少年の日の思い出 後日談(妄想版・薔薇が咲き乱れています・閲覧注意)
朝、鳥の声で目が覚めた。憂鬱な朝だ。寝台の脇には、昨夜の記憶がまだ残っていた。きっとこの先僕はチョウの収集を見るたび、この不愉快さを感じるのだろう。
朝食を食べても、僕の気持ちは変わらなかった。ただ母がかまわないでおいてくれたのだけが、ほんの少しの救済だった。今頃、あのエーミールはどうしているのだろう。いや、僕が彼について考えるのも罪だろうか。
少し経って、誰かが僕の家を訪ねてきた。母はいなかったので、僕が出迎えた。僕の憂鬱を晴らしてくれる、そんな客人に期待して。だがドアを開けた途端、期待は失望と落胆へと変わった。あの少年がいたのだ。僕の心は嫌悪と後悔で満たされていた。そんな中、エーミールはしばらく考えてから口を開いた。
「昨夜のことについて、考えたんだ。君について、ヤママユガについて。」
「許すなんて言葉は使わない。使いたくない。だが、代償ならば、考えてやってもいい。」
「それで、その代償なんだが、」と彼はそこまで言うと口を閉じ、そしてきっぱりと言った。
「君の身体だ。代償は君の身体で支払ってもらう。」
最初から、僕に拒否権なんて無かった。それに、僕にはわからないことが多すぎた。なぜ僕が労力を支払って償いをするのかも、無情な裁判官が、頬を薔薇に染めていた理由も、すべてわからなかったのだから。
僕は執行人に手を引かれて、彼の部屋に来た。彼は部屋の主らしく悠然と椅子に腰掛けた。目を伏せたその姿は、相手が違えば見惚れてしまったろう。そのくらい、美しかった。しかしそんな僕の気持ちは、すぐにかき消えることとなった。エーミールがいきなり僕の前まで来た。そして彼の唇と僕の唇が重なった。僕は突然のことに驚き、抵抗すらままならなかった。気付けば彼の舌は僕の唇を割って、互いに舌を絡めることとなった。僕の中に、新たな感情が生まれた。それはまるで、美しいチョウに忍び寄るときのような、微妙な喜びと激しい欲望との入り交じった気持ちだった。僕は宝を求めた。エーミールというチョウを捕まえると、熱情のままに貪った。たまに漏れ出る彼の吐息と声は、僕をとりこにするのには十分すぎた。唇を離すと、彼と僕の間に細い橋がかかった。
「…ぁ…」エーミールの寂しげな声と表情は、僕の心をいっぱいに満たした。
―ああ、エーミール、僕のチョウ。僕は全く君のとりこになってしまったみたいだ。