「いいえ」の言えない世界
「××、早く起きなさい。」
「はーい。」
「××さん、明日は提出物ちゃんと持ってきてくださいね。」
「はい、わかりました。」
「××、今日一緒にラーメン食いに行こうぜ!」
「うん、わかった。」
「じゃあ、今日中にこの仕事やっといてくれ。」
「はい、承知致しました。」
「はい」と言えば怒られない。
「はい」と言えば認めてもらえる。
「はい」と言えば喜んでもらえる。
「はい」と言えば信頼される。
だから僕という名の機械人形は、「はい」と言い続ける。
じゃあ、「いいえ」は?
本当はもっと寝ていたくても
本当は宿題なんかしたくなくても
本当はラーメンなんか嫌いでも
本当は他の仕事で手一杯でも
たった一言
「いいえ」と言ってしまえば?
「いいえ」と言えば怒られる。
「いいえ」と言えばやる気がないと思われる。
「いいえ」と言えば相手の好意を台無しにする。
「いいえ」と言えば相手の信頼を失う。
相手の為に、世の為に
自分の感情を押し込んででも、「はい」と言わなくちゃ
僕はこの世界で生きられない。
でも、もし「いいえ」と言えたなら
どんなに心が軽くなるだろう。
ただ我儘に怠惰に、相手も世も全て放り出せれば
どんなに自由を感じることができるだろう。
「やだ、もっと寝ていたい。」
「いいえ、宿題なんかしたくないです。」
「いいや、ラーメンなんか食べたくない。」
「いいえ、そんな仕事僕には出来ません。」
今日まで自分の心に溜まり続けた膿を
めいっぱい押し出せたなら。
プライドなんて言う脳内システムや
利他的に動こうとする思考回路ごと
粉々に、木っ端微塵に出来たなら。
僕は幸せになれるのだろうか?
言える訳ないじゃないか。
「いいえ」なんて。