K i AN

15 件の小説
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K i AN

「Andy」 ぜひ読んでみてください。

「子ども」

アンディは悟り開いた。 この頃、考えすぎていたが故に日常から色が失われていた。 だから色を塗ってあげた。 画家がキャンバスと向き合い、絵の具を塗りたくるかのように。 鏡を見ると、顔は歪んでいた。 だから整えてあげた。 アーティストが新たな自分として生まれ変わるように。 そして、アンディは旅に出た。 まるで昼下がりの近所を無邪気に散策する 子どものように。 どこへ行くか、 どんな出会いが待ち受けているか。 そんなことは全く分からない。 しかし、これだけは確かだった。 「自由だ」 The End

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「子ども」

仮面

「…昨夜未明、父親が息子に殺害される事件が発生しました。今朝6時半ごろ神奈川県横須賀市の加害者の自宅で遺体が発見され、目撃者によると、遺体の顔には固い物で殴られた痕跡があり、腹部には鋭利なもので刺された跡が数箇所あったとされています。加害者は"お父さんに突然襲われ、自己防衛で殺してしまった"と供述しており、警察は親子間にトラブルがあったとし、捜査を進めています…ここでCMです。」 「警備保証会社があなたをお守りします…!」 聞き慣れた暗いニュースから一転し、明るいCMが流れ出した。 アンディはテレビを消し、スマホの通知を確認した。 お父さん 「言っておくが、俺はおまえのお父さんだ。こんなにもおまえを愛しているんだ。なんで、返信してくれないんだ?父と息子の関係は大事にしないとダメだぞ。頼むから、返信してくれ。愛してるよ。」 アンディは3日以上も返信していないお父さんからの連絡を無視すると、洗面所へと向かった。 「なにが愛しているだよ。偽善者が…」 アンディはぶつぶつ文句を言った。 アンディが幼い頃、両親は毎日のように喧嘩した。 お父さんはしょっちゅう怒鳴り散らかし、部屋の壁に穴を開けたこともあった。 両親が喧嘩している隙に、妹とお菓子やアイスをこっそり食べていたのを思い出した。 アンディを含め、虐待されることも日常茶飯事だった。 離婚してからお母さんが親権を得て、お父さんとは別居することになった。 アンディはこれまでにないほど安心した。 しかし、そこで終わらなかった。 お父さんはそれまでの乱暴な振る舞いをしたことについて謝罪し、離婚してからは心を入れ替えると約束した。 そして連絡を取り合えて、1週間に1回はアンディと妹に会えるようにと懇願した。 お母さんは反対した。 アンディも信用できなかった。 それは妹も同様だった。 何せよ、また暴力を振るわれるのはゴメンだった。 しかし、お父さんが悲しそうな表情をするのを見てアンディは可哀想に思い、信じてあげることにした。 子供ながらも、誰にでも二度目のチャンスは与えられるべきと心の底から思っていたのだ。 そして、お母さんの反対を押し切って1週間に1回、ときには1ヶ月に1回になってしまうこともあったが、定期的にお父さんの家を訪れる生活が始まった。 しかし、お父さんは変わらなかった。 少しでもわがままを言ったり、自分の意見を言えば手を上げられた。 とにかく痛かった。 そして、手を上げられたあとは性格が一変した。 「俺はおまえたちを愛しているから厳しくするんだ。おまえたちがどんなに辛い思いをしようが、お父さんはそばにいてあげる。だから安心して」 お父さんの声は透き通ったように優しかった。 職場に無理矢理連れて行かれることもしばしばあったが、アンディと妹は特にこれを嫌がった。 本当は家に残って友達と外で遊びたかった。 絵を描いたり、映画を観たかった。 お父さんに自分の好きなゲームを一緒にして欲しかった。 しかし、逆らえば地獄を見るだけだった。 