのお顔を曇らせてしまふのは厭だと思つたら。  逢ひたいわ。此の切なさがあなたに伝はるかしら。  其れとも、この気持ちを理解つて貰う事だつて、若しかしたら、あなたに迷惑になつてしまふかも知れなゐわね。  あゝ、もう如何したら良いのでせう。  あなたが薔薇と慕つてくれたわたしは何処。  あなたとわたしは、焦がれても出逢ふ事の出来なひ。丸で、太陽と月のやうね。  あなたが誉めてくれたわたしは、あなたと云ふ太陽の光無くしては夜闇に浮かべなひ月よ。  太陽のやうな暖かさも、木や草花を育む事も叶なひ贋ゐ物なのよ。  此れが世の理(ことはり)だと云ふのなら、此の世はとても惨酷ね。  其れ而。私はあなたの居なひ夜で輝くわ。  月夜に冴へる薔薇のやうに。其れがわたしなのだから。  又、お手紙を書くわね。久しく健勝でね。                     あなたの薔薇より   おてがみ        文月ゆる カナヱさまへ  まさか、私などにこんなにも早くお返事を下さるとは思ってもゐませんでした。  とても嬉しくて、嬉しくて、飛び跳ねてしまいそうな気分です。  あゝ、本当にどうしましょう。  実は、お手紙を書きましたのも、お返事を頂きましたのも、カナヱさまが初めてなのです。  ですから、少し戸惑っております。  今、このお手紙を書きながら私が思い出してゐますのは、先日、カナヱさまが連れて行って下さゐました、薔薇のかをりのする喫茶店です。  そこで頂きましたクリームソーダとプリンアラモード……今まで食べた中で一番美味しかったです。夢のやうな御時間を下さり、本当に有り難うござゐました。  それから、ええと……御免なさい。やはり、お金もあたまもない私には、カナヱさまと過ごせました御時間が、どれほど貴重であるのかを、他の方々のやうに上手くお伝えすること、そして、ミチヨお姉さまのやうに、素晴らしい贈り物を御準備することが、未だで きなゐのです。  本当に御免なさい。  ですが、これだけは……この、私の気持ちだけは、嘘偽りはありません。  私はカナヱさまが好きです。  カナヱさまが私をどのように思ってゐらしても、この気持ちだけは絶対に、変わることはなゐでしょう。  ですから、どうか、お身体を大切にお過ごし下さいますよう、お願い申し上げます。  あと、それから、もしよろしければですが……またご一緒できる機会がございましたら、今度は私の家族をカナヱさまに御紹介した いなと思ってゐます。  お返事何時までもお待ちしております。   泪の海に溺れて           CürrØꕤ︎︎  お姉さまのご卒業の日が、一日、一日と、迫って参ります。  私は日々、嘆き哀しむ事しか出来ずに、泪の海に溺れてしまいそうです。  昨日、キネマを観に二人で出掛けた時は、幸せいっぱいだったというのに。  二人揃いの髪飾りを見ていると、とても愛おしく胸が張り裂けそうになります。  あぁ、何故互いの想いとは裏腹に、引き裂かれる運命なのでしょうか?  共に過ごした幸せな日々に、私もお姉さまも、閉じ込めてしまいたい。  そして、互いの指を絡め合い、そして、溶け合って。  なんて、素敵なのでしょう。  なんて、素晴らしい世界でしょう!  ねぇ、お姉さま。  私をここへ置いて、ご卒業なさらないで下さい。    お姉さま  お姉さま。  お返事お待ちしております。                黑山羊文學                  S ─エ ス─              █████████████████                  二〇二四年 三月                  著者 Novelee作家様                  編者 CürrØꕤ︎︎                  発行者 黑山羊文學

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【黑山羊文學】S ─エ ス─

【黑山羊文學】アイラブユーの訳し方

 黑山羊文學   アイラブユーの訳し方  バレンタインのせいにして。  あなたの走馬灯に現れたい                            仁  わたしの一番の幸せは、あなたを好きになったこと                          四季人  骨が溶けて魂が燃え尽きても、俺はキミのモノでいたい                        積山 精々  私を愛する人があなたひとりでありますように                           八尋  隣りに感じる温もりは、いつも貴方がいい                         にゃあ🐾  きみに鍵をかけてもいいかい?                       旅するわぽん  薬指に刻まれた、揃いの黒子                         市丸あや  私だけの一輪花                        花瀬 詩雨  あなたが冷たくなるその時も、ずっと側で支えていたい                           桜華  もう、吸殻だけになったよ                         西崎 静  貴方が私の生きる意味                     P・N・恋スル兎  赤い糸を手繰り寄せて、   その先に君がいて微笑んでいればそれでいい                         CürrØꕤ︎︎  あなたとは、恋だけじゃ足りないの                   りあ☆Ophelia  二人の思い出を、一緒に墓までもって行かせて。                         はむすた  あなたに、私の思いを胡蝶蘭で伝えます                         星原咲奈  あなたを想って泣かせてください                           湯呑  もう君は好きだとか嫌いだとかいう次元じゃないんだよ                         ぶぅぶぅ  君が思ってるより君が好きで、それ以上に欲張りなんだよ                         望月日生  夢に君が出てきたよ                       ぺトリコール  あなたの涙に居るのは私だけがいい                          おかき  𝐼 𝑙𝑜𝑣𝑒 𝑦𝑜𝑢❤︎

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【黑山羊文學】アイラブユーの訳し方

【黑山羊文學】 S ━ エ ス ━【企画概要】

   黑 山 羊 文 學       『S ━エ ス━』  「エス」とはSisterの頭文字からきた隠語で、血のつながりのない少女同士の情熱的な関係を表し、友情とも恋愛ともつかない少女同士の疑似姉妹的な親密な関係のことを言います。  主に明治末から昭和初期にかけて広まっていたとされています。  エスにはいくつか特徴があります。  *少女同士の一対一の関係であること。  *お互いは唯一無二の存在であり、ほかの子とは仲良くならないこと。  *助け合い、お互いの成長を促すこと。  *永続的であること。  *相手のすべてを受け入れること。  *清純さが求められること。  *憧れによって模倣し鏡像性を示し、同一化を願うこと。  上級生、下級生にそれぞれ一人ずつで、例えば上級生に二人もってはいけないなどの決まりもありました。こうした自然法は地域による違いもあったと考えられておりますが、違反すれば制裁にあいました。 █████ テーマ █████ 【薔薇のたより】  エスの関係を結んだ少女たちにとってなにより大切なのは、互いに手紙をやりとりすることでした。では、彼女たちはどんな手紙を送りあっていたのでしょうか?  雑誌『少女画報』に実在した読者投稿ページ、〝薔薇のたより〟  このコーナーには特定の相手を想定した手紙文が読者の少女たちから数多く寄せられましたが、中には少女から少女への恋文とも呼べるような情熱的な手紙も数多く存在したといいます。  今回は、貴方とエスの関係にある少女を想定した、手紙を書いて下さい。  先に記載しました関係性や特徴などを参考に、素敵なお手紙をお待ちしております。 █████ 作品形式 █████  *お手紙  エスの関係である、〝○○から△△へ〟  *送り手と受け取り手の人物像を想像出来るように、お名前も是非考えて下さい。(任意)  *文字の制限はございませんが、一頁一行といった過度な改行の演出は禁止とさせて頂きます。 █████ 参加条件 █████  *企画概要を全て読み、本企画の内容及び趣旨の把握、理解が出来た方  *Noveleeで、〝作品〟を投稿している  (日記・エッセーは含みません)  *小説の基本ルールに基づき執筆がされている作品   ※【黑山羊文學】執筆するにあたり知っておきたい事 参照  *企画に参加しているという自覚と責任を持って頂きますようお願いいたします █████ 参加方法 █████  *参加表明は、こちらのコメント欄へお願い致します。当方からのいいねで参加完了です  *作品の投稿が完了しましたら、その旨をコメント欄へお願い致します。当方からの作品へのコメントといいねで参加終了です  尚、当方からの作品へのコメントは不要という場合は、予めご連絡頂きますようお願い致します。  参加頂きました作品は、企画終了後【黑山羊文學】として、当アカウントから全参加作品を一作品にして投稿致します。 █████ 注意事項 █████  *明らかにテーマや趣旨に沿わない作品や、書き方に問題のある作品は、投稿確認後であってもお断りさせて頂きます。予めご了承ください  *作品の投稿は、一アカウント・一作品  *書き下ろしに限ります  *参加作品には必ずタイトルの先頭に【黑山羊文學】の明記をお願い致します  (例)【黑山羊文學】タイトル *参加表明したにも関わらず作品投稿を期間内にしない、あるいは放棄された場合、以後の【黑山羊文學】の企画はいかなる場合でも全てお断りさせていただきます。もし、辞退される場合は必ず期間内にコメントにてご連絡下さい。 *不明な点、質問等ございましたらコメント欄にてお願いします █████ 期間 ████  二〇二四年 二月 十日 ~ 二月 二十九日  期間内に全ての工程を終了していない場合は、参加放棄扱いになります。参加表明、投稿はお早めにお願いします。  素敵な作品を心よりお待ちしております。 █████ 参加者(順不同・敬称略) █████  ○*CürrØꕤ︎︎  ○*にゃあ🐾  ○*市丸あや  ○*四季人  〇*ぶぅぶぅ

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【黑山羊文學】 S ━ エ ス ━【企画概要】

【黑山羊文學】勘違いしてません?〝一人称〟〝二人称〟〝三人称〟の事。

 よく見掛けるキャラメイク。  名前  年齢  性別  見た目   ……等。    そんなキャラメイクに欠かせないと言わんばかりに書かれている  一人称  二人称  三人称  と、いう項目。俗に言う〝人称〟と、いうもの。  そもそもこの〝人称〟を、皆さんはどのように理解していますか?    今回は分かっているようで、分かっていない、〝人称〟について。  勘違いのまま使っているのは、恥ずかしいですよ?  人称には〝一人称〟・〝二人称〟・〝三人称〟があります。 【一人称】  自分自身か、もしくは自分自身を含む仲間を指す言葉のことです。〝第一人称〟〝自称〟などとも呼ばれます。  日本語……私       私たち       僕       僕ら・僕たち       我       我々         ……等  英語………I       We        ……等  一人称は、自分(または自分を含むグループ)を指します。 【二人称】  自分と接している相手を指す言葉。〝第二人称〟や〝対称〟とも呼ばれます。  日本語……あなた       あなたたち・あなた方       君       君たち       汝       汝ら        ……等  英語………You        ……等  二人称はこのように、自分から見た直接の相手を指し、自分が対面しているか、直接語り掛けている相手を指す言葉です。 【三人称】  自分、もしくは自分と接している相手以外の人、あるいはことがらに関することを示すものです。〝第三人称〟や〝他称〟とも言います。  日本語……彼       彼ら       彼女       彼女ら       これ・あれ・それ  英語………He       Her       It        ……等  三人称はこのように、その場の者には直接関係しない人やものなどを表します。  よく見掛ける勘違いは、二人称は単数で三人称は複数と認識してる人。  二人称は君、あなたで、三人称は君たち、あなたたち。と、言った感じ。これは結構恥ずかしいですよ。  (大事な事なので、二度言いました)  キャラメイクのみならず、人称は物語を書く上で作品の構成などに深く関わるものです。しっかり理解し、皆さんの作品がより良いものになるお力添えになればと思います。

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【黑山羊文學】勘違いしてません?〝一人称〟〝二人称〟〝三人称〟の事。

