きいち
37 件の小説PartⅪ 全てを手に入れるまで。 【絹子の場合】
ママはワインを片手にもち じーっと見つめた。 『そーねー難しいかもよ、絹ちゃんは』 『なんで!どーしてよっ』噛みついた。 『うーーーん、ママが絹ちゃんのお年頃の時 もうパパ一筋だったわ。凄くお爺ちゃんに 反対されたけど、もう決めてたもの。 パパとしか結婚しないって。 他の男の人はみんなカボチャに見えたわ 絹ちゃんはカボチャもトマトもマルゲリータも まだまだ美味しいものが世界にあるって 思っている感じがするなぁ…』 『だってそうじゃない。あるわ。 世界中には五つ星が沢山あるんだもの』 『そう、それ。五つ星を狙って 世界を行き来している絹ちゃんには 結婚相手じゃなく美味しいものを 探してるじゃない』 『だから、外のエアラインに 乗ってるのよ』 『でも、もう4年も乗ってる…』 『出会いはない訳じゃない。 一途になれる人がいないの』 ワインを一気に飲んだ。 『あの涼平て人。 家に来たわ。もっと前から お父様が調べてたのも知っているわ うちも一応旧家ですもの、そんな大雑把な 調査されたら直ぐ耳に入るわ。 失礼だ、パパは怒っていたけど、 涼平て人と話したら、いい人じゃない。 シンガポールで事業なさって、 私たちとはスピード感が違う暮らしを されている。競争社会の中で これから彼が先頭に立ってまだまだコレからの 戦場がある。 けども一緒懸命守ります、頭を下げて。 今は、絹子さんに見向きもされてないんです あの香港での話を聞いた。 電話にも出てくれないけれど、 絶対絹子さんと結婚したい気持ちは変わりませんて』 『信じられない…家にまで。そんなところが嫌いなのよ』 『彼はいずれ決められた人と結婚するでしょうけど 絹ちゃんに彼の気持ちがわからないよーじや 結婚は難しいわね』 『嫌よーママまでそんなふうに言わないで』 『ゆっくり休みなさい。焦らなくても シングルも面白いわよー』 『ひどい。もっと励ましてくれるかと思った』 『まあハワイを楽しみましょう。娘のイライラには 付き合うつもりは無いから、好きなとこに行きなさい。 少しお休みしてもいいんじゃないお仕事。 好きなだけここにいてもいいわよ ママは明日からゴルフ、それからハワイ島に行くから』 『えーーいないの』 ーひどいー 頭を空っぽにして、少し休憩しなさい 壁にぶつかった時は 反対を向いて歩き始める。 壁に抜け穴なんて探さず コレも運だと諦めが肝心 そして仕事もいいけど、人をもてなすには 余裕が大切。それは今の貴方にはないわ。 休職して、頭を解放してあげなさい。 詰め込み過ぎてパンクしちゃうわ。 頭も、その身体も絹ちゃんのだけのモノに 見えるけど、違うのよ 絹子という身体に鞭を打ってる、絹ちゃんは。 優しくしてあげないと、心も錆びてしまうわ。 身体を労り、エステでもして、頭もスッキリして もう一度、味覚をもとに戻しなさい。 優しい味覚を、少しづつ。大切に味わうの。 焦らずに。ゆっくりとね。 気づいてないでしようけど 眉間の皺、クッキリ入ってるわよ ママは寝室に入っていつた。 以外と気づいた。 結婚は難しい。私には。 焦ってなんてない。 ママの結婚が早いだけだ。 言い訳を作りながらベッドの中で思い出す。 涼平…あれからお母様が来てから連絡はない。 私は捨てたつもりでも 捨てられたのかもしれない。 もうすぐ29。 何が欲しいかわからない 本当に好きな人もいない こんな孤独を味わった事もナイ。 ベッドがキングて広すぎるんじゃない。 サミシイ。 明日から何しよー やけたくないしプールも嫌い。 ゴルフはもっと嫌い。 PF80塗ってアラモアナを偵察しよーう。 新しいジルサンダーのサンダル欲しい。 DIORの香水、完売してたのも欲しい。 欲しいもの、食べないものは 沢山ある。 世界一のディナーも行ってみたい。 欲張りに育ったのは、私のせい!? 灼けないようにしないと。 何しにハワイに来たのだろう よく朝、パックをしながらベランダで ワッフルを食べてた。 携帯が震えた まさか涼平だったらどうしよう? 番号は知らない番号だった。 耳に当てると、陽気な音楽が聞こえてくる。 『キヌコさん、アンドレアですね、僕は 昨日、結婚式が終わって、ホテルにいます。 良かったらディナーでもいかがでしよう? ホテルの名前はモアナサーフライダー です。とても素敵なホテルですね』 メッセージに切り替えた。 急に話せる相手ではない。 感じが良かったアンドレア。 彼女とは来ていないのか。 どうせ今日からなんの予定もない。 食事、行こうかな。 ワイキキは煩いから嫌いだけど、 アンドレアとなら楽しいかも。 折り返しボタンを押した。 直ぐ、時間を提示された モアナサーフライダーに7時に。 大きな木の下で待ってます。 あの大きながジュマルの木。 モアナのトレードマークだ。 あの木の周りで音楽を聴いたり、 マティーニを飲んだりするのが ハワイの一つの観光スポットになっている。 きっと結婚式はモアナで。そのまま 宿泊してるのだろう。 白い貴婦人と呼ばれる最古のホテルだ。 ハレクラニよりも好きだ。 いいかもしれない、偶にはモアナサーフライダー。 ガジュマルの木には神や妖精がいると言う。 今の私を癒して欲しい。 ガジュマルに会いたい
Part➓ 全てを手に入れるまで。 【絹子の場合】
