水浴び

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水浴び

元とあるフルーツサンド。 前のアカウント入れなくなっちゃった。 コメントしてた人たちごめんなさいね。 私はここで息をする。

スノードロップ

「おーい、起きてんのか?」 誰かの声が聞こえる。 「その子のおまえだー!起きてんのかって、聞いてんだよー!」 こんな寒いところに人がいるの? 「なんだ死んでるのか。期待して損した」 待って、行かないで。 必死に手を伸ばした。 何かを掴んだ感触がする。 「は?生きてるなら最初からそう言えよ」 でも、これで精一杯なの。 「なんだお前、動けないのか?」 凍え死にそう……なのかな……。 「しゃーねーな……」 バサッという音と同時に暖かな物が覆いかぶさった。 ?これは……暖かい……何か……? 「これで…………だろ」 な、んて……? 「つ…………るか」 な、に、を言っ、て……。 僕の意識はそこで途切れた。 「おい。起きろ、いつまで寝てんだ」 その声で目が覚めた。 ある意味最悪の目覚まし。 「おまえあんなとこで何してた」 「え……?」 いきなり本題に入るなんて、この人どうかしてる。 「この山は危険らしいじゃないか。そんなとこにガキ一人で何してたんだ」 いやいや、待ってよ。僕まだ起きたばっかりなんだよ……? 「答えないか……。まぁいいや。名前は?」 質問攻め……。 「名前なんて無い……」 そう答えた時、初めて目の前の人が驚いたような表情をした。 「は???」 「つけられなかった。それで捨てられた」 「はぁ????わけわかんねぇ」 そう言ってこの人は近くの椅子にドスンという音を立てて座った。 この時に僕はこの人の全容を見た。 僕とほぼ同じぐらいの背丈で1部の髪が長い。服は……骨?骨がそのままあって中身はない。どこか魔法使いのような感じだった。 「あ?なんだよ」 「貴方は……?」 「私か?私はマルべ。ただの人外だ」 「人、外……?」 「気にしなくていい。ただの肩書きみたいなもんだ」 「そんで、名前が無いってのは呼びにくいし、名前をつけるとするか」 「え?」 僕が言葉を発する前に彼、マルべは本を開きブツブツと何かを言い出した。 しばらく時間が経って彼は勢いよく本を閉じた。 「よし、今日からおまえの名前は逝來だ」 「ゆき?」 「そう。逝來」 「ゆきか……ふふ、いい名前」 なんだか胸の奥が熱くなった気がした。 「さて逝來。おまえは今日から私と一緒に過ごす所謂奴隷だ。指示通り働けよ」 彼は僕の胸元に指を突きつけた。 奴隷か……。どこへ行っても変わらないものなんだね。 「分かった、マルべさん。僕頑張るね」 「あぁ、楽しみにしてる」 何十年後 僕は彼の部屋の扉を勢いよく開ける。 「マルべさん?そろそろ外に出たらどうですか?」 部屋の一角の本が沢山ある場所に彼は座っている。 「面倒だ。面白い収穫があるわけでもないしな」 相変わらずの態度。今日は外に引きずり出す案を考えてきた。 「今年は冬が明けるそうですよ」 「そうか」 「僕初めて見るんですよ。春」 そう言うと彼は少し考えるふりをしたがすぐに笑ってこう言った。 「いや、見なくていい」 「え、どうして」 「おまえは逝來だからな。溶けてなくなってしまうだろ?」 「……冗談がお上手なことで」 僕はまだ、ここで溶けないユキ。春になっても残り続けるユキ。 僕は彼に生かされている。

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