【黑山羊文學】デ ロ リ

   黑 山 羊 文 學          デ ロ リ  デロリとは。  画家の岸田劉生が、甲斐庄楠音の作品を「デロリとしている」と評したことがきっかけ。  劉生が初期肉筆浮世絵を評して生みだした造語である。劉生は、市井の風俗を描いた浮世絵に特有の、生々しいしつこさや、独特の濃い表現に「デロリ」という言葉をあてた。 █████ 目 次 █████  媚醜天落           四季人  淫らな蜜月(R━18)    市丸あや  散 散 ━ば ら ば ら━  にゃあ🐾  TORNADO        西崎 静  正体             積山 精々  その、郒。          CürrØꕤ︎︎                          黑山羊文學   媚醜天落                           四季人 [成人以外の閲覧は禁止とさせていただきます]  其れは、とても厭な笑顔であった。  まるで人の事など信用していない、面の皮を歪めただけの、見ているだけで鳥肌が立ちそうな、気味の悪い笑顔だ。  そんな醜い貌の女の全身を検めるように矯めつ眇めつ眺め乍ら、己(おれ)だったら……と雷蔵は思う。  そう、己だったら、縦んば此の世の全ての不幸と辛酸を嘗めた処で、左様な不届きな面などしないだろう、と。  ………………  雷蔵は道場の嫡男でありながら、家督を逃した放蕩者である。  全ては彼が眉目秀麗な偉丈夫であった事に起因している。  彼は子が為せぬ。  彼の手の早さは郷でも有名であり、屋敷に居た頃などは、凡そ二間程の間合いに飯炊きや女中が近づいただけで、例えその者に夫が在ろうと初花前であろうと、お構い無しに片端から籠絡し、犯して回っていた。  彼の不妊は元服の頃、その悪癖に酷く立腹した父親の辰之進が結紮させた為である。  雷蔵は泣いた。  根切られた事に対してでは無い。痛みの所為だ。  斯様に歪んだ認知であったから、恐ろしい事に、雷蔵は傷が癒えるなり、「是で気兼ね無く女を貫ける」と嘲けり吹かし、其の悍ましさに、辰之進は思わず身震いし、彼に家を継がせる事を諦めた。  だが、道場主として、腕の立つ雷蔵を勘当する事は出来ぬ。そうかと云って己の手に掛ける事も出来ず、辰之進は其の儘彼を家筋の暗部として扱い、留める事しかしなかった。……否、出来なかった、というのが正しいのだろう。  何しろ、彼が姦淫した女達は一人として嫌がってなどいなかったのだから。    雷蔵にとっては退屈な日々であった。  木刀を振るう事で溜まってゆく、彼の底無しの性欲を吐き出させ続ける為、辰之進は門下達に命じて次から次へと女を連れて来させた。  彼の伊達を目当てに、それも、子を孕む心配が無く、金子も貰えるとあれば、と、屋敷にやってくる女は後を絶たなかった。  しかし、その頃から雷蔵の静かな苦痛は始まった。  屋敷に来る者等の柔肌に指先で触れる度、その女陰(ほと)に己の帆柱を埋める度、そして意味を失くした情欲を吐き出す度に、云い様の無い虚しさに襲われるようになった。皆一様に美しい女達であったから、尚更始末が悪い。  抱けば抱くほどに、雷蔵の胸中は擦れて荒んでゆく。  其はまるで魂を捕えられ、軟禁されてしまった様な心境に近い。  雷蔵の躰は、まるで其の心情に呼応するかの如く、見る間に痩せていった。  或る日、雷蔵は賭けに出た。正しくは占いと云う方が合っているのかも知れぬ。  彼は褥にやって来た女から、辰之進が支払ったのであろう金を巻き上げ、其の儘追い払った。  痩せた顔で向ける侮蔑の視線は、女を酷く不快にさせたのだ。其れは実に容易であった。  そして、其の金を持って屋敷を抜け出し、夕暮れの河原へ夜鷹を買いに出掛けた。  辻褄が合わぬ事と思えるやも知れぬ。  しかし、結局の処、頭の霧を晴らせる物と云えば、女の肌しか知らぬ。或る意味己が課した不自由故の不幸だ。  とは云え、ここで下手な女を買えば、其れこそ元の木阿弥と云えよう。  故に、河原へと出向いたのである。  幸か不幸か、彼は此れへ至る迄、美しい女しか抱いた事が無かった。  其の事実に対して、彼自身、何某かの葛藤を感じていた事を、如何云う訳か、此の期に及んで自覚してしまったのである。  とも有れ、斯様にして方針は固まった。  雷蔵は醜女を抱いてやろうと思った。  ……………… 「わたくしなんかで、良いんで?」  其の女は、笑顔の様な表情でニタリとし乍ら、雷蔵から恐る恐る金子を受け取った。  襦袢は汚れ、皮膚は傷み、頭髪も乱れた、年増の女である。  眼を剥き出して舌舐めずりする様子などは、まるで蛇の其れだ。  それでも、過去には美しかったのであろう。そう見えぬのは、全て変わり果てたその貌の所為だ。  目も鼻も口元も、加齢の為に下り気味であったが、整ってはいる。  しかし、まるで作り物の様にぎこちなく不器用な其の表情だけは、如何(どう)にも神経を逆撫でて来るのだ。  なんと、気味の悪い女か━━  雷蔵は、後悔し乍らも、後には引けぬ状況に足を踏み入れんとする此の状況に、何故か興奮を覚えた。  此の女を抱く。  あの荒れた肌に触れれば、其処から病を貰うやも知れぬ。  あの唇に吸い付けば、其処から歳を奪われるやも知れぬ。  あの女陰に帆柱を埋めれば、忽ち腐り落ちるかも知れぬ。  ……荒唐無稽だが、女から感じる不幸の臭いは、其の様な物だった。  だが、雷蔵は己が如何様な貌をしているのか知らぬ。  かつての瑞々しい相貌は失われ、痩けた顔が葛藤の谷に歪んでいく様は、相対する女と然程も変わらぬ。  ━━その貌。  麗しかった頃を想起させつつも、雷蔵の皮の下は脂も落ち、剣を振るう骨と肉だけが残された狼の様であった。  其れを眼にした女は微かに畏怖し、奥歯を鳴らした。  このまま、このおのこにくいころされるやも━━  期待に似た得体の知れぬ感情に翻弄されている自分を、女は少しだけ愉しんでいた。  そうして転落し、堕落した美同士が目見えた縁が、二人の陰部に熱を含ませていったのだ。  女が襦袢の衿元を広げる。  異様に伸びた胸乳が顔を覗かせて、雷蔵は息を呑んだ。  なんと惨めな体たらくであろう━━  房の丸みは、腹の直ぐ上まで垂れ下がっている。  斯様なだらしの無い胸乳を、雷蔵は見た事が無い。  それ故に、  彼の帆柱は、今迄に無い程に、力強く熱り立った。  ………………  醜い交合である。  河原の小屋、御座に敷かれた蒲団の上。  愛おしみも慈しみも無く、只々快楽(けらく)を啜り合う様な、美しさの欠片も無い所業であった。  汗と、垢と、傷が膿んだ様な悪臭が混じる、饐えた臭いの中で、一心不乱に陰部をぶつけ合う。  ━━ああ、こんな物は不幸でしか無い。  敗北感に苛まれ乍らも、其の後悔が、雷蔵の心を何よりも強く満たしてゆく。  ━━ああ、このままこわれてゆきたい。  女の情念が、漸く出逢えた同種である、雷蔵の躰を奥まで咥え込んで、放さない。  苦痛であった。  頭に渦巻くのは、今迄に彼が貫いて来た女達の裸体と艶やかな嬌声である。  其れ等の蜜を含んだ果実を頬張るが如き甘美な心地に比べ、今己が組み敷いている醜女が齎すのは、腐った柿の様な手触りと、黴びた蜜柑の如き腐臭と、老いた猫じみた啼き声だ。  然し、悔しい事に、それでも尚、其の女には男の躰を悦ばせるだけの機能は残されていた。  ━━恐ろしい。  快楽か恐怖か、雷蔵の背骨が軋む。  股座から毒の様に染み渡っていく快感は、美しい女達からは得られぬ、穢(きたな)い味わいが在った。  熟れ過ぎた為に酒の風味を感ずる、腐り掛けの枇杷(びわ)の様な、苦い旨味である。  面白く無い。  斯様な醜女に、左様な魅力が有るなど、認めるのも腹立たしい。  だが、抑も其れを追い求め、此の僻地迄やって来たのであるから、己は何も間違っていない。  そうだ。︙︙だからこそ、不愉快極まり無い。  弾まぬ肉が、  ふやけた皮が、  生臭い吐息が、  全て嫌厭の具現であるのに、今は其れ等を、死ぬ程求めている。  雷蔵は初めて色に溺れる男子(おのこ)の様に、醜女の躰を貪った。  最早、人としての尊厳は無い。蛞蝓(なめくじ)同士が絡み合うが如き醜態である。  ……否、其れならば生存の為と云う価値が在ろう。彼等には其れすら無い。  故に、此れこそ、矢張り、人のみが為せる所業なのであろう。  矮小な欲求を、其れも金の受け渡しと云う嘘を経乍ら、己を壊す、或いは労る為に利用し合っているのだ。  謂わば人に与えられ、人に課された罰、其の物で或ると云い換える事も出来よう。    物怪の様になった二人の情事は丑三時まで続いた。  ………………  東の空が白みだし、抜けた戸板の節目から差し込む朝日が、雷蔵の瞼を照らした。  唸りながらむくりと躰を起こすと、木刀に拠る物では無い疵や痣が、全身のあちこちで黒紫に変わっていた。  彼の傍らに横たわった醜女は、筋張った獣の骸の様に、白く小さく纏って、肋の浮いた胸を微かに上下させていた。  明るい場所で見ている所為か、それとも欲を吐き尽くして一時的に頭が澄んでいる所為か、今は昨夜程苛立ちも覚えなければ、欲情もしない。  中身の無い財布の様に見窄らしく萎んだ胸乳の先端は橅(ぶな)の実の色で、まるで雷蔵の好みでは無かったが、其れを墨々(まざまざ)と見詰めていると、夜闇の中で夢中になって吸い付いていた記憶が、酷く悪い夢の様に、彼の心を抉った。  矢張り、と雷蔵は眉間と口元に皺を寄せ、苦虫を噛んだ貌になった。  判っていたのだ。斯様な心持ちに成る事は。  しかし、其の胸中は未だ穏やかであった。  今は、又あの先端に吸い付きたいと云う気持ちと、毟り取った後で、あの弛んだ胸乳に刃を叩き付けてやりたいという気持ちの両方が、静かに鬩ぎ合っていた。  そうだ。  満たされた訳では無い。欲を吐いた事で、憑き物が幾許か落ちただけである。  とどの詰まりは何も変わらぬ。  一度醜女を抱いた程度で、大きく変わる事など有る筈も無いのだ。  深い罪悪感と喪失感を抱いて、彼は着物と刀を取ると、裸で寝ている女を其の儘にして、小屋を出た。  河原は朝陽に照らされて、不穏で陰鬱な匂いが全て洗い流されたかの様に映る。  光る水面を眺めて、其の美しさに溜息を一つ漏らし、雷蔵は涙を溢した。  漸く、己に掛けられた呪いの正体を知ったのである。                              了   淫らな蜜月(R━18)                          市丸あや  *本作は過激な性描写(セックスシーン)や軽いグロテスクな描写を含みますので、閲覧は自己責任でお願いします。 市丸あや 拝  ーー時節は、まだ少し暑さの残る初秋。  エアコンもない鄙びたラブホテルの一室で逢瀬を交わす男女。   男の名前は藤次(とうじ)、女はその妻で絢音(あやね)と言う。   室内は、サイドボードに備え付けられたラジオから流れる昭和歌謡と、不規則に軋むベッドの音と、湿り気を帯びた2人の喘ぎ声で支配され、情事の独特な淫靡さに包まれていた。   汗で濡れた肌はぬらぬらと薄暗い部屋で不気味な光を放ち、互いの身体の密着と滑りをよくする。   溢れ出た体液でぐちゃぐちゃになった結合部が動くたびに、卑猥 な音が淫靡な空間を更に盛り上げて、2人の興奮をより高めていく。 「……たまらん。この身体もお前の心も、全部俺のもんや。誰にも渡さん。俺のや。……あああかん!もう、出るっ!」 「んっ!!!」  ーー刹那。   挿入されていた藤次の性器から熱を持った体液が……彼の一部が注がれ、絢音は収縮していく膣内の心地よさに身悶え、藤次にしがみつき、同じく快楽の頂に上り詰める。   荒々しく息を吐きながら呼吸を整えて、藤次が膣内から性器を抜こうとした時だった。   薄紅色に熟した絢音の唇が、ダメと動き、その身体を強く抱きしめられたのは。 「なんね……煙草、吸えんやん」   早よ離しと、首に回された腕を振り払おうとしたら、絢音は耳元で囁く。 「藤次がワタシに全部くれるって約束してくれたら、離してあげる」 「はあ?」   訳分からんと首を捻る藤次に、絢音は妖しく笑みを浮かべる。 「さっき言ったでしょ?お前は俺のモンやて。なら、藤次もそれなりのものを、ワタシに頂戴?貰いっぱなしなんて、狡いわ」 「……何を今更世迷言。いつも言うてるやろ?俺はお前のモンやて。信用できんのかい」 「ええ出来ないわ。男の人の口説き文句程薄っぺらい信用ならないもの、この世にないもの。もっと誠意を見せて頂戴」 「アホらし。いつまで経ってもヘッタクソなお子ちゃまのクセに、一丁前に男女の駆け引きかい」 「そのヘッタクソなお子ちゃまの身体に夢中になってるのはどこの誰よ。2回もしておいて……」 「……っ!!」  痛いところを突かれ赤面する藤次をクスクスと笑い飛ばしながら、絢音はまだ少し硬い藤次の性器を内に秘めたまま、騎乗位の姿勢になり、汗で濡れた胸板にうっとりと頬ずりする。 「汗臭いやろ。早よ離し。煙草の前にシャワー浴びてくる」 「嫌よ。ワタシと藤次の汗が混ざった、どんな香水も催淫剤も霞む官能的な香り。ゾクゾクする」   言って、絢音は顔を上げて、怪訝な表情で見つめる藤次の瞳をうっとりと眺めながら、目尻に指を滑らせる。 「話の続きをしましょ?先ずはこの綺麗な濃紺の双眸……ワタシに頂戴?抉り取って、絢爛豪華な玉手箱に入れて、宝物にするの」 「アホなことを……いい加減……ッ!!」  言い終わるや否や、唇を奪われ、ねっとりとした舌遣いで絡められ突かれ吸われ、狼狽する藤次の口の端から漏れた唾液すら惜しむかのように舐め取り、絢音は囁く。 「次はそうね……散々嘘と甘言を囁き、ワタシを含め沢山の女を弄び惑わせた……ペラペラよく回るこの舌、抜いちゃおうかしら。地獄の閻魔様みたいで、うっとりする。勿論、抜いた舌はワタシのモノ」    キュッと指先で舌を引っ張り、段々と首を擡げてきた……女の業に塗れた絢音の本性に、藤次は二十歳の頃に不倫をしていた人妻の言葉を思い出す。  ーーどんな綺麗な深窓のご令嬢も、一皮剥けば強欲で淫らな娼婦よ。精々骨の髄まで、持っていかれないようにね。  その時は鼻で嗤ったが、目の前の……自分の一物を咥え込んだまま、足りない足りないと求めてくるこの女は、まさに島原羅生門河岸の鉄炮遊女のようで、熱っていた藤次の背筋に冷たいものが走る。  しかし、身体は……性器は心とは裏腹に、沸々と刺激を求めるかのように膨張してきて、娼婦はクスリと嗤う。 「なあに?欲張りさん。まだ足りないの?……奇遇ね。ワタシもよ。でも、もっとくれないと、してあげない」  そうしてツゥッと、胸板に指を滑らせ、絢音は淡々と語る。 「首を落としたり、心臓を貰うのは最後。死んで楽になろうなんて赦さない。それくらいあなたは、ワタシの心と身体を弄んだ、罪深く憎いくらい愛してる男(ひと)。だから、何もかもワタシに捧げて?約束してくれるなら、ワタシあなたのどんな求めにも応じてあげる」 「……たる」 「ん?」  首を捻る絢音を抱き寄せ、髪を撫で汗の匂いを嗅ぎながら、藤次は囁く。 「上等や。何もかんも、この命(タマ)すらくれたる。惚れ抜いた女の欲望満たしてこそ男や。せやから安心して、俺のモンになれや。この強欲淫乱女」   言って、緩められた腕を振り解き、膨張した性器を引き抜きベッドの上で仁王立ちになると、白濁した体液のついたそれをしなを作って座る絢音の口元に押し付ける。 「よう喋って、喉渇いたやろ。飲ませたるから、早よ咥え」 「勿論よ。沢山頂戴?一滴残らず、飲み下してあげる」   そうして胸の谷間に性器を挟み込むと、唾液で滑りを良くし扱きながら、絢音は藤次のそれを口に含む。   最初の頃は恥ずかしいと顔を赤らめ、チロチロと拙い舌遣いがもどかしくも可愛いと思っていた少女の面影はなく、ただひたすらに、本能のままに性器にむしゃぶりつき精を求める女に、藤次は満足そうに嗤う。   ようやく、手塩にかけて大事に大事に育ててきた理想の女が出来上がったのだ。   ーー育てて食べる。  正に古代より続く男の浪漫。   少し過激な物言いが玉に瑕だが、求めれば、くれてやると囁けば、もしかしたら尻の穴さえ挿入を許してくれるやもしれないと期待に胸を膨らませながら、絢音の髪を鷲掴み、出し入れを激しくすると、さっき出したばかりなのに吐精感がむくむくと湧いてきて、たまらず藤次は絢音の口内に射精すると、彼女は怯むことなく全てを飲み下し、甘美な余韻に震える。 「好きよ……藤次……」 「俺もや。絢音……」 * 「あーー。ぬるま湯が熱った身体に丁度ええわ。ほら、もっとこっち、来や」 「うん。ふふっ…」    猫足のバスタブに泡の風呂を作り、鏡張りの浴室で入浴を楽しむ2人。    ストロベリーのような甘い香りの漂う泡を身体に纏いながら、絢音はしなを作り、藤次の首に手を回し顔を覗き込む。 「……ねえ、一体今まで、何人の女と、こんな所でこうして過ごし てきたの?ワタシは、全部あなたが初めてなのに……やっぱりあなた、狡い」 「なんや。まあた一丁前に嫉妬かい。お子ちゃま。そやし、忘れたわ。そんな昔の話」 「嘘。つい最近まで、クラブのホステスに貢いでたじゃない。ねぇ、何回一緒にお風呂入ったの?」 「何が『最近』や。もう何年も前の話やん。それに、真理子とは惚れた腫れたの仲にはなっとらんわ」 「でも、何か見返りが欲しかったから、貢いでたんでしょ?そうじゃないなら、ワタシの旦那様はとんだ篤志家ね」 「………」 「藤次?」   自分を見上げる夫の眼差しが、いつも以上に真剣で、熱がこもっていて、絢音はドキリとする。 「……いい加減、信じろや。俺はお前と出会って、結婚して家族持って、父親になった。変わったんや。昔の女の顔なんてもう思い出せんくらい、頭ん中はお前しかおらん。アホやからな…」 「あ……や、まっ……」   湯船が揺れ、泡が弾け、藤次は絢音を後ろ向きにさせると、顎を持ち上げ、頬の上気した顔を鏡に向けさせると、硬くなった一物を背後から膣内に沈める。 「あ、いや!見えてる……」 「何が。