『なんだか。 ご機嫌が悪いのかしら絹ちゃん』 『ママ、どーしても聞きたい事があるの。』 私たちはパパの出張に合わせて、ホノルルで 待ち合わせをした。 ママはこちらのお友達に会う約束があったらしい。 私は……とうに限界の一線を超えた気持ちに もうママしかいないと思った。 このモヤモヤしたイライラした気分。 友達にも話たくない失態だ。 やけ酒もいけない。肌に悪い。 あの夜、温泉に入り、ママの声が聞きたくなった。 部屋に戻り番号を押すと、出ない……珍しい。 朝明ける頃に震えた携帯。 『ごめんね、今朝かしら? ホノルルにいるのよ。パパが忙しいから ひとりで来ちゃった。』 ふふっと笑ってる。 私は直ぐチケットを取り、その日に便に乗った。 こういう時は便利だ。何かと融通かきく。 久しぶりに日本のエアラインに乗る。 エコノミーでも充分綺麗だ。 海外ではあり得ない清潔さ。ツアー客が煩いが 『お客様、お静かに願えますか?』 と、丁寧過ぎる応対をしている。この国 の人達が、大人しくしている訳はないのに。 ウチのエアーではツアーはとらない。 特に安価なチケットのツアーは取らない。 まるで修学旅行だ。 何が食べないといけないかのように食べる 飲む。平気でカップヌードルを湯をくれと、 免税店で買ったボトルを開けてソーダをくれ と言っている。 礼節とか、遠慮という語源がないのか 全くもって煩い。今1番欲しいのは耳栓だ。 新作のジルサンダーのサンダルより 耳栓が欲しい。 取りに行こうと腰を上げると、 隣で眠っていた男が目を覚ました。 sorry。 米人ではない発音。 やめて腰を下ろした。みっともない。 あまり動くのはよそう。 『失礼ミス……』と指を露骨にみる、 『何か、Mr.?』私も見返した。彼は 凄い笑顔で話かけてきた 『エコノミーには似つかわしくない貴方は、 日本人ですか』 『ええ、そうです。貴方は、イタリアン?』 『おおー素晴らしい。シチリアです』 『ハワイへはお仕事ですか?失礼ですね 個人的な事を。僕は友人の結婚式に 呼ばれまして』 『私は母とバカンスです。母は一足先に』 『とても美しい英語です。大学生ですか?』 『いいえ、仕事を持ち4年目なのです。』 『ごめんなさい、凄く若く見えたもので。 日本の方はとても若く見えます。 静かでヤマトナデシコですね』 なんとキレイな目をしているんだろう。 私はエメラルドより栗色の瞳の色が好きだ。 『アンドレアと言います、よろしく』 『キヌコです。はじめまして』 私たちは深夜便の中、小声でお喋りを 続けた。 眠りたくても無理だと、お互い諦めたのだろう 宴会のような盛り上がりに、もう打つ手はない。 こんな時は自分で気持ちを切り替えないと 時間のロスだ。 付いてなかったと、割り切る方が早い。 毒ついても何もいい事はないのだ。 お互い付いてない者通し、楽しい時を。 なんでもない社交的な話を続け、 お互いにシングルだと。 家族思いだと、アンドレアは家業の イタリアンレストランで働いてると ウチのマルゲリータは世界一だと 名刺をくれた。 パレルモ。 素敵ない街だ。 オリーブ畑が広がり、海に囲まれた 魚介が美味しい。ワインを昼から飲む 人達。人生を愛とワインで楽しむ人達。 シンプルで子供のような男たち。 わかりやすく、女が好きな人達。 そして街から離れる事のない人生を 送る。 大家族でサッカーを見ながら。 私は好きな国のひとつシチリア。 きっとブランドなど気にせず、に 暮らせて、美味しいもので太るんだろう 毎日ばパスタでチーズとワインで。 それって幸せなことだろう。 シートベルトの灯りがつき、下降して行く 相変わらず暑そうだハワイ。 カハラば涼しいだろうけど、ワイキキは避けよう。 アンドレアはスーツケースも持たず、 そのまま又会いたいね、と首にキスをして 去って行った。早足で。 きっと彼女が待っているのかも。 後ろにいたツアーは私を通り越して走って行く。 いつも急いでる人たち。 ワイキキはだろうからもう会う事はないだろう。 ジケツトの中でこっそり中指を立てた。 ヤマトナデシコ、笑ちゃう。 みんな古い。古すきだわ。 ママが車で迎えにきてくれてた そのままワイキキを抜けてカハラまで。 シャワーを浴び、 一階のイタリアンで夕食を。 アランチーノ、そう言えばイタリアン 彼の造るマルゲリータはここより美味しいのか? ママは太っていくばかり、と言いながら もう1本赤を頼んでいる。 『ねえ、ママ聞きたいことがあるの 私ってお嫁にいけそう?』
Part❾ 全てを手に入れるまで。 【絹子の場合】
カツカツと制服で羽田のターミナルを 歩いている時、 すみません、あのう…… 母親ほどの年齢の方か、お辞儀をしている。 よく大きな羽田で迷うご婦人達、制服来てたら 場所が分からなくなって……迷子のご老人たち。 『はい、どちらまで行かれるのでしょうか?』 ニッコリ笑う。 会社の制服だ、失礼はできない。 『あのぅ絹子さんでしらっしゃいますか?』 『はっ?えーはいわたくしは絹子ですが……』 腰を45℃に折り、背筋を真っ直ぐ伸ばし 『ヤン涼介の母親でございます。 お忙しいところこんな所でお声を、失礼 を承知でお声をかけさせて頂きました。 すみません』 えつ。母親? 数秒時が止まった気がした。 『涼介さまのお母さまですか?驚きまして…… あの何か、わたくし失礼を……』 失礼千万。 色々しているが、母親が羽田に…… 『いえ、決して、こちらが失礼を。 恐れ入りますが少しお時間、頂きたくて』 なにかしら? 捨てたから慰謝料とか、あるのかしらあの国では? ちゃんとしないと、面倒は噂になりかねない。ここは ちゃんとお話しとかなくては。 羽田の中はまずい。制服が目立ち過ぎる。 せっかくホテルの温泉にゆっくり浸かろうと 冷たくなった足を伸ばそと……何かしらこのおばさん。 『ここではお話しも聞き取れないほどの雑音ですので、 良ければ直ぐ近くのホテルでいかがでしょう わたくしの宿泊先なのです。指定されておりまして』 場所は私が決めて然るべき。 『どちらでも結構です。ご一緒させていただけますか?』 制服ではあのホテルでも目立つ。 着替えないと。なんの予定も入れてはないけど 強引な人達。あの親子も。 部屋で着替え、さっとシャワーを浴び、 Macのマットなベージュを口に引き直す。 