りとがみ
72 件の小説『わたげに乗って、あなたの元へ。』
春になると、黄色い可愛らしいお花の絨毯が広がる。 ミツバ、ハコベ、シロツメクサ。 緑の絨毯の間からぴょこっと顔を出す。 黄色い花。 いずれ、黄色の絨毯へと変わっていく。 たんぽぽ。 花言葉は、「愛の神託」「真実の愛」 ゆらゆら。 風は花を揺らす。 さぁぁ。 葉の擦れる音が、空気に溶ける。 開花してから、四回日が沈む。 花を閉じ、ゆっくりとお辞儀をする。 周りの草にかくれんぼ。 のんびりと、種を育てる。 十三回目の日が昇る。 太陽に触れたい。まっすぐに立ち上がる。 たんぽぽの頃より、さらに大きく。 届け。真実の愛よ。 黄色い花びらの帽子を脱ぎ捨てて。 幾百もの細いガラスの針を、 一本ずつ丸く植え付けたかのような繊細を持つ。 触れればすぐに形を崩してしまいそうな、 頼りない光の繭。 わたげ。 花言葉は、「離別」 新しい旅立ち。 びゅうっ。強い風が吹く。 光の粒子が弾けたように、 白いわたげたちがそれぞれの方向へ優しく散っていく。 綿毛の根元には、日の光を浴びてきらきらと輝く、 黄金色の細かなパウダーが大切そうにまとわされている。 それはまるで、愛しい人へ贈るための特別なギフトのよう。 ふわふわ。ゆらゆら。 空気の流れに乗り、高く、時には低く、 あなたの元へ。 窓が開いた教室へと流れ込む。 けだるげにノートにペンを走らせるあなた。 綿毛は吸い寄せられるように、 その鼻先へと、ふわり。と不時着した。 その瞬間、黄金色のギフトが、 まるで光の粒子が弾けるように優しく舞い散る。 「ぶぇっくしゅんっ!!あー!花粉ヤベーよ先生ーっ!!窓閉めようよ!!」 鼻を擦りながら、生徒は文句垂れる。 「エアコンがまだ協議中なんだ。我慢してくれ。」 はぁ、と溜息をつきながら、授業を進める。 「ちくしょー。なんでこの学校エアコン無いんだよぉ。」 その生徒の声に、くすくすと教室が笑いに包まれた。 生徒はティッシュで何度も鼻をすすり、 恨めしそうに窓の外の青空を見上げる。 「まじで……花粉だけは勘弁してくれぇ……」
第31話 VS巨大蜘蛛
巨大蜘蛛の脚が振り下ろされる。 ギャインッ ドゴォオオォン!! 一線が走る。 鋭い刃が洞窟を切り裂く。 「「うぉぉお!?」」 阿良木と森嶋は咄嗟の回避をした。 「えいっ、えいっ♪」 稚鴉は小さな蜘蛛を片っ端から燃やし倒していた。 阿良木達は走り回る。 「あいつひとりで何遊んでんだ!!俺ら囮かよー!」 「どうする阿良木!俺らなんも出来ねぇぞ!?」 「どうするっつったって!攻撃出来ねぇじゃん!!お前鉄壁使えよ!!」 「使っても誰が攻撃するんだよ!」 「それもそうだ!!!」 ヒュッ、ドゴオオオオ!! 振り下ろされた刃が阿良木達を襲う。 「ひぃぃぃ!!勘弁してくれよー!俺ら攻撃出来ないって〜!」 阿良木は涙を流しながら回避。 「つか、お前って鉄壁以外になにか……あれ?森嶋?」 一緒に走っていたはずの森嶋が、忽然と消えた。 「あーらーきー!」 「ん?」 どこからか森嶋の声がする。 「たーすけてくれー。」 「あーっ!お前何して!!!」 先程の衝撃で吹き飛ばされ、巨大蜘蛛の背中の棘に引っかかっていた。 「――いや、お前それチャンスかもしれねぇーぞ!?殴れ!!蜘蛛を殴れ!!」 阿良木の頭にピーンと閃いた。 「殴るつったって、鎧が引っかかって動けねーの」 「それ脱げよ!」 「脱いだら意味ねーじゃん!?」 「そうか!!」 蜘蛛の目がギョロリと動く。 「……あ、どうも。初めまして。お綺麗、ですね。」 森嶋と目が合った。 次の瞬間。 ドゴォォォォン!! 刃が飛んでくる。 「ひぃぃ!」 咄嗟にスキル《鉄壁》を発動し、盾で攻撃をずらした。 ギュァアアアア!! 刃が蜘蛛に刺さってしまい、蜘蛛は痛みでもがく。 「……おっ、自爆ってこと?」 阿良木はその様子を見ていた。 「うおっ!」 森嶋は地面に振り落とされた。 「森嶋!こいつ阿呆かもしれん!自爆で苦しんでる!」 「阿呆はお前だけで十分だが……わかった!どうすりゃいい!?」 ボソッとつぶやくも、すぐに切り替えた。 「その鎧で突っ込め!自爆させろ!」 「…………はい???」 「いいから早く!!」 「……えっ。あー、もう!!《鉄壁》っ!! うおおおおおお!!!」 森嶋は鉄壁の盾を握り巨大蜘蛛に突っ込む。 ――が。 「あーーれーー」 ペイっと弾かれた。 「森嶋!?」 「うべっ!」 壁に打ち付けられた。 「まじかよ!弾かれたらどうしようもないじゃん!?」 阿良木は焦る。 「くっそぉ……!!もう一回だ!!!《鉄壁》っ!!」 森嶋は諦めずに、再び突っ込む。 「きゃーーっ!」 また弾かれる。 「何してんだお前ーっ!!」 思わず怒号を飛ばす阿良木。 「うぉぉぉ!俺は諦めないーっ!!!《鉄壁》!」 「行けー!刺せー!!諦めるなーっ!!!」 阿良木の手元には、新聞とシントウと書かれた馬券があった(?) 「うぉぉぉぉぉっ!!!」 手足の刃をするりと抜け、巨大な体へ突っ込む。 その時だった。 森嶋のスキルに変化が起きる。 一歩、また一歩が重く地面を抉りながら走る。 盾も、鎧も、全てが重い。 ズシン、ズシンと音を立てる。 「うおおおおおおーーっ!!」 ドゴォォンッ!!! 巨大蜘蛛に突っ込んだ。 蜘蛛は少しずつ後退する、力に押し負けている。 「いいぞーーっ!!シントウーっ!!刺せーーっ!」 阿良木は新聞を振り回す。 「うぉぉぉぉお!!うぉおー……!うお…………ぉぉおおお!?!?阿良木ー!?やべぇこれ!!!」 森嶋は巨大蜘蛛を押しながら、阿良木に助けを求めた。 「えっ、何!?勝つ?勝つ!?」 「いや何言ってんのかわかんねぇーけど!!