恐怖のあまり、お父さんと会う直前に体調を崩すこともあった。 それでもアンディはお父さんを信じ続けた。 今思えば、なぜそんなことをしたのか自己嫌悪に陥るほど後悔しているが、もしかしたらお父さんという存在が完全にいなくなることに対して恐怖を抱いていたのかも知れない。 確かに手を挙げるような無責任なお父さんだけど、どこかに「愛」を感じていたのかも知れない。 歪んだ「愛」でも、アンディにとってそれは「愛」に変わりはなかったのかも知れない。 自分に全く関心のないおじいちゃんよりはマシに感じてしまったのかも知れない…。 お父さんを突き放せば、少しばかり似ている自分自身を否定するようなものだと感じたのかも知れない…。 一方でお母さんは一貫して反対だった。 それでよく喧嘩したこともあり、中学生の頃は特に酷く、家から追い出されることもあった。 お母さんの言い分としては、手を上げていた上に離婚してから教育費も生活費も払おうとしないなんて、本当の父親ではないというものだった。 アンディはお母さんの言い分を理解はしていた。 しかし、誰にでも二度目のチャンスを与えるべきであり、お父さんを信じて良好な関係を築きたいという気持ちを示し、反論した。 もちろん虐待されていたことをアンディは教えなかった。 お父さんに刑務所には行ってほしくなかったから。 しかし、お母さんは頑なに受け入れてくれなかった。 「いちいち偽善者ぶって…あいつのどこがお父さんなんだっていうの?だいたいあんたもお父さんそっくりよね。嫌になっちゃう。」 決まってそう言われた。 アンディはそこから反論することはなかった。 お父さんみたいに嫌われたくなかったから。 妹は身の危険を感じたため、お父さんとは早々会わなくなり一人で会うことが増えた。 今思えばそれは賢い判断だったが、アンディはお父さんに同情してしまった。 そして、何度も信じて裏切られては、またチャンスを与え裏切られた。 アンディは人間不信になりそうだった。 しかし、自業自得と言われても仕方がないところまで来ていた。 それがより一層、アンディを周りに相談させずらくしていた。 そして、呆れて期待することに疲れ果てたアンディはお父さんの連絡を無視するようになった。 アンディはお父さんに対して恨みを抱くようになった…。 ある意味、自分自身も偽善者であり裏切り者となってしまったのかも知れない…。 仮面を被り、善人を演じてきたのかも知れない…。 アンディはそのような葛藤に長年苦しめられることとなったのだ…。 洗面所の鏡に映るいつにも増して顔が白い自分と目を合わせた。 深呼吸をしたそのとき…。 突然、玄関の扉が開く音がした。 「ドク…ドク…ドク」 緊張感が身体中を駆け巡り、心臓の鼓動がはっきりと聞こえる。 本当の「愛」を与えてくれたお母さんに十分感謝してあげられなかった。 込み上げてくる罪悪感と恐怖に苛まれ、次第に呼吸が荒くなった。 扉をゆっくりと開ける…。 すると、扉が勢いよく蹴り飛ばされ、ガタイの良い男の人がアンディに襲いかかった。 お父さんだった。 アンディはお父さんの太ももを蹴ってから床に倒し、持っていたリモコンで顔面を何度も殴った。 お父さんが痛みでもがき苦しんでいる隙に、台所から包丁を持ってきて腹部を数箇所、刺して殺した。 アンディはその場で茫然としてしまい、震えが止まらなかった。 少し冷静になってからアンディは立ち上がり、血まみれの遺体を見つめて、一人つぶやいた。 「…愛してるよ。」 数日後。 「…昨夜未明、父親が息子に殺害される事件が発生しました。今朝6時半ごろ神奈川県茅ヶ崎市辻堂周辺の被害者の自宅で遺体が発見され、目撃者によると、顔には固い物で殴られた痕跡があり、腹部には鋭利なもので刺された跡が数箇所あったとされています。さらに遺体の付近に血痕がついた白い仮面が確認され、加害者が犯行時に被っていたものである可能性が高いと調べています。いずれも警察は親子間にトラブルがあったとし、捜査を進めています…。」 お母さんはテレビを消した。 ぬ