可憐さは薄れて、肌の色がとても綺麗に見える。 あの人、和服ではなかった。 シルバーのスーツに薄いパープルのスカーフ。 あの肩からの腕のライン、 DIOR。 私も狙ってたスーツ。限りなく白に近いがラメが シルバー。趣味がいい。 腹筋に力を入れてエレベーターに乗った。 『改めまして、わたくしヤン百合子と申します。 本当に急で申し訳ございませんです。』 『いえ、予定を入れてませんので 明日も仕事で戻りますので、お気になさらないで 下さいませ。…あのそれで…お話しとは』 『あっはい。先日はウチの主人が大変失礼な態度を。 本当に申し訳ございません。息子の事となると 人が代わりまして、涼介はアレから本当に……』 謝罪?? 『いえ、わたくしも初対面で、また何も知らなくて お父様とお会いするなんて聞いてなかったものですから』 『ええ、聞きました勝手に席を用意したのだと。あの子は 本当に世間知らずでございます。よく叱っておきました』 『あ、あのう涼介さんとは本当に最近のお付き合いで 何か勘違いをされてましたら、困るのですが……』 『いえ充分に心得ております。息子の事はよく知っている つもりです。絹子さんとのお付き合いを、それは もう態度でわかります。わかりやすい子ですので。 甘やかしすぎた事もありますが真っ直ぐな所が あり過ぎまして 嫌なお気持ちにさせてしまいました。』 『いえ、もう済んだ事ですお母さま、わたくし正直 申しましても? 結婚まで考えてないのです。決していい加減な 気持ちではないのですが、そこまでの話は全く涼介さんとも。 ですから驚きました。』 『そうだと思います。あの子は先走る所があるので。 仕事では必要な事でしょうが、そのように主人が 教えておりました。ただ、女性とのお付き合いは まだまだ未熟です。自分だけが浮かれて先走った、 そんな感じでしょうか』 『いえ、失礼なのですが、お母さまはがわたくしにどのよう なお話があるのか気になります。 東京にたまたま来られたとは思えなくて』 『勿論です。情け無いですが息子の事になると じっとしていられなくて、バッグ一つで羽田まで。 笑われるでしょうが親バカですね。 涼介はアレからと言うもの仕事さえしてますが も抜けの殻というとか、沈んだ魚のようです。 モルジブでしたか?あの島から灼けて戻って来た 時とは別人に。もちろん絹子さんのせいでは ございません。ですが絹子さんのせいなのです。 主人は仕事に修証が出るなら、追い出せ!と。 女ごときでウオサオする奴なんかに任せられん! と。』 『その通りだと思います。お父様の仰る通りです 涼平さんとの事は私の中では……もう。 自分の意思はちゃんと持っております』 『それは、勿論です。貴方のような美しい、しっかりと したお育ちで、仕事をお持ちで。 息子には高嶺の花です』 『お育ちとは、どう言う意味でしょうか?』 嫌な気分になつた。 何か、話が噛み合わないし。 『失礼を承知で申します。絹子さんの名前を食卓で 口にするようになり、 まだお付き合いもさせて頂いていない。 舞い上がってる息子を主人は片目で見てましたが 直ぐに調べさせたようです。 すみません、主人は決めてた娘さんがおりました。 息子の相手にと。 商売一筋の人です。息子の代で潰すわけには…… 知らぬ顔で実は、絹子さんの事を よく存じておりました。2度ほどドバイ便に。 仕事ではなく……』 それって、身の上調査を… 生い立ちまでを、パパやママや 祖母たちの生い立ちまで。 わざわざ空まで見に?? ざわざわした、一緒で鳥肌が立つ。 なんなのこの人達。 『失礼を承知で東京まで来ました。この事は主人も 存じております。 どうか息子の気持ちを収めて頂きたいと。 この通りでございます』 テーブルに着きそうに頭を下げる。 何かしら? 謝罪じゃなく、別れてくれ、と。 近寄るな、と。 いいに来たの東京まで。息子に内緒で。 フラリと前の景色が歪んだ。 封筒を置いている。頭の中が整理できず、 お金を受け取るとでも。 なんて厚顔無恥な人達、 馬鹿にし過ぎだ。 頭がクラクラする。 レジで領収書をもらっている。 私に会ったことを報告する為… 部屋に戻りベッドに 仰向けで倒れた。 さっぱりわからない。 私は家族にふさわしくないと、 息子の代で潰すような、て言ってた、 別れてと欲しいと。 恥ずかしい。 知った顔もいるこのホテルで。 フロントも見ていたのでは。 なんて恥ずかしめを。 気分が悪い。なんか吐きそうだ。 馬鹿にして!クッションを思いっきり投げた。 鏡に映る女は鬼のような目をしてる。 知らない間に奥歯を強く噛んで、頬が硬くなっている ダメ、ほうれい線が出来てしまう。硬くしたらダメ。 とりあえず温泉につかろう。 そうだ温泉に浸かる為に予約したのだ。 温泉に……入ろう。
Part ❽全てを手に入れるまで。 【千恵の場合】
洋介からよくラインがくる。 別になんのようもないのに。 今日はついてないわ、ラーメン何味が好き? 歌舞伎座に愛之助が来てる?ノリカも来るんちゃう? 金髪やめろ言われた。金髪がオレのカラーやのに たこ焼き屋て儲かるか?めっちゃ並んでる さつき外人に外国の人?聞かれた、笑 3日に一度の割合でくる。 へーー ふーーん としか返さないようにしている 拘るのはちょっと面倒。 顔はイケてる。お笑いのブレイクした片方に似ている 私の半分くらいの細さやきゅうりみたいや あの会社は顔でとるんかな? てか会社じゃないけど、商社でもないやろ どこでも世間知らずに見られるんやなあ。 ポーとしとるんかなあ ばあちゃんめっちゃ喜んでたなー 送料も高かったけど良かった。 あんな喜んでくれるとは。 もっと腹に溜まるもん送って来て!てお母ちゃんには 怒られたけど。 アンタに送ったんやないワシにや、ええ子や千恵は 気張るんやで!帰って来たらどつくぞて。 ほんまや気張らな。 