りとがみ
19 件の小説今後の活動方針について。
どうもりとがみです。ご無沙汰しております。 今後の活動方針についてのお話です。 はい。 異世界リアストの連載を取りやめ、短編だけ置くことにしました。 短編の物置風にしました。 最近あまり筆が乗らず、短編も連載を書くこともほとんど無くなっていました。 スランプ状態なのかもしれません。 まぁ、気長に待ってくださると助かります。 異世界リアストはカクヨムに配信してるのでそちらでどうぞ。 お疲れ様です。
『わたげに乗って、あなたの元へ。』
春になると、黄色い可愛らしいお花の絨毯が広がる。 ミツバ、ハコベ、シロツメクサ。 緑の絨毯の間からぴょこっと顔を出す。 黄色い花。 いずれ、黄色の絨毯へと変わっていく。 たんぽぽ。 花言葉は、「愛の神託」「真実の愛」 ゆらゆら。 風は花を揺らす。 さぁぁ。 葉の擦れる音が、空気に溶ける。 開花してから、四回日が沈む。 花を閉じ、ゆっくりとお辞儀をする。 周りの草にかくれんぼ。 のんびりと、種を育てる。 十三回目の日が昇る。 太陽に触れたい。まっすぐに立ち上がる。 たんぽぽの頃より、さらに大きく。 届け。真実の愛よ。 黄色い花びらの帽子を脱ぎ捨てて。 幾百もの細いガラスの針を、 一本ずつ丸く植え付けたかのような繊細を持つ。 触れればすぐに形を崩してしまいそうな、 頼りない光の繭。 わたげ。 花言葉は、「離別」 新しい旅立ち。 びゅうっ。強い風が吹く。 光の粒子が弾けたように、 白いわたげたちがそれぞれの方向へ優しく散っていく。 綿毛の根元には、日の光を浴びてきらきらと輝く、 黄金色の細かなパウダーが大切そうにまとわされている。 それはまるで、愛しい人へ贈るための特別なギフトのよう。 ふわふわ。ゆらゆら。 空気の流れに乗り、高く、時には低く、 あなたの元へ。 窓が開いた教室へと流れ込む。 けだるげにノートにペンを走らせるあなた。 綿毛は吸い寄せられるように、 その鼻先へと、ふわり。と不時着した。 その瞬間、黄金色のギフトが、 まるで光の粒子が弾けるように優しく舞い散る。 「ぶぇっくしゅんっ!!あー!花粉ヤベーよ先生ーっ!!窓閉めようよ!!」 鼻を擦りながら、生徒は文句垂れる。 「エアコンがまだ協議中なんだ。我慢してくれ。」 はぁ、と溜息をつきながら、授業を進める。 「ちくしょー。なんでこの学校エアコン無いんだよぉ。」 その生徒の声に、くすくすと教室が笑いに包まれた。 生徒はティッシュで何度も鼻をすすり、 恨めしそうに窓の外の青空を見上げる。 「まじで……花粉だけは勘弁してくれぇ……」
『しゃっくりの止め方は、想いを告げる』
私たちは、広い堤防に並んで座っていた。 頭上には、どこまでも続く大きな空。 目の前には、夕焼けに染まる海。 沈んでいく太陽を、毎日こうして二人で眺めている。 私は麻衣。 隣にいるのは、幼馴染の大智。 たわいもない話をして、笑って、また明日ねって帰る。 ずっと、それだけだった。 幼馴染は友達。 恋愛感情なんて無い。 ――そう思っていた。 「ひっく。」 隣から変な声が聞こえた。 「あはっ、どうしたの大智。急にしゃっくり?」 「あー……なんでだろ。今何もしてなかったよな? ひっく。」 大智は困ったように喉を押さえる。 「えー、じゃあ私が、赤子も泣き止む驚く話をしてやろうではないか!」 「ひっく。赤子は驚く話理解できないと思うけどな。」 「聞いて驚けぇい!」 「お前が聞けよ。」 夕焼けの中、大智は呆れたように笑った。 「ラッコって寝る時、流されないように手繋ぐんだって!」 「……へぇ。」 「しかも、ふわふわ浮きながら!」 「可愛いじゃん。ひっく。」 「クラゲって脳みそ無いんだよ!」 「ひっく。」 「無反応!?」 「いや、どう反応しろってんだよ。」 「カワウソって、お気に入りの石をずっと持ち歩くらしいよ!」 「へぇ。」 「ポケットに入れて寝るんだって! かわいー!」 「お前より女子力高ぇじゃん。ひっく。」 「失礼すぎる!!」 私は大智の肩を軽く叩く。 大智は笑いながらしゃっくりを続けていた。 「キリンってね、一日の睡眠時間20分ぐらいらしいよ!」 「そうなんだ。」 「20分なんて寝た気しないよねー!」 「お前は10時間寝ても眠そうだもんな。……ひっく。」 「それはそう。」 「認めるな。」 ふふっ、と二人で笑う。 潮風が頬を撫でた。 オレンジ色の光が、ゆっくり海へ沈んでいく。 「ぜーんぜん!止まんないじゃーん!」 「いや、話に驚くというか、つまらない事に驚いてるよ。」 「驚いてんじゃん!」 「次ー。ひっく。」 「仕方ないなー! パンダって、一日の半分ぐらい笹食べてるんだって!」 「へー。ひっく。」 「しゃっくりって100回すると死んじゃうんだよ!?」 「有名すぎて驚きもせんわ。」 大智は笑いながら空を見上げる。 