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仮面

地下鉄

「ここはどこ...?」 アンディは目を覚ました。 見渡すと、どことなく強い虚無感が 漂う薄暗い空間が広がっていた。 そこは廃れた地下鉄のホームだった。 人気は全くない。 駅名を確認する。 「始点」 気味の悪さから込み上げてくる恐怖と孤独感に アンディは顔をしかめた。 どのようにしてこの場所に迷い込んだのか記憶はないが、無性に戻りたくない気持ちだけは 確かにあった。 そうとなると、電車に乗り前へ進むことが脱出する唯一の選択肢だとアンディは信じた。 そして、電車を待つことにした。 数分経ってから電車が到着した。 乗客はみんな似通った容姿をしていて、極めて平凡で普通だった。 朗らかに雑談を交わす人々は笑顔が印象的で 平和な雰囲気が車内を漂っていた。 しかし、満員で窮屈そうだったため、 アンディは次の電車を待つことにした。 しばらくして、2本目の電車が到着した。 比較的空いていて、個性的で風変わり人が多く見受けられた。 楽しそうな雰囲気だったが、車内の端で口論をしている厄介な二人組がいた。 アンディは面倒ごとに巻き込まれたくないと 思い、身を引くことにした。 10分ほど経ってから、3本目の電車が見えてきた。 摩擦音と共に押し寄せてくる電車が 数百メートル手前まで来たところで アンディは目を丸くした。 なんと車両が一台だけだった。 目の前で停車した車両の中を覗いてみると、 乗客席がなく、操縦席のみだった。 どうやら、自力で運転をしなければならないようだ。 操縦経験がなく、脱線でもしたらと考えたら 再び待つことが賢い判断だと推測した。 5本目の電車が到着した。 車内には数人の男女が乗っていたが、 目に生気がなく表情が完全に失われていた。 その殺風景で恐怖をも感じる雰囲気はまさに "幽霊電車”だった。 アンディは乗車しなかった。 それ以降、電車が来ることはなかった。 2日後、アンディは極限の栄養失調と脱水症状に陥り、倒れた。 意識がもうろうとする中、微かに視界に入ってきた駅の看板。 そこに書かれていた駅名は変わっていた。 「終点」

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地下鉄

裏庭

日差しが差し込み、植木鉢から立派に咲き誇る植物を照らす裏庭は、アンディにとって 憩いの場である。 調和と規律が健康と幸せへの絶対的な鍵である。 アンディは心底からそう信じていた。 "日々のルーティンを欠かさず、自分自身を統制して追い込むことで自然と精神の調和を図り、真の幸福を得ることができる" 昨日、約1年ぶりに訪ねてきた友人にアンディは哲学本からおそらく引用したでろう一節を熱く語った。 そして、今日もアンディは朝から植木鉢に囲まれながら、精神的な幸福を求め、筋トレと読書に励み、必要最低限の栄養で成り立った食事を摂取した。 少し疲れてきたところで、アンディは白いプラスチックチェアに腰がけた。 そして、数週間前に近所のゴミ箱から拾い、持ち帰ってきたクマのぬいぐるみを片腕に抱き、 哲学本を読み始めた。 しかし、今日はいつもより集中ができない。 それもそのはず。 隣の家から二人の男性が討論する声が聞こえてきたのだ。 「愛する人に最高級の物を与えたいと思うのは 当然だろ!ハイブラの服や高級ジュエリーは愛の指標であり、相手への気持ちの表れだ!」 議論することに慣れているのか声に張りがあり、自信に満ち溢れていた。 すこし不慣れにもう一人の男性が反論する。 「そ、それはいけ好かないね!精神的な繋がりがないが故に物質に逃げているだけだ!真の愛とは心の繋がりがあるかどうかであって、お金や物で示すことはできない!」 まったく...。 昼間から声を荒げるとはみっともない。 それ以前に討論の内容がくだらない。 二人は調和と規律の欠乏により生まれた社会の歪だと、アンディは心の中で卑しめた。 「それにしてもいい天気だ」 寛厚な口調でそう口ずさむと、少し違和感を 感じた。 ふと右斜め下を振り向くと、そこにはヒビが入った自分の顔が視界に入ってきた。 「あ、忘れてた。捨てないと」 そう独り言をしながら、アンディは椅子から すぐさま立ち上がり、以前から廃棄するのを 忘れていた割れた鏡を処分した。