どんな可愛らしい顔を鏡に作っても、ここの『正直な顔』見たら、並の男なら裸足で逃げるな。ほら、よく見てみ?さっき美味そうにしゃぶっとったように、吸い付いて離さへん。……ホンマにお前、本性は強欲で淫乱な女やな」 「なによ……こんな女にしたのは誰よ。もう、姿形なんてどうでも いい。早く激しいの頂戴。疼くの……」 「ええで。なんぼでも欲しがり。応えたる……俺の全部、お前にやる。せやから、逃げるなよ?俺の可愛い、絢音……」 「藤次……藤次イイッ!!」   胸を揺らし、艶かしく腰を振りながら悶える妻を強く抱きしめ、藤次は再び、彼女の中に自らを放った。 *  ーーシトシトと、僅かに赤く染まった木々を濡らす雨音と、抑揚のない声で淡々とニュースを告げる深夜のラジオ放送を聴きながら、藤次はタバコを蒸していた。   情事でぐっしょりと濡れたシーツの上で、軽やかな寝息を立てて眠るガウン姿の絢音の頬についた後毛を後ろに流してやりながら、藤次は細く息を吐いて煙を部屋に充満させる。 「可愛い……寝顔だけ見たら、ホンマに邪気のない子供やのに……いや、無邪気ほど恐ろしいもんは、ないか……」 「う、ううん……」   鼻にかかった甘ったるい声を上げて寝返りを打つ絢音の肩にそっと触れて、形の良い耳に囁きかける。 「愛してるえ。俺を骨抜きにして堕落させた、可愛可愛い、女神はん……」 「……とう、じ……」   夢うつつな声で紡がれた名前を胸に秘めて、ラブホの自販機で購入した安酒を呷りながら、藤次は妻との甘く濃密な時間を肴にして、更ける夜を楽しみ、ビール缶を3つ、煙草を1箱空けた頃に、眠る絢音を抱きしめて、短い微睡に身を委ねた……  そうして夜が開ければ、彼女は母親、自分は父親となり、姉と待つ息子と娘の元へ帰って行く。   妻を抱いた手で息子を抱き、夫の一物を扱いた胸で娘を抱く。   それはまるで、家族と言う名のお遊戯会。   仮面の下の素顔を見せるのは、後腐れのない男と女の社交場……ラブホテルのベッドでだけ。   抱いて抱かれて、口説き口説かれ溺れて果てて……   灰になるまで燃えて焼かれて……   アイシテルと囁き囁かれ……  骨の髄まで互いに侵食されて染められて、やがて連理の大樹のように、絡み絡まれた絆は歪だが確実に硬く結ばれて行く…… 「……ほんなら、行ってくる。」 「うん。行ってらっしゃい!藤次さん!」  ーー朝。   手は繋いでいるが、寝ぼけ眼の息子と、腕の中で眠る娘と愛する妻を見つめて、藤次は靴べらを使って革靴を履く。 「今日は早よ帰れそうやから、お土産買うて帰るわ。何がエエ?ケーキか、シュークリームか?それとも大福がええか?」  意表ついて寿司か?と笑う自分に、絢音は口角を妖しく上げて、そっと藤次の頬にキスをして耳元で囁く。 「そんな『お子ちゃま』なもの、いらないわ。精の付くもの沢山作って待ってるから、真っ直ぐ帰ってきて頂戴?藤次……」   その言葉に、藤次はハッと嗤い、応えるように彼女の頬にキスをして囁き返す。 「唐揚げ……ぎょうさん頼むえ?この強欲淫乱女」 「あら。欲しがりなワタシ、好きなんでしょ?」   ふふっと嗤う愛する女を軽く抱きしめて、男は彼女の求める愛詞(あいことば)を囁く。  ーーー好きや。  と……   散 散 ━ば ら ば ら━                         にゃあ🐾 ⚠︎暴 力  グ ロ テ ス ク  性 的 描 写  差 別 用 語   ガ、含マレタ作品トナリマス。 「あ。いい事思いついちゃった」  寒い寒い、真冬の夜。  布に包まれた赤子が、男に抱かれやって参りました。 「宜しくお願い致します」  男は腕の中の温もりを惜しむかの様に、強く赤子を抱き締め、掠れた声を振り絞り目の前にいる身形のいい男に、そっと腕の中の赤子を手渡しました。  女、咲彩(さあや)の一生は、ここから始まったのです。 「ほら、ご覧あれ! 世にも珍しい猩猩の落胤だよ! 見れば無病長寿で、疱瘡や蕁麻疹予防にもなる! さぁ、見て行った、見て行った!!」  忙しなく行き交う人々の中には、そんな口上にふと、足を止める人もちらほらおりました。  ボロ小屋の入口には看板が立てられており、そこには、〝猩猩の落胤 さあや 奇跡の女〟と書かれ、文字の横には妖艶な女の絵が描かれております。その絵は人間の様で人間ではない、なんとも妖しい姿で、見る者の心を奪うのでした。  この通りには、こういう見世物小屋と呼ばれるものが沢山並んでおりました。奇異な者たちや芸達者な者たちを舞台に立たせ、客から金銭を受け取るのです。 「見せて欲しい」  と、入口に立つ案内人の男に言うとその男はニヤリと笑いまして、扉を開けます。すると、入ってすぐに小高くなった舞台があり、その真ん中にあります大きな木の牢のような囲いの中に女が一人。紅色の襦袢は肩まで肌蹴、まるで獣の様に首輪をぶら下げてちりんと喉元の鈴を鳴らし、首輪から垂れる手綱は、牢に縛りつけてありました。 「旦那、あれが猩猩ですぜ」  牢に繋がれた女は、雪の如く眞白な肌に、髪、眉、睫毛に至るまで痰赤色をしております。  猩猩と呼ばれるこの女は、白子(しろこ)と言われる畸形でした。畸形と言いましても、白子でしたらそんな珍しくもないのですが、客引きの為に、ある事無い事を捲し立て、恰も真実の様に言うものですから、客も疑念を抱く事はありません。 「女が猩猩との子を孕んで産まれてきたのが、あの女。今日は特別だ。客は旦那一人だから……」  と、男はお客に何か耳打ちをし、いやらしくにやつくと、お客を見て深く頷きました。お客は「ならば……」と、懐から銭袋を取り出しては、男に銭を握らせます。 「ありがとうございます。では、儂は外で見張りをしてますんで。ごゆっくり」  男は牢の鍵を開け、部屋から出て行きました。其れを見た猩猩は、牢に入ってくるお客を、まるで欲情した獣の様に瞳を濡らして四つん這いになると、はらりと襦袢が臀から落ちて半身が露になります。  眞白な肌が紅潮する様は、妙な色気がありまして、男は夢中で猩猩を貪るのです。  ━━それは男の精根枯れるまで続き、果てに、男根は食い千切られてしまうのです。  * * * 「猩猩は類稀な名器で、交うと男根を喰い千切られる」  そんな噂が立ち始めた頃、猩猩がいる見世物小屋の主宰が、二人の兄妹を連れて来ました。 「また、拾ってきたん?」  猩猩と呼ばれる女、沙彩は嫌悪を露わにし、見世物小屋の主宰で咲彩の義父の畔蒜(あびる)の股の間に顔を埋め、じゅるじゅると畔蒜の男根にしゃぶりついています。 「嫉妬とは見苦しいな」 「お義父様は若い青臭い女が好きやから……。それに、拾ってきた女、達磨なんやろ? 好き放題できるやない」  と、意味有り気に微笑むと、咲彩は畔蒜から吐き出された青臭いどろどろとした液体を、空になるまで吸い上げました。達した畔蒜はぶるっと身震いし、ふにゃりと咲彩の口から出てきた男根をまた咲彩の口に無理矢理押し込むと、咲彩の頭を鷲掴みにして腰を激しく振り始めます。 「どうにも。あの兄妹、出来ているらしくてな。だからなんにもない兄も、厄介払いで捨てられたのさ」  息苦しさに顔を歪ませる咲彩を見て、安蒜の男根は再びむくりと硬くなると、「我慢ならん」とばかりに咲彩の口から男根を引き抜き、乱暴に咲彩を床に抑え付けては股を割り男根を捩じ込むのでした。  ━━━━━━。  畔蒜が白子に魅せられたのは、友人の医者が、「珍しいものを手に入れた」と言って見せられた、白子のホルマリン漬けを目にした時の事。  友人が言うには、その白子は若く貧しい女が子おろしした時の水子だと言い、 「どうだ、猩猩のようだろ?」  と、畔蒜に渡された小さな瓶の中には、未完成な人の様な眞白な塊が浮いておりまして、それが畔蒜にはとても美しく見えたのです。そして、自分も白子のホルマリン漬けが欲しいと、思いを馳せる事となったのです。  ━━美しく育った白子の女を、美しい姿のまま……。    白子の子が産まれたとの風の噂で、畔蒜が咲彩の家へやって来たのは咲彩が産まれてすぐの事です。 「銭なら希望額用意する」 「銭なんかいらん! この子を手放す気はないから、今すぐお引き取り下さい……」 「ほう、銭はいらんか。……なら仕方ないな」  そう言うと、畔蒜は男の元へ歩み寄り何やら耳打ちすると、男の顔色が一気に変わっていくのが手に取るように分かりました。 「産まれてきた子、猩猩があんたの嫁さんを孕ませたらしいですよ?」 「は? 何言っとんねん。猩猩って、架空の生きもんやろ。誰が信じるか!!」  突然、非現実的な事を真顔で話すものですから、男は畔蒜を鼻で笑います。そんな嘲笑う男を見て、畔蒜はにやりと右口角を吊り上げ、更に話しを続けました。 「嫁さん、最近よく山に行ってたんでしょう?」 「お、おう。それは少しでも生活の足しにって、薪を取りに」 「山に出向いた奥さんは、猩猩と出くわしてしまったんです。そして━━」 「獣の様な陰茎棘の付いた男根に貫かれたんですよ」  その日を境に、女ははぼ毎日山に行っては猩猩に犯され、その対価のように手渡された薪を持ち、男の元へと帰った。  ……と、畔蒜は続けると、男の息は荒くなり、見ると着物の下腹部からそそり勃つものが覗いていていました。 「あぁ、成程。貴方はそういう……」  はぁはぁと、気持ち悪い笑みを漏らす男の顔に唾を吐き、畔蒜は、 「この、変態が」  と、罵るのです。それでも男は、 「もっと、妻と猩猩の……詳しく……」  と、自らの男根を擦り始めるので、畔蒜は男の頭上に札束を掲げ、高笑いをしながら一気にばら巻いたのでした。  * * *  最近、畔蒜が自分に対する態度が冷たいと、咲彩は薄々感じておりました。そう、あの兄妹が見世物小屋に来た時くらいからです。  兄の杏一郎(きょういちろう)と妹の杏子(あんず)は、歳が五つ程離れた兄妹でした。妹の杏子は生まれた時から達磨で、産み堕とされた瞬間から母親は杏子の育児を放棄したのです。父親は飲んだくれで、女に見境ない人でしたから家に帰る事がほとんどなく、杏子の面倒は杏一郎が見なければなりませんでした。杏子の身の回りの事は全て杏一郎がこなし、二人きりの世界で暮らしておりましたから、二人が男と女の関係になるのは必然だったのかもしれません。  見世物小屋に来てからも、杏一郎は甲斐甲斐しく杏子の世話をし、その他の人たちの食事を作ったり掃除をしたりと好青年であり、主宰の畔蒜にも気に入られておりましたから、そんな事もありまして、咲彩は杏一郎と杏子を目の敵にしておりました。  それまでずっと、畔蒜の愛情は全て咲彩に注がれていたのに、この兄妹のせいで全てが一変してしまったのです。 「なぁ、お義父様」  寝床で畔蒜に寄り添う咲彩は、畔蒜の胸元をつつつ……と指でなぞりながら、擦り寄ります。 「聞いた話しなんやけど……杏子と結婚するんやって? 最近、咲彩に冷たいなぁ思っとったら。杏子に夜這いしとったん知っとるんやで?」 「で? 結婚の話しはどこで聞いた?」 「さぁ? どこやろ?」  咲彩の指が、畔蒜の胸の硬く尖るものを捉えるときゅっと抓り上げると、体はぴくりと反応して、畔蒜は「うっっ……」と、小さく息を漏らしました。 「杏子はこんな事してくれんやろ? 別に杏子と〝そういう事〟するなとは言わんよ? でも……」 「僕は、杏子がっ……杏子が、好きなんだ」 「はぁ?」 「でも……」 「咲彩の亡骸をホルマリン漬けにして、一生僕の傍に置いておきたいんだよ」  咲彩と言う塊だけが欲しくて、ただ、美しい塊が、欲しいだけ。  * * * 「舞台の木の牢に首輪をして手綱で繋がれば、猩猩のみたいで誰もが見たくなるだろ?」  両手を縛る麻縄が、動く度に皮膚に食い込み鮮血がじわりと滲み出てきます。 「ぅ……うぅ……っ」 「咲彩はね、そうお義父様に言われて、毎日客に晒されて、何人もの男に弄ばれているの」 「もぅ、やめて下さい……お願いします……っっ」  木の牢に両手を、両足は脹脛と腿を合わせ縛られて呻き声をあげていたのは、杏一郎でした。 「お前みたいな躾のなってない野良犬みたいな男ばっかやわ。阿保みたいに出しても出しても腰振りやがって。その上、女を悦ばせる技なんぞ、なぁんもあらへん。なんで、杏子がお義父様に心変わりしたか、分かったわ」  杏一郎に跨る咲彩は、自分の中に咥え込んだ杏一郎の男根を締め上げると、杏一郎の男根は悦びの悲鳴をあげ、中で跳ね上がります。 「だめです、中……ぁっっ」 「大好きな杏子ちゃんの中よりずぅっと、気持ちええやろ?」  咲彩が妖艶に腰をくねらせる度に、杏一郎の手足を縛る麻縄は皮膚破いて、挙句は剥き出しになった肉を擦りました。だらだらと生ぬるい血液が、手足を伝い畳へとぽたぽた零れ落ち、杏一郎は痛みと快楽で気が狂い奇声を上げます。 「何、痛みで此処、硬くしてるねん。この、変態が」 「ぃ……あぁっ、もう止めて……死んでしまうっ」 「このくらいで死んでもらったら困るで? あぁ、中の白い体液も、外で溢れてる赤い体液も生臭いわぁ」  眼下で悶える杏一郎を冷ややかな瞳で見下ろしながら、咲彩は絶頂が欲しくなり激しく腰を振ると、杏一郎は言葉にならない呻き声を上げ、絶頂と共に気絶してしまいました。そして咲彩は、暫く気絶した杏一郎に跨ったまま、陰部から溢れ出す杏一郎の精液を垂れ流しのまま何か思い耽っていたのですが、「あっ!」と何か思い付いたのか、倒れたままの杏一郎を置いたまま舞台から出て行ってしまうのです。 「あ。いい事思いつちゃった」  ギシギシ   ガリガリ  ゴリゴリ 「ほぉら、やっぱりお前は変態やん。こんな事されて、此処大きく、硬くして……」  バキバキ   メリメリ    ━━散 散。  猿轡をされた杏一郎の呻き声は、一晩中。  一晩中、悪夢に魘されて。  寧ろ悪夢であって欲しい……と。  * * * 「ほら、ご覧あれ! 世にも珍しい生きた達磨大師だよ! 見れば無病長寿で、疱瘡や蕁麻疹予防にもなる! さぁ、見て行った、見て行った!!」  ボロ小屋の入口には看板が立てられ、そこには、〝伝説の達磨大師 杏一郎 幻の男〟と書かれ、文字の横には達磨大師の絵が描かれております。  舞台の上にはごろりと一人、達磨の男。 「なぁ、よかったやろ? これでずぅっと、大好きな杏子ちゃんと一緒やで?」   TORNADO                          西崎 静  このお話は、性的な表現を含みます。  オトコの生き様は、イカサマ。オンナの死に様は、有り様。  ミネチカ・マリコは、そのどちらでもないカマだった。 「アンタが、新宿に来るなんてねぇ……」  僕がやったルージュは、昨年末の売れ残り。青葉台の化粧売り場は、オーガニックが主流。僕の昔のオンナがしていた、真似をする。ビジネスは、煙草の火種と似て。少しずつ、模っていけば、上手い具合に、僕の店になっていた。そんなところで、ギラめくサンシャイン。微かに香る、男物のベルガモットシャワーが、ひっそりと。マリコにやったものは、僕のお気に入りの売れ残りだった。 「やっぱり、いい色だなぁ」 「これね、アンタはセンスだけはイイわ」 「うん、だって、それはおまえの為に作ったからね」 「ふっ一杯も奢る気はないね、アンタには」 「あれ、つれないな」 「……オトコのアンタに言われたくないね」  マリコの鎖骨は、ラスピラズリよりも映えてしまう。薄ら青い線に、疼く指先。爪先から凍えるように、マリコのそいつに齧り付きたい浅ましき欲。だが、僕は無謀にも知っていた。そいつは、欲でも色のつかないもの。ああ、なぜ、僕はオトコだったんだろうか。そんな問いに、レッドフラッグ。好きな色は、赤。なんでも共有したがる、奉仕のイチモツがぶるり。マリコの鎖骨には、僕のルージュを溢すべきだった。 「で、今日はどうしたのよ」 「ちょっと、マリコに聞きたいことがあってさ」 「アタシにねぇ、いくら貸して欲しいワケ」  そう言えば、傾けていたグラス一つ。マリコの鎖骨のように、ゆるり溺れるような氷が回って。マリコのギラめくサンシャイン、そのネイルをきゅっと鳴らした。からん、ころん、浮ついたラインが、後ろの恋人たちがぽろり。そのクッキー、入れたいわ。いいよ、あげる。そんな言葉をバック、僕の熱りも。だが、聞きたいことは、よりディープに新宿を彷徨う。ああ、僕の最も嫌いな新宿ニ丁目の残骸へ。 「生憎、儲かってるよ」 「あら、残念」 「そういうところ、嫌われるぜ」 「そのさぶい口調も、言えてるけどね」 「辛辣さも変わらずか、いいね」  新宿ニ丁目、七十年代のテキサスなら、ここはメキシコ。楽園という名の魔窟に渦巻く、オトコよりも傲慢で、オンナよりも残酷な生きものの棲家。喰われたら最後、骨までしゃぶられるが運命。そいつは、オトコでも、オンナでも変わらない。カマが、無害だと誰が 知る。この世で最もキケンな神の創造物でもない、カトリックのはみ出しもの。僕の愛おしい、ドラッククイーン。 「なぁマリコ、他意はないよ」 「前振りは、お粗末だって知らないのね。哀れよ、アンタ」  マリコと出会ったのも、ここの店。バーよりも薄暗いアイリッシュパブは、美味いものはサーモンフィッシュのプレート。意外にも山椒掛けられた、そいつはブラックビアによく合っていた。黒いビール、ラベルはどこのか。ちかちか照明に、色んな意味で高いヒール。踵が、ふわっと、僕のスーツを掠める。ピースだ、型はイタリア北部の斜めがけ。ネクタイは、それに合わせたイエロー。肌とかけた洒落れは、いくぶんかレイシストへの挑戦を体現していた。 「じゃぁ、遠慮なく」 「ええ、どうぞ、ジェントル」 「そいつは、どうかな」  あの日は、虚ろな負け犬じみて。オトコが着るような派手さもないサラリーマン装い。そいつを指差して笑って、ちびちび飲んでいたウィスキーは飲まれてゆく。かんっと高鳴った、ヒールと僕の心臓。そこには、ダビデがいた。僕は、ゴリアテにすら立候補するだろう、美学。ウィッグなんて気にならない、くびれどころかガタイがいい尻の造形。だが、一番は鎖骨から首にかけての、その直線だった。飢えた、飢えたオトコの欲と、オンナの色が混ざり合う。それすらも、僕の煙草は吹かしたまま、イチモツへ。煙は、やがてファンに繰り出されて。