「なんかもっとこう……俺が知らなそうな話くれよ。ひっく。」 「えぇ……。」 私は少し黙った。 夕焼けが、ゆっくり赤く濃くなっていく。 「……え……じゃあ……。」 喉が熱い。 なんで今こんなに緊張してるんだろう。 言うつもりなんて無かったのに。 「…………私は……。」 口を尖らせながら、もごもごと小さく呟く。 「……大智が、好き…………。」 沈みかけた太陽みたいに、顔が熱くなる。 しばらく沈黙が流れた。 そして。 「…………ふっ。」 大智が小さく笑った。 「知ってる。」 「――――っ!!?」 顔が一気に熱くなる。 真っ赤だ。 絶対、今の私、真っ赤になってる。 「あ、しゃっくり止まった。」 「う、うそうそ嘘!!今のは嘘だよ!!冗談冗談! マイケル・ジョーダン!!」 「なんだその誤魔化し。」 大智は楽しそうに笑う。 「しゃっくり止まったから。ホンモノって事で。」 「ち、ちがーーーう!!」 私は両手で顔を隠した。 今、どんな顔してるんだろう。 真っ赤な夕焼けが、隠してくれてるんだろうか。 もっと照らしてほしい。 でも、隠してほしい。 そんな矛盾した気持ちの中。 それでも。 隣で笑う君の顔が、どうしようもなく好きだった。 大好き。 『しゃっくりの止め方は、好きを告げる』
『堕ちる快楽、完璧主義者』
『堕ちる快楽、完璧主義者』 城間完平(しろま かんぺい)は、完璧主義者だった。 曲がったネクタイも許せない。 報告書の誤字も許せない。 机上のズレた書類ですら、指先で揃え直す。 警察内部でも有名だった。 「あの人、ミスしないよな。」 「怖ぇけど、完璧なんだよ。」 その評価こそ、城間完平そのものだった。 だが――そんな彼にも、唯一、解決できない事件があった。 『怪盗sea』 男か女かも分からない。 姿すら掴めない。 海を泳ぐように、軽やかに。 波を越えるように、セキュリティを掻い潜り。 そして、宝だけを奪って消える。 どこの警察も捕まえられない。 誰一人として、正体へ辿り着けない。 完平にとって、それは人生で初めての“完璧ではないもの”だった。 * * * 久しぶりの休日だった。 仕事帰りでもない。 張り込みでもない。 本当に、ただの休日。 完平は静かなカフェで、コーヒーを飲んでいた。 その時だった。 ふと視線を上げた先。 一人の女性と、目が合った。 「――――っ。」 青く、深い瞳。 まるで海の底みたいだった。 吸い込まれる。沈んでいく。 一瞬で、目を奪われた。 一目惚れだった。 完平は慌てて視線を逸らした。 鼓動がうるさい。 なんだこれは。 落ち着け。冷静になれ。 「すみません。」 透き通った声。 顔を上げると、彼女が困ったように微笑んでいた。 「相席、いいですか?どこも空いてなくて……」 「は、はい!!」 声、裏返ってないか? 変じゃなかったか? 完平は一人で焦っていた。 周囲に空席が大量にあることなんて、その時はまるで気付かなかった。 彼女は椅子に座る。 ふわり、と甘い香りがした。 「……失礼でしたら、すみません。もしかして、体、鍛えられてますか?」 「えっ、わ、分かりますか?」 「はい。私、鍛えてる腕、好きで……」 彼女は少し恥ずかしそうに笑う。 「その……触っても、いいですか?」 「は、はい!」 完平は慌てて袖を捲った。 「わぁ……。」 細い指が、ゆっくりと腕へ触れる。 「素敵。この筋肉、かっこいいですね。」 柔らかい指先だった。 その瞬間、心臓が大きく跳ねる。 ドクン、ドクン、と暴れる鼓動。 落ち着け。落ち着け……! 「あの……良かったら、連絡先、交換しませんか?」 「も、もちろんです!!」 完平は即答した。 一目惚れした相手から、連絡先を聞かれる。 そんな奇跡みたいなことが、本当に起きるなんて。 彼は知らなかった。 その瞬間から、自分がもう“堕ち始めていた”ことを。 * * * それから、彼女とは何度も会った。 名前は、澄海(すみ)。 話し方も。 笑い方も。 青い瞳も。 全部が綺麗だった。 不思議だった。 完璧主義の自分なら、本来気になるはずなのに。 彼女の些細なミスも。 ズレた会話も。 待ち合わせの遅刻も。 何一つ、気にならなかった。 むしろ、その全部が愛おしかった。 * * * 「城間さん、最近なんか変じゃない?」 「なー。前より優しくなったよな。」 部下達の噂話も聞こえていた。 仕事中、ミスも増えた。 書類を一枚落とす。 報告を聞き逃す。 以前の自分なら、絶対にありえない。 「しっかりしろ、俺……!」 何度、自分に言い聞かせただろう。 だが、その度に思い浮かぶのは、彼女の笑顔だった。 * * * ある日。 澄海から、博物館へ来てほしいと言われた。 博物館デート。 悪くない。 いや、むしろ最高だった。 案内されたのは展望台だった。 夕暮れが、ガラス越しに街を染めている。 「ここからの景色、綺麗ですね。」 