夜白紡。
2 件の小説本当の記憶とは、
ー2話 「久しぶり!って言っても覚えてないか」 彼女は小さく笑った。 「花ちゃん、話をする前に行きたいところがあるんだけどいいかな?」 「…分かった。」 そうして向かったのは待ち合わせた公園と少し離れた小さな丘だった。その丘からは海が見渡せた。 「わぁ綺麗。何もかもがどうでも良くなる気分。」 「…」 その景色に私はとても感動した……はずなのに心がザワつく気がした。 この丘に来るにはバスに乗ってきた。仕事では電車しか利用しないからか、久しぶりのバスだったのもあって、両替してからお金を入れるというバスの仕組みを忘れてしまっていた。 運転手さんに50円のお釣りを呆れたように返された。「すみません…」 「花ちゃんバスの乗り方まで忘れるなんてね笑」 「あはは。すみません…」 「謝らないでよ!結構あるあるだし笑」 そうして2人はしばらくその丘で世間話に盛り上がった。 「花ちゃん私おすすめのカフェが近くにあるんだけど行かない?」 「行きたい!」 カランカラン 「いらっしゃい!おー糸ちゃん久しぶりじゃの。そちらはお友達かい?」 「はい!おじちゃんいつもの2つ」 「分かっとるよ」 そう言ってこのカフェのマスターは奥に入っていった。 「素敵なところだね。常連なの?」 「まぁね。昔はよく来てたし、最近もちょくちょく。悩み事ができたりするとここに来るんだ。」 「へーそうなんだ。ここ落ち着くし、私も仕事で疲れること多いし通ってみようかな。」 「…ありがとう。」 そう口にした彼女はどこか悲しそうだった。 「はい、お待ちどうさま。」 「ありがとうおじちゃん」 運ばれてきたのは綺麗なハートのラテアートだった。 「私苦いコーヒーは苦手でいつもこれを頼むんだ」 「すごく綺麗!形崩れるのが嫌になる」 彼女はクスッと笑って少し暗い顔をした。 「それで、電話の事なんだけど」 あ、そうだった。楽しくなってて忘れてた。 「……本当に覚えてないの?」 「え?」 「私の事、だけじゃない。待ち合わせたあの公園もあの小さな丘も、この喫茶店も…」 (どういうこと?私今日初めてこの人に会って、あの丘に行ってこの喫茶店にいる。) 「…ごめん。なんの事か…」 「そ、そうだよね!いいの、分かってたから!」 彼女はそう無理に明るい口調で笑った。 「紫乃って覚えてる?ほ、ほら、ニュースになってた」 (この前のニュースの人かな) 「紫乃?あーちょっとだけニュース見たかも。同い年の?」 「そうそう!その子。……実はさ、同じ高校の同級生なんだよね。」 「え、そうなの?」 「そう、花ちゃん。あなたと1番仲良かった友達だったんだよ。」 「ちょ、ちょっと待ってよ。私知らないよ?そんな人」 「分かってる!でも花ちゃん、ただ忘れてるだけなんだよ。」 意味がわからない。 「私と花ちゃんは中学からの友達で、奇遇にも同じ高校に進学したんだ。紫乃はその高校で出会ったの。高二の春だったかな。紫乃が私たちのクラスに転校してきたの。話してみたら気が合ってとても仲良くなったの。…だけど、今からちょうど10年前の夏くらいだったかな。私たちが高校三年生の時、紫乃は変わってしまったの。」 彼女は寂しげに目を伏せた。 「その時私には分からなかった。紫乃が何故変わってしまったのか。でもその理由は直ぐにハッキリした。花ちゃん、あなたのお母さんと紫乃の両親は昔の知り合いだったらしくてねとても仲が悪かったの。」 初耳だった。 「私も詳しくは知らないんだけど、紫乃はそんな両親に花とは仲良くするなって何度も言われたんだって。花ちゃんにはいえないって私にだけ相談してきたの。それから、私たちあまり話さなくなったの。受験期だったのもあるけど、事情を知ってる私がどっちかと仲良くすることも出来なくて、少し話す程度になった。」 「それから受験がおわって、卒業目前だった時。あの事件が起きたの。」 「…事件?」 「そう」 糸ちゃんは緊張した様子で、一瞬口を閉ざしてから言った。 「……花ちゃんのお母さん、そして紫乃の両親が何者かによって殺されたの。」 「うそ、でしょ…?!!」 途端、景色が遠くなった。 「無理に思い出さないで!!!」 彼女は必死にそう言った。 「私は詳しくは知らないの。