これ、なんか制御効かねぇーっ!!」 《テッテレテーン!森嶋郁夜!レベルアップ!》 「今!?」 「まじ!?」 《新スキル会得》『重装圧』 「新スキル?……あー、これの事か?つか、まじで止まんねーっ!」 ぐいぐいと、スキルが勝手に押し込む。 「あー、ちなみに言うと、森嶋。それ押し込んでどうするの?」 「いや、知らねぇ!?なんか打開策あるんじゃねぇの!?」 「「えっ。」」 まさかのお互いノリと勢いだけでやっていたのであーる。 その瞬間、洞窟の空気がゆっくりと渦巻き出す。 「《魔皇業火《サタン・インフェルノ》》」 稚鴉の静かな声と共に。 ――ボゥッ。 小さな火種が生まれた。 「……え?」 阿良木が声を漏らした瞬間。 ゴォォォォォォォォォォッッッ!!!! 洞窟内を、紅蓮の業火が埋め尽くした。 岩壁が赤く染まり、熱で空気が歪む。 巨大蜘蛛の黒い外殻が、一瞬で焼け焦げていく。 ギュァァァァアアアアアアッ!!!! 巨大グモの絶叫が洞窟を揺らした。 「アッチィィィィィィイイイイ!!! 稚鴉ーーーっ!!!俺も焼けるーーーッ!!!」 森嶋は巻き添えを食らっていた。
『しゃっくりの止め方は、想いを告げる』
私たちは、広い堤防に並んで座っていた。 頭上には、どこまでも続く大きな空。 目の前には、夕焼けに染まる海。 沈んでいく太陽を、毎日こうして二人で眺めている。 私は麻衣。 隣にいるのは、幼馴染の大智。 たわいもない話をして、笑って、また明日ねって帰る。 ずっと、それだけだった。 幼馴染は友達。 恋愛感情なんて無い。 ――そう思っていた。 「ひっく。」 隣から変な声が聞こえた。 「あはっ、どうしたの大智。急にしゃっくり?」 「あー……なんでだろ。今何もしてなかったよな? ひっく。」 大智は困ったように喉を押さえる。 「えー、じゃあ私が、赤子も泣き止む驚く話をしてやろうではないか!」 「ひっく。赤子は驚く話理解できないと思うけどな。」 「聞いて驚けぇい!」 「お前が聞けよ。」 夕焼けの中、大智は呆れたように笑った。 「ラッコって寝る時、流されないように手繋ぐんだって!」 「……へぇ。」 「しかも、ふわふわ浮きながら!」 「可愛いじゃん。ひっく。」 「クラゲって脳みそ無いんだよ!」 「ひっく。」 「無反応!?」 「いや、どう反応しろってんだよ。」 「カワウソって、お気に入りの石をずっと持ち歩くらしいよ!」 「へぇ。」 「ポケットに入れて寝るんだって! かわいー!」 「お前より女子力高ぇじゃん。ひっく。」 「失礼すぎる!!」 私は大智の肩を軽く叩く。 大智は笑いながらしゃっくりを続けていた。 「キリンってね、一日の睡眠時間20分ぐらいらしいよ!」 「そうなんだ。」 「20分なんて寝た気しないよねー!」 「お前は10時間寝ても眠そうだもんな。……ひっく。」 「それはそう。」 「認めるな。」 ふふっ、と二人で笑う。 潮風が頬を撫でた。 オレンジ色の光が、ゆっくり海へ沈んでいく。 「ぜーんぜん!止まんないじゃーん!」 「いや、話に驚くというか、つまらない事に驚いてるよ。」 「驚いてんじゃん!」 「次ー。ひっく。」 「仕方ないなー! パンダって、一日の半分ぐらい笹食べてるんだって!」 「へー。ひっく。」 「しゃっくりって100回すると死んじゃうんだよ!?」 「有名すぎて驚きもせんわ。」 大智は笑いながら空を見上げる。 「なんかもっとこう……俺が知らなそうな話くれよ。ひっく。」 「えぇ……。」 私は少し黙った。 夕焼けが、ゆっくり赤く濃くなっていく。 「……え……じゃあ……。」 喉が熱い。 なんで今こんなに緊張してるんだろう。 言うつもりなんて無かったのに。 「…………私は……。」 口を尖らせながら、もごもごと小さく呟く。 「……大智が、好き…………。」 沈みかけた太陽みたいに、顔が熱くなる。 しばらく沈黙が流れた。 そして。 「…………ふっ。」 大智が小さく笑った。 「知ってる。」 「――――っ!!?」 顔が一気に熱くなる。 真っ赤だ。 絶対、今の私、真っ赤になってる。 「あ、しゃっくり止まった。」 「う、うそうそ嘘!!今のは嘘だよ!!冗談冗談! マイケル・ジョーダン!!」 「なんだその誤魔化し。」 大智は楽しそうに笑う。 「しゃっくり止まったから。ホンモノって事で。」 「ち、ちがーーーう!!」 私は両手で顔を隠した。 今、どんな顔してるんだろう。 真っ赤な夕焼けが、隠してくれてるんだろうか。 もっと照らしてほしい。 でも、隠してほしい。 そんな矛盾した気持ちの中。 それでも。 隣で笑う君の顔が、どうしようもなく好きだった。 大好き。 『しゃっくりの止め方は、好きを告げる』
『堕ちる快楽、完璧主義者』
『堕ちる快楽、完璧主義者』 城間完平(しろま かんぺい)は、完璧主義者だった。 曲がったネクタイも許せない。 報告書の誤字も許せない。 机上のズレた書類ですら、指先で揃え直す。 警察内部でも有名だった。 「あの人、ミスしないよな。」 「怖ぇけど、完璧なんだよ。」 その評価こそ、城間完平そのものだった。 だが――そんな彼にも、唯一、解決できない事件があった。 『怪盗sea』 男か女かも分からない。 姿すら掴めない。 海を泳ぐように、軽やかに。 波を越えるように、セキュリティを掻い潜り。 そして、宝だけを奪って消える。 どこの警察も捕まえられない。 誰一人として、正体へ辿り着けない。 完平にとって、それは人生で初めての“完璧ではないもの”だった。 * * * 久しぶりの休日だった。 仕事帰りでもない。 張り込みでもない。 本当に、ただの休日。 完平は静かなカフェで、コーヒーを飲んでいた。 その時だった。 ふと視線を上げた先。 一人の女性と、目が合った。 