「ええ……綺麗です。」 完平は彼女を見る。 「……それは、あなたも……あ。」 しまった。 口走った。 「ふふっ。」 澄海は楽しそうに笑った。 「完平さんって、面白い方ですね。」 「あ、あはは……初めて言われました。」 「そうなんですか?」 彼女は少し顔を近づける。 「……じゃあ、私が、完平さんの“初めて”貰っても?」 「っ……!?」 完平の心臓が跳ね上がった。 つ、付き合うってことか!? そういう意味か!? 頭が真っ白になる。 澄海は、そっと彼の頬へ手を添えた。 冷たく細い指。 だが、その感触は熱を持つように心へ残る。 「……完平さん。」 青い瞳が、まっすぐ彼を見つめる。 「私と一緒に、堕ちませんか?」 「……は、い。」 完平は、迷わなかった。 * * * 気が付けば、ヘリコプターの中だった。 「完平さん?完平さーん!」 「はっ!?」 意識が戻る。 「俺は、一体……」 「うふふ。」 澄海は楽しそうに笑っていた。 「完平さんにだけ、私の特別、見せてあげます。」 彼女はシートベルトを外し、ジャケットを脱ぐ。 「な、何を……!?」 「ちゃーんと、見ててね?」 その笑顔を最後に。 彼女は、空へ飛び込んだ。 「澄海さん!?」 ヘリの真下。 そこは、博物館。 次の瞬間。 ――――バリンッ!! 彼女は天窓を突き破った。 「こちらを。」 「え……?」 運転手から渡されたタブレット。 そこには、彼女視点の映像が映っていた。 レーザーを避ける。 警備を欺く。 セキュリティを、海を泳ぐように掻い潜っていく。 「……まさか。」 鏡へ、一瞬だけ姿が映る。 そこにいたのは、別人だった。 「怪盗sea……!?」 完平の背筋が凍る。 今まで捕まえられなかった怪盗。 何年も追い続けた存在。 そして。 一目惚れした女性。 澄海。 sea。 海。 全部が、一つに繋がってしまった。 『私と一緒に、堕ちませんか?』 あの言葉の意味を、今、理解した。 怪盗seaに。 心までも盗まれてしまったのだ。 * * * ジリリリリリリリ!!!! 警報が鳴り響く。 同時に、ヘリからワイヤーが下ろされた。 それを掴み、引き上げられる怪盗sea。 「あはっ。完平さん、なんて顔してるの?」 戻ってきた彼女は、楽しそうに笑っていた。 完平は、自分でも分からなかった。 今、俺はどんな顔をしている? ずっと捕まえたかった怪盗。 ずっと一緒にいたかった女性。 その二つが、同じ存在だった。 「……次は、一緒に行きましょうね?」 細い指が、頬を撫でる。 「ちゃんと、最初から最後まで、教えてあげます。」 ――もう、どうでもよかった。 正義も。完璧も。 警察という立場も。 彼女と一緒にいられるなら。 どこまでも、堕ちていい。 その日から、城間完平は警察へ来なくなった。 彼は、澄海と共に。 深い怪盗の海へ。 甘い快楽の海へ。 静かに、溺れていく。 完璧主義なんて、忘れるほどに。 あぁ――なんて幸せなんだ。 この快楽を、もう忘れることなんてできない。 澄海さんと一緒なら。 俺は、何にだってなれる。 だから。 俺は、完璧を捨てた。 『堕ちる快楽、溺れた怪盗』
主人公になりたい!僕の夢のお話!
やっほー!僕はりとがみくん! なななんと!ついに主人公デビュー! 今まで脇役だけだったけど、ついに許可が出ました! さくらぎちゃんありがと〜!! と、言うことで、今回のお話は。 僕がこないだ見た夢を元に作成されたお話です! 夢って不思議ですよね!場面が急に切り替わる! 夢でも異能力を見るって……相当大好きなんだなって……驚きです。 本編どうぞー! * * * チョキ、チョキと。ペットボトルを切る少女。 大きさは不揃い。細かく、大きく、バラバラに、 テーブルの上に散乱していく。 白く広い、何もない空間。 ハサミ、ペットボトル、テーブルだけが、中央に置かれていた。 チョキ、チョキ。 音が静かな空間に響く。 それは、どこかこもっているようで、何かを探す音がする。 * * * 僕は買い物に来ていた。 一人一パックの卵を買うために家族五人で来た。 それを二周する。十パックあれば、一週間は持つ。 そんな中、二週目の最中、僕はあるものが気になった。 クレーンゲームやメダルゲームが置かれたゲーセン。 音楽は騒がしく、人はまばら。 タバコと硬貨が入った灰皿。空いた席。 レジを抜け出し、灰皿に手をかける。 こんなことしていいはずがない。 これは窃盗だ。逮捕されてしまう。 頭ではわかっていた。でも、頭だけだった。 350円。 僕はそれを握りしめる。 そして――。 走り出した瞬間、パーカーのフードを引っ張られた。 「おい。何しているんだ。」 大柄の男に話しかけられる。 「……350円。お返しします」 素直に返す。取らなければいいものを。 「……こいつを食ったら許してやろう。」 差し出される火のついた煙草。 「はい」 何故か受け入れ、口に入れる。 