ただの友達だったから。…ただ、3人の遺体が同じところにあったんだって。だから、3人が仲が悪かった理由にあると私はずっと思っていたの。」 「でもさすがに、親をなくした2人には聞けないし、知らないフリをしてたんだ。でもその事件のせいで、紫乃と、はなちゃんは取り調べを受けなければいけなくて、卒業式には出られなかったの。私も卒業してしまったし、会うことも出来なくなったの。」 「花ちゃん何も覚えてないんだよね。今の話。」 「…うん。何も。でも、覚えてないと言うより思い出せないって感じがする。」 「無理に思い出さなくていいよ。私今日あの日ぶりに花ちゃんにあったんだ。だから、記憶がないのも今日知ったんだ。電話の時はただど忘れしてるだけなのかなっておもったんだけど。今日の花ちゃんを見てると本当に覚えてない事が分かった。」 「……きっと、花ちゃんはあの事件のショックで記憶を失ってしまったんだと思う。」 そうなのかもしれない。心からそう思った。 「それでさ、紫乃が今逮捕されているのはその事件が原因なの。だけどね私の勘だけど紫乃は犯人じゃない気がするんだ。」 「そう、なの?」 「ハッキリは分からないけどね。そんな気がするんだ。」 「…だからさ、私犯人探し自分なりにしようと思うの。私の友達が冤罪かもしれないと思ったらいてもたっても居られなくて。花ちゃんにも協力して欲しいなって思ってたんだけど覚えてないなら仕方ないよね。無理に思い出すのも良くない気がするし。」 そういった糸ちゃんは自信があるようにみえた。 私も、この出来事を本当に覚えていないなら思い出したい。糸ちゃんの力になりたいそうおもった。 「糸ちゃん!私も協力する!」 「ダメだよ!無理に思い出そうとするとどうなるか分からない。心配しないで大丈夫だから。」 「ううん。思い出すつもりは無いよ。ただ、自然に思い出せたらいいなって気持ちはあるんだけど。私は思い出すことよりもただ糸ちゃんの力になりたい。だからお願い!」 少し考えた後「分かった。」といって少し嬉しそうに微笑んだ。 その後、花ちゃんと少し話をして盛り上がり。そのカフェで別れた。 (…久しぶりに楽しかったな。友達と遊ぶことなんて無いからな。毎日仕事仕事でそんな余裕ないし。でもあの喫茶店は良かったな。また近々行こう。でもなんだかな…) 頭では何かを思い出そうとしていた。
本当の記憶とは、
2026年4月6日(土) 私は朝、いつも通り何気なくニュースを見た。 ───次のニュースです。昨日××紫乃さん二十八歳が逮捕されました。 しの…苗字聞き取れなかったけど逮捕なんて、なんでだろう。歳も同じ。 「あ!もうこんな時間。」 「いってきまーす」 (…って誰も居ないけど) そう心の中で言いながら家を出た。 私、塚本花(つかもと はな)二十八歳。今日も朝から仕事。 普通に考えて土曜日も朝から仕事なんて信じられない。もう今となれば当たり前のようだけど。 「おはようございまーす。ってあれ進藤さんは今日はお休みですか?」 「そうなのよー。珍しいわね。」 「まぁそんな日もあって当然ですよ」 そうね。と言うこの人は深澤さん。私の教育係だった明るくて、仕事も早くて丁寧で私の憧れ。 よし、今日も仕事するぞーっと。 プルルルルル その時、滅多に鳴らない私の携帯が鳴った。 …誰だろう。番号も知らないし、怖いから無視しておこう。そう思ったが、その後も同じ番号から何度も何度も電話が鳴った。次第に腹が立ってきた私は次かかってきたら出てやろうと思い、着信を待った。 そして昼休みに入った頃。 プルルルル 「一体誰なんですか?!何度も何度も──」 「はなちゃん?良かった電話に出てくれて、大丈夫だった?」 ……え、どうして名前 「誰?なんで私の名前を知ってるの。」 「私、東雲 糸。覚えてる?中学校の同級生だったんだけど。」 ── しののめ、いと…全然覚えてない。そもそも中学校に行った記憶なんて…… 「ごめんなさい、覚えてないです。…てゆうかそんなことより大丈夫、ってどういうことですか?」 「はなちゃんあの事、覚えてないの…」 「え?」 「……いや、理由は会って話したい。」 そして後日糸さんと会う約束をし、電話を切った。 ─あの事って一体…