「――――っ。」 青く、深い瞳。 まるで海の底みたいだった。 吸い込まれる。沈んでいく。 一瞬で、目を奪われた。 一目惚れだった。 完平は慌てて視線を逸らした。 鼓動がうるさい。 なんだこれは。 落ち着け。冷静になれ。 「すみません。」 透き通った声。 顔を上げると、彼女が困ったように微笑んでいた。 「相席、いいですか?どこも空いてなくて……」 「は、はい!!」 声、裏返ってないか? 変じゃなかったか? 完平は一人で焦っていた。 周囲に空席が大量にあることなんて、その時はまるで気付かなかった。 彼女は椅子に座る。 ふわり、と甘い香りがした。 「……失礼でしたら、すみません。もしかして、体、鍛えられてますか?」 「えっ、わ、分かりますか?」 「はい。私、鍛えてる腕、好きで……」 彼女は少し恥ずかしそうに笑う。 「その……触っても、いいですか?」 「は、はい!」 完平は慌てて袖を捲った。 「わぁ……。」 細い指が、ゆっくりと腕へ触れる。 「素敵。この筋肉、かっこいいですね。」 柔らかい指先だった。 その瞬間、心臓が大きく跳ねる。 ドクン、ドクン、と暴れる鼓動。 落ち着け。落ち着け……! 「あの……良かったら、連絡先、交換しませんか?」 「も、もちろんです!!」 完平は即答した。 一目惚れした相手から、連絡先を聞かれる。 そんな奇跡みたいなことが、本当に起きるなんて。 彼は知らなかった。 その瞬間から、自分がもう“堕ち始めていた”ことを。 * * * それから、彼女とは何度も会った。 名前は、澄海(すみ)。 話し方も。 笑い方も。 青い瞳も。 全部が綺麗だった。 不思議だった。 完璧主義の自分なら、本来気になるはずなのに。 彼女の些細なミスも。 ズレた会話も。 待ち合わせの遅刻も。 何一つ、気にならなかった。 むしろ、その全部が愛おしかった。 * * * 「城間さん、最近なんか変じゃない?」 「なー。前より優しくなったよな。」 部下達の噂話も聞こえていた。 仕事中、ミスも増えた。 書類を一枚落とす。 報告を聞き逃す。 以前の自分なら、絶対にありえない。 「しっかりしろ、俺……!」 何度、自分に言い聞かせただろう。 だが、その度に思い浮かぶのは、彼女の笑顔だった。 * * * ある日。 澄海から、博物館へ来てほしいと言われた。 博物館デート。 悪くない。 いや、むしろ最高だった。 案内されたのは展望台だった。 夕暮れが、ガラス越しに街を染めている。 「ここからの景色、綺麗ですね。」 「ええ……綺麗です。」 完平は彼女を見る。 「……それは、あなたも……あ。」 しまった。 口走った。 「ふふっ。」 澄海は楽しそうに笑った。 「完平さんって、面白い方ですね。」 「あ、あはは……初めて言われました。」 「そうなんですか?」 彼女は少し顔を近づける。 「……じゃあ、私が、完平さんの“初めて”貰っても?」 「っ……!?」 完平の心臓が跳ね上がった。 つ、付き合うってことか!? そういう意味か!? 頭が真っ白になる。 澄海は、そっと彼の頬へ手を添えた。 冷たく細い指。 だが、その感触は熱を持つように心へ残る。 「……完平さん。」 青い瞳が、まっすぐ彼を見つめる。 「私と一緒に、堕ちませんか?」 「……は、い。」 完平は、迷わなかった。 * * * 気が付けば、ヘリコプターの中だった。 「完平さん?完平さーん!」 「はっ!?」 意識が戻る。 「俺は、一体……」 「うふふ。」 澄海は楽しそうに笑っていた。 「完平さんにだけ、私の特別、見せてあげます。」 彼女はシートベルトを外し、ジャケットを脱ぐ。 「な、何を……!?」 「ちゃーんと、見ててね?」 その笑顔を最後に。 彼女は、空へ飛び込んだ。 「澄海さん!?」 ヘリの真下。 そこは、博物館。 次の瞬間。 ――――バリンッ!! 彼女は天窓を突き破った。 「こちらを。」 「え……?」 運転手から渡されたタブレット。 そこには、彼女視点の映像が映っていた。 レーザーを避ける。 警備を欺く。 セキュリティを、海を泳ぐように掻い潜っていく。 「……まさか。」 鏡へ、一瞬だけ姿が映る。 そこにいたのは、別人だった。 「怪盗sea……!?」 完平の背筋が凍る。 今まで捕まえられなかった怪盗。 何年も追い続けた存在。 そして。 一目惚れした女性。 澄海。 sea。 海。 全部が、一つに繋がってしまった。 『私と一緒に、堕ちませんか?』 あの言葉の意味を、今、理解した。 怪盗seaに。 心までも盗まれてしまったのだ。 * * * ジリリリリリリリ!!!! 警報が鳴り響く。 同時に、ヘリからワイヤーが下ろされた。 それを掴み、引き上げられる怪盗sea。 「あはっ。完平さん、なんて顔してるの?」 戻ってきた彼女は、楽しそうに笑っていた。 完平は、自分でも分からなかった。 今、俺はどんな顔をしている? ずっと捕まえたかった怪盗。 ずっと一緒にいたかった女性。 その二つが、同じ存在だった。 「……次は、一緒に行きましょうね?」 細い指が、頬を撫でる。 「ちゃんと、最初から最後まで、教えてあげます。」 ――もう、どうでもよかった。 正義も。完璧も。 警察という立場も。 彼女と一緒にいられるなら。 どこまでも、堕ちていい。 その日から、城間完平は警察へ来なくなった。 彼は、澄海と共に。 深い怪盗の海へ。 甘い快楽の海へ。 静かに、溺れていく。 完璧主義なんて、忘れるほどに。 あぁ――なんて幸せなんだ。 この快楽を、もう忘れることなんてできない。 澄海さんと一緒なら。 俺は、何にだってなれる。 だから。 俺は、完璧を捨てた。 『堕ちる快楽、溺れた怪盗』
主人公になりたい!僕の夢のお話!