熱い、臭い、苦い。美味しいとは思えない。 でも、受け入れれば許される。 そう願い、飲み込む。 喉が焼ける。苦しい。 「……食べました。」 あー、と口を開ける。 「ふん。」 男は、鼻で笑うとその場を離れた。 「……けほっ。まずぃ。」 んべっと、煙草を吐き出した。 * * * 店を出て、車で家に帰る。 「んー。んー??」 運転席のお父さんは、ミラーで後ろを確認する。 「どうしたの?」 「なんか、さっきからやたら着いてくる車いるんだよな。俺なんかしたか?」 僕は後ろを見る。 その運転席には、先程僕に絡んできた男の姿があった。 横には奥さんか?僕を睨んでいる。 ピタリと着いてきた……。 「くそ、うぜぇな。撒いてやるよ!!」 お父さんはヤケになり、スピードを上げる。 右に曲がり、左に曲がり、Uターンを繰り返す。 「はぁ!?まだ着いてくるかよ!なんなんだよ!!」 お父さんの怒りはヒートアップしていた。 僕はゆっくり後ろを見る。 それに、ふと違和感を感じる。 ――運転手がいない。横の奥さんも。 いや、"無い"のは人の頭。 首から上がすっかり無くなってしまっている。 僕は怖いのが苦手だ、すぐに前を見ると。 「ふふっ♪」 可愛らしい女の子の声がすぐ後ろから聞こえた。 怖くて振り向けない。後ろには人は乗れないはず。 狭い荷物置きしかない。 ドキドキと、心臓の音が体全体へ響く。 ちらりと、ミラーを見る。 そこには小さな和服の女の子が、僕を見ていた。 「えへへ♪」 彼女は微笑み、そして――。 手を一線、ピッと振る。 その瞬間。 僕以外の家族の首が飛んだ。 後ろの運転手と同じ状況だ。 怖かった。怖くて、慌ててドアを開け飛び降りる。 ガチャッ、ドッ、ゴロゴロ。 身体が痛い。受身が取れたかなんて分からない。 ただ、家族の首が無くなったことに、衝撃を受けていた。 心臓が服を突き抜けるほど、暴れていた。 ――怖かった。 「よう。おめぇか?……スミラってやつは。」 背後から急に低い声の男に話しかけられた。 「……?あなたは?」 「……俺は黯翔(くろと)。お前は、スミラか?」 黯翔という男は顔面に黒い包帯を巻いていた。 黒いパーカー、黒いズボン。黒く塗りつぶしたような。 「……ぼく、は。」 ――その時。 「弟を離しなさい!!」 若い女性の声。警察の服をしていた。 「……はぁ、まだ触ってねぇだろ。」 男はイラついたように、足をトントンし始める。 僕にお姉ちゃんなんて居ない。 じゃあ、僕は誰? チョキ、チョキ。 ハサミがペットボトルを刻む音が聞こえる。 交番の横のテーブルで、刻んでいた。 少女は、無心でペットボトルを切る。 チョキ、チョキ。ひたすらチョキ、チョキ。 警察のお姉さんは、黯翔に銃を向ける。 「弟を離しなさい!!」 バンバンッ!バンッ! 三発。 黯翔の顔と体を貫通している。 だが、痛がる様子がない。 「はぁ。くだらねぇな。」 男は、地面に転がる男の子を持つ。脇に抱える。 「すぅ……すぅ。」 いつの間にか、眠っていた。 そうか、この子は僕じゃない。 コネクトが切れていた。 「離しなさいってば!!!」 バンッバンッ!追加で撃つ。 だが、それすらも貫通して終わり。 痛がる様子もない。 「なん……で?」 警察のお姉さんの、か細い声が空に浮く。 「それだけか?弟を取り返したいのに、それしかできねぇのか?」 黯翔はやれやれと言うように、手を振る。 「は、離しなさいっ……!!」 警察の声は怯えていた。 「ひらり。やれ。」 「はーい!ひらりんちょ!」 ひらりと呼ばれた和服の女の子は、ひらりと腕を振ると。 「っーーーっ!!!」 警察官の体、骨、声までも、切ってしまつた。 静寂が訪れる。 空気が重い。 「よし。帰るぞ、ひらり。目的は手に入れた。」 「はいはーい!帰る!」 黯翔は腕の中の寝ている男の子をちらりと見た。 チョキ、チョキ。切る音が聞こえる。 チョキ、チョキ。 チョキン。 「……それ、楽しいか?」 黯翔は立ち止まり、ふと質問した。 「……。」 少女は首を振る。 「……そうか。……見た、よな。……見られたからには、 ――お前も消えてもらう。ひらり。」 「はいはーい!おまかせー!ひらりんちょ!」 ひらりが腕を振る。 一撃が、小屋を、地面を抉る。 だが、それは一人を覗いて。 チョキン。ハサミで一撃を切っていた。 少女は表情を変えず、ゆっくりまばたきをする。 「わぁ!わたしの斬撃(リッパー)、切られちゃった!」 「……へぇ、異能を切る、ね。お前、何の異能持ちだ?」 「……。」 少女は答えない。だが、手だけは動いた。 チョキン。何もない空間を切る。 その瞬間、黯翔の胸に一線、血が滲み出した。 「っ!……お前、もしかしてその異能は断絶か?俺の無痛すらも切られるなんて。」 「…………。」 黯翔は胸を押さえる。少女は何も言わない。 「断絶??