卑しい、新宿へと流れ着く。忘れたいことも、忘れさせぬままに。人生最初の鬱屈は、マリコのギラめくサンシャイン。その有り様に、目の奥を抉られていた。 「ーー殺したかな、僕の昔のオンナ」   「人聞き悪いこと言わないでよ、カノジョ事故でしょ」  僕の昔のオンナは、気狂いだった。ルージュを作り出す為に、自分の皮すら削ぎ落とすオンナ。まさしく、唇に乗せられた口説き文句を愛して。そのまま、悪魔から同情を掻っ攫うような、真っ赤な血塗れ。なんど、あのオンナは、僕の財布から盗みをはたらいたか。そいつで、コスメを買って、車を乗り回し、ついには空港前の料金所に突っ込んだ。アクセルは、よりよくイクために。ブレーキは、アダムの肋骨ごとネジを吹き飛ばして。あんなに、どうかしているオンナは、後にも先にも、カノジョだけ。一つ教訓を得たのは、決して芸術家と恋仲になるもんじゃないということだけだった。残った悲惨は、人生をより惨めにするだけ。死んだ、あのオンナは、今日も変わらず僕をを貶めている。 「おまえ、乗っていたんじゃないの」 「アレの車にって言いたいワケ」 「まぁ、そうだね。どうなんだ、マリコ」 「人殺し呼ばわりは癪ね、今じゃ」 「昔なら、良かったのかな」 「あら、そうね。昔なら喜んで、告白したでしょうよ」 「気は変わらないのか、もう」  聞いた噂だった。マリコと仲が良いとは言えなかった、僕の昔のオンナ。あいつは、どうにも、カマとやらを嫌って。オトコが、オンナみたいにするのなんて気持ち悪い。悪気もなく、そう言っていた。なんせ、あのオンナは、その美しさとやらを臓物から溢れた、グロテスクな趣味と言った。綺麗な、お優しいことばかり好むあのオンナは、決して公平な言葉を言いやしない。あのオンナは、まるでこの世の悪意を煮込んだ挙句に、勝手にくたばるオンナだった。綺麗事を愛するやつというのは、いつの世も、一番にあの酷い神に近いというのだから。こんなに、シニカルな様はない。 「アンタは、気付いてないみたいだけど」  そう、告げる。マリコの噂は、じゅわりと炭酸に溶けて。スパークリングを頼んだ僕の甘さ加減に、ゆらめいていた。 「もう、罪とやらを聞いてくれる人すらいないのよーー」  空港前に、あのオンナがいた理由。そいつは、噂で流れてゆきながら。僕の耳まで届くまで、きっと新宿を五周はしただろう。あいつをくたばれと祈っている奴らは、うじゃうじゃいた。なんせ、作ったブランドが酷評されれば、そいつのうちまで行って、火を放つようなオンナだった。僕だって、浮気を疑われて、何度もベッドを燃やされた。煙草は、便器にの中へ流されて。殺意が芽生えないことが、あの日々での摩訶不思議ことで。僕は、静かに、あのオンナが死んでくれることを願っていた。 「てっきり、アンタは清々していると思ってた」 「誤解も甚だしいな、それは」 「意外ね、引き摺ってるワケ」 「五年も前だとか、そういう話はよくないよ」 「年月にケチつける気はないわよ」 「別に……今更、なんてこともないからね」  瞼ぱちり、そんな音がする。マリコは戸惑った仕草で、カールした髪を。少し酒で濡れた指先、そいつが髪を潤わせて。解けてゆく、それが皺になるベッドシーツと重なる。脚組まれた、その隙間から見えるショーツ。そういうことは、酔わないといけない謎だった。褪せた、褪せていた、僕の創作的無責任な欲。滲んだアイリッシュパブ、そこに浸る大人。どれも、無責任な負け犬ども。 「なに、結婚でもするのーー」  まるで、過去でも精算したいクソ野郎のように、僕を見つめていた。それは正しいようで、惨めで。氷が溶けてゆく間隔に、鎖骨の荒々しい何かが弾ける。それも、偏見される側すら陥る、偏見な気がしていた。 「しないさ、僕は」 「違うの、ならごめんなさいね」 「いや、違わないかもしれないな」 「相変わらず、どっちつかずなオトコだわ」  噂は、あの日、マリコが運転席にいたというもの。見かけた連中は、二五六を飛ばしているオトコたち。その内の一人は、マリコが捨てたオトコだった。 「ーー僕は、おまえを抱けるワケにもいかないんだよ」  僕の昔のオンナも、そのチクリ屋のオトコも、皆んながみんな疑っていること。正直、オトコとオンナの友情すら認められない世の中なら。いや、真理として、認めるわけにはいかないならば、そいつは僕とマリコにも当て嵌まって。いくら、マリコのその出立ちに、そそられようとも、昂る余韻があろうとも。マリコの、その少しの髪の乱れから伺えるものが、見苦しく思える。その、著しく、萎えるであろう髭の剃り残しに。あのオンナが、密かにブチ切れていたこと、無視したあの日。僕は、マリコの努力が、イイと知っていた。 「アンタは、抱かれる度胸もないクセにね」  その台詞は、いろんな意味で痛みを帯びて。心臓が、ずしんと重くなる。きっと、僕というやつはオンナしか抱けないとたかを括るうえに。きっと、一生マリコのことを察する気遣いも出来ない。オトコとオンナよりも、分かり合えないものがあった。それが、気持ち悪いと思えない僕は、どうかしていた。あのオンナよりも、どうかしていた。 「そもそも、おまえついてるワケ」 「デリカシーって、その辺には売ってないようね」 「いいじゃないの、そいつはアリナシって言うだろ」 「タマだけのやつね、まぁ違うけどね」 「まだ、あるんだ」 「あんまり、ジロジロ見ないでくれる」 「セクシーだね、マリコは」 「世辞も増えないわね、アンタってやつは」  あのオンナはトチ狂っていたが、時々的も得ていた。だから、あの日の電話で、僕に。がちゃんっと切れるように、公衆電話から。今時珍しく、きっと僕の財布から盗んだものすら足りなくなって。その辺のやつから拝借した小銭で、ダイヤル回したんだろう。あのオンナなら、やりかねない。カノジョなら、平気でする。でも、その態度が、どうにも麻薬。抜け出せない、底なし沼がどろりと。オトコを駄目にするようなオンナ、でも地味な。イカれた、イカレきって、セックスすらキメてしまう。あのオンナを満たしているのは、僕だ。そう思うだけで、その日暮らしすら極上に思えていた。マリコが愛おしくステージに立つ、それを眺めても、生かれないぐらいには。  僕の昔のオンナが、言った。ぜんぶ、イカサマ。アンタの生き様、諸々全て、砕け散るほどにイカサマだからな。殺してやる、頭の先から骨の髄まで殺し尽くしてやるから。殺害予告が、身の毛がよだった。留守番電話から、リコールした後の叫び声。カノジョは、公衆電話ボックスに頭打ちつけながら言っていた。なんせ、新宿を五周もした噂は、おおよそほんとうのことばかり。僕は、すっかり新宿すらも出歩けない。あのオンナ、死んでも迷惑をなんて呟きながら、泣いている自分がいた。 「つくづく、傲慢なオトコよね」 「そういうもんじゃないか、自分ばかり」 「他人様はどうでもいいって」 「マリコ、なにを苛立って」  いきなりなんだろう、グラスが飛んできた。どうして、こうオンナの欠片、胸に秘めたやつは。そう、おんなじことに、同じように怒れるのか。胸元、詰め物もないすっからかん。そこから覗ける鎖骨からの、余命があった。 「ーーアタシは、ぜんぶアンタのためにっ」  だから、びしょ濡れにされた、僕は言うだろう。 「誰が頼んだって言うんだ……」  あのイカれたオンナが、死ぬまえに何をしようとしていたのか、知りたくもなかった。ただ、人生のタイミングと、その不幸の原因とやらがなんなのかを押し付けようと。カマ野郎の所為にできたら、首括りたくなる衝動も抑えられそうになる。まさか、マリコがなんて、自惚れた台詞は沼に沈む。スパークリングの炭酸に、乗せられたパンチライン。そいつが、物事を賤しくして、憔悴させていく。なんだ、甘えた坊やと一緒でも。クール装えるジェントルでもないだろう。僕は、モラトリアムに、イカれたオンナと恋仲になっただけ。ギャッツビーよりも、深く愛を語れる自信が、過去を語っていた。 「おまえ、殺す相手間違えたね」  仮にも、愛したオンナだった。地の果てまで気狂いだったけれど、あいつが飛ばしたアクセルと同じスピードで愛していた。カノジョが作り出したブランドは、僕が名付けて。完成品をちらちらと、僕がいいねって言えば。あいつは、それはもう嬉しそうに小走り。それが、好きだった。滅びるその日まで、そんなキザを降らすほどに。 「やっぱり、いい色だな」 「……ほんと、くたばればよかったのよ」 「それ、トルネードって名付けたワケだけど」  マリコが大事にしてつけてくれた、ルージュ。なら、なんて言おうかと。僕のイエロー、スーツはイタリア。伊達にキマって、顔が良ければマシだった。びしょ濡れの馬鹿は、いずれ誰かが息の根を止めてくれることを祈って。泣かないカマは、酷い面だった。 「実はマリコでも、あいつでもないよ」  答え合わせをした。英語でTORONTOという。猛烈に風の強い気柱、トルネード。名付けたのは、モデルがいたけれども。あのイカれたオンナが作ったルージュ、名付けたのは僕。だけれども、そいつが一番似合うマリコから考えたものでもなく。 「そのオンナ、付き合ってるんだよね」  だから、昔のオンナって言ったじゃないか。あの日、あいつが僕を殺すと喚いていたワケ。単純に、新しいオンナが出来たから。その、綺麗とか色っぽいとかでもない、ほんわかしたオンナ。家庭的な面しかない、だけれども度肝抜くほど冷淡な一面があって。やっぱり、どこかおかしい頭の具合。だが、そのオンナには、子どもがいて。そのオンナは、母親だった。それがオンナの顔をしながら、母親を気取る。母は強しなんて、よく言う。そのオンナは、イカれたオンナとの別れる方法。そいつをひっそり、耳元で囁いた。アナタの為になんでもするような子に、あのオンナ殺させちゃえばいいじゃない。悪魔のひと言。気のいいマリコならきっと、僕を取るなんて言う。そのオンナが知らない筈の、マリコを知っている。喰われたのは、誰だったか。人を殺せちまうカマよりも、危険なものよりも、タチの悪いやつが、母親面したオンナの悪知恵。テクだけで、死にそうな本懐のろくでなしだった。 「ぜんぶイカサマよっアンタの生き様……諸々全て、砕け散るほどにイカサマだからなっ殺してやる、頭の先から骨の髄までっ殺し尽くしてやるっ」  呪詛のように、ほろ酔いでゆく。清算しにきたのは、過去じゃない。もう溶け切った氷のように、罪の意識も酒に濁されて。マリコは、ギラめくサンシャイン。世の中の理不尽煮込んだ、その表情が、一番出会った頃のような輝き。殺される覚悟は、もう決まった。後は、マリコがどうするのかだけ。 「ーーアンタが、こんなにしたんだっ」  オトコの生き様は、イカサマ。オンナの死に様は、有り様。僕の死に様は、無様に。ミネチカ・マリコは、そのどちらでもないカマだった。   正体                         積山 精々  [成人以外の方の閲覧は禁止とさせて頂きます]  水蜜桃のような女だった。  艶のある長い髪はとてもしなやかで、涙で潤んだ大きな瞳には恥じらいと悦びが渦を巻いて、厚みのある柔らかな唇からは熱く色めいた吐息が漏れていた。  均整のとれた筋肉と脂肪が作り出す美しいラインが、紫と緑のビビッドな色の薄明かりに照らされて、なまめかしく隆起し、沈降する。  薄っすらと浮いた汗からは、甘い匂いがした。口に含めば、他の全てがどうでも良くなるような、魔性の味だ。  闇の中で躍る、そのきめ細やかで滑らかな肌に飛び込んで、一心不乱に腰を突き動かす。  動き続けなければ、溺れてしまうんだ。  突き挿して、引き抜いて……その度に、頭の中はぬたぬたとした桃色の虹が掛かる。  夢と現実の間を、行ったり来たりするように泳ぎ続けていると、その内おぼろげに見えてくるモノがあった。  永遠に終わりたく無い快感を上書きする、この世でただ一つの絶対的な愉悦。  腰で繋がった相手の生涯を自分のモノにできる錯覚と誤解。  俺たちは皆、繁殖の本能に楯突かず、シンプルでわかりやすい理屈の上にエロティックなソースを掛けてセックスを楽しんでいる。  それでいいんだ。  難しく考える必要はない。  こどもなんか欲しくなくても、気持ちいいから、それをする。  ただ、それだけだ。 「…………っ」  脳をめちゃくちゃに掻き回していた欲望が、自然と腰に集まって、勝手にべしゃりと飛び出していった。  この……代え難い解放感だ。  どうせ、男の正体なんて、この瞬間の為に生きてるだけの獣なんだ。否定したって始まらない。  それでいい。  後は、知らない。  このまま、快楽の中で死んだって構わない。  …………だが、それでも。  頭の中から、水蜜桃が消えない。  弾んで震える、丸い乳房が。  美しく締まった、細い腰が。  大きく柔らかな、白い尻が。  萎れて枯れたはずの欲望を刺激して、もっと求めろと囁き掛けてくる。  それでも、全身を襲う気怠さには勝てない。  仕方なく、女の横、二人分の汗を吸ったシーツの上に、ゴロリと仰向けに横たわった。  ……息が苦しい。  まるで全力疾走した後のように荒く息をついて、事後の社交辞令も出てこない。  視界がぱしぱしと瞬いて、それが酸欠によるモノだと気付いた。  散々色んな女を抱いてきても、こんなに消耗するほど夢中になったのは、この女が初めてかもしれない。  …………いや、違う。  この、意識を失う程の行為には、覚えがある。  でも、その正体が掴めない。  気をやったせいか、疲労のせいか判らないが、この感覚には、何か、憶えがある。  その時、緑と紫の気取った照明に照らされた乳房が、俺の顔のすぐ上で、ふるんと揺れた。  皮膚が張って艶々と光る乳首から目線をズラすと、女は妖しい笑顔で俺を見下ろしていた。  彼女はそのまま猫科の動物のような動きで、俺の上で四つん這いになる。  白い手足の檻に閉じ込められて、俺は思わず下品な笑顔を浮かべた。  彼女の視線が、絡み付く。誘うように、何かを促すように。  その命令は嫌いじゃ無い。  だから俺は震える果実にそっと唇を寄せて、赤くなった先端を含んだ。 「んっ…………」  女の啼き声が、美しい。  とろりと蜜が滴って落ちる様な、甘い喘ぎ声。  その声をもっと聞いていたくて、俺は彼女の先端を唾液まみれの舌で転がした。  果実の表面を伝い落ちる汗の雫が、舌の上でとろける。俺は股間に熱い疼きを感じた。  ああ……  もう、何もかもが俺の理想の極致だ。  * * * * *  獣の様な息遣いが聞こえる。  仰向けで横たわる俺の上に、女が跨がっている。  だるんと揺れる胸は不恰好で、服に収まっていた時とはまるで印象が違っていた。  垂れた腹は、腰が容赦なく打ち付けられる度に、俺の腹に当たって、情け無い音を立てている。  その下半身はとうに痺れていて、微かに感じるのは熱だけ。……たぶん皮膚の下で出血しているせいだろう。  耳を侵すリズミカルな呻きが、猿(ましら)めいていて、気持ち悪い。  逃げ出したい。  ここから逃れられるなら、何を差し出したって構わない。  女の叫ぶ様な喘ぎ声が、徐々に高くなっていく。  その様がとても不気味で、不快で……。  とにかく俺は、ここで果ててしまいたかった。  快感なんて要らない。  この不幸の塊みたいなバケモノから開放されるには、全て吐き出して、一時的にでも不能になるしかないのだ。  情けない。  肉の感触欲しさに、少々好みからズレた女を選んだが、こんなバケモノだと知っていたら、あの時胸を掴んで首筋に甘く噛み付いたりしなかったのに。  表情に乏しい顔と仕草の裏側に、こんなにも悍ましい正体を隠していたのだと知っていたら、あの時心にも無い好意を耳元で囁いたりしなかったのに……。 「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎━━ッ‼︎」  それは、もはや人間性のカケラも残っていないような、酷い絶頂だった。  女は咆哮を上げながら俺の腰の上でビクビクと身体を震わせ、その度に肉と脂肪が波打つように揺れる。  その酷い有り様から思わず目を背け、唇を噛みながら、俺は果てた。  血の味がして、悔しさが込み上げてくる。  ……もう、これで三回目だ。  この女を肉布団の様にして好きに抱いたのが、少し前の事。  俺は果ててそのまま寝ようとしていた。でも、女はそれで満足しなかったのか、突然鼻息荒く組み伏せてきて、俺のモノを乱暴に扱きあげると、有無を言わさず自分の穴に押し込んだ。  血走った目をギョロリと剥いたまま、唇の端を吊り上げて、にやぁと笑う。  その顔はまるで鬼の様で、女相手に心の底からゾッとしたのは、生まれて初めてだった。  そのまま俺は、一晩中弄ばれ続けた。  三回目までは、己の軽率さが呼び込んだ罰だと受け入れる気持ちでいた。  ……だが、その後は、ただひたすら全てを恨んで、憎んだ。  男に生まれた事も。  俺の意思を裏切り続ける、この身体も。  そして、『スキ』だとか『アイシテル』だとか、何故か人間の言葉を繰り返し叫びながら俺を襲う、このバケモノのような女も……。  やめろ。  見るな。  俺を滅茶苦茶に壊しながら、  愛おしむ目を、俺に向けるな……! 「ぅゲ……っ」  潰された蛙のような悲鳴と共に、俺は口から胃液を吐いて、そのまま気を失った。  * * * * *  大きく息を吸いながら、目を開く。  マシュマロみたいな枕に沈み込んでいた頭を少しだけ動かして、手で口元を確認する。……胃液は出ていないが、妙に気分が悪い。  俺の無様な様子を見下ろして、ヘッドボードと枕を背もたれに座りながらスマホを弄っていた女がクスリと上品に笑う。 「どうしたの? コワい夢でも見た?」  頭の中を見透かされたような言葉に、 「ん……あぁ。そう……だな。酷い、夢だった」  俺は思わず吃る。  ……思い、出した。  あれは夢じゃない。  唾を呑んで、額を押さえる。  本当にあった、必死に忘れようとしていた俺の過去。俺の心の傷だ。  全身に絡みついてくるベタついた肉と、一方的に愛情を押し付けてくる、あの歪んだ笑顔……。  溺れる程夢中になって女を抱いた事で、あの時を思い出すなんて……。  