やっほー!僕はりとがみくん! なななんと!ついに主人公デビュー! 今まで脇役だけだったけど、ついに許可が出ました! さくらぎちゃんありがと〜!! と、言うことで、今回のお話は。 僕がこないだ見た夢を元に作成されたお話です! 夢って不思議ですよね!場面が急に切り替わる! 夢でも異能力を見るって……相当大好きなんだなって……驚きです。 本編どうぞー! * * * チョキ、チョキと。ペットボトルを切る少女。 大きさは不揃い。細かく、大きく、バラバラに、 テーブルの上に散乱していく。 白く広い、何もない空間。 ハサミ、ペットボトル、テーブルだけが、中央に置かれていた。 チョキ、チョキ。 音が静かな空間に響く。 それは、どこかこもっているようで、何かを探す音がする。 * * * 僕は買い物に来ていた。 一人一パックの卵を買うために家族五人で来た。 それを二周する。十パックあれば、一週間は持つ。 そんな中、二週目の最中、僕はあるものが気になった。 クレーンゲームやメダルゲームが置かれたゲーセン。 音楽は騒がしく、人はまばら。 タバコと硬貨が入った灰皿。空いた席。 レジを抜け出し、灰皿に手をかける。 こんなことしていいはずがない。 これは窃盗だ。逮捕されてしまう。 頭ではわかっていた。でも、頭だけだった。 350円。 僕はそれを握りしめる。 そして――。 走り出した瞬間、パーカーのフードを引っ張られた。 「おい。何しているんだ。」 大柄の男に話しかけられる。 「……350円。お返しします」 素直に返す。取らなければいいものを。 「……こいつを食ったら許してやろう。」 差し出される火のついた煙草。 「はい」 何故か受け入れ、口に入れる。 熱い、臭い、苦い。美味しいとは思えない。 でも、受け入れれば許される。 そう願い、飲み込む。 喉が焼ける。苦しい。 「……食べました。」 あー、と口を開ける。 「ふん。」 男は、鼻で笑うとその場を離れた。 「……けほっ。まずぃ。」 んべっと、煙草を吐き出した。 * * * 店を出て、車で家に帰る。 「んー。んー??」 運転席のお父さんは、ミラーで後ろを確認する。 「どうしたの?」 「なんか、さっきからやたら着いてくる車いるんだよな。俺なんかしたか?」 僕は後ろを見る。 その運転席には、先程僕に絡んできた男の姿があった。 横には奥さんか?僕を睨んでいる。 ピタリと着いてきた……。 「くそ、うぜぇな。撒いてやるよ!!」 お父さんはヤケになり、スピードを上げる。 右に曲がり、左に曲がり、Uターンを繰り返す。 「はぁ!?まだ着いてくるかよ!なんなんだよ!!」 お父さんの怒りはヒートアップしていた。 僕はゆっくり後ろを見る。 それに、ふと違和感を感じる。 ――運転手がいない。横の奥さんも。 いや、"無い"のは人の頭。 首から上がすっかり無くなってしまっている。 僕は怖いのが苦手だ、すぐに前を見ると。 「ふふっ♪」 可愛らしい女の子の声がすぐ後ろから聞こえた。 怖くて振り向けない。後ろには人は乗れないはず。 狭い荷物置きしかない。 ドキドキと、心臓の音が体全体へ響く。 ちらりと、ミラーを見る。 そこには小さな和服の女の子が、僕を見ていた。 「えへへ♪」 彼女は微笑み、そして――。 手を一線、ピッと振る。 その瞬間。 僕以外の家族の首が飛んだ。 後ろの運転手と同じ状況だ。 怖かった。怖くて、慌ててドアを開け飛び降りる。 ガチャッ、ドッ、ゴロゴロ。 身体が痛い。受身が取れたかなんて分からない。 ただ、家族の首が無くなったことに、衝撃を受けていた。 心臓が服を突き抜けるほど、暴れていた。 ――怖かった。 「よう。おめぇか?……スミラってやつは。」 背後から急に低い声の男に話しかけられた。 「……?あなたは?」 「……俺は黯翔(くろと)。お前は、スミラか?」 黯翔という男は顔面に黒い包帯を巻いていた。 黒いパーカー、黒いズボン。黒く塗りつぶしたような。 「……ぼく、は。」 ――その時。 「弟を離しなさい!!」 若い女性の声。警察の服をしていた。 「……はぁ、まだ触ってねぇだろ。」 男はイラついたように、足をトントンし始める。 僕にお姉ちゃんなんて居ない。 じゃあ、僕は誰? チョキ、チョキ。 ハサミがペットボトルを刻む音が聞こえる。 交番の横のテーブルで、刻んでいた。 少女は、無心でペットボトルを切る。 チョキ、チョキ。ひたすらチョキ、チョキ。 警察のお姉さんは、黯翔に銃を向ける。 「弟を離しなさい!!」 バンバンッ!バンッ! 三発。 黯翔の顔と体を貫通している。 だが、痛がる様子がない。 「はぁ。くだらねぇな。」 男は、地面に転がる男の子を持つ。脇に抱える。 「すぅ……すぅ。」 いつの間にか、眠っていた。 そうか、この子は僕じゃない。 コネクトが切れていた。 「離しなさいってば!!!」 バンッバンッ!追加で撃つ。 だが、それすらも貫通して終わり。 痛がる様子もない。 「なん……で?」 警察のお姉さんの、か細い声が空に浮く。 「それだけか?弟を取り返したいのに、それしかできねぇのか?」 黯翔はやれやれと言うように、手を振る。 「は、離しなさいっ……!!」 警察の声は怯えていた。 「ひらり。やれ。」 「はーい!ひらりんちょ!」 ひらりと呼ばれた和服の女の子は、ひらりと腕を振ると。 「っーーーっ!!!」 警察官の体、骨、声までも、切ってしまつた。 静寂が訪れる。 空気が重い。 「よし。帰るぞ、ひらり。目的は手に入れた。」 「はいはーい!帰る!」 黯翔は腕の中の寝ている男の子をちらりと見た。 チョキ、チョキ。切る音が聞こえる。 チョキ、チョキ。 チョキン。 「……それ、楽しいか?」 黯翔は立ち止まり、ふと質問した。 「……。」 少女は首を振る。 「……そうか。……見た、よな。……見られたからには、 ――お前も消えてもらう。ひらり。」 「はいはーい!おまかせー!ひらりんちょ!」 ひらりが腕を振る。 一撃が、小屋を、地面を抉る。 だが、それは一人を覗いて。 チョキン。ハサミで一撃を切っていた。 少女は表情を変えず、ゆっくりまばたきをする。 「わぁ!わたしの斬撃(リッパー)、切られちゃった!」 「……へぇ、異能を切る、ね。お前、何の異能持ちだ?」 「……。」 少女は答えない。だが、手だけは動いた。 チョキン。何もない空間を切る。 その瞬間、黯翔の胸に一線、血が滲み出した。 「っ!……お前、もしかしてその異能は断絶か?俺の無痛すらも切られるなんて。」 「…………。」 黯翔は胸を押さえる。少女は何も言わない。 「断絶??ひらりの斬撃(リッパー)切られたのもそのことー?」 「あぁ、恐らくな。