ひらりの斬撃(リッパー)切られたのもそのことー?」 「あぁ、恐らくな。これはボスに報告したら、絶対欲しいとか言い始めるぜ?」 「いいねー!つよいひとすきー!」 「いや、強い人だろうけども。どうやってこいつ持って帰るんだよ。話も通じないのは無理だろ。……一度撤退の方がいい。抱えてるこいつだってあぶねえからな。」 ふと、腕の中で眠る少年を見る。 「えー、もう帰るのー?つまんなーい!!まだ遊ぶーー!」 「いいから、帰るぞ。俺の無痛が効かない相手に、これ以上ハンデある上で関わってたら皆死ぬぞ。」 「けちー!くろとのけちーーっ!!」 「はいはい、なんとでも言え。行くぞ。」 黯翔とひらりは、振り向きその場を離れる。 「ひらりねー!クレープ食べたい!!さっきあそこで見たやつ!」 「わがまま姫だな。わかったよ。」 たわいのない雑談をしながら二人と、腕の中で眠っている少年は、遠く、消えていった。 「……クレープ……?」 ハサミの少女は、少しだけ反応していた。 チョキ、チョキ。 何もないかのように、ペットボトルを切り始める。 いつの間にか、視点は僕に変わっていた。 目の前のペットボトルを切る。 チョキ、チョキ。 チョキン。 空気を切った。 ―――――――――――――――――― 【あとがき】 りとがみだよーっ!! これはこないだ見た夢です! 夢を元に作成した異能力達です! 夢って、不思議ですよね。 さっきまであれやってたと思ったら、 場面が切り替わって次はここにいる。 何故なんでしょうね? 今回の夢、夢占い的には。 ・350円盗む → 小さな罪悪感 ・タバコを食べる → 理不尽を我慢して飲み込む ・首が飛ぶ → 安心が壊れる恐怖 ・ペットボトルを切る → 無心になりたい ……らしいです! 結果的にストレスらしいですー!!!! なんでもストレスに繋がるじゃんね!? 夢を見るのも、夢の続きを考えるのも、異能力バトルするのもだーいすき! ……募集の、自分の主人公にしてって、これでいいのかな……。 夢の話だし、急に視点変わるし……。 本当にこれでいいのか分からなくなりました…… 僕は……どれが……僕なのか……。 僕は……だれ……? ――チョキン。 気づけば、ハサミを持っていた。
『ジンセイソウ』
種を植えた。 それは、新しい命。 毎日、水をあげる。 毎日、声をかける。 毎日、「愛してる」と伝える。 時が経つ。十月十日。 やがて、小さな新芽が顔を出す。 命が生まれる。 愛情をかける。 世界にひとつだけの愛情を。 あなただけの、人生を。 ここは、頭に花が咲く世界。 ◇ 私は十歳になった。 でも、頭に咲くはずの花は、まだ蕾のままだった。 「出来損ない」 学校では、何度もそう言われた。 赤い花を咲かせた子。 青い花を咲かせた子。 綺麗な花を揺らしながら、みんな笑っている。 羨ましかった。 どうして私だけ、咲かないんだろう。 そんな私に、母はいつも優しく笑ってくれた。 「大丈夫。きっと綺麗な花が咲くわ」 その言葉だけが、救いだった。 けれど――。 十八歳になっても、私の花は咲かなかった。 ◇ 才能は、“何か”に触れた時に開花する。 だから私は、色んなことに挑戦した。 水泳。 テニス。 体操。 書道。 でも、どれも駄目だった。 長く続かなかった。 そんな中で、唯一続けていたものがある。 バレエだった。 踊っている間だけは、何も考えなくて済む。 蕾のことも。 周囲の視線も。 出来損ないだと言われることも。 全部、忘れられた。 だから私は踊る。 ただ、それだけのために。 けれど周囲は違った。 「下手くそ」 陰で笑われる声。 先生ですら、いつしか私を見なくなっていた。 それでも、私は舞った。 この時間が好きだから。 音楽に溶ける、この瞬間が。 私の一部だったから。 発表会の日。 大きなステージ。 眩しいライト。 客席を埋める沢山の人。 次々と踊り終えていく生徒達に、拍手が送られる。 滑らかな動き。 柔らかな指先。 咲き誇る花達。 そして――私の番が来た。 ステージ中央へ歩き出した瞬間。 くすり、と。 客席から笑い声が漏れた。 みんな、私の頭を見ていた。 蕾だから。 十八歳にもなって、まだ咲かない花。 それでも。 私は顔を上げた。 音楽が流れ始める。 私は踊る。 ひらり。 はらり。 トッ――トン。 腕が風を切る。 足が空気を裂く。 回って、跳ねて、舞い上がる。 音楽に身を委ねるように。 ただ、自由に。 いつの間にか、笑い声は消えていた。 観客も。 審査員も。 誰もが、私を見ていた。 でも、その時の私は気付かなかった。 それは、後日に知った。 母から渡されたビデオテープを見て、私は知った。 踊っている最中。 私の蕾が、ゆっくりと開いていたことを。 真っ白な、美しい花。 それは、静かに咲いていた。 音楽が止む。 私は静かに、床へ降り立った。 会場は、静まり返っていた。 