くそ、と胸中で唾棄する。  思い出すんじゃ無かったと後悔しても、今更手遅れだった。  泥の様な溜め息を吐いて身体を起こす。  眠気が飛んでしまったのに、身体は変わらず重い。  衝動のままに横にいる女を抱いて、汚れた感情を全て洗い流してしまいたかったが、今はそれだけの気力も体力もない。  ………………。 「……何、見てんの?」  何の気なしに訊ねると、 「ん? ホラ」  彼女はスマホの画面を見せてきた。SNSだ。  眩しい画面に目を細めると、ここに来る前の飲み会で撮った写真が見えた。  抑えめな補正、申し訳程度のスタンプ、笑顔、酒、笑顔、料理……。  ……ありきたりな写真で、正直何の感想も湧いて来ない。 「ふぅん……いいね」  俺は面の皮だけで笑顔を作る。  それなのに、彼女は気を良くしたのか、 「あ、この前代官山に遊びに行ったの!」  画面をスライドさせ、「コレ!」と言って次々に写真を見せてきた。  視界がぐらりとする。  勘弁してくれ……。  付き合ってもいない、勢いで身体を預けただけの相手に、そんな承認欲求ぶつけてくるなんて、どうかしてる。 「フフ……」  俺の顔を見て、女が笑う。  その目に、ギクリとした。  もしかして、この女は俺の反応から何かを探っているのか……?  視線を動かさないまま、女の半身を確認する。  こんな男好きする身体の女、この先の人生でもう一度巡り会える保証は無い。  だったら、少しくらい媚びたって━━。 「見る? いいよ?」  そう言って、女はポンと俺の手にスマホを乗せる。  何だ? これは……何かのアピールか? 「………………」  困惑する俺の顔を見て、女は愉しんでいるようだった。  そして、徐ろにシーツを捲ると、俺の股間に手を伸ばし、萎れたモノにそっと触れた。 「こういうの、好きじゃない?」 「……こういうの、って?」  鸚鵡返しする俺に、 「興奮しない? そこに写ってるコが、今あなたのモノを触ってる……」  彼女は、妖艶な顔で諭した。  俺は促されるまま、彼女のスマホに目を落とす。  そこには、流行りの食べ物や友だちと笑顔で写る、彼女の〝昼の顔〟があって…… 「…………っ」  突然の快感に視線を移すと、そちらには俺のモノを口に含んだり、舐め上げたりしている、彼女の〝夜の顔〟があった。  あぁ、これは、確かに。  まるで、頭の芯が揺さぶられているみたいだ━━。  俺はそのまま彼女のスマホの画面をスワイプする。  明るい笑顔。驚いたような笑顔。美味しそうに頬張る笑顔。  ……顔を上げる。  モノに吸い付く唇。這いずる舌。妖しく俺を睨める眼。  どちらがホントウで、どちらがウソか?  そんな青臭い疑問をもつのは馬鹿だけだ。  どちらも本当が正解で、俺はそういう事実があると知ってる。  この女は、俺に普段の自分を見せながら、俺のモノを美味そうにしゃぶる事で興奮してる。  それが、この女の正体なんだ。  写真。手。写真。舌。写真。唇。写真。音。写真。  女に咽喉の奥までモノを咥えられて、思わず呻く。  写真。「んっ」。写真。「……くぽ」。写し…………ん。  ━━その時、  俺の指が止まる。  包帯。  包帯の写真。  ……怪我?  違う。  胸、腕、足、顔。  楽しげに写る何枚かに一枚、紛れてくる、包帯が巻かれた写真。  そして、その度に。  過去へ遡る度に。  それは、何か、  なにか、  違う、女に━━━━? 「うっ…………‼︎」  股間に痺れるような快感が走って、俺は射精した。  それを、一滴も溢さず、女は吸い上げて。 『おもいだした?』  目が、愛おしむような目が。  大きく、大きく開かれて。  俺を、捉える。 「ひ……ゅ……」  口から凍えるような息が漏れる。  手にしたスマホの画面に写るのは、  俺を、壊した……あの、  けだものが、嗤う、貌。  べちゃり━━。  女は俺の腹の上に精液と唾液が混じったベトベトを吐き溢して、長い舌で舌舐めずりする。 「な、なん……で」  恐怖と混乱で舌が回らない俺を、彼女は可笑しそうに眺め、 「だって、前の私は、あなたのお気に召さなかったみたいだから」  いじらしそうにそう言って、俺の臍の周りに溜まった汚い粘液を指先で掻き混ぜる。 「好きでしょう? こういう顔とか、こういうカラダとか、こういうキャラ。……ちゃんと調べたの」 「…………っ‼︎」 「だって、愛してるんだもん」 「やめろ……」 「私が一番、あなたが好き。ね、わかるでしょ?」 「やめろよ!」 「どうしてよ⁉︎ 今の私が一番好みでしょ⁉︎ 夢中で腰振ってたクセに‼︎」  突然首を掴まれ、俺は硬直した。  跳ね除けられる相手のはずなのに、この声と、女に組み敷かれてる状態が、俺の身体を鎖のように締め付けてきて、何も出来ない。 「ほら、近くで見て。あなたが普段よく見る女優に似てるでしょ? 目も、鼻も、お尻も、胸も……」  赤く染まる視界の中で、笑ってるんだか困ってるんだかワカラナイ表情を浮かべ、女は言う。 「何年も掛かったし、何百万も掛かったけど、あなたの為だから、全然辛くなかったよ」  そこまで言って、女は俺の首から両手を離し、今度は全身を使って絡みついてきた。 「やっと、やっと! あなたの好きな私になれた! 今度こそ、もう離さない! 好き、好き‼︎ 愛してるっ‼︎」  弾む様な動きで全身をなすり付けられ、鼻に掛かった甘い声で鼓膜を犯され、俺のモノに血が通う。  ダメだ。  やめろ。  いやだ。  俺はなにも認めていないのに。  このままじゃ、この女の言った事が正しくなるじゃないか……! 「んっ……♡」  ぬるん、と女の中に吸い込まれる感覚。  何処まで思考で乗り切ろうとしても、無駄だ。  ……そう、俺がさっき、自分でそうだと断言した通りじゃないか。  快感には、抗えない。 「はっ、はっ……はっ。 アハッ♡」  間近で俺の泣き顔を見ながら、女が嗤う。  目を剥いて、眉を歪めて、舌の先から涎を落として。  闇の中に、罪も快楽も、  何もかもを融かしてしまう様な、冒涜的な笑顔で━━。 「愛してるよ……♡」  * * * * * 「今日の晩ご飯はシチューにしようかな」 「……うん」 「シチュー、好きだもんねぇ」 「……うん」 「ご飯よりパンかな。バゲット買ってこようか」 「……うん」 「デザートはアイス! ラムレーズンね」 「……うん」  ………………。  ……俺は、この女に飼われている。  苦痛なんてない。  反発しようなんて、今はもう思わない。  鏡のように、こいつの笑顔を、望みを、そのまま反射させるだけの毎日。  望む通りの顔と反応さえすれば、とても快適だし、毎晩キモチイイんだから。  この女のアイを受け入れてる間は、シアワセなんだから。 「あ、そうだ」  仕事に出かける彼女は、パリッとした服装のまま、バッグの中から小さな包みを取り出し、こちらへ手渡した。  手の平サイズの、箱状に膨らんだ紙袋には、ドラッグストアの印字……。 「ご飯の前に、お尻使いたいから、準備しておいてね」  女は、今更恥ずかしそうに、俺の耳元でそう囁いた。  ぞわりとしたこの感覚が、快なのか、不快なのか、今の俺にはもう、ワカラナイ。 「……うん。……行ってらっしゃい」  俺は、鏡の顔で、そう言った。                              了   その、郒。                        CürrØꕤ︎︎  性的描写が含まれた作品となります。  作中に比喩表現として気持ち悪い虫の名前がいくつかありますが、好奇心での検索は自己責任でお願いします。  ━━ピピピ ピピピ ピピピ  スマホのアラームで目が覚めた。  ロック画面の時計は17:00を表示している。  現実に引き戻される瞬間。  湧き出すのは、醜い感情……ただ、それだけ。  隣りで寝息を立てて幸せそうに眠るその人に、すら。 「……ねぇ、時間」  そう言って肩を軽く揺すると、「もう、そんな時間?」と、ごにょごにょ言いながらワタシを抱き寄せて、キスをする。  ワタシは、このキスの意味を知っていた。 「すぐ終わるから、最後にもう一回……」  いつもそうだ、また硬くなってるソレを、ワタシの中に挿れて。  精液を、出す。  それだけ。 「悪い。これから用事あるんだわ」  ケラケラ笑いながらスーツを着て、何事もなかったかの様に、   「じゃあ、先行くわ」  と、慌ただしく部屋を出て行った。  部屋を出て行く姿を見送り、ワタシは一人出されっぱなしの精液を垂れ流したまま、シーツに包まり、泣いた。 【ホテル代くらい半分出して下さい】 【え? そんな事よく言えるね。俺が無職なの、知ってるだろ?】 【いつまで嘘つくつもりなんですか? そんな嘘、いつかはバレますよ】 【バレるまで、ウソつくさ】  スマホに表示されるクズっぷりに、私はため息しか出なかった。こんな不毛なやり取りしたところで心が荒む一方だと分かっているから、表示されているメッセージを全て消去する。 「ただいま」  悟られないようにスマホをポケットに押し込んで、いつもの空元気で家に入りリビングへ向かった。 「おかえりー。ちょっと晩ご飯の用意手伝ってくれる?」  キッチンで晩ご飯の用意をしていたのはワタシの姉。専業主婦をしている。 「うん。でも、先お風呂入っていいかな?」 「やだぁ、また彼氏と会ってたの?」  ワタシの顔を見てニヤつく姉に、「付いてるよ」と、首筋の〝痕〟を指されて慌てて首筋を手で押さえると、バスルームに駆け込んだ。 「目立つ所にキスマーク付ける男なんて、ろくなヤツいないわよ?」  ━━━━━━。  バスルームの鏡に、裸体が映る。  点々と、赤い痕が。  虫が這っているみたいで、気持ち悪い。  例えるならば、顎口虫とか、ニキビダニみたい。じっと鏡越しで痕を眺めていると、それらが体中を這い出すような感覚に陥る。  ━━ソレは、体中に舌が這うような。  唇を甘噛みして、舌を絡ます。  舌を絡ましながら、体に手を這わして、胸を揉みしだく。  息を荒くする、それはまるで淫獣の様に……。  はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。  鏡に映る私から、だらりと精子が垂れ落ちた。太ももを伝う白いソレは、ジワジワと、ワタシを蝕んで  はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。  ワタシを狂わすエクスタシー。  さぁ、ワタシに帰りなさい。  垂れる精液を指に絡めて、ワタシの中を貫いて。  中に、中に。    鏡に映るワタシは、恍惚の笑みを漏らしていた。  ━━━━━━。 「お風呂、長すぎ」  キッチンで野菜を切っている姉にチクリと嫌味を言われて、はいはい。と、軽くあしらったワタシは、姉の隣りに立ち手伝い始める。 「その〝痕〟、うちのに見付かったら茶化されるよ?」  うちの……姉の夫、ワタシの義兄。 「そうだね。お姉ちゃん夫婦は〝そういう話〟好きだもんね?」 「えー、別にそんなんじゃないって」  ケラケラと笑う姉は、私の腕をバシっと叩き、皿に料理を盛り付けるとカウンターに並べた。 「あら? 今日はお義兄さん、遅いの?」  いつもより一枚皿が少ない事に気付く。 「そうなの。さっきメッセージが届いて。任されたプロジェクトがあるらしくってね」 「プロジェクト?」 「なんか昇進したみたいで。忙しいんだって」  ふーん。  何故か実家に姉夫婦が同居している。ワタシはまだ学生で実家暮らしなのに……だ。両親は、家族が増えたと喜んでいるが、蓋を開ければ家賃を払わなくていいという理由だけで同居していると姉が言っていた。  他人が居ない食卓は、気が楽だ。  一人でも異物が入れば、違和感でしかない。義兄は、空気が読めない人だった。  姉夫婦は、家賃は愚か、食費も光熱費も入れていない。それを咎めない両親も両親だ。  私は嫌悪でしかなかった。  姉は好き。  でも、〝お義兄さんの嫁〟は嫌い。  午前二時。  玄関の扉の開閉音で目が覚めて、二階の部屋から玄関へと降りていく。 「あー。ただいまぁ」  酔っ払いが一人、玄関に転がっていた。着崩れたスーツによれたワイシャツ。郒(おとこ)はワタシに気付きニヤリとした。 「仕事だったんじゃないの?」 「んー? 仕事。大人は色々、あるんだよ」 「あっそ」 「もしかして、待っててくれた?」 「まさか。ドアを開ける音が五月蠅かったから目が覚めただけ」 「ふぅん。ねぇ……」  いきなり、酔っ払いはワタシの手首を掴むと自分の方へ引き寄せ、首筋に顔を寄せたかと思えば、 「首筋に痕、付いてる」  と、耳元で囁いた。 「……っっ?!」  首筋から耳元に掛かる生暖かい吐息が気持ち悪くて、思いっきり押し退ける。 「気色悪い事しないでよ!」 「なんだよ……ちょっと茶化しただけだろ?」  ニヤニヤしている。  ワタシを見て、ニヤニヤしている。  鳥肌が立った、酔っ払いが触れた場所からゾワゾワと。全身にゴキブリが這う様に。ワタシは酔っ払いを睨み付け思いきり顔面に唾を吐きつけると、二階の部屋へと早歩きで戻り、ベッドに潜り込んだ。  ゾワゾワと体中を這う。  * * * 「痕、全然消えなくて困りました」  ホテルの一室。裸の二人。もう二度果てた、その後。 「いいじゃん? 愛されてる証」 「キスマーク付ける男なんて、ろくな男いないって」 「そんなろくでなしを好きなのは誰?」 「……。そう言えば、結果は出たんですか?」 「ん? 何の?」 「不妊」 「あぁ、それな。原因はあっちだって」 「そうなんですか。『俺は種無しだ』とか言っていつも中出しするくせに」 「だってさ、今までの女誰も孕んだ奴いないから」  そう言って、ワタシに覆い被さり、中に捩じ込む。  突然の異物挿入に、ワタシの体はピクリと反応すると、ごくりごくりとソレを飲み込んでいく。 「だからさ、お前が俺の子、孕んでよ」  奥まで貫いて腰を振り始める、ぐちゃぐちゃと二人の愛液が混ざり合って卑猥。 「俺の子孫残せない奴とはもうヤル必要ないし。これからは全部お前に出してやるから」  さっきは獣の交尾みたいにバックで何度も、何度も。その時出した精液が、中から溢れ出て、また押し込まれて。 「……本当、悪い人ね」  火照る体にじわりと汗が滲む。べたつく体を打ち合って、あっ、あっ、といやらしい声が漏れたら手で口を塞がれて、わざと奥を突き上げた。 「愛してるよ」  ワタシの中に、どろどろと流れ込んで。  ワタシの血となり、肉となり。 「……嘘つきは、泥棒のはじまりって言うでしょ?」  ━━ワタシも、愛してる。  * * *  ここ最近、姉の元気がなくて心配していた。  深いため息。 「最近……レスでさ」  目の前に座る姉は上の空で話し出す。 「そう言えば、最近〝そういう声〟聞こえないね」  姉の喘ぎ声は、発情期の猫みたいで汚い。レスの原因のひとつは、それかもしれない。 「私はもう、用無しなのかな。……する必要、ないもんね」  姉は、弱りきった表情で、ワタシに笑って見せた。 「でも、愛情って、〝ソレだけ〟じゃないでしょ?」 「そうだけど」 「ちゃんと毎日帰って来てるし、心配いらないんじゃない? それとも、何か心当たりでも?」  そう言ってワタシは首を傾げて姉を見ると、姉は「ううん」と、首を振る。  漠然とした不安は、弱った心を蝕んでいた。 「じゃあ、心配ないわよ」  ワタシはそう言って席を立つと、そのまま二階の自室へと戻った。  部屋に入り、ワタシは鏡の前に立ち、一枚、また一枚と服を脱いでいく。  スカート、ブラウス、下着。  鏡に映る裸体の、ワタシ。  胸の先端が硬く尖って、いやらしい。  体に這いまわる痕が、はぁ、はぁ、と息を荒げて、ワタシはさっき出された精液を、くちゃくちゃと搔き回す。  ぞわぞわと昇りつめる感覚。頭が真っ白になって、鏡の中のだらしない顔したワタシは、涎を垂らして逝った。  何度も、何度も、思い出しては、ニヤついて、逝った。  ━━━━━━。  異物混入する、五人の夕飯。  カチャカチャと食器の音だけがするダイニングで、ワタシは箸をテーブルに置く。 「ワタシ、妊娠したの」 「……え?」 「赤ちゃん、産もうと思う」  一気に全員が、ワタシを見た。 「ちょっと待って、誰の……子よ? 恋人いるなんて、知らなかった」 「さぁ、誰の子だろ?」  沈黙が流れる。お義兄さんと目が合い、ワタシは微笑んだ。 「ねぇ? お義兄さん」  * * *  ホテルの一室。裸の二人。もう二度果てた、その後。 「子連れのバツイチなんかと結婚するんじゃなかったかなぁ……」 「でも、好きなんでしょ?」 「まぁ……妹に元旦那寝取られて、妹と元旦那の間に出来た子だけ置いて、二人駆け落ちしたとか言われたら、放っておけないじゃん?」 「でも、そんな作り話みたいな事ある?」 「そうなんだよ。よくよく考えたら、そんな話し実際ないよなぁって」  〝あの子〟は可哀想な姉にあげた。  そして、姉はこの郒と再婚して、ワタシは一人、〝異物〟が一個。 「嘘つきは泥棒のはじまりよ?」  ワタシは馬乗りになって、硬くなったソレを中へ埋めていく。  体を貫く、快感と優越。  はぁ……堪らない。 「ダメだよ。もう、ゴムないよ?」  ユサユサと、いやらしく腰を振るワタシ。快楽には抗えない、二人。  動きに合わせて揺れる胸を鷲掴みにされて、余裕なく惚ける顔を見下ろしながら……。 「じゃあ、やめちゃう?」  意地悪くペロリと舌を出して、逞しい胸板の真ん中の突起を甘噛みすると、ピクリと跳ねて、「あっ」と、甘く漏らした。 「愛してるよ」  赤い痕をひとつ、ふたつ、付けて、  ━━這う。               黑山羊文學                 デ ロ リ             ██████████████████                 二〇二四年 二月                 著者 Novelee作家様                 編者 CürrØꕤ︎︎                 発行者 黑山羊文學