これはボスに報告したら、絶対欲しいとか言い始めるぜ?」 「いいねー!つよいひとすきー!」 「いや、強い人だろうけども。どうやってこいつ持って帰るんだよ。話も通じないのは無理だろ。……一度撤退の方がいい。抱えてるこいつだってあぶねえからな。」 ふと、腕の中で眠る少年を見る。 「えー、もう帰るのー?つまんなーい!!まだ遊ぶーー!」 「いいから、帰るぞ。俺の無痛が効かない相手に、これ以上ハンデある上で関わってたら皆死ぬぞ。」 「けちー!くろとのけちーーっ!!」 「はいはい、なんとでも言え。行くぞ。」 黯翔とひらりは、振り向きその場を離れる。 「ひらりねー!クレープ食べたい!!さっきあそこで見たやつ!」 「わがまま姫だな。わかったよ。」 たわいのない雑談をしながら二人と、腕の中で眠っている少年は、遠く、消えていった。 「……クレープ……?」 ハサミの少女は、少しだけ反応していた。 チョキ、チョキ。 何もないかのように、ペットボトルを切り始める。 いつの間にか、視点は僕に変わっていた。 目の前のペットボトルを切る。 チョキ、チョキ。 チョキン。 空気を切った。 ―――――――――――――――――― 【あとがき】 りとがみだよーっ!! これはこないだ見た夢です! 夢を元に作成した異能力達です! 夢って、不思議ですよね。 さっきまであれやってたと思ったら、 場面が切り替わって次はここにいる。 何故なんでしょうね? 今回の夢、夢占い的には。 ・350円盗む → 小さな罪悪感 ・タバコを食べる → 理不尽を我慢して飲み込む ・首が飛ぶ → 安心が壊れる恐怖 ・ペットボトルを切る → 無心になりたい ……らしいです! 結果的にストレスらしいですー!!!! なんでもストレスに繋がるじゃんね!? 夢を見るのも、夢の続きを考えるのも、異能力バトルするのもだーいすき! ……募集の、自分の主人公にしてって、これでいいのかな……。 夢の話だし、急に視点変わるし……。 本当にこれでいいのか分からなくなりました…… 僕は……どれが……僕なのか……。 僕は……だれ……? ――チョキン。 気づけば、ハサミを持っていた。
第30話 蟲の洞窟に行ってみた!
――宿屋『キバナ』 阿良木達は、宿屋に来ていた。 「初めて宿屋来たけど、結構デカイんだな。」 「多分、学園の生徒みんな入るようにしてるんじゃないんですかね。」 阿良木はロビーを見渡していた。 「……え、で。何しに来たんだっけ。」 阿良木は首を傾げた。 「お前のバンダナ。今新しいの作ってもらってる。」 「え、誰に。」 神崎の答えに被せるように聞く。 「あらあら、みんな居たのね?お待たせ。」 魔女の格好をした黄色髪の女性が降りてきた。 「あ、稚鴉じゃん。」 「おーっ!稚鴉!今日も魔法作ってんの!?」 阿良木の声に反応した森嶋が声を大きくした。 稚鴉と呼ばれたこの魔女は、西野稚鴉。3年生。 西野姉妹のお姉ちゃんだ。 魔法作りが好きで、クレイジーな魔法ばっか作るもんで、俺達はどハマりよ。 「んふふ、残念だけど、今回は作ってないわ。魔具作りはしてるけどね。」 「魔具?……あー、阿良木のってこと?」 「それもあるわ。でも、ごめんなさいね。完成までは行かなかったわ。」 稚鴉は申し訳なさそうに、視線を下に向けた。 「完成してない……?何故?」 神崎が焦るように前に出る。 「素材が足りなかったのよ。あの洞窟は、普通の冒険者なら近寄りもしない場所だからね。摘めても数本ぐらい。朱里も嫌がるし、長居も出来ないわ。」 「……っ。……そうか。わかった。」 稚鴉の言葉に、神崎は焦りつつ大人しく下がる。 「えー、じゃあ取りに行けばいいんじゃない?」 「そんな簡単言うなお前。」 阿良木の言葉に森嶋がツッコむ。 「……まぁ、取りに行ってくれるのかしら?なら私達も同行していいかしら?」 稚鴉は少しだけ嬉しそうに、目を開いた。 「いいよー。みんなで行った方が早く集まるだろ」 何も知らない阿良木が軽い返事をした。 これが、今後どうなるかもわからず……。 ―――蟲の洞窟―― 「いやああああああっ!!もう嫌ああああっ!!!」 朱里の叫び声が洞窟に響く。 一行は、洞窟の奥へと進んでいた。 「うるさいな。静かにしろ。」 「無理無理無理!!!なんでまたここに来るの!?私虫嫌いなんだってーっ!!!!」 ピリつく神崎の腕にひっつくのは、西野朱里。 1年生。虫が超苦手らしい。 「朱里、落ち着きなさい。ただの虫でしょう?」 「お姉ちゃんは平気だろうけども!!私は無理なの!!!なんで美麗ちゃんも普通にしてるの!?!?」 稚鴉の声に被せ叫び、平然と横を歩く女の子にツッコむ。 「え、私、こないだ見たから……」 「見ただけで耐性つくことある!?!?嘘でしょ!?」 美麗と呼ばれた子は、卯川美麗。1年生。 ご令嬢らしい。俺にはわからん。 「うるさい。黙れ。」 「むぎゅっ!」 朱里は神崎に口をつままれた。 「いいか、喋るな。何かあっても絶対に声出すな。」 「――ん!」 神崎の真剣な表情に、朱里は頷くしか無かった。 パッと手が離れる。 「神崎〜、珍しくピリついてんねー。」 「……。」 阿良木がケラケラと笑う。 神崎は答えなかった。 「小さいですけど、結構虫いますね。」 白石が、ササッと走り回る虫を見て少し身を縮ませた。 「んで、どこまで行くんだっけ?」 森嶋が口を開く。 「最深部よ。そこに希少な蜘蛛の糸が有るからね。」 「最深部まじ?なんか、ボスとか居そう。」 「えー、ここら辺の蜘蛛の糸じゃだめなん?っていうか、モンスター達みんな逃げてくだけだな。襲ってこない。」 稚鴉の言葉に、森嶋と阿良木は面倒くさそうにしていた。 「当たり前でしょう。最深部のボスがそう指示してるんだから。」 「「えっ。」」 何が当たり前なのかは分からないが、俺たち2人は嫌な予感がしていた。 「ここよ。この階段を降りるの。」 しばらく歩いていたら、洞窟の中に人工物の階段が見えた。 「え、めっちゃ人工物やん。ここに何度も来てるってこと?」 「いいえ、私たちは2回目だわ。この階段は元々あったの。とりあえず、降りましょ?」 稚鴉は先に1歩踏み出すと、みんなも続いて降り出す。 「……あら?」 少し降りた頃、稚鴉の足が止まった。 「どしたー?」 「ちょ、怖いこととかやめてくれよ?」 呑気な阿良木とは反対に、森嶋はビビっていた。 「……気のせいかしらね。……前来た時と違って、空気が重たい気がするの。」 稚鴉は頬に手を当て、考える。 神崎が口を開く。 「……来るぞ。」 一言呟く。 ピタリと、空気が止まった。 次の瞬間。 ドゴォォォォォン!!! 