誰も何も言わない。 あぁ。 やっぱり、駄目だったのかな。 そう思い、ステージを降りようとした時だった。 ぱち、ぱち。 小さな拍手が響く。 母だった。 涙を浮かべながら、誰よりも強く拍手をしていた。 その音に続くように。 一人。 二人。 やがて、会場全体が拍手に包まれる。 鳴り止まない拍手。 震えるほどの歓声。 私は、その場で立ち尽くしていた。 ようやく、認められた。 ようやく、見てもらえた。 私は――。 私は、ここにいて良かったんだ。 涙が溢れた。 その日から、私の人生は変わった。 憧れていたバレエ団からスカウトが届き。 舞台に立てば、満席になる。 拍手喝采。 光の中で、私は踊り続けた。 幸せだった。 本当に。 そしてある日。 私の白い花に、小さなピンク色の花が咲いた。 新しい命だった。 種を植えた。 私は、毎日水をあげる。 私は、毎日声をかける。 私は、毎日「愛してる」と伝える。 十月十日。 新芽が顔を出す。 命が生まれる。 私は、この子を見守りたい。 この小さな命に、幸せを教えたい。 たとえ、どんな花が咲いても。 たとえ、咲くのが遅くても。 大丈夫だよ、と。 あなたは、あなただけの花を咲かせるんだよ、と。 私は、伝え続けたい。 蕾が花咲く、その日まで。
『呼吸』
ぶくぶく。 泡が上へと昇っていく。 海の中は広く、青く、透き通っていた。 ぷかぷか。 力を抜けば、体はゆっくり浮かんでいく。 ゆらゆら。 水が揺れる。まるで海と一体化したように。 淡い太陽の光が、水面から差し込んでいた。 少し前に、僕はこの海へ飛び込んだ。 ただ、息を止めたかった。 波に揺られて、頭の中を空っぽにしたかった。 ひとつ、またひとつと。 嫌な記憶が、水の中へ溶けていく。 ずっとこのままでいたい。 けれど、人間の体はそれを許してくれない。 息が吸えない。 苦しい。 どうして人は、呼吸をしないと生きられないんだろう。 考えても分からない。 ただ、苦しい。 誰か。 助けて。 手を上へ伸ばす。 ――死にたくない。 いや、助けてもらったら意味がない。 僕は慌てて水面へ向かって泳ぎ出した。 バシャッ!! 「ぷはぁああああっ!!あーっ!!死ぬかと思ったぁ!!」 思いっきり息を吸い込む。 その瞬間。 「3分16秒!!なんと今回の『水中息止め地区大会』優勝者はぁ――!!水野いき選手だぁぁぁーーーっ!!」 司会の声がマイク越しに響いた。 「いぇーーーい!!」 俺は両手でガッツポーズを決める。 「すげぇぇぇっ!!」 「地区記録更新だろこれ!!」 「やっぱ水野つえー!!」 友達、家族、親戚、観客たちが大盛り上がりする。 「なお、水野選手は去年、息継ぎをして失格になっています!!」 「言うなーーーっ!!」 会場が笑いに包まれた。 「次回!県大会編!!新たなる強敵をお楽しみにーっ!!」 「いや、続かねぇよ!!」 俺のツッコミが、海辺に響いた。 おしまい。
『BROTHER SOUP』
昆布を噛む。 黒いトレンチコート。 深緑のうねった髪を靡かせ。 ハードボイルドな男は、風を切るように。 歩いていた。 男に、皆目を引かれる。視線が集まる。 「ふん。今日は暖けぇ風が吹いてんな。視線が熱いぜ」 このハードボイルドは、 『出汁 昆布』 昆布を噛みながら、我が道を歩く。 そして、 ひとつのドアの前で止まった。 ビルとビルの間に、小さな小屋。 黒く塗りつぶされた壁に、 『出汁のポイ捨て禁止』の紙が貼られていた。 黒く重い扉を押し込む。 ギギギ、と音がなる。 ドアを開けると、そこは地下へ続く階段だった。 男は階段を降りる。 トン、トンと一定のリズムで。 降りた先にあるのは、茶色のドア。 ドアノブに手をかけ、少し開けると。 中からリズミカルな音楽が漏れ出す。 盛り上がっているようだ。 男は、グッとドアノブを握りしめ引っ張る。 ドアをくぐれば、そこは音が鳴り響くクラブだった。 踊る者、歌う者、飲み合う者。 様々な人が盛り上がっていた。 カツ、カツと、クラブの中を真っ直ぐ歩く。 男を見たひとりが声を出す。 「昆布様が来たぞ!」 その声で、盛り上がっていた観客達は一斉に 男を見た。 昆布は真っ直ぐにステージに登る。 そして、 トレンチコートを脱ぎ捨てた。 漆黒のシャツ。開かれた胸元。 スポットライトが照らす。 口に咥えた昆布を噛み、男は笑った。 乱雑にマイクを取る。キィンと、高い音が鳴る。 「よう、具材共!元気にしてたかい!?」 「「「YEAHー!!!」」」 昆布の掛け声で、観客の歓声は大きくなった。 「今日もぶち上げて行くぜ〜っ!!YEAH!!」 ロックな音楽が歓声をかき消した。 だが、観客も負けじと声を張る。 「uh〜!派手じゃなくても支えてんだ、 迷ったら昆布に決めな〜wow」 昆布の歌が、クラブを揺らす。 「「昆布様〜!」」 観客は、昆布に釘付けになっていた。 