瀟洒
7 件の小説17時25分、博多行き。
彼女と駅のホームで抱き合った。 人目も気にせず。 遠距離恋愛中の彼女は寂しそうに携帯を開き、時間を確かめた。 「もう来ちゃうね…」 ああ、駄目だ。 今日こそ僕は泣かないと決めていたのに。 彼女と付き合ってからいつもこうだ。 情けない僕の頭を彼女は優しく撫でる。 プラットフォームに響く割れた音のアナウンス。新幹線が風と共に滑り込んできた。 「次は、冬だね」 「…あったかくしてきてね…」 ドアの前でスーツケースを渡し繋いだ手を離す。 じりじりと胸を焦がす寂寥感を覚えながら、彼女の乗った新幹線が見えなくなるまで、見送った。 次会ったら、何をしようか。 お出かけもいいな。 寒いからこそ暖かくして公園に行くのも楽しいかな。 彼女の温度と、におい。 思い出すだけで幸せだ。
人生の答え合わせ
私は、どうやら死んだらしい。 飛び出した小学生をトラックから庇って死んだらしい。 『なんだかなぁ。』 雲の上の門の前でため息混じりに呟いた。 死ぬ時は思ってたよりあまりにもあっけなくて、 もうちょっと走馬灯とか見えると思ってたんだけど。 即死だったのか、痛みは全然感じなかった。 門をくぐると、すぐに身長より大きな机が待ち構えていた。 そこに座ってふんぞり返っていたのは、多分神様。 『今からおまえを振り分ける』 神様は言った。 『天国か地獄か、ということでしょうか?』 『そうだ。まず…今までの人生の講評を。』 人生の講評? 『人を助けた回数…一万二千二十二回』 『はぁ』 『人を不幸にした回数、六千七十六回』 『…。』 『続いて…えーと、恋愛のチャンスを逃した回数九十七回』 『ちょっと待てー!!!』 そんなにあったの!?
好きな本(募集)
めちゃくちゃ好きなシリーズ物。 キーリ(壁井 ユカコ) です。 戦争で荒廃した惑星を舞台に 幽霊の見える少女キーリと戦争の兵器として作られた不死身の動く死体『不死人』ハーヴェイが主人公。 個人的にものすごく癖な世界観もさることながら ハーヴェイのスレた態度とか それに一喜一憂するキーリの可愛さとか 両親を探していったらハーヴェイと対立する人が出てきたりだとか とりあえず読んでみてください…
しとしと
雨の日は少し歩いてみよう この時期に散歩するにはちょうどいい気温と 濡れたアスファルトの匂い。 何時もより緑の匂いも濃い。 そのうち雨足が強まって ふらりと入ったカフェが落ち着く。
『みえてるよ』
3限目と4限目の休み時間。 机から本を引っ張り出し開いた私の耳にクラスの噂話が聞こえてきた。 「昨日の番組見た?」 「見た見た!心霊写真のやつ!」 くだらないなぁ… 「すごいよね、あんなにはっきり写ってるの」 4人で固まっていたうちの1人が得意げに話し出す。 「あれは捏造でしょ、幽霊なんて居ないよ!」 「居るかもしれないじゃん!」 「じゃあなんで、携帯の画質も良くなった今に比べて昔の方が心霊写真多いの?」 『信じる派』の方は何も言えないようだった。 …それはそうだろう。 元々幽霊なんて写真に映らないんだから。 テレビ番組で面白おかしく取り上げられているのは全部偽物。 信じてても信じて無くても見える人にだけは見えるもの。 もっと正しい感覚でいえば 『視界の隅に映る』 『目で見ていなくて、頭で認識している』 というのに近いか。 …それにもし居ないとしたら図書室に体育座りでいつも居るあの子はなんなのだろう。
泡沫とプリクラ
人気の無い、早朝の海岸で僕はその箱の蓋を開いた。 中には、1年も前に別れた元カノのプリクラ。 携帯の写真は消せたのに、これだけは捨てられなかった。 二人の思い出をゴミ箱に入れて無かったことにするなんて行為はしちゃいけない。 彼女は、僕を成長させてくれたから。 けれど過去にばかり囚われちゃいけないんだ。 進まなきゃ。 頬を伝う涙を拭い、箱からプリクラを取り出す。 そして 引き波に思い切り投げ込んだ。 朝日を浴びてそれらはキラキラと輝きながら漂っていたが すぐに見えなくなった。
静寂、指揮棒、そして。
先生が指揮棒を取った。 私達は其れに応え一斉に楽器を構える。 たった6分。それだけの時間で金賞かそれ以外かが決まる一世一代の大舞台だ。 先走ってはいけない。 音程が狂ってもいけない。 金管、目立ち過ぎるな。 木管、合わせろ。 けれど── この瞬間を、 そしてこの時間を 楽しめ。 吹奏楽曲 片岡寛晶 作曲 鳥之石楠船神(とりのいわくすふねのかみ)