気分よく布団に入ろうとしたら携帯がなった 珍しいラインと違う 『なに。こんな夜中に』 『まだ10時やぞ、夜はコレからや 出ておいでやミナミ』 『ムリムリ、もうパジャマや』 『パジャマてかわいいのー行こうかな千恵んち』 『アホか。大家さんに怒られるわ隣や』 『ちゃうねん、ほんま会いたいねん。千恵に』 『なにゆーてるん、そんなん言うても行けへんわ』 『ましでましで一回だけ来てーや』 『酔うてるん?事務所なんか行けへんで』 『そんなんちゃうよ。オレも行けへんわもう、 あんなおっさん』 『喧嘩したんあの人と。』 『ちゃう首や、もう首や言われた』 だから一人で退職祝いやーポンボボポン! 小太鼓の音がする、何処やそれ? 『オレの唯一心を許せる美人のねーちやんの店や』 『ええやん、おやすみ』 『ちやうねん、てータクシー代出すから来てやー』 相当酔うとる。 おトーみたいや。 酔うたらシツコイタイプや。 どーせ寝られへんしタクシー使えるし行こか。 『とこ?や』 『おーー嬉しー早よ来いやライン送るから』 歌舞伎座の裏、首になっても歌舞伎座好きやな タクシーで降りるとしんみりしてる歌舞伎座の裏。 居酒屋もう店を閉めかけてる 雑居ビルの4階の扉を開いた。 真っ赤なベルベットの椅子に紫のライト。 いらっしゃいー! の太い声 『あらっ、洋ちゃんにもこんなまともなお友達がおるんや』 『おうや、まともやろ。おとなしそうやけど根性あるんや』 高い丸椅子に座りビールが出てきた。 サービスよ、はじめてのゲストには、ウインクする。 サイのような二の腕に、ルブタンのヒールのタトゥー👠 はち切れそうなタンクトップを着て、下は見えないが。 『ありがとうなー来てくれてありがとうー』 『酔ってるん?』 『ここで3件目。久しぶりに酔うたわ』 『ぶつぶつ言う男は嫌われるわよ!もっとピシッとせんとばかタレ』 小太鼓で頭をボーンと叩かれていい音が出た。 『とうしたん?首になったん』 『おうー、もう辞めたかったから丁度良かったわ あんなくされオヤジ。 顔だけめっちゃええやろ?アイツ。ちょっと前までホストや ホストでももう年とったから下り坂や。オバハン捕まえて アレし出しよったんや。 インチキ商売や。詐欺や詐欺!』 『そんなん言うもんやないで洋ちやん、少しでもお世話になったやんか そんな風に言うたらあかんで、自分に返ってくるで!』 小太鼓を叩きまくってる。 ボボボポボポーン! なんかかわいいこのサイのママさん。 『気が小さいし、人を騙すのなんてはなから無理やのに 反対したやろ。てもやってみるって言うたんはアンタやで』 『わかっとるわー!一応頑張ったわーこれでも。 レモン入れてー』 薄い茶色のコップにレモンを絞ってる🍋 『ちゃうわ!檸檬や! 米津やハイボールにレモン入れるなよー!』 『あら、久々ー歌うのーオハコ。』ヨッ! 曲が流れ、マイクを持って大きく深呼吸した。 🎵夢ならばどれほど良かったてしようーを 戻らない幸せがあることをー 🎶 ウマーーうまい。歌、レモン歌えるんやー 凄い。 大きく拍手した。 『上手やなー、やるやん』 『おうー米津は歌えるねん、好きやからめっちゃ練習したし ほんまは歌手になりたかってん、大阪来たんもオーディション 来たんや。18の時。 オレみたいなんは石の数ほどゴロゴロおったけど』 『星の数ほどや、ばかタレ。最初ここに来た時はな、 歌唄わせて下さいていきなり入ってきてん。 お客がレモン言うて、ハイ!つてギター弾き出して あの頃は金髪でもなくて可愛かったなあー』 『うっさいわ。今でもイケとるわーイケとるわー』 泣き出しそうやった。 その時ドアが開いた。 『おうやっぱりここにおったんか、2件で当たりや お前、わかっとる思うけどまだ未納がようけあるさけー 言うたら借金や。未納はおまえが立て替えよ。それまでは 歌舞伎座から逃さんぞ、わかったのー』 『ちょっとー、やめてねーお客様を脅すんわ ここは私の店、ヤカラはお断りですぅ』 『そやオカマ、おまえが立て替えてもええでー コイツとは長いお友達やー穴友達やろー』 『ええ加減にせんと、ポリ呼ぶぞ、サロンにいかしてもええんやで』 その声はの太いおかまの声ではなく、完全にドスの効いた オッサンの声だった。 ケッといいドアを閉めた。 『ホンマいかついわー最近の風呂屋の人って』 胸に手を当ててかわいいポーズをしている。 『ふろやちやう、プロデューサーや』 『一緒や、何がプロデューサーや 今まで何人の女を泡に沈めてきたか! 風呂屋やアイツは、地獄に堕ちろ』 扉に向けて白い粒を投げた。 やっぱり……怖いヒトやったんやー 普通やないと思ってだけど、女の子にそんな酷いこと… 地獄に堕ちろ、心で思った。 レジを閉めながら 『はいお疲れさま、また来てね、涼ちゃん よろしくね。』またウインクされた。 『ほらってしっかりしいー 吐くんか、ちょっと待って、水、買ってくるから』 情けないほどプロデューサーの言葉に動揺している。 へべれけのきゅうりはぐったりしなだれかがつる 軽い、私よりかなり軽い。 財布をズレたジーンズから出して私に渡す。 ありがとう、な。 私も和歌山の女や。 根性座っとるで、涼、見捨てては行けへん。 タクシーに押し込み自分のアパートの住所を言うた 涼は後部座席で横に体を折り寝ている もう、どうとでもなれ。 弱いもんは助けなあかん ばあちゃん、許してや 男を連れ込むわけやないで こん子は弱っとる野良猫や 助けにゃいけん。 檸檬を完璧に歌える奴は ええ奴に決まっとる。 じいちゃんコなはずや、きっと たぶんやけど、知らんけど…
Part❼全てを手に入れるまで。 【千恵の場合】