下から刃が突き上げられたように、 階段が斬られ、崩れ落ちる。 「うぉぉぉぉぉぉ!?!」 「いやぁああああ!!!」 「うふふっ♪」 即時に反応出来なかった阿良木、森嶋と、 むしろ飛び込んだ稚鴉が、崩れた階段の下に 落ちて行く。 「……あー、落ちちゃった。」 白石は、階段の下を除くように見ていた。 「た、助かりました!新羅先輩!ありがとうございます!」 「もうやだぁ……!!怖いよぉ……!!」 美麗と朱里は神崎の腕の中に抱きかかえられていた。 「……さて、どうするか。佐々木。下に何がいる?」 「……大きな生き物。恐らく、巨大蜘蛛」 神崎の問いに、佐々木は鼻を利かす。 「……超レアボスモンスターかもな。さっき稚鴉が空気が重いって言ってたから、そのせいじゃないか?」 神崎はゆっくりと2人を下ろす。 朱里が、首を傾げた。 「超レアボスモンスター?」 「そう。お前にはわからんか。」 「わっ、わかるもん!!ゲームで見るやつでしょ!?」 朱里はムキになって叫んでいた。 神崎とはいつもこんな感じだ。 「まぁまぁ、今こんなとこで遊んでても、どうしようもないから……二人を追わない?」 白石は、提案した。 「……正直、俺らが行っても足手まといだぜ?あの3人で行った方が効率はいい。守るべきものが1つなら、楽勝だろ?」 神崎は皆を見る。 「……たしかに。じゃあ待つしかないの?」 「……そうとも言わない。近くには行かない。なら遠くから援護すりゃいい。」 神崎は目を細めた。 「援護って?」 白石は首を傾げた。 「……例えば――」 * * * ――最奥部―― 「ちょっと待ってくれよ……聞いてねぇよ?」 「あらあら、こんなに素材がいっぱい(ハート)」 「ハートになってる場合じゃないって!!やべぇよ!!!どうすんの!?」 阿良木、森嶋、稚鴉の目の前には、 巨大な蜘蛛と、先程逃げていたおびただしい数の小さな虫達が、洞窟の壁を埋め尽くすように。 阿良木達を見ていた。 あまりの多さに絶句していた阿良木。 「……ねぇ今から帰るって選択肢ない???」 「無いわ?」 スパッと切り捨てる稚鴉だった。
第29話 グッモーニン!会議するぜ!
「グッモーーニン!御一行諸君!!」 食卓の間に妙なハイテンションで突っ込んでくる阿良木。 「おはようございます。阿良木先輩。」 「うぃーす、魔王のご登場か?」 白石の優しい声と裏腹に、茶化す森嶋。 「魔王ってなんだよ。最強チートに嫉妬してんのかぁ〜??」 負けじと煽る阿良木。 空いてる席に座る。 「いーや、絶対最強チートより、俺の鉄壁の方が強いね!」 「雲泥の差だろ!」 鼻高く自慢する森嶋に笑う阿良木。 「あれ。珍しいですね。阿良木先輩がバンダナ外してるの。何かありましたか?」 「……あー、これはなぁ」 白石が気付いた、一瞬視線を外す阿良木。 「阿良木、先に降りてたのか。」 神崎の声がドアの方から聞こえた。 一冊の本を持っていた。 「それ何ー?」 森嶋は目の前のご飯を頬張りながら問う。 「ん?本。」 椅子に座り、グラスを持ち、飲む。 「いや、それぐらいわかるわ!」 「……さて。話の続きだ。さっき軽く話したと思うが。ぷい助の事だ。」 森嶋のツッコミを遮るように、 くっと飲み干すと、コンと優しく置いた。 神崎の一言で、――空気が変わった。 「ぷい助は今、魔王の手に封じられている。だがこの世界に魔王はいない。まだ復活しきっていない状態だ。」 「じゃあ、どうやって取り返すの?」 白石が問う。 「コアだ。」 茶色の表紙の本を、テーブルに置き開く。 「これだ。魔王の力はコアに分散している。魔王に触れられた者は力を得るが、倒されるとコアになる。その時、黒い霧――“残滓霧”が発生する。」 神崎は、本の一文を読みあげる。 「黒い霧……灰骸騎士のとこで見たやつか?」 「そうだ。」 「じゃあ、コア集めればいいってこと?」 「恐らくな。コアを集めれば魔王は復活する。」 阿良木、白石の問いに神崎は頷いた。 「復活させりゃ、ぷい助も戻るってわけか。」 「その可能性が高い。」 阿良木は顎をさすっていた。 「え、何個集めるの?100個とかあったら泣くよ?」 森嶋の一言。 「いや多すぎだろ!!」 阿良木の即ツッコミ。 「……あー、そういや俺。」 阿良木がピーンと思い出し、ぽりぽりと頭をかく。 「夢で“あと8個”って言われた気がするんだよな」 「……それ、いつだ?」 「灰骸騎士の前」 夢での話を、みんなの前で話す。 「灰骸騎士前なら、あるコアは2つ……なら全部で10個かな」 「ってことは、あと7個だな」 白石のまとめに、神崎も答える。 「……なんか、助けてくれって感じだった気もする」 一瞬、空気が止まる。 「……もしそれが魔王なら」 神崎が静かに言う。 「阿良木はもう接触してる可能性がある」 「えー、じゃあ阿良木倒せばコアになる?」 「なんでだよ!!」 森嶋のボケにすかさず突っ込む。 「だって触れられたものはコアになるんだろー?じゃあお前コアじゃん。はい論破ー」 「なってねぇよ!!!」 いつもの空気に戻る。 「まぁ、細かいことはまだ分からん」 神崎が本を閉じる。 「とりあえずやることは一つだ。コアを集める」 「おー、分かりやすくていいな!」 「ぷい助もそれで助かるんだろ?」 神崎の言葉に、森嶋、阿良木が反応する。 「そのはずだ」 「じゃあ決まりだな!」 阿良木がパンッと手を叩く。 「コア集めて、魔王復活させて、ぷい助取り返す!簡単じゃん!」 森嶋がまとめる。 「簡単ではないと思いますけどね……」 「ノリで言うなよお前は!」 白石と阿良木にツッコまれる。 「さ、飯食おうぜ。阿良木の冷めちまうぜ?」 「おわ!そうだった!!!よし、……ぷい助、待ってろよ。絶対取り返すからな」 小さくつぶやき、拳を握りしめた。 「よっしゃ!いただきまーす!!」 阿良木はぱっと顔をあげ、料理に手を付ける。 皆は笑いながら飯を食べていた。 ――その頃。 「ぷ……ぷぃ……?」 目を覚ます。 暗い。上下も分からない。 「……起きたか。」 低い声。 「ぷい……」 ぷい助は震えた。 「我が分子よ。お前の見てきたものを見せておくれ。」 冷たい指が触れる。 「ぷい!?」 その瞬間―― ぶわりと、視界が引き裂かれた。 阿良木、白石、神崎。 見てきた記憶が、勝手に引きずり出されていく。 「やはり……いるな」 声が、僅かに笑った。 「“器”が」 「ぷぃ……!?ぷいいいーーっ!!」 ぷい助の体の奥に、自分じゃない黒い何かが滲む。 必死に抵抗する。 「もうすぐだ」 意識が、沈んだ。 最後に、 自分の体が、ほんの一瞬だけ “自分の意思じゃなく動いた”気がした。
【最終回】第5話 滝川さんはどっち好き?