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【黑山羊文學】デ ロ リ

【黑山羊文學】アイラヴユーの訳し方【企画概要】

 黑山羊文學   アイラヴユーの訳し方 「月が綺麗ですね」  夏目漱石  二月十四日 ヴァレンタイン  愛する相手に「アイラヴユー」を伝えませんか?  〝I Love You〟を貴方なりに訳して下さい。  参加方法は、この概要のコメント欄に貴方の思うI Love Youの訳を書いて下さい。  皆さんの「アイラヴユー」は、二月十四日に【黑山羊文學】から作品としてまとめて投稿させていただきます。  当方からのいいね♡で参加完了です。  皆さんからの素敵な言葉、お待ちしております♪

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【黑山羊文學】アイラヴユーの訳し方【企画概要】

【黑山羊文學】デ ロ リ【企画概要】

    黑 山 羊 文 學           『デ ロ リ』  デロリとは。  画家の岸田劉生が、甲斐庄楠音の作品を「デロリとしている」と評したことがきっかけ。  劉生が初期肉筆浮世絵を評して生みだした造語である。劉生は、市井の風俗を描いた浮世絵に特有の、生々しいしつこさや、独特の濃い表現に「デロリ」という言葉をあてた。 █████ テーマ █████ 【デロリ】 *グロテスクで奇怪で猥褻な世界を表現したもの *退廃的、暗黒的な女性像 *きれいに描かれたものでなく、泥臭くて卑近な日常 *「ありきたりの美人画」には伝えることのできない女の暗部や妖しさを表そうとしたもの *大正デカダンスのあだ花ともいえる異様な作品  デロリの概念を小説で表現して下さい。  参考ワード……デカダンス ファム・ファタル 甲斐庄楠音         肉質浮世絵 █████ 作品形式 █████ *短編小説  原稿用紙 十枚(四千字)~二十枚(八千字)程度 *締切終了後、【黑山羊文學】として、一冊の作品にまとめさせて頂きます █████ 参加条件 █████ *企画概要を全て読み、本企画の内容及び趣旨を把握、理解出来た方 *Noveleeで一作品以上〝小説〟を執筆している  小説とは、筋立てや構成を持ち、物語性がある散文体の事。 *小説の基本ルールに基づく執筆をされている作品  ※【黑山羊文學】執筆するにあたり知っておきたい事。参照 *企画に参加しているという自覚と責任を持って頂きますようお願いします █████ 注意事項 ████ *作品の投稿は、一アカウント一作品 *書き下ろし作品に限ります *性的な描写、暴力的な描写を含む場合は、必ず投稿時にチェックボックスにチェックをして下さい  性的な描写につきましては、冒頭にその旨の表記をお願いします *参加表明はこちらのコメント欄へお願いします。当方からのいいねで参加完了です *参加作品には、作品のタイトルの先頭に【黒山羊文学】(【⠀】込)を、明記下さい。  (例)【黑山羊文學】タイトル *作品の投稿が完了しましたら、投稿完了報告をこちらのコメントにてお願いします。当方からの作品へのコメント、いいねで読了です *参加表明及び、投稿完了のコメントには当方からはいいねのみの対応とさせていただきます。ご挨拶、お礼等は作品のコメントにさせていただきます事をご了承ください  作品のコメントは不要の方がおりましたら、予めコメントにて不要の旨をお伝え下さい *参加表明したにも関わらず作品投稿を期間内にしない、あるいは放棄された場合、以後の【黑山羊文學】の企画はいかなる場合でも全てお断りさせていただきます。もし、辞退される場合は必ず期間内にコメントにてご連絡下さい。 *不明な点、質問等ございましたらコメント欄にてお願いします █████ 期間 ████  二〇二四年 一月 六日 ~ 一月 三十一日  期間内に全ての工程を終了していない場合は、参加放棄扱いになります。参加表明、投稿はお早めにお願いします。  素敵な作品を心よりお待ちしております。 █████ 参加者(順不同・敬称略) █████ ●*CürrØꕤ︎︎ ●*四季人 ●*にゃあ🐾 ●*西崎 静 ●*市丸あや ●*積山 精々

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【黑山羊文學】デ ロ リ【企画概要】

【黑山羊文學】執筆するにあたり知っておきたい事。

 自己流で書くことも、ある種自己表現なのかもしれません。しかし、自己流であるからこそ、せっかくの作品が読まれていないかもしれません。  今回は、〝小説〟を書くのであれば、覚えておかなければならない基本ルールを七つと、文章を書くためのポイントを五つ挙げています。  黑山羊文學にご参加頂く作家様は、基本的な書き方、ルールを守り書く事を心掛けて下さい。不明な点や疑問、質問等ございましたらコメントにて。 一.段落の最初は一字空ける  書き出しや改行後など、文章のはじめは必ず一字空けます。ただし、会話文でカギ括弧(「」)を使う場合には、空白は必要ありません。 二.三点リーダー『…』、ダッシュ『―』は偶数  三点リーダー(…)とダッシュ(ー)は、偶数でならべて使うのが基本です。「……」「――」のような形になります。 三.感嘆符『!』、疑問符『?』の後は全角空白を入れる  感嘆符(!)と疑問符(?)の後は、一字分の空白を設けます。しかし、句点と同じく、「」の中の終わりに来るものに関しては、その必要がありません。 四.句点は「」の最後にはいれなくていい  文章の終わりに句点(。)を入れるのは基本ルールです。ただし、「」の中にある文章の最後には句点を入れなくてもよい、という決まりがあります。 五.会話文の中で改行は基本はしない  これについては、必ずしもダメってわけでもないですが、基本的にはセリフ内での改行はしないのが暗黙のルールです。 六.会話文の中で引用を書く時は『』を使う  登場人物のセリフの中にほかの人物のセリフが入るような場合は、カギ括弧の中にさらにカギ括弧を入れて表現することになります。そのとき中に入るカギ括弧は「二重括弧『』」にする、というのがルールです。 七.数字の表記は、縦書きなら漢字、横書きなら数字  縦書き原稿において、数字を入れる場合は漢数字を用います。ただし、固有名詞や紙のサイズを表す「A5」など、漢数字で表記するとわかりにくくなるものは、アラビア数字を使用してもいいというルールになっています。  この七つをしっかり抑えておけば、作品自体の雰囲気がガラリと変わります。  さらに上の作品を目指すなら、この七つとは別に、次に書く五つのポイントを抑えておくといいかと思います。 八.句読点の使い方  句読点を正しく使うことで、文章が読みやすくなります。適切な場所で文を区切り、意味のまとまりを明確にしてください。 九.文末の「です・ます」、「だ・である」口調の統一  文末の「です・ます」、「だ・である」口調を文章内で混在させることは出来ません。文章全体で統一された語尾を使用することで、読みやすさが向上します。「です・ます」と「だ・である」 が混在している場合、どちらかに統一します。 十.主語述語の関係性  文章内で、主語述語の関係性がズレている場合、意味が通じません。主語と述語が一貫しているか注意する必要があります。 【例】私の将来の夢は、アイドルになりたいです。  この例文は意味が通じません。  主語が〝私の将来の夢〟で、述語が〝なりたい〟だからです。この例題を正しくするのであれば、  私の将来の夢は、アイドルです。  私は、将来アイドルになりたいです。  と、なります。 十一.一文が長くなり過ぎないように  一文が長すぎると、読み手が理解しづらくなります。適切な長さになるように、長い文は分割することを検討して下さい。また、主語述語が繰り返されることなく、簡潔に伝えるられるよう注意します。 十二.文法や表現  誤字脱字や文法の誤りがないかの確認は必須です。表現が適切かどうか、同じような表現の繰り返しや、分かりにくい表現があれば、修正をしてください。  表現に関しては、「とても」や「すごく」など、抽象的な言葉に頼ってしまうと内容の薄い文章になりがちです。類義語や異なる表現方法を用いることで、より文章に重厚感が出ます。  これらのポイントを確認することで、小説の質を向上させることができます。自分の書いた小説を何度も丁寧に読み直すことで、より魅力的な小説になっていきます。満足がいくまで読み返し、納得のできる作品を完成させて下さい。  皆様の素敵な作品のお役に立てれば幸いです。