『キャラメルマキアート? マキャアート?言われへんわ、 舌噛みそーなるわ、上手いよなコレ好きやわ 何飲んでの?』 レジでお金を払う時、横におらんで 席に座ってた。 コイツ奢るつもりもはなからないんや 『ラテ』 『ラテな、普通のやつな。 どっから来たん? あっオレ、洋介言うねん。ヨースケ。 キミは?名前』 『‥チエ、』 『チエちゃんか。なんかチエちゃんて感じやな』 『おれ、変なヤツちゃうで、ツレと待ち合せしててんけど 遅れるー言うて、まだ家におる言うて、ええ加減なヤツちゃ 1時間かかる言うから、 何しよー思う出たら、 チエちゃんが前におったんや。 なんか絶妙なタイミングやろ! 『なんの仕事してんの?』 おまえに聞きたいわ。 『ネイリスト』 『あーオレの連れの彼女もしてるわ。肩凝るわー 言うてるわ。キツイらしいな』 『私は独立してるから。』 『独立?雇われてないの? ひとりで、店あるん?』 『店はないけど、独立してやってるから』 じーっと見てる。 下から顔まで。 『それて社長さん、いう事?』 『そんなんやないけど、店では働いてないけど』 『へーーやり手なんや。凄いやん 儲かってるん?月いくら位儲かるん?』 『そんな、今、休業してるから 先週まで芦屋におって…』 『アシヤ?アシヤつて、あのアシヤ? 神戸の金持ちの?えーー家芦屋なん』 『ちゃうよー芦屋の奥さんの家に。 専属やって』 『チエちゃん、凄いやんー、それって めっちゃ儲かるんちゃうん。アシヤ行ったことないけど 凄い家ばっかりやろ』 『うん…‥めっちゃデカい犬がおったり、庭が大きい』 『へーーベンツとかフェラーリーとかあった?』 『車はよう知らんけど、奥さんはベンツ乗ってた』 『いや、紹介して欲しいなその奥さん! ウソウソ、オバハンには興味ないで チエちゃんとは縁があるわーなんか縁を感じるわ、 運命かも、な。』 運命て…… ラテを一気に飲んだ。 てか、さつきから視線をめっちゃ感じるけど、 あの人?なんやろう カウンターの中からラテを作ってくれた、女の子 めっちゃショート、殆ど頭しかない残してない髪の毛。 めっちゃじーっと見てくる。 わたしを。 なんやろ、勘違い?ても目が合う。 フルフルっと一瞬、首を横に振っている。 えっ私に??何? 金髪の携帯がなった。 『あっオレ、おまえ何処や?おう、 知ってるやろ、そーや5階や、先行っとけ』 『なぁチエちゃん、オレこー見えても商社で働いてんねん 外国から色々輸入してる商社マン。 デザイナーとかと仕事してるんや。 チエちゃん、見に来てやーオレのデザイナー凄いヤツやねん あと30分だけ、時間くれへん? オレの職場に紹介したいわ、芦屋のネイリスト』 サッサと、カップを置いて スタバを出て行く。 紙袋を掴んで、追いかけた。 手を繋がれてドキドキした。 足早に人の中をくぐりぬけ、歌舞伎座の裏にある ビルに入って行く。 エレベーターを5階。 エレベーターが開くとフロアーの 真ん中にガラスケースがある。 その周りはパーテーションで区切られてる。 少しタバコ臭い。 ここで待ってて、革張りのソファに座らされた。 これは本革やのーて嘘の革。 マダムの家の革は匂いがした獣の。 奥のカーテンの裏でどかっと音がした アツ!とも。 ケっパンの音や。 ジーンズのケツを蹴られた時の音。 『この子かー芦屋のネイリストさんて。 虎屋の袋持って、そんなんいらんのにー』 『これ、ちゃいます!ばあちゃん 家のお土産です』 『それゃそーやな。 始めて会うたのにこんな高級なもん渡せへんわな すみません、失礼しました。私はこういうモノです』 名刺を差し出した。 (有)セルズコーポーレーション チーフプロデューサー 池尾 哲司 輸入販売 制作 カタログ制作 デザイン システム制作 絵画販売 宝石 時計販売 お茶を持って洋介がカーテンから出てきた。 『コイツ、この洋介が声かけだそうで高島屋で。 忙しいところ、すいませんでした。 かわいい子おったら直ぐ声かける癖があるんですわ なっ』 『いや、なんか探してはって、力になろうと声かけたんです』 凄く恐縮している金髪が可哀想に思えた。 このおっさん凄いイケメンやけど、俳優みたいや でも怖そう…… 『ネイリストさんて、芦屋ですごいねー』 『いえたまたまです。もう辞めたし』 『でもまたするんでしょう爪の…』 『はい、それしかできませんから』 『手に職があるのは大したもんや、まだ若いのに 立派です。コイツよりずっと。』 頭をこつかれてる へへっと笑ってる。 『僕らは個人的な顧客だけに輸入販売してる会社です。 芦屋の人もいてるよ。 皆んなそれぞれ趣味が違って、絵画やアクセサリーや 時計やと欲しいもんが人それぞれ違うでしょ。 目の肥えてはる人はデパートではもの足らん言うて NYのアーティストや、デザイナーや これからの人を狙って買いはるんです。 ホラ無名やったバンクシーも今では億超えるでしょ。 そういつた新人のデザイナーを私たちが発掘したりねー。 ざっくり言ったらそんな感じです。 わかってもらえたかな? ネイリストさんやったら最先端のデザインを要求される でしょ、そんな感じかな』 シルバーのごっつい指輪が、そーなのか? クロムハーツぽいけど。親衛のデザイナーか。 『まあ、良かったら 見て行ってください。 今月入った新作もあります。 絵画はきよーみない? 時計とかどーですか、香港のデザイナーのが ようでてますわ、涼介、案内せなあかんやろ』 チーフなんとかはカーテンの裏に入って行った。 『ど、どう千恵ちゃん?時計とかしてないけど 持ってる?このか時計とか、すごい人気やねん 今年はゴールドが売れてるわ。 文字盤がシンプルで……』 『わたし、もう帰らんと 時間にもう既に遅れてるし』 『なんか約束あったん? 言うてくれたら良かったのに』 『そんな暇なかったから』 『そうか、そこまで送るわ』 『ええよ、ここで』 『送らせて、そこまで』 エレベーターに乗って外に出ると、ムワッのした風がふいた。 目の前にバス乗り場が並んでる。 ええタイミングや、 『私、バス乗るわ、ありがとうコレ乗るわ』 『千恵ちゃん、電話番号教えてや、LINEのQR!』 QRコードを教えてバスに乗った。 なんか変な感じやった ちょっと怖かったあの人。 洋介ていう人、スタバとは偉い違いやった無口で。 慌ててバス乗ったけど、どこかには行くんやろこのバス… あの場所にはいたくなかった。 なんとなく、なんとなくだが 早く帰らんと、そんな気がした。