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裏庭

走り屋

アクセル全開。 左目の上半分を覆うほどずれた迷彩色の半帽を被り、愛車である白のピアジオ・ベスパ100を全速力で走らせる。 アンディは仕事に寝坊した。 店長から無数の着信があったのにも関わらず、折り返さず家を出たことを少し後悔していたが、今さらそんなことを気にしても意味がない。 アンディはそう開き直り、走り屋のように ひたすらシャッター街を駆け抜ける。 街の中心部に近づくにつれお店が増え、 ひと気が出てくる。 そして、気づいたときにはまるで地元のレース大会が開催されていて、1位のアンディを見物 しようと言わんばかりに次々と人々が外に 飛び出し、歓声を上げていた。 真っ赤なワンピースを着た女の子と 水色のデニムを捲し上げ、土踏まずの部分が 少し破けたクリーム色のコンバースを履いた 男の子が一際目立つ、脇道で遊ぶ子どもたち。 黒い半袖のシャツでへそを出し、 ボンタンのようなピンク色のズボンを履き、 3日は風呂に入っていないであろうボサボサの 金髪ウルフでギターを抱え、 弾き語りをする少女。 両手で新聞を広げ、咥えタバコで唇を尖らせながら窓からひょっこりはんしながら睨んでくるおでこのシミが目立つ床屋のおじさん。 注目の的となったアンディは映画の主人公にでもなった気分だった。 アンディはスポットライトを独占する背徳感を堪能した。今だけは。 「危ない!」職場の数百メートル手前まで来たところで、パン屋から猫背で脚だけで12等身は ありそうな40代ほどの細身の女性が 飛び出してきた。 アンディは急ブレーキをかけ、交わした。 アスファルトのタイヤの摩擦音が響き渡り、 煙がたった。 そして、女性は瞬きもせずにパンの入った 茶色い紙袋を投げてきた。 アンディは片手でキャッチし、 バイクを再び軌道に戻すと、後ろを振り向かないまま手を挙げてお礼をした。 カフェに到着し、商店街の方を確認した。 先ほど大勢の歓声で包まれていた商店街は スカスカで廃れていた。 裏口の扉から更衣室に向かい着替えると、 店長が慌てた様子でやってきた。 「やっと来たか、アンディ。すまんが、会議があってここからはワンオペだ。頼んだぞ。」 機嫌が悪い店長は引きつった笑みを浮かべ、 機嫌がいいフリをしながら、謝罪をする隙も 与えないまま去っていった。 アンディは余韻に浸るように、揺るぎない信念を抱えた主人公のような歩き方をしながら ホールへと向かい、店内の様子を確認した。 満席だった。