滝川と、詠唱のお勉強をした一同。 「えー、多分。覚えた。多分。」 「うわ、失敗する流れじゃん。」 自信なさげな阿良木に思わずツッコむ森嶋。 滝川が口を開く。 「必要なのは詠唱中の集中だ。魔力を練り、一点に集中させろ。一度やったことあるなら、出来るだろ?」 「うぃっす!出来ます!」 軽い返事が出た。 「心配すぎるなぁ……」 俺はずっと冷や汗をかいてた。 だって、マジで暴走した時、俺が抑えれるのか不安でしょうがない。 「よっしゃ!やるか!森嶋!もしもの時は頼む!!」 阿良木は広場の中央へと向かった。 「こえぇ……」 俺は震えが止まらない。 「……。」 滝川さんは、ただ阿良木を見ていた。 心配の色は見えない。 「行くぜ!!」 阿良木は掛け声とともに、深く息を吸った。 その瞬間、空気が重くなる。 「不知火の鈴、不破の酒火。天を照らせ、神火の王。 焔よ、理を焼き尽くせ——。」 地面の砂が浮き上がる。 「第十階位魔法、『天照炎魁』っ!!」 ニヤッと笑い、詠唱を言い切った。 その瞬間。 ゴォォオオオオオ!!! 地面から炎が吹き出す。 広場を埋め尽くすように、空気を焼き尽くす。 「アッツ!!……でけぇ…!!桁違いじゃんっ!?」 「……ふん。やればできるもんだな。」 「……あ。」 顔の感情が無い事で有名な滝川さんだが、 阿良木の魔法を見てるその顔は、 ――笑っていた。 「いよっしゃ!終了!なーなー!どうだった!俺すげぇだろ!?かっけぇだろ!?」 手を握ると共に、炎は静かに消えてった。 阿良木が駆け寄ってくる。 「すげぇじゃん!!阿良木!!めっちゃデケェし!かっこよかったぞ!!」 「へへーん!まぁな!当然だ!」 俺が褒めると、腰に手を当てドヤ顔で誇っていた。 「阿良木。……よくやった。」 「……うっす!!あざます!!!」 滝川さんからの褒めに、阿良木も口角を広げ喜んでた。 「……じゃあ、また。」 滝川さんは手を振り、振り返った。 その時。 「滝川さん!!」 阿良木は声を大にして呼び止めた。 「……なんだ?」 チラリとこちらを見る。 「あの……!」 何かを言い淀むように、もごもごする。 (友達になってくださいとか、そういうのか?) 「……ーっ!!あの!!!」 覚悟を決めた顔をしていた。 (阿良木頑張れ……!!!) 「た、滝川さんはっ!!!――熟女と若い子どっちが好きですか!?!?」 意外な言葉に沈黙が落ちた。 「…………は???」 俺は開いた口が塞がらなかった。 「……。」 滝川さんもただ阿良木を見ていた。 (これ、殺されるんじゃ……??) 「……俺は。――熟女派だ。」 真剣な表情で答えていた。 (えっ、えーーーーーーーっ!!!) 「まじ!?!?じゃあ俺ら熟女同盟じゃん!?いえーい!仲間ーっ!!」 阿良木はテンションが上がったのか、滝川さんの肩に腕をまわしていた。 「なんだ、お前らもなのか。」 心なしか、滝川さんは笑っているように見えた。 (ま、まじでぇーーー???) 俺は、口が閉じない。 「えー!じゃあ今度おすすめのDVD貸すんで!滝川さんもおすすめくださいよ!」 「……わかった。今度持ってくる。」 阿良木と滝川さんは、謎に盛り上がっていた。 「いよっしゃ!やったな森嶋!!」 「……えぇ、いや。……えぇ?」 阿良木は俺にまで腕を回してくる。 「……まぁ、いっか。」 2人が楽しそうなら、いい事にした。 まぁ、諦めというか。 俺の思ってた滝川さんとは違うが。 阿良木と楽しそうなら、俺も楽しめるんじゃないかって期待もあったからだな。 ――そして俺らは、この日から滝川さんを加え 楽しい学園生活を送った。 さっ。俺の話はおしまい! あとは楽しいメンバーの話でも見てやってくれ! 以上だ!ちゃんちゃんってか? あっはっはっ!! ――リアスト学園の日常はここから始まった。
第28話 翌朝の痛み。
――AM6:58―― 「…………はっ!?ぷい助は!?」 阿良木は目を覚まし、飛び起きる。 「……あれ、いない。……ッ!痛ってぇ……けどまだ我慢できる。うん。」 チクッと頭を刺す痛みが来る。 ガチャリとドアが開く。 「……起きてたんか。おはよ。」 「あぁ、神崎。おはよー。ってかさー、聞いてくれよ神崎〜。俺のバンダナがさぁ。」 「はいはい。聞くよ。」 ゆっくりとドアを閉め、近くの椅子に座る。 「あれ、バンダナどこだ……あった。見てこれ!!酷くない!?ビリビリなんだけど!!」 阿良木は横の机にあったバンダナを手に、見せびらかす。 「……そうね。」 神崎は軽く頷いた。 「……あ、ぷい助は?白石のとこ?」 「……。うん。そう。」 ほんの一瞬、神崎の視線が逸れた。 「そっかー。朝早いねぇ皆ねぇ。」 ――少しだけ、声が軽かった。 「阿良木が遅いんじゃない?」 「ははっ、俺が遅いのか!だろうな!!ははっ!!」 いつもの日常の会話をしていた。 「……。」 一瞬の沈黙が部屋の音を消した。 「……神崎。いいよ、隠さなくても。教えてよ。」 さっきまでの元気から一転。 阿良木は俯いた。 神崎の声、言葉から感じていた。 沈黙が、ゆっくりと部屋を埋めていく。 「……そうだな。……ぷい助は、持ってかれた。間に合わなかった。すまない。」 ゆっくりと口を開き、静かに話し始め軽く頭を下げる。 「いいよ、頭下げんなお前らしくねぇな。気持ちわりぃ。……でも、珍しいな。お前が取りこぼすの。」 慣れないことをされることに嫌悪を抱く。 意を決して、神崎は口を開く。 「……。俺は今、異世界に来て魔力を縛られてる。……どっちかしか救えなかった。