Part❻全てを手に入れるまで。 【千恵の場合】
ネイリストになって4年目で独立できた。 知恵は戸惑った、こんな早く一人たちが出来るなんて。 芦屋のマダムの後押しがあっても 私は才能があるのだと、確信に変わってきた パーティでは必ず喜ろこばれるし 芦屋の奥様たち、お嬢さんにお嬢ちゃま達に とても重宝されていた。 お爪のオネーサンと指を刺してくれるお子ちゃま達。 けれど、ある日 一人の方からアレルギーが出たと報告があった 指が腫れていると。 たまに合わない人がいる。 金属アレルギーとかジェルが合わない肌の方が。 途中で痒かったら、 熱く感じたら言って下さいね、とは言っているけど 数日後に言われるのは始めてだった。 直ぐオフをしたけどその指にはたいそうな包帯か 巻かれていた。 マダムは申し訳なそうに言った 『こんな事になるなんて、あちらのお嬢さん もうすぐお式だからマリッジブルーなのかしら 凄く怒っていらっしゃって、ごめんなさい こんな形でおしまいになるなんて。 残念だわ。 こちら少しですれど…』 要するに解雇だという事か…。 マダム達はいつもハッキリとは口にしないが 優雅な口調だけど、何が言いたいのかは伝わる。 絶対的な圧があるのだ。 私はちょっとだけ楽しんだペットの様なものか。 気分は良くなかったけど、モヤモヤ感が満喫 してたけど、まあいい休暇になった。 お金も貯まったし、この封筒は、 20万…… 100万程貯まったか、いい勉強ができた。 そう思おう。 ばあちゃんに何か送ろうと。 甘い羊羹がええかな… 夏菜子にも何か…… やっぱりやめよ。 あの電話からちょっと距離を置いている。 『なぁ、千恵はさ、アプリとか使いよるん? 男は向こうからはよって来んよ。自分から 積極的に行かんと、千恵は特に…』 『特にて… それゃあが、は綺麗じゃなかけ しゃーないんけ、別にいらんし』 『なにお、おマンはええやつちゃけど もうちょいお洒落せんとーう。 この間会うた時 全然変わっちよらんかつたち 4年もたちよーのに』 おまえも変わらんじゃろあがと。 独立したー言うたら飛んでて出来よった うちにもヤレる? て、人の神輿に乗ろうとする性格は変わらん。 ええとこだけ取ろうする性格はスカン。 大阪でたらキレる思うてたけど、 余計ひつこーなってるし。 浜の土産屋は継ぐんは嫌やー 大阪でてマンション住みたいんや、 て、アプリで大阪の男ばかり探しとった。 アパート見て、 『小さーー家よりこまい。 うさぎ小屋やけ』 おまえに言われたかなかけ。 腹の立つー。 男との約束を取り付けて 3日で7人と会うとった 2人ええのを見つけて帰って行った。 アレからその男の話をしてない言うことは おまんもフラれたんやんけ 一緒やんけ。 ちょっとだけめんこいだけで偉そーに。 うちは手に100万もあるや 男より金じゃ。 ばあちゃんもそう言うとった。 金や、世の中は金や。 金のない男は頭がないのと一緒や。 そんなん捕まんと、おまんは手に職をつけて 男から寄ってくるよーにせんといかん。 専門学校のお金もばあちゃんが出してくれた。 皆んな反対したのに一喝で、 こんな町出ー、早よー出ー みかんなんか作らんでええー ばあちゃんが応援してくれたんや。 ばあちゃんにデパートに売ってる上等の羊羹こうて送ろー。 手紙も書こー。 知恵はええ子やええ子や ちょっとトロイがけどそれくらいでおなごはええんや。 ばあちゃんはいつも優しいしてくれた。 帰ろうかな田辺に……。 100万もって帰ったら 皆んな腰抜かすやろーな。 とりあえず羊羹や 高島屋に来た。 高島屋や夢の店やつた。 キラキラしている。 エレベーターにも乗りたい。 あの薔薇の紙袋を沢山欲しい。 用もないのに上から降りて行く。 マダムはこう言う所で服を買うんやろーな 高級なフロアーは通るだけで縮こまる。 誰も声さえ、会釈さえしないが 客を見とるんやー 100万も持つとんぞー、叫びたくなる あのバッグ幾らするんやろー おずおずと近づいて行った。 ガラスケースもないから、手に持とうとしたら 『いらっしゃいませ、こちらでしようか?』 白い手袋をした、定員がすぐさまバッグを 手に持った。 触ったらアカンのか? なんで……? 『キレイなあーと思いまして』 『今年の新作です。少し小ぶりなものが人気のシリーズです』 しっかりと持ち、 私に渡そうとはしてくれないよーだ。 貧乏そーやからか、 汚いジーンズやから? 『お幾らですか?それ』 『こちらは…‥お待ちくださいませ……85万円、でございます』 買えない思うとるんや、この人。 私は買えるのに…… てもそんな携帯しか入らん小さいバッグ、85万て オトーに軽トラ買えるわ…… 『いらっしゃいませ。』 来るっと回って、入ってきた親子に近寄って行った。 なんや…… 馬鹿にしてから 耳が赤くなってきた、早よ地下行こ。 馬鹿にしくさって! 早足でエスカレーターを降りた。 地下は涼しくて甘い香り…… 賑やかな商店街よーや。 広すぎる。 よく見る紙袋の、羊羹屋、 ここや。 コレは1番ええヤツや ばあちゃんが昔にいっかい食べた事ある 上品なそんな甘ないんや…言うてた。 高い! 5,000円! 羊羹が。 田辺やったら300円屋やのに。 『いらっしゃいませ。こちらお包みしましょうか』 熨斗は如何いたしましょう? 『紙袋もらえますか?』 『はいかしこまりました、2枚入れ時ますね』 薔薇やない。 