「〜〜♪センキュー!!」 「「「「キャアアアア」」」」 パチパチと拍手、歓声が昆布を包む。 「それじゃあ、次の曲行く――」 「おいおいおい、そんな生ぬるい歌、歌ってんじゃねぇぞ。」 突如として、昆布の声を遮るように、 低い声が飛ぶ。 スポットライトが、部屋の端に移る。 そこには、 帽子を後ろ向きに被る、壁に寄りかかっている者がいた。 銀色のメッシュが入った青髪。 耳には片耳ピアス。 ダボッとしたパーカーの上から、 黒いジャケットを羽織っていた。 首元では、銀色のチェーンネックレスが揺れている。 男は、ニヤリと鋭い歯を見せた。 「なんたって、出汁はおめぇだけじゃないぜ?」 指でリズムを刻みながら、ゆっくり前へ出る。 ガンッ、とスピーカーに足を乗せた。 「俺は、魚介の出汁。――出汁 魚介だ」 歓声が上がる。 「うおおおお!!」 「魚介様ーーっ!!」 「待ってましたァ!!」 魚介はマイクを掴むと、肩を揺らしながら笑った。 「煮干し、鰹、飛魚まで。海の旨味を舐めんなよ?」 ラップの音がクラブに響く。 「Ahー!香りでぶん殴る魚介のパンチ! 一口飲めばお前もランチ!」 「「「huー!!!」」」 突然の参加者に、会場は大盛り上がり。 「俺のかっけぇ、リリックをクリック! ライムを返せよ、出汁の昆布!」 「「「YEAHーー!!」」」 歓声が、大きくクラブを揺らす。 昆布は、口に咥えていた昆布を噛み切る。 バキッ。 ゆっくりマイクを持ち上げ、低い声で笑った。 「魚介の香りも悪くねぇ。だが――」 スポットライトが、黒いシャツを照らす。 「土台がなけりゃ、旨味は立たねぇだろ?」 「うおおおおお!!」 「昆布様ァァ!!」 昆布はビートに合わせ、指を鳴らした。 「深く染み込む海のソウル 静かな旨味が支配するボウル」 「派手さだけならお前の勝ち? だが最後に残るのは昆布の価値!」 「「「huー!!!」」」 観客のボルテージがMAXに上がる。 「「wow-wowどっちもいいじゃん」」 「「wow-wowブチ上げてもいいじゃん」」 「「wow-wow食べれば最高じゃん!」」 「「hu〜!!」」 最高に、盛り上がった。 その時だった。 ガコッと、天井が開く。 「うわぁぁ!!手だ!!人間の手だぁあ!!」 「キャアアアア!」 天から大きな手が降りてくる。 先程までの歓声は、悲鳴へと変わっていた。 「みんなーっ!逃げろーっ!!うわっ!?」 昆布が手に掴まれる。 「兄さんっ!!やめろぉ!離せー!」 魚介は大きな手に飛び付き、 鋭い歯でカプっ。 魚の歯は痛い。 一瞬、手が怯み緩くなる。 その隙に、昆布は手から抜け出す。 「ありがとう、弟よ……!」 「兄さん!助けれてよかっ――」 昆布の元へ降りた魚介が、再び手に捕まる。 「にいさーんッ!」 「おとうとーーーっ!!!」 昆布は必死に手を伸ばすも、 その手は届かなかった。 「……あぁ、弟よ……そんな……」 天に消えた魚介を見て、膝から崩れ落ちる。 「うぅ……私の、大切で、唯一無二な弟よ……」 ぼろぼろと、涙が溢れ落ちる。 * * * ――厨房―― 「あっれぇ?昆布取ったつもりが魚介取ってた……」 コックの格好をした男は手の中の魚介を見ていた。 「シェフ〜、さっき変更があって、昆布じゃなくて鶏ガラ出汁がいいそうです。」 後ろから声が飛ぶ。 「はぁ!?昨日昆布って言ってたろ!!」 「いや。僕に言われましても……。」 「あんの、クソわがまま王子め……!!ふざけやがって……!」 「それ王子に絶対言わないでくださいね!?!?」 シェフは、魚介を箱に戻した。 * * * ――出汁クラブ―― 「……うっうぅ。弟よ……」 昆布は悲しみに暮れていた。 その時だった。 「にいさーーんっ!!」 「弟!?」 天から声が聞こえ、上を見ると。 ゆっくりと天から降ってくる魚介がいた。 「弟!!あぁ、弟!!」 「兄さん!会いたかったよ!」 「あぁ、私も会いたかったよ!今度は絶対離さない」 熱いハグを交わす。 パチ、パチ、と周りから拍手が二人に送られた。 おしまい。
【完】
「書道部の陰キャメガネ」 いつも、そう呼ばれていた。 バシャッ! トイレの個室に閉じ込められ、水をかけられる。 「きゃははは!お前、墨汁臭いんだよ!!」 「陰キャ、洗ってやるよ!」 三人組の笑い声が、狭い個室に響く。 久墨すみれは、濡れた制服のまま俯いていた。 教室へ戻る。 すると、自分の机が真っ黒に塗り潰されていた。 「あっれー??どうしたのこんなに真っ黒で!アハっ!」 「書道部なんだから墨汁好きでしょ?いっぱい塗っといたよ!キャハハ!」 「陰キャ汚ったなーい!あはは!」 三人の笑い声。 黒い机。 刺さる視線。 いじめは、二年続いていた。 * * * ある日の放課後。 「ねぇねぇ、身長高いあんたにお願いしたいんだけどさぁ」 三人組の一人が、わざとらしく笑いながら言った。 