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【黑山羊文學】執筆するにあたり知っておきたい事。

【黑山羊文學】ハ ッ ピ ィ ホ リ デ イ ズ

 黑山羊文學   ハ ッ ピ ィ ホ リ デ イ ズ  素敵な一日を♪ █████ 目 次 █████ 小さな嘘と倖せを…… 市丸あや ──────────  5 梟雄の止まり木    にゃあ🐾 ────────── 21 愛色の制帽      P・N・恋スル兎 ────── 31 聖夜の魔法      はむすた ────────── 39 まちぼうけくらえど  CürrØꕤ︎︎ ──────── 49 いつかのクリスマス  四季人 ─────────── 55 最高のクリスマス?  星原咲奈 ────────── 65                         黑山羊文學   小さな嘘と倖せを……                          市丸あや 「藤次!!」 「おう!!待たせたなぁ、真嗣、楢山。」   ……12月24日。クリスマスイブ。   神戸のとあるクリスマスマーケットにやってきた、司法修習生時代からの親友である藤次と真嗣と賢太郎の3人。   待ち合わせに10分遅れてやってきた藤次に、賢太郎は渋い顔をする。 「お前なぁ。どうして女との約束は律儀に守るのに、男となると」 「すまんすまん!!そやし、今日は小言は堪忍してぇやぁ〜。出かけに息子に行かんでくれと大号泣されたら、同じ親から分かるやろ〜。なあ?」   その言葉に、賢太郎はグッと言葉を詰まらせ、真嗣はプッと吹き 出す。 「……なんだよ。修習生時代から散々浮き名を流して来た『鬼の南部君』が、今やすっかりパパが板について……笑っちゃう。」 「からかいなや真嗣。そやし、可愛いもんやなぁ自分の子供言うんわ。こないだもなぁ〜」   言いながらスマホの写真を見せようとしたので、賢太郎がまたも口を挟む。 「おい。惚気も良いが買い出し任されてるの忘れるな。」 「ああ!!せやった!!メモメモ……」   そう言ってコートのポケットから藤次はメモを取り出す。 「僕も!嘉代子さんと可奈子に頼まれたもの、忘れないように。」 「じゃあ、行くか。」   ピッと目の前にメモを取り出し笑う賢太郎に2人は頷き、3人はマーケットへと歩みを進めていく。 「買い物の前に、景気付けも兼ねてホットワインでも飲もうかのぅ〜。冷えてかなんわ。なあ?」 「賛成。ただし、甘口でね!」 「あと、一杯だけだぞ?このザル。」 「わこてるわ。ほんならテキトーに場所取っといて。今日は特別にワシが奢ったる。」 「おい。せっかくのイブを水浸しにするつもりか。ホラ。」 「同感。ハイ!」   そうして渡された紙幣を受け取りながら、藤次は渋い顔をする。 「ホンマにお前等、ワシに遠慮言うもんを知らんな。折角人が…」 「ハイハイ。言いたい事なら後で聞くから。早く行って来て!甘口頼んだからね!」 「そうだ。早くしろ阿呆。」   そうしてイートインスペースに消えていく2人を憎らしげに見つめながらも、藤次はフッと笑う。 「ホンマ、持つべきものは同期の櫻……やな。」 * 「でもさー、なんか不思議だよね。こんな歳取ってから家族ぐるみで付き合うようになるなんてさー。ホラ、特に僕らはさ。修習生時代の藤次見てるだけに。」 「だな。あの遊び人が、よくもまあ今まで刺される事なく生きて来た事だけでも奇跡だって言うのに、今や妻と子供2人も養ってるんだからな。」 「ねー。」   家族連れで賑わうフードコートの一角で、近くの屋台で購入したリンゴ飴を頬張る真嗣と、煙草を蒸す賢太郎は、齢50で2児の父になった友人の話題に花を咲かせる。   ほんと縁て分かんないやと言う真嗣に、賢太郎は複雑そうに笑 う。 「谷原(やはら)は、やり直そうとは考えてないのか?嘉代子さん 達と……」 「えっ?!そりゃあ、まあ、…うーん。あるっちゃあるけど、僕が一方的に藤次を好きになって本気になったから別れてくれって言ったんだよ?今更……」 「そうかな?俺は嘉代子さん、まだ脈があると思うんだがなぁ〜。でなきゃクリスマスに、わざわざ横浜から来てくれるか?イケると思うんだけどなぁ。」   言って悪戯っぽく笑う賢太郎に、真嗣は真っ赤になる。 「ち、茶化さないでよ楢山君!!いくら自分が銀婚式でラブラブだからって」 「別に。ウチはウチ。何も変わり映えしないさ。」 「どうだか。娘さん3人独立して、これから抄子さんとイチャイチャし放題だって、内心喜んでるんじゃなーいの?!!」 「バカいえ。50にもなって……」   その割には、顔が赤くなっている賢太郎に、真嗣は盛大にため息をつく。 「あーあ。みんなほーんと、素直じゃないんだから。」 「……そのセリフ、そっくりそのまま返すぞこの金満弁護士。」 「なんだよ。鼻持ちならない公務員。」   皮肉たっぷりの賢太郎に、ベエっと舌を出しておちょくる真嗣。しかし、やや待って2人は盛大に笑う。 「持つべきものは、妻より同期の櫻。だな。」 「そんな事言っていいの?って言いたいけど、僕も……同感。」 * 「はぁー。やあっと買えた。あいつらどこにおんにゃろ…」   ちょっと味見とワインを啜りながら、藤次はフードコート目指しマーケットを闊歩する。   煌びやかな装飾。活気のある声。子供達の笑い声に路上ライブの小洒落た音楽。   何もかもが心躍り藤次の歩みも自然と軽くなる。   と、 「ん?」   ふとマーケットを見やると、華やかなデコレーションが施された、妻も子供達も大好きな苺のたっぷり乗ったショートケーキのクリスマスケーキ。 「頼まれてたんより大きいし、足出るけど、ボーナスも出たし、奮発するか!」   きっと絢音や子供達も喜んでくれる。   そう思い、藤次が店員を呼び止めようとしたら…… 「サンタさん!!こえ下しゃい!!」 「!?」   ーー不意に足元から聞こえた声。   見下ろすと、自分のすぐ側に……2歳になる息子藤太(とうた)より少し年嵩のある男の子が、しわくちゃの2千円を差し出して、自分が買おうとしたケーキを指差していた。   ケーキについた値札は5千円。半分以上も足りない有様に、サンタ姿の店員は困り顔を浮かべている。 「サンタしゃん!!僕いちねん、良い子にしてたよ!そして、ママのためにこれだけ貯めたんだ!ママは自分のために使いなさいって言ってくれたけど、僕……ママにありがとう言いたいんだぁ!!」 「えっと……」   困り果てる店員と、瞳をキラキラさせる少年。   その光景を見て、藤次はキュッと唇を喰んだ後、その少年に歩み寄る。 「ボク?ちょお、ええか?」 「ん?」   小首を傾げる少年の掲げた2千円をそっと自分のコートのポケットに入れると、中に入れていた1万円札と交換する。 「なあにおじちゃん。これ、僕のおかねじゃないよ?」   不思議そうな顔をする少年の毛糸の帽子に覆われた頭をワシャワシャと撫でてやり、藤次はその場にしゃがんで彼と目を合わせてニコリと笑う。 「おじさんはな、マジシャンやねん。今のマジックで、ボクのお金はボクの願いを叶えてくれるお金になった。せやから、寒いよし、迷わず早よ買って、お母はんのとこに、帰るんやで?……メリークリスマス。」   そうして、瞳を白黒させる少年を店員に任せて踵を返した時だった。 「何がマジシャンだ。この大ホラ吹き。」 「ほんと、そう言う嘘つくのだけは、得意なんだから……」 「!!?」   ギクッと肩を振るわせ振り返ると…… 「し、真嗣。楢山︙︙い、いつから……」   背後にいた悪友達に一部始終を見られ真っ赤になる藤次の背を、真嗣は撫でる。 「ま。そう言う優しい嘘をつける藤次に、惚れたんだけどね。」 「全く……あんな景気良く大金渡して、どうすんだ予算。絢音(あやね)さん達ガッカリさせるのか?」 「そ、そやし…」   しゅんと項垂れる藤次に、真嗣と賢太郎は笑い合い、財布からそれぞれ1万円札を取り出して、彼のコートのポケットに入れると、2千円を千円ずつそれぞれの財布にしまうので、藤次はハッと笑う。 「ホンマ、持つべきものは同期の櫻。おおきに。」   そうして、手にしていた……少し温くなったホットワイン片手に、3人は仲良く肩を並べて、それぞれの家族の喜ぶ顔を思い浮かべながら、雪のちらつき始めた光り輝くクリスマスマーケットを、楽しんだのでした。  ーーMerry Xmas❤︎   梟雄の止まり木                          にゃあ🐾 「そんな事、許されると思っておるのか……?」  古天明平蜘蛛を愛でる松永 久秀は、目の前の南蛮人を睨み付けた。  時は師走、年の瀬が迫る頃。 「貴方のお気持ちも重々承知しております。しかし、貴方の甥の内藤 如安や、家臣の結城 忠正や高山 友照……他。キリタンもそう少なくはないでしょう」  そう言い、久秀に睨み付けられているルイス・フロイスは目を細め微笑む。 「そもそも、お前の様な南蛮人がこの城に足を踏み入れる事自体が不徳」  懐で愛でる茶釜を置くと、久秀は携える薬研藤四郎を引き抜きルイス・フロイスの喉元に突き付けると、 「お引き取りいただこうか」  と、詰め寄った。  二人が居る信貴山城下は、久秀と、三好 永逸、三好 政康、岩成 友通のいわゆる三好三人衆との畿内の主導権争いによる内乱が勃発し、今は正にその最中である。 「まぁ、話しを聞いて下さい、ミスターヒサヒデ。今だから、あえて……ですよ。降誕祭はこの戦の、貴方の劣勢が好転するかもしれません」 「貴様の言う、降誕祭に伴う休戦が……か?」 「えぇ。悪い話しではありません」  突き付けられた薬研藤四郎は、ルイス・フロイスの喉元から離され、「話しを続けろ」と鞘に納められた。  事の発端は先刻、高山 友照がルイス・フロイスの元に訪れ、戦中ではあるが降誕祭のミサに参加したいと願い出ると、キリシタンにとって、降誕祭は重んじなければならない行事である事を、久秀は分かっていないと熱心に訴えたのだ。  三好側は兎も角、この〝梟雄〟と異名を持つ松永 久秀が一筋縄ではいかない事など、ルイス・フロイスには想定内で、如何にこの男の機嫌を損なわず休戦をさせるかを思案して、今この場に、信貴山城の天守にいた。 「降誕祭は、あくまで〝迷彩(カモフラージュ)〟。貴方や家臣の英気を養って、低下している意欲を上げる事により、戦の行末も変わるかも知れません」 「……ふん。そんな事か、くだらん」 「後、これは私からのささやかなる贈り物です。降誕祭は贈り物をする慣わしもあるので」  ルイス・フロイスは手にする包みを開き小箱を久秀に差し出すと、怪訝そうに久秀はルイス・フロイスを睨み付け、その小箱を手荒に受け取りその蓋を開けた。 「これは……貴様、これを何処で……」 「貴方に、神の御加護があらん事を」 「ふん、戯けが」  ━━降誕祭のこの日は、この季節には珍しい晴れの日であったが、肌に触れる風は、酷く冷たいものだった。  信貴山城には穏やかな時間が流れている。  降誕祭のミサへ出掛ける内藤らを、久秀は天守から曜変天目茶碗を手に見下ろしていた。 「海老名よ」 「どうなされました」 「この、曜変天目茶碗をどう思う」 「……と、申しますのは?」 「あの、南蛮よ。侮れんな」 「左様ですな」  久秀は薄ら笑いを見せると、 手にする曜変天目茶碗を眺めながら海老名が注いだ酒を煽るのだ。  天守から眺める空に、はらはらと。眞白の雪がひとつふたつ。寒空の下舞い落ちる。 「ほぅ。雪か」 「これは珍しい。通りで床冷えすると思ったら」 「この雪が、この先の戦に吉と出るか凶と出るか」 「松永殿」  久秀と共に外を眺める海老名は、空になった久秀の盃に酒を注 ぎ、 「今宵位は、戦はお忘れ下さい。酒ならこの海老名がとことんお相手致します故」  と、ニヤリと口角をあげた。 「あぁ、そうだな。この世が眞白になる様を見ながら酒を浴びるのも、悪くはない」    血腥い世を生き、散っていく。  泰平を求める者、独裁を目論む者。その先に見たものは様々であったが、その時を生きていた。  降誕祭のこの日の安寧を、永遠と呼べる日がいつか……。  眞白に染める雪の様に。                             終   愛色の制帽                        P・N・恋スル兎  誰だ。師匠すら駆けずり回るほど多忙なこの年末に、最初にクリスマスなんてイベントを持ち込んだ奴は。  イエス・キリストの誕生日? それがどうした。こちとら自分の誕生日すら今年はオフィスビルにひとつ残る蛍光灯の下で、ひっそり迎えているんだぞ。  ヒトサマの、ましてや会ったこともない他人の誕生日を祝福している余裕など、サンタが実在する可能性ほどに皆無だ。 「…………ふぅ」  デスクの上の、スマホが光る。  ……いや、通知は数時間前から鬼のように来ていたのだが、相手にしていたら朝焼けを背景に帰宅しかねなかったので、こちらも心を鬼にして通知音をオフにして無視していた。……が、そろそろ限界みたいだ。  就業のベルは、とっくに鳴り終わっている。  僕は、化粧室に逃げ込んで電話に出る。 『何時まで仕事してるの! 今日は特別な日なのにっ!』 「わかってるさ……でも」 『すぐに帰ってきて!』  僕の恋人はそう言い放つと、ブツン、と、一方的に電話を切る。やれやれ、今日は〝前日(イヴ)〟だろう? 日本人の、そして彼女のイヴに対する熱意は何なのだろう。下手をしたらクリスマス当日よりもマジである。  第一、目の前の課長に何て言って帰ればいいのだ。恨み言ではなく、カンペを寄越して欲しい。とは言え終電も終わろうと言うこの時間。流石に潮時なのも、その通りだった。  席に戻った僕は、意を決してノートパソコンの電源を落として液晶を閉じ、大層な荷物を背負って席を立つ。 「課長!  急用があるので失礼します!」  …………何事も、勢いが大事らしい。僕の突然の裏切り行為に絶句したのか、誰からも反論のようなものはなかった。  背中に刺さる視線が痛いが、例えその視線でハリネズミになったってこの歩を止める訳にはいかない。  終電のベルは、とっくに鳴り終わっている。  近場のタクシーを拾って、飛び乗り住所を告げる。タクシーのラジオからは、あのクリスマスソングが流れていた。この歌の『夜更け過ぎ』ってのは、もうそろそろの時間のことを言うのかな……なんて、名曲を聴く傍らで、僕は今後のプランを組み立てる。何の偶然か、外の小雨もいつの間にか雪に変わっていた。 「……社会人……ねぇ」  まあ一年目のクリスマスなんて、こんなものだろう。学生だった去年までとは、環境が激変している。笑顔でホワイトクリスマスを迎えるには、就職した会社はやや黒い。 だから、これでいい。これが〝今〟の僕の、精一杯だ。  タクシーの運転手さんは気になって仕方がなかっただろうが、車内で準備も万端である。  間もなく、〝前日(イヴ)〟が、終わる。 「その格好はお子さんのためかい? 若いのに偉いねぇ」  自宅近くに到着したタクシーの中で、支払い中に運転手が僕に言う。どうやら車内で準備した僕の格好を見て、そう思ったらしい。 「まぁ、そんなところです。目に入れても痛くないくらい、可愛いんですよ」  適当にそう返すと、僕は軽くなった荷物を手に、タクシーを降りる。つくづく、雨が雪に変わってくれて良かったと思った。 「もう! 遅いってば……って、あは!」  トナカイみたいに鼻を赤くして、わざわざ玄関で待っていたらしい可愛い彼女が、びしょ濡れにならずに済んだのだから。  どうやら僕の格好を見て、いくらか怒りを和らげてくれたみたいだ。僕は懐に仕舞ってあるリングを、服の上から確認する。仕事の疲れを悟られてはいけない。明日の仕事を気にしては行けない。  なんたって、今宵はクリスマスなのだから。 「ただいま。遅くなってごめんよ。メリー、クリスマス」  サンタと僕の本番は、これからだ。  聖夜の魔法                          はむすた 「お父さーん! 私のマフラー知らない?」  玄関に響いた、娘の間延びした声。  まったく、いつも、玄関では声を抑えなさいと言っているのに、いつになったら分かるのやら。  思春期真っ只中で僕の言いつけを聞きもしない娘に、内心立腹である。  しかし、雪まで積もった穏やかな聖夜に、怒鳴り声を響かせるのも、何だか申し訳ない。一先ず、この苛々は飲み込み、 「昨日洗濯したんだ、今持っていくよ」 と如何にも穏やかな父親を演じてみせる。  娘のマフラーを手に、玄関まで向かうと……そこに立っていたのは、天使だった。  普段から綺麗で可愛らしい娘ーー親馬鹿だろうか、否、誰から見ても娘は可愛いはずーーだが、今日は特に美しかった。  嗚呼、大きくなったなぁ、綺麗になったなぁ、と感傷に浸ってみれば。 「ちょっとお父さん、何ぼーっとしてんの」  娘が一喝。せっかく持ってきてやったのに、やはり天使じゃなくて悪魔かもしれない。  でも怒るに怒れないのは、やはり全身を小綺麗に着飾った娘が美しいせい、なんだろうな。  マフラーを手渡すと、娘が軽く会釈して、ドアノブに手をかけた。その背中に、僕は一声かける。 「誰とどこに行くのか行ってから出かけなさい。ルールだろう?」  娘の身を守るためのルールなのだ、例外なく守ってもらわなければ。  すると、振り返って肩越しにこちらに目をやった娘は、眉根にギュッとしわを寄せ、 「いや。お父さんに教える義理なんてない」  小生意気なことを言う。そんな顔も可愛い、だなんて、調子に乗らせたら困るので言えないが。 「父さんに言えないよう相手と出かけるのか?」  聖夜に、洒落た服で、父さんにも言えないような相手と……。  近頃の中学生は大人びている。でも我が子に限ってそんな……。  ーーカレシ、だとか。ありえないよな、と首を振ってみせるが、考えは吹っ飛んで行ってくれない。  昭和のおやじみたいな考えだ。自分でもわかっているけど、娘の身に何かあったらどうしろと。  でも、それでも、まさか我が子に限って? ……最近、娘のスマホ使用時間が増えてきたことが、いまになって気になりだした。  恐る恐る、顔を上げてみれば…… 「変なお父さん。もう、時間ないんだから、行ってきます」  待ってくれ。誰と、どこに行くんだい、どうやらアオハルを満喫している娘よ?  目で、娘に尋ねる。多少眼力が強すぎたかも、しれない。 「ゆう」  耳を、疑う。空間が、瞬間、止まった気がした。  がちゃ……がっちゃん。  もうとっくに娘がとっくに出ていった扉に、問いかける。  ゆうってのは、男か、女か? そんな、冷静に考えれば馬鹿らしいことを考えていたら、後ろから不可解な単語が聞こえてきた。 「とーちゃ」  後ろを向いてみれば、声の主は僕のズボンをあらん限りの力で引っ張っていた。 「心愛、どうした」  思わず、顔が綻んでしまう。ここあ、の名前通り、甘くて暖かいこの天使は、今年四歳になる僕の娘だ。 「とーちゃ、おなかすいた」 「そうか、じゃあ、ご飯にしような」  気づけば、もう六時だ。確かに、お腹が空いたなぁ。  冷蔵庫からチキンを出して(その間、心愛は僕のズボンを引っ張り続けた)、サラダを盛り(そろそろズボンが脱げそうだ)、心愛を席に座らせれば、即フォークで胡瓜を突き刺した我が子。  食いしん坊さんだなぁ、と笑っていたら、子供から爆弾が投げ込まれてきた。 「サンタたん、何時にくる?」  サンタは……他の家ではどうか知らないが、我が家では僕なんだよな、サンタは。 「あー、何時に来るだろうね」 思わず目をそらして言ってしまった。  すると、いい事を思いついたと言うように、心愛が目を光らせて、突拍子もないことを言い始める。 「とーちゃ、写真!サンタたんの写真とっといてよ!」  なるほど、僕にサンタのコスプレをして自撮りをしろ、というわけだ。無理な話だ、つくづく思う、子供は純粋でだからこそ残酷だと。 「お父さんな、サンタさんが見えないんだよ。サンタは大人の目には見えないんだ」 苦しい言い訳で、娘の純粋無垢なお願いをぎりぎりかわす。  結構心が痛むなぁ、これ。  娘の反応を見てみれば、娘はご飯に夢中になっている。ご飯粒まで頬に……おでこにもくっつけて。なぜそこにつくのか謎だ。  でも、この小さな生き物は、存在だけで周りの人を微笑ませてしまうのだから、愛おしいと思う。  ……中学二年生の娘と、四歳の娘。全く違った可愛さがあり、ずっと変わらない可愛さもあり、違った大変さもあり。  子育てって、素晴らしいな。険しい山はたくさんあるけど、それを登り切った後の達成感と見える景色の素敵さは、本当に凄い。  しみじみと、家族を感じる、そんな聖夜が、幸せで仕方がない。  ふと見た妻の仏壇には、赤色と緑色でそろえた花束が添えてある。妻の遺影の目を見て、僕は幸せ者だな、と目で問いかける。  いつも生真面目な顔を崩さずにいた写真の中の妻が、やさしく、少し困ったようにーー生きていたころのように笑ったように見えたのは、聖夜の魔法のせいだろうか。  どこかでジングルベルが流れている。まるで、クリスマスの幸せを歌っているように聞こえた。    まちぼうけくらえど                        CürrØꕤ︎︎  街は浮き足立っている。  煌びやかなネオンに包まれて、行き交う人たちも心浮かれて。俺はそんな人たちを眺めながら、似つかわしくない溜息をつく。  スマホの時計は【21:00】  つい二時間前までのオレは、目の前を歩く人たちと同じ様に心踊っていた事なんて、もうとっくに忘れていた。  ぎこちなく手を繋ぐ二人が、楽しそうに子供を抱っこする夫婦 が、腕を組み妖艶な笑みを漏らすオトナな二人が。みんなこの時 を、幸せな時間を過ごしている。それなのにオレは、こうしてワンコの銅像前で一人、さっきまでホットだったすでに冷めきった缶コーヒーを握りしめて幸せな時間を過ごす人たちを、ただぼんやりと眺めて。  去年は、オレの家の前でオマエがオレの帰りを待っていて、それがきっかけで合鍵を渡した。  一昨年は……イルミネーション見に行って、次の日二人して風邪で寝込んだ。  その前は……。  ……て、何年一緒にいるんだか。  寒空の下、過去のしょうもないこの日を思い出して、にやけてしまう。端から見れば、おっさんが一人思い出し笑いしてるんだから、目も当てられない。  吐く息が白い。  空を見上げるけど、そんなクリスマスソングみたいにタイミング良く雪は降ってこないよな。  ……なんて思いながら、駅の改札口から出てくる人混みを見ていると、見慣れた顔が人をかき分け息を切らしながらこっちに駆け寄ってきた。 「ごめん! 残業で……っっ」 「そうかなぁとは思ってた」 「めっちゃ待ったでしょ?」 「待ち合わせ十九時だったしね」 「あー、ほんとごめんっっ‼ もう帰ったと思ってた」 「じゃあ帰ればよかった」 「えっっ⁈」 「冗談。なんか食べて帰る?」 「ワインとチキンとケーキ買って、家帰ってピザデリバる」 「外で待ち合わせて、結局家?」 「遅くなっちゃったし」 「……それもそうか」  へへへ、と笑うオマエは、寒さで鼻と頬が真っ赤で。そんな感じも相変わらず。  サンタのプレゼント袋並みにパンパンの買い物袋を手に、オレとオマエも相変わらず。  ――何も変わらず、これからもずっと。   いつかのクリスマス                           四季人  クリスマスなんて、この国じゃあ幸福を試す踏み絵でしかない。 〝お前は今、幸せか?〟  赤い帽子の爺さんと、ピカピカ光るモミの木が、勝手に俺たち全員をふるいに掛け、幸か不幸かに二分する、迷惑なイベントだ。  由来がどうとか、そんなものは関係ないし、どうでもいい。大切な人がいるならソイツと幸せ気分で過ごせて、いなけりゃぼっちで冷たい夜を過ごすだけ。とてもシンプルだ。  ぼっちもイヤだが、相手がいない俺はどうすべきか━━?  それを、あーでもない、こーでもないと考えた結果が、 「ただいま座敷あいてまーす!」  ……アルバイトだった。  冷凍庫の中のような夕暮れ時の繁華街、店の看板を片手に、フェルト製の安物サンタのコスプレ衣装を着て呼び込みをしていた。  こんなマヌケな格好までしてるのに、誰も彼も俺の事なんて気にも止めず、まるで電柱でも避けるみたいに、するりするりと横を通り過ぎていく。  もっとも、この仕事は通行人と目を合わせちゃダメだし、行く手を遮るのもNGだ。客引きは、一歩間違うと条例違反になる。  俺は、通行人たちに無視されるツラさと、空気になったみたいな心地よさの狭間で、居酒屋の呼び込みを続けていた。  と、そこに、 「カフェ・リューズでーす。よろしくお願いしまーす❤︎」  背中の方で、鼻に掛かった呼び込み声。  フッと見やると、赤い膝上丈ワンピに赤いケープをあわせたサンタガールが、コンカフェの広告入りのティッシュを配っていた。  高級感のあるベロア生地に、ふかふかのファーがついた衣装が、俺の安っぽい衣装のクオリティの低さを更に際立たせる。  ……ていうか。……なんか距離近くないか?  二メートル間隔でサンタ衣装の呼び込みバイト二人は、どう考えてもヘンだろ。 「……あのー、もうちょい離れてくれません?」  俺は、何気なく身体を反転させ、視線を逸らしながらサンタガールに話しかける。 「イヤです。ここ、ちょうど風こないし。……あ、クリスマスイベントやってまぁす、お願いしまぁす❤︎」  彼女は笑顔を張り付かせたまま答えつつ、ティッシュを配る。 「いやいや、ここ、俺が先に来たんで」 「ふぅん。こんなカッコしてる娘を追い出そうって言うんだ」 「ええ……そんな言い方。……お座敷空いてまーす!」  チラと彼女の方を見る。膝下まであるロングブーツとワンピの裾の間の肌色に目が止まる。 「……えっち」  サンタガールの綺麗な目がジトリと睨んできて、 「ぇ! 違っ! さ、寒そうだなって思っただけだから!」  俺は、慌てて通りに目を向けた。  そこから俺たちは、ぼんやりバイト先の愚痴を言い合いながら仕事を続けた。まったく、酷いサンタもいたもんだ。 「てゆーか、そんなら彼氏と過ごせばいいじゃん」 「いたらバイトなんかしてないし」 「そりゃそうか……。あ、じゃあこの後フリーだったりする?」 「そうだけど……私だって選ぶ権利あるからね?」 「……む。ごもっとも」  お互い、悪そうな顔で笑い合う。 「あ、時間」  不意に、彼女は足元に置いた箱やカゴをまとめ出した。 「店に戻るの?」  つい、名残惜しい空気を出してしまって、俺は苦笑いする。 「ううん、私はこのまま上がり。じゃ、お疲れー」  対して彼女は、サラッとした口調でそう言うと、さっさと行ってしまった。  ……はぁ、と寒空を見上げて溜め息を一つ。  クリスマスの奇跡ってのに期待したんだけどなぁ……。 「……ぶえっくしょ!」  くしゃみして、鼻を啜る。  だいぶ冷えてきた。そろそろ次のカイロ開けなきゃか?  と、思っていたら、そこに、 「はい」  ホットミルクティーのペットボトルが、すっと差し出された。  驚いて振り向くと、サンタガールがニッコリ笑っている。 「プレゼント。話し相手してくれたお礼」 「え、あ、ありがとう」  戸惑いながら、受け取る。……温かい。 「でも、返せるもんが無いな……。じゃあコレ」  俺はお返しに、おずおずと、店のクーポンを差し出した。 「はは! いらねー!」  そう言いながらも、彼女はそれを受け取ってくれた。  これは、もしやワンチャン残っているのでは?  頼む! 俺にも、微笑んでくれ、クリスマス! 「……後で、店に来てくれたらさ、ちゃんとお礼するから」  勿体ぶった言い方をした俺を、彼女は鼻で笑った。 「やめとく。……いつかね」  そう言って、小さく首を振る。  ……まぁ、そうか。そんなに上手くいくワケ無いよな。 「いつか、か……」  つい必死になってしまった自分が、恥ずかしい。 「フフ、焦んなくてもいいじゃない」  彼女はケープを靡かせながら、その場でクルリとターンする。 「クリスマスまで、まだ一年あるんだしさ」                              了   最高のクリスマス?                          星原咲奈 受験生が書く小さな一つの物語、 その物語は今のあなたと似ているかもしれません。 それって、どんな物語ですか? 親はうざい、そう思っている物語ですか? そんなことを思っているそこのあなた!!この物語を読んで もう一度親のありがたみを僕と一緒に考え直しませんか? 最高のクリスマス   リンリンリンリン~ 『今月はクリスマスか…』 私はこの時期が一番嫌い。 だって、高校生の私にはプレゼント なんてないから… 『…この時期にあるのは期末考査と、懇談…  それに、クリスマス彼氏もいないからぼっちかー  あぁいいな、中学生は気楽で  高校生なんて、ほんとに疲れる、  何が青春だよ。  高校生楽しくないじゃん!!  親も失敗だし…』 こんなことを思う十二月なぜなら 懇談をすでに終えていて成績で親 と喧嘩した最悪ともいえる十二月。 喧嘩の内容もそれほど重大なことではなく ただ、私の成績が下がって口喧嘩をした、だけだ。 『ほんと、なんで素直になれないのかな、私は…  ってもうこんな時間?  帰りたくないけどそろそろ帰らないとね…』 重い脚を動かしながら家路に向かう… 家の近くについたとき見覚えののある影が見えた、お母さんだ。 家の前では、お母さんが寒い中ジャンバーを着て待っていた。 家について、弟に聞いてみると、私が出て行ってから、 すぐにご飯の準備を終わらして、家の前で待っていたらしい、 1時間以上出て行って行ってたのに︙なんかすごく申し訳ないな… そんな思いをしながらリビングに行ってみる、 とそこには仕事が忙しくて今日は帰ってこれないと、 思われていたお父さんの姿があった、 そして、そのお父さんの手には両手サイズの箱があって 『それ何?あ、兄弟へのクリスマスプレゼント?』 と聞いてみた、私は (どうせお母さんか兄弟へだよね、わたしにプレゼンとなんてないし。) しかし、そんな私の予想は外れた。 その箱は私に渡された。 両親にその箱を開けてみなさい、と言われて開けてみたら、 そこには、私がずっとほしかった ヘッドホンと、アイパット式のパソコンが入っていた 『嘘、なんで?私には、もうないんじゃなかったの?』 そういうと両親は 「大切な娘にプレゼントがないわけないでしょ?  サンタからはもらえないけど︙  いつも頑張ってるあなたにプレゼントよ?  いつもお疲れ様。」 と優しく言ってくれた。 私は涙が止まらなかった。 だって親がこんなに私のことを思ってくれていたから。 この時私は改めて思った、 (あぁ、家族って大切だな  一生かけて守ってあげたい) そんなことを思っていた。 今年の冬、私は、家族のありがたみと、 親が娘に思っていた本当に気持ちがうち明かされた 最高の年末になったのだった。 end 初のクリスマス小説です 下手ですいません アドバイスお願いします            黑山羊文學             ハ ッ ピ ィ ホ リ デ イ ズ           ▉▉▉▉▉▉▉▉▉▉▉▉▉▉▉▉▉▉▉▉                二〇二三年 十二月                著者  Novelee作家様                編者  CürrØꕤ︎︎                発行者 黑山羊文學