なんか地味な色。 でも高級そーな紙袋。 薔薇も欲しいな。 そんなん言うたらあかんのかなあ。 高いのに。 何も言えず紙袋を手にしたまま高島屋を出た。 凄い人やなあ大阪は。 皆んなどこから来とるんやろー 交差点を見ながら、 バスを探した。 紙袋汚れたらいかんから 早よ帰ろ。 そう思ってバスを探しに振り向いた時 急に肩を叩かれた。 振り返ると、金髪の細いヒョロとした男が立ってる。 『どこ行くん?どっから来たんー』 友達の様に喋ってる。 家、帰るとこ…やけど 『もう帰るん。ちょっとだけ時間ない?ちょっとだけ』 指でコの字を横にしてる。 『何それ、大事そうに抱いてるけど、とら…… あーー知ってるー高ーい饅頭やろ』 『よ、羊羹です。 早よ帰らんと』 『取らへんわ羊羹なんか、 ジジイが食うヤツやろーおもろー』 細いペラヘラのお腹も叩いて笑うてる あの芸能人に似てる……誰やったっけ… 『ちょっとだけ、スタバ行こうや 暇やろー、』 強引に肩を抱かれ、引きずるよーに歩き出した。 いや、ちょっと、 誰、この人? いや、スタバって 入った事ないんやけど、 行ってみたいけど。 幾らするんやろ
Part❺ 全てを手に入れるまで。 【千恵の場合】
あの日からイライラが止まらない。 涼平の父親に蔑まれた言葉。 あれ以上あの席に座っていたら、きっと 紹興酒を一気飲みし、ナプキンを投げてただろう。 思いっきり暴言を吐いてしまいそうだ。 貴方の息子さんが、1年間も私を口説いたのです。 必死に。毎月同じ席を何度も予約してね。 と、言ってやりたかった。本当に。 何をしても溜飲は下がらない。 このまま捨ててしまって、次に行こうか。 それは性悪か? 礼儀が必要か?あの男に。 ぐるぐる頭をよぎる。 そんな時間さえ無駄だと思ってしまう。 とりあえず仕事を優先に。 とりあえずネイルだけは変えよう。 気分を落ち着けよう。 携帯に手を伸ばした。 絹子さんはいつも急だ。 『又絹子お嬢?いつも急よね? 予約も無しよね』 先輩が嫌味ぽく言う。 このネイルサロンは融通が効かない。 担当が決まっていて実績次第の給料制。 お陰で私は毎月3トップに入ってる。 あらゆる職種の人が来る。 芸能人、モデル、薬剤師、美容外科の医師 ゲイにドラッグクイーン、セレブの奥様は犬連れで。 CAは紹介が多い。 個室になってて広く取ってるメイク室。 1番よくお金を落とすのは夜の人。 イベント事に変えファーを付ける人もいる。 素顔で来て出勤するホステスも多い。 私は田舎者だから喋りやすいのかも知れない。 何を言われて驚いてしまうから。 『えーー、そんな所行ってみたいー』 『えーーお友達なんですかー!会いたい』 だいたい自慢話だが、普通に驚いてしまう。 いいなーー。と。 ほぼ2時間かかるところを、1時間半で仕上げ 回転数を上げる。 1日、5人回せば充分。 目も疲れ、指先も痙攣し感覚が無くなるのだ。 声ももちろん枯れる。 体力仕事だ。 世の中にこんなに爪を気にする人が いるなんて、メイクより爪を見る人がいるなんて ほんと驚かされた。 故郷の和歌山なんて、誰も爪なんか見ない。 メイクなんかしてたら 偉い気張ってどこ行くんやー と、直ぐ皆んなに知れ渡る。 潮風が強い町で化粧なんてしてたら 直ぐ噂に……色気出しすぎや… 本当だ。 ばあちゃんに温泉で顔洗え、と言われる。 なんでも直ぐ知れ渡る温泉街。 高校を卒業して直ぐに大阪に出た。 メイクの専門学校に行き、自分はセンスがないとわかるまで 時間はかからなかつた。 全くもって出来損ない。 人の顔をいじる前に普通は皆んな綺麗になっていくのに 全然垢抜けない。 アイラインさえ上手く弾けない。 ただ、ばあちゃんから教えてもらった編み物が助けてくれた。 手が早い。 器用に編むのーて色々編み方を教わった。 コレが幸してネイルに繋がった。 ネイルだけは人よりで早く、綺麗に仕上げた。 それに下を向いてたらいい。 私の顔なんて誰も見ないのだ。 自分の事で夢中だから、ネイリストの顔なんて みかんでもジャガイモでもいいのだ。 楽だった。 化粧をしなくていいのと、制服があるのが とてもラクだったから。 天王寺の店舗から、本店に行くまで 半年とかからなかった。 直ぐ引き抜かれた。 給料制だったから、仕事が早いと回転が早い。 店長から声がかかる。 梅田の本店に行くと11時まで働かされた。 二交代制だが、指名が多い。 OLが多くて時間帯が遅いのだ。 7時から4名回転させられる。 もう辞めたいと思ってた時、 芦屋のマダムがこっそり呟いた。 独立しないか、と。 独立? 頭にもなかった。 意味がわからなかったが、休みの日お茶に呼んでくれた ご自宅だ。 ホテルのような庭に、大型犬が走り回ってる。 それも4匹も。 親子らしい。 でかーですねーというとケラケラ笑って そうねデカーのよぅーデカい?ってなに? お手伝いさんも笑ってた。 上品な手には私がしたネイルがひかり、 私って人の為になっとるんやー とその時始めてジーンとした。 チェーン店を止めるのは契約だ、とか 色々ややこしい事を言われたけど、 マダムが間に入ってくれて速攻首になった。 マダムは、お給料より額になるとかならないとか 言うに専属になって欲しいという事だった。 『私ね、色々と時間が空かないのよー 習い事やお食事会や、旅行でしょ、 急にネイルをしたくても予約が取れないでしょう? それに貴方は早くていらっしゃるから 直ぐ仕上がるし、綺麗にしてくれるでしょう。 だからわたくしの専属になって欲しいの。 もちろんお友達もお願いする事になるわ。 今の倍にはなると思うわお給料でしたっけ』 お給料でしたっけ? ってお給料の額も知らないのにこの人は…… 呆れたが、 一人当たり2万円は出すという。 一回2万円。 わからないけど、今よりはいいし、 休みもグンと増えるだろう。 