「体育館倉庫の窓のとこにボール挟まっちゃって! 取ってくれない?」 「お願い!もう虐めないから!」 期待なんてしていない。 それでも、頼み事を断れない性格だった。 * * * ――体育館倉庫。 「あそこ!あそこにあるやつ!」 高い窓に、ボールが挟まっていた。 すみれは背伸びをする。 あと少し。 指先が届く。 その時だった。 ガラガラッ!! バタン!! カチャン。 「……えっ」 振り返る。 閉まった扉。 鍵の音。 慌ててドアへ駆け寄る。 ガチャガチャとドアを引く。 開かない。 「「キャハハハハ!!」」 外から笑い声が聞こえた。 「陰キャには暗闇がお似合いだよ!!」 「あー!暗闇って黒いじゃん!墨汁も黒い!」 「すごーい!めちゃくちゃお似合いじゃーん!!」 笑い声が遠ざかっていく。 すみれは、その場に立ち尽くした。 暗い。 冷たい。 静か。 ドアは開かない。 時間が過ぎるのを待つしかなかった。 * * * ――翌朝。 朝練に来ていた生徒が、倉庫を開けた。 「うわっ!?」 「……おはようございます」 すみれがいた。 静かに床に座り込んでいた。 その出来事は、すぐ学校中に広まった。 けれど、すみれは騒ぎを大きくしなかった。 許したわけじゃない。 ただ――覚えていただけ。 * * * ――放課後―― 三人組の一人が騒いでいた。 「ねー、アタシの携帯知らなーい?」 「あー、体育館じゃね?」 「音鳴らしてみよーよ!」 * * * ――体育館。 携帯へ電話をかける。 すると、遠くから着信音が聞こえた。 「ん?倉庫の方じゃね?」 倉庫の扉が少し開いている。 「えー?ボールと一緒に入れちゃったかなぁ?」 三人が笑いながら中へ入った。 その瞬間。 「「「うわぁああっ!?」」」 足元の高さに貼られていたテープに足を取られ、 全員が転倒する。 ビチャッ。 「うぇ……なにこれ!?」 「くっさ!! 墨汁じゃね!?」 「やだ汚っ!!」 その時。 ガラガラッ!! 扉が閉まった。 「えっ!?」 「ちょ、待って!!」 カチャン。 鍵が掛かる。 「閉じ込められた!!」 「最悪なんだけど!!」 「墨汁ってことは……あの陰キャじゃないの!?」 倉庫の外。 すみれは小さく笑った。 「……ふふ。陽キャも、黒い墨汁と暗闇。お似合いだよ」 べーっと舌を出す。 「じゃあ、また明日」 「出せーー!!」 「クソ陰キャが!!」 「しねーー!!」 その時だった。 ポタ……。 天井から、黒い液体が垂れる。 「……え?」 ポタ、ポタ、ポタ。 「なにこれ……」 「墨汁……?」 次の瞬間。 ザーッ!! 「「「イヤアアアアアッ!!!!」」」 大量の墨汁が降り注いだ。 真っ黒な液体。 真っ暗な倉庫。 叫び声だけが響いていた。 校舎には、もう誰もいない。 黒い暗闇が、三人を包み込んでいた。 * * * ――翌朝。 「朝練始めるぞー」 バスケ部顧問が倉庫を開ける。 「うわぁっ!?」 墨汁まみれの三人組が転がっていた。 「んぁー……朝?」 「やっと誰か来たし……」 顧問は顔をしかめた。 「お前ら!!何やってるんだ!!倉庫もマットも真っ黒じゃねぇか!!」 「はぁ!?あたし達じゃないし!!」 「久墨すみれ!!あいつがやったんだって!!」 顧問は怪訝そうに眉をひそめた。 「……はぁ?久墨?」 三人は息を呑む。 「そんなやつ、去年からいないだろ」 「……え?」 顧問は頭を掻いた。 「あー……そうか。今日だったな」 「な、なんだよ……」 「……あいつは去年の今日、この倉庫で自殺しただろ」 「「「…………えっ」」」 静寂が落ちる。 * * * ズザァッ――。 大きな半紙に、黒い文字が刻まれる。 「よいしょ……うふふ」 長い髪を揺らしながら、少女は筆を走らせた。 真っ黒な墨で、ゆっくりと。 大きく。 『【完】』 「……なんてね」 少女は、くすりと笑った。
『この涙って……。』
ぽろり、涙が出た。 あれ……どうしてだろう。 膝の上の猫を優しく撫でる。 悲しい訳じゃない。 辛い訳でもない。 自然と、涙が零れた。 最近見た、大切な者を失った話のせい? 昨日見た、子供の成長のせい? 今日聞いた、親の怒号のせい? なんで僕は涙を流しているのだろう。 ただ、猫を見ていた。 ゴロゴロと、喉を鳴らしていた。 優しく撫でる。 昨日、愛猫が亡くなる動画を見た。 もし、うちの子が亡くなってしまったら。 僕は、耐えられない。 でも受け入れるしかない。 また、ぽろりと涙がこぼれる。 この涙は、なんの涙なのかな。 膝の上の猫が、ゆっくり僕を見る。 「にゃあ〜」 小さく、撫でてと、鳴いた。 ――あ。 僕は、気付いた。 この涙って……。 そういやさっきから目が痒い。 ポリポリ。 「にゃー!(ねぇ!)」 「あぁ、ごめんって。アレルギーなんだって。」 「にゃー!(撫でろ!)」 「はいはい、可愛いやつめ。よしよし。」