だから、お前の魔力暴走を止めるので必死だった。」 「うわ、珍し。別世界でも魔力干渉受けねぇやつが縛られてるとか、ウケる。」 神崎の真剣な話にププッと笑う阿良木。 「やっぱ丸ごと殺しときゃ良かったな……」 ぽつりと呟く。 「ごめんて。」 即謝罪。 「さくらぎに聞いて欲しい。俺まで縛る理由は何か。」 「だってよ。さくらぎちゃん。なーにー?」 ……ごめんね。これは僕の力じゃない。 別のところから無理やり引っ張られてるの。 何度も修正かけてはいるんだけど、何故か戻っちゃって、エラーで弾かれるの。 「……えーっと、つまりさくらぎちゃんは――」 「聞こえてる。そこまで魔力は落ちてない。」 聞こえるんかーい。 「聞こえるんかーい。」 同時にツッコんだ。 「……そうか、創作者すらも弾くもの。……俺のパソコンあればなぁ。」 え?出す? 「おい、やめろ。異世界の雰囲気壊すな。」 神崎の言葉に乗るさくらぎにツッコむ阿良木。 「ははっ、冗談よ。……まぁ、いいんじゃない?たまには縛りプレイってのも。結構好きよ。」 「ドMじゃん。――いって!ごめんっ!」 クスッと笑う神崎に、ボソッと呟く阿良木、 ゴンッと、デコピンをお見舞いした。 「さ、阿良木起きろ。ぷい助救出会議するぞ。食卓の間に早く降りてこいよ。」 立ち上がり、ドアに向かう。 「ヒィ……、あ、おう。……っていうか、バンダナどうしたら!?」 ヒリヒリと痛むデコを抑える阿良木。 「たまには、――開放的なのも好きだろ?」 ニヤッと、いつも通りに笑うと、部屋から出ていった。 「いやぁ……あいつの発言ってさぁ……」 頼む、言わないで。 「エロいよな。」 言った。
『ジンセイソウ』
種を植えた。 それは、新しい命。 毎日、水をあげる。 毎日、声をかける。 毎日、「愛してる」と伝える。 時が経つ。十月十日。 やがて、小さな新芽が顔を出す。 命が生まれる。 愛情をかける。 世界にひとつだけの愛情を。 あなただけの、人生を。 ここは、頭に花が咲く世界。 ◇ 私は十歳になった。 でも、頭に咲くはずの花は、まだ蕾のままだった。 「出来損ない」 学校では、何度もそう言われた。 赤い花を咲かせた子。 青い花を咲かせた子。 綺麗な花を揺らしながら、みんな笑っている。 羨ましかった。 どうして私だけ、咲かないんだろう。 そんな私に、母はいつも優しく笑ってくれた。 「大丈夫。きっと綺麗な花が咲くわ」 その言葉だけが、救いだった。 けれど――。 十八歳になっても、私の花は咲かなかった。 ◇ 才能は、“何か”に触れた時に開花する。 だから私は、色んなことに挑戦した。 水泳。 テニス。 体操。 書道。 でも、どれも駄目だった。 長く続かなかった。 そんな中で、唯一続けていたものがある。 バレエだった。 踊っている間だけは、何も考えなくて済む。 蕾のことも。 周囲の視線も。 出来損ないだと言われることも。 全部、忘れられた。 だから私は踊る。 ただ、それだけのために。 けれど周囲は違った。 「下手くそ」 陰で笑われる声。 先生ですら、いつしか私を見なくなっていた。 それでも、私は舞った。 この時間が好きだから。 音楽に溶ける、この瞬間が。 私の一部だったから。 発表会の日。 大きなステージ。 眩しいライト。 客席を埋める沢山の人。 次々と踊り終えていく生徒達に、拍手が送られる。 滑らかな動き。 柔らかな指先。 咲き誇る花達。 そして――私の番が来た。 ステージ中央へ歩き出した瞬間。 くすり、と。 客席から笑い声が漏れた。 みんな、私の頭を見ていた。 蕾だから。 十八歳にもなって、まだ咲かない花。 それでも。 私は顔を上げた。 音楽が流れ始める。 私は踊る。 ひらり。 はらり。 トッ――トン。 腕が風を切る。 足が空気を裂く。 回って、跳ねて、舞い上がる。 音楽に身を委ねるように。 ただ、自由に。 いつの間にか、笑い声は消えていた。 観客も。 審査員も。 誰もが、私を見ていた。 でも、その時の私は気付かなかった。 それは、後日に知った。 母から渡されたビデオテープを見て、私は知った。 踊っている最中。 私の蕾が、ゆっくりと開いていたことを。 真っ白な、美しい花。 それは、静かに咲いていた。 音楽が止む。 私は静かに、床へ降り立った。 会場は、静まり返っていた。 誰も何も言わない。 あぁ。 やっぱり、駄目だったのかな。 そう思い、ステージを降りようとした時だった。 ぱち、ぱち。 小さな拍手が響く。 母だった。 涙を浮かべながら、誰よりも強く拍手をしていた。 その音に続くように。 一人。 二人。 やがて、会場全体が拍手に包まれる。 鳴り止まない拍手。 震えるほどの歓声。 私は、その場で立ち尽くしていた。 ようやく、認められた。 ようやく、見てもらえた。 私は――。 私は、ここにいて良かったんだ。 涙が溢れた。 その日から、私の人生は変わった。 憧れていたバレエ団からスカウトが届き。 舞台に立てば、満席になる。 拍手喝采。 光の中で、私は踊り続けた。 幸せだった。 本当に。 そしてある日。 私の白い花に、小さなピンク色の花が咲いた。 新しい命だった。 種を植えた。 私は、毎日水をあげる。 私は、毎日声をかける。 私は、毎日「愛してる」と伝える。 十月十日。 新芽が顔を出す。 命が生まれる。 私は、この子を見守りたい。 この小さな命に、幸せを教えたい。 たとえ、どんな花が咲いても。 たとえ、咲くのが遅くても。 大丈夫だよ、と。 あなたは、あなただけの花を咲かせるんだよ、と。 私は、伝え続けたい。 蕾が花咲く、その日まで。