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走り屋

家族写真

「はい、いきまーす。3, 2, 1 」 カシャッ! 母、妹、祖母、祖父、叔父さん、 そしてアンディ。 素敵な笑顔が一家を彩る…。 祖父に浮気された祖母は腹いせから 恨みをまだ幼い母にぶつけた。 そんな祖母に対して母は、嫌悪感を抱くと同時に注がれなかった愛を渇望し続けてきた。 そんな中、2年前に祖母の認知症が重症化した。 叔父さんが一人で面倒を見切れなくなったことをきっかけにアンディの家に転がり込んできた。 そして、アンディと母も介護を手伝うことになったわけだ。 しかし、介護どころか長年溜まっていた祖母に対する恨みが噴火してしまった。 復讐劇の開幕だった。 母の怒鳴り声が響き渡る毎朝...。 祖父は仕事が忙しいため介護を手伝うことが できなかった。 「ふざけんな」アンディはそう思った。 しかし、鏡でじわじわと捻くれていく自分を 見つめる度に自己嫌悪に陥ってしまった。 目の下のクマが顔をより一層こわばらせていた。 そして、これまで目前にしてきた悲惨な現実が瞳に走馬灯のように映し出されていた。 「おまえが変われ。おまえが変われ」 鏡越しからの訴えに逆らうことはできなかった....。 そして2年の月日が経ち、我慢の限界に達した母は貯金を崩し、祖母を介護施設に入れることにした。 ついに開放される...。 一家の再起を記念に、また家族写真を撮ることになった。 母、妹、祖父、叔父さん、そしてアンディ。 家庭内に平和が取り戻されたものの、 みんなどこか心残りを感じていた。 そして、同じ気持ちであることにお互い 気づいていた。 「みなさん、こんにちは。本日はよろしくお願い致します。なんて素敵な6人家族でしょうか。」 カメラマンが微笑ましく言うと、 静寂の壁をよじ登るようにして声が室内を 響き渡った。 「..7人家族です。」

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家族写真

りんご

アンディは家でネットフリックスのおかずに するべく、迷い込んだ業務スーパーでりんごを3個買ってから、外の脇道へと駆け寄り、 雨宿りをした。 冷え込んだ体を紛らわすように震えた手で 赤マルに火をつけ、ネットフリックスのおかずとして買ったことを忘れたかのようにりんごをやけくそにかじった。 そして、辺りを眺めた。 凍える寒さに降りしきる雨が街をより一層 広く見せていた。 横の壁にはスプレーで落書きされていた。 "Justice creates nothing but Justice" [正義は新たな正義のみ創り上げる] "正義”という言葉から最近見た、マーベル作品を思い出したそのとき、左前方からうつむいた少年が叱られるのがはっきりと聞こえてきた。 「間違えることを当たり前と思うんじゃねえ!」 足場の現場監督と思われるおじさんの言葉は、目つきと比例してはっきりと険しかった。 怯えながらも少年は謝罪をし、 すぐさま仕事に戻った。 その瞬間を目撃していた通行人の女性が彼に 同情した様子で、小声で話しかけた。 「パワハラに負けないで頑張ってね」 少年は不器用に微笑んでから、お礼をした。 アンディも同情し、彼の元へ駆け寄ると りんごを一個あげた。 少年は不器用にお礼をしながら、受け取った。 その場を去ろうとすると、目の前に少年を 叱っていたおじさんが戻ってきた。 「あ....よかったらどうぞ。」 アンディはせっかくだと思い、最後のりんごをおじさんにも差し上げた。 「おつ、気が効くねえ、兄ちゃん。 ありがとね!」 おじさんは勇ましい態度で言った。 アンディは不器用に会釈してから、 小走りでその場を去った。 少し進んだところで足を止め、 後ろを振り返った。 「ほら、やるよ。帰ってから食いな」 おじさんは少年にりんごを譲っていた。

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りんご

クローバー

「クローバー」 そこは日没と同時に活気溢れ出す居酒屋。 そして、俗にいう変わり者の溜まり場。 「俺の餃子が一番うめえからよ!」 手づくり餃子で埋め尽くされた数枚の大皿を前に自慢するのは居酒屋の店長であり、 親友の親父。 自分で言うのは情けないなあ。 そう思いながらも餃子をむさぼるアンデイ。 確かにウマい。というかウマすぎる。 滑稽なことに、周りはプロの料理人が作った 餃子と食べ比べをさせて、親父をおじけさせようと必死。 「こんなん餃子じゃねえ!」 頑なに認めない親父。 どうやら謙虚という言葉が辞書にないようだ。 餃子をあっという間に平らげたアンディ。 おかわりをしようと辺りを見渡す。 餃子はなくなっていた。