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【黑山羊文學】ハ ッ ピ ィ ホ リ デ イ ズ

【黑山羊文學】ハ ッ ピ ィ ホ リ デ イ ズ【企画概要】

 黑山羊文學   ハ ッ ピ ィ ホ リ デ イ ズ  素敵な一日を♪  ████ テーマ █████    【クリスマス】  様々なクリスマスをテーマにした作品  タイトルとテーマにふさわしい内容で、全年齢対象作品のみ          █████ 作品形式 ████   ✺ 小説・詩   スマホ閲覧で十ページ、PC閲覧で五ページまでの作品。今回は書き方等、自由といたします    ✺ 締切期日終了後、オムニバスとして当アカウントから投稿いたします      █████ 参加条件 █████   ✺ Novelee作家様 ✺ Noveleeで一作品以上、小説又は詩を投稿されている方 (日記、エッセイ、雑談等は除外) ✺ 書き下ろし作品に限る ✺ 投稿は一人一作品        █████ 参加方法 █████   ✺ 参加表明はこちらのコメント欄へお願いします。当方からのいいねで参加完了です ✺ 参加作品には、作品タイトルの先頭に【黑山羊文學】(【⠀】込)を、明記して下さい (例)【黑山羊文學】タイトル ✺ 作品の投稿が完了しましたら、投稿完了の報告をこちらのコメント欄にてお願いいたします。当方からの作品へのコメント、いいねで完了です  █████ 注意事項 █████   ✺ 性的または暴力的な描写は禁止です ✺ 参加表明及び、投稿完了のコメントには、いいねのみの対応とします。ご挨拶、お礼等は、投稿して頂いた作品へ感想と共にコメントさせて頂きます  尚、作品へのコメントは不要の場合、予めコメント不要とお伝え下さい ✺ 参加表明したにも関わらず、作品を期間内に投稿されない、若しくは報告なしに投稿を放棄された場合、以後の【黑山羊文學】の企画はいかなる場合でも参加をお断りさせていただきます。もし、辞退あるいは投稿が遅れる場合は、必ず期間内にその旨をコメントにてご連絡下さい ✺ 不明な点、質問等ございましたらコメントにてお願いします    多数の方が関わる企画に参加しているという自覚と責任を持って頂きますようお願いいたします。        █████ 期間 █████    二〇二三年 十二月 一日~十二月 二十日    期間内に全ての工程が終了している事。参加表明、作品投稿はお早めにお願いいたします。                素敵な作品を、心よりお待ちしております。          █████ 参加者(敬称略) █████  〇✺ CürrØꕤ︎︎  〇✺ はむすた  ○✺ 市丸あや  〇✺ P.N.恋スル兎  ○✺ にゃあ🐾  〇✺ 四季人  〇✺ 星原咲奈

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【黑山羊文學】ハ ッ ピ ィ ホ リ デ イ ズ【企画概要】