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クローバー

メリーゴーランド

アンディは一目惚れした。 煌びやかな赤いドレスをまとい、 レッドカーペットの上を歩くかのようにして アメリカンダイナーに入店してきた彼女は、 まるで映画女優のようだった。 内から溢れ出す自信と色気。 店内の男はみんな彼女に釘付けだった。 「赤ワインをください。」 アンディはワインを彼女に出してから アプローチをした。 しかし、彼女は素っ気なく気持ちが沈んでいる様子だった。 アンディは諦めずに会話を続けた。 すると、彼女は少し気まずそうにしながら 口を開いた。 「実は別れちゃって...彼氏と..。」 アンディは同情し、話を聞いてからワイングラスで芸を披露したり、冗談を飛ばしたりして 彼女を頑張って元気づけた。 幸い、彼女は機嫌を取り戻し、その後も会話が弾んだ。 話していくうちにアンディは少しずつ彼女の 中身に惚れていった。 まるでドロドロに溶けた溶岩が徐々に火山の 斜面を流れ下っていくかのように。 アンディの心は燃えていた。 「明日も来ていいかしら」 彼女は獲物を見つけた欲望で満ちた虎のような眼差しで、アンディの目をじっと見つめた。 後日、アンディは薔薇を用意した。 彼女は薔薇を快く受け取ってから言った。 「素敵だわ。ありがとう。私って一貫性のある人が好きなの」 アンディは彼女をデートに誘ってから貯金を切り崩し、デート当日にレストランで高級ダイヤモンドの指輪をプレゼントした。 「あら、アンディ。なんで優しいのかしら。 ありがとう。」 彼女はアンディにキスをした。 アンディは顔を真っ赤にして歓喜に 酔いしれた。 しかし、それも束の間。 外から聞こえてきたのは車の クラクションの音。 そこには高級車に乗った見知らぬ男が彼女を 迎えにきていた。 アンディは困惑した。 「ごめんね。でもあなたは正真正銘、 "本物の男"だわ」 彼女はそのままテーブルを後にし、 車に乗り込んだ。 そして、男はこちらを一瞬たりとも向かずに そのまま急発進で彼女と去っていった。 アンディは彼女の"誘惑"という名の メリーゴーランドに振り回されたのだった。 その晩、アンディは鏡を見なかった。

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メリーゴーランド

ギャラクシー

アンディがやってきたのは小規模クラブの ギャラクシー。 そこはクラブというよりかは、もはやビリヤード会場と化しており、手球と的球が飛び交う 危険な場所..。 くれぐれも細心の注意を払うように...。 さもないと次にキューで突かれるのはおまえの目玉となるだろう...。 地区決定戦の試合が始まろうとしている。 アンディはオレンジジュースを頼み、 カウンターの一番端に座った。 鋭い目つきにマリオを連想させるきれいな 口髭、そしてハリセンボンの針みたいに 尖った坊主頭。 彼はクラブの司会者を長年務めてきた、 地域一体のネットワーク的存在だ。 その名もマイク。 観衆がわき、司会が始まった。 「さあ、選手のご登場だ! 先行は地区チャンピオンのバオ選手! 試合ではもちろん、恋愛でも狙った的は決して外さない界隈屈指の男! 今晩も華麗なプレーで獲物を落とせるだ.... おっと...サングラスをかけ、何かを取り出し始めた...クシだ〜! 彼にとってこれはもはやファッションショー!ここは"チャンピオン"という名のファッションを守り抜いて頂きたいところです! そして後攻は、沖縄から通々やってきた ベトナム人のブーブ選手! ヤクザという噂もあり、空港の手荷物検査の際に別室に連行され手荷物を余すところなく、 調べられたそうだ。本当にヤクザか、はたまた覆面か?真相は闇の中だが、チャンピオンに挑む根性には存分に期待していいだろう!」

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ギャラクシー