何より、 『そのわからないけども 材料費というのも全て用意するわ ここに来てもらっていい?』 と、リビングを指差した ここに通うのか…… でも、 まあ、いいか……とその時思った。 何より疲れ果てていたんだと思う。 店長は意地悪だったし。 この人もよくわからんけど あの店長よりはマシやろ、と。 それから、電話で呼び出されたら マダムの家に行くようになった。 アパートから1時間もかからなかった。 坂がキツいけど、そのおかげで 痩せた。 マダムの友達も、そんなギラギラしたのを好まず 時間もかからない、 上品なシンプルさを好んだ。 とても楽だった。 合間にデカ犬を散歩させたり、 シアタールームで映画を見ても良かった。 夕飯も食べる事もあったし パーティでお皿を並べたりもした。 外国人も多くて、ネイルも頑張った。 お金が貯まり出した。 使うところもなかった。 私は20になり、ハタチのお祝いを パーティをしてくれて、 何かというとパーティが開かれているが、 よくパーティに呼ばれるようになった。 部屋の片隅でネイルをする事に。 皆んな喜んでくれる。 特におばあちゃんとか『始めてなのー』と。 お小遣いもくれて。 とてもハッピーライフなハタチだった。 その頃は。
Part❹ 全てを手に入れるまで。 【絹子の場合】
モルディブのリゾートは 150程ある 島の一つ一つがリゾートとして成り立っている。 小さい小島から開発された島まで 学校だけの島 焼却炉だけの島 墓の島 環礁があれば埋め立てたもの勝ち。 あらゆる世界のホテルグループが取合い。 三ツ星から7つ星まである。 海の上に建てられたコテージはまるで 水族館のように、あらゆる魚の群れが泳ぐ。 鮫や、カサゴ、ブダイ、亀達は珊瑚の上を行き来している。 海は山だ。山の一角が環礁から出ている。 沖まで泳ぐと、ドーンと底まで落ちている。 下の方は濃い緑で見えなくて、一気に冷たい水温に下がる。 潮に飲まれたら外洋まで流される。 そこにはジョーズと言われるサメもウジャウジャいる。 マンタという4M程の大きなエイの群れいる。 なんでもいるのだ。 海のジェラシックパークだ。 殆どの観光客は白い砂浜で寝転ぶか 小さな魚を追いかけるか、小さいシャークの群れを楽しむか 透明な海水に腰まで浸かり、水平線を眺めるか。 そして別世界に来た事に感激する。 ハネムーンで訪れるのは、決して忘れられない景色と感動 そしてシャンパンを飲み、 アドレナリンが一気に空まで上がり、 見上げた夜空から、シャンデリアのような宝石が落ちてくる。 流れ星は無数に落ち、海と空の境界線がわからなくなるほどに。 天国の一番近いのは 実は此処なのだと、忘れられない時間を過ごすことになる ハワイなんて比べ物にならないと、モルディブ好きの人は言う 騒音はなく、孤立した世界。車も信号も、何もない。 チャポチャポンと内海の波の音しかしない。 三ツ星でも充分な金額になるが 7つ星になると、それはそれは秘密の島から 水の上の王宮まである。 部屋にはバトラーが2人ついてくる。 それも24時間。待機している。 日本にはないサービスだ。 高級旅館のサービスとは違う。 何を言っても叶えてくれるバトラー。 世界のわがままを言う人種を、快くするバトラーが存在する それは、やはり王宮だからこそ。その値打ちはある。 私たちは今回選んだのは6つ星の小さな島だった。 コテージが10個ほどの。20分ほどで回れる小さな島。 孤立しているコテージにプールがあり、ジャグジーがあり 小さな別荘になつている。 そこから出なくても充分楽しめる。 全て、ルームサービスで楽しめる。 日本の芸能人、アイドル歌手当たりがよく新婚旅行に使ってるのは 顔がバレない。 バレても誰も知らないのに… 少し秘密めいたリゾート。 誰にも会わないようになっている。パパラッチも来ない。 一泊の値段は、軽く都心のマンション1ッカ月ほどだ。 ここに1ヶ月も滞在する人種は、 どんな人達なのだろうと、海から隣りのコテージを 覗いたものだ。不謹慎だけど とても興味をそそられる。 私たちはコテージにとどまらず夜毎開かれる シャークナイト、ライブナイト、ダンスナイトに に出掛ける。 念入りにメイクをしてステキなドレスを身につけて。 鉄板焼コースはほぼどのホテルでも用意している。 ホテルの鉄板焼き、ピカピカに磨かれた鉄飯で焼くステーキ。 どの人種にも愛されるコースだ。 日本の和牛の方が遥かに美味しいのだが、 パフォーマンス付きのこのコースは予約でフル回転する。 私たちはビーチ沿のイタリアンコースを楽しみ、 ライブナイトまでゆっくり時間をかけて一皿一皿丁寧につつく。 ワインを飲みながら、波の音と、光で集まってくる小さな魚を 覗き込みながら。 涼平は言う 『来てくれないかと思ってた。本当に会えてよかった』 『来なかったらひとりで何するのこんな何もない処で』 『きっと……そうだな毎日釣りに行くかやけ酒を飲むか、かな』 『そんな酷いことしないわ。あの時は少し気分がすぐれなかったけど そこまでお子ちゃまじゃないわ、わたし。』 ほんの2週間前。 涼平はサプライズ気分でいきなり父親に合わせた。 待ち合わせの香港のホテルで。 何も知らずに少し遅れて行き手を振ったら、テーブルに座って いるのは涼平の横にかなり恰幅のいい紳士が座っていた。 何? ダレ? と思った瞬間、父親だと分かった。 そっくりな上に、雑誌のままだった。 世界の創業者たち。のページで二代目の息子として 紹介されていた。 カメラを睨みつけるように写っていた瞳。 コレはかなり手強そうコーヒー片手にそう思ったのを記憶している。 ニコリともしない父の横で、涼平は嬉しそうに 『お父さん、こちらはじんはらキヌコさん。 僕の最愛の人です』と、紹介した。 私も息を飲んだが、彼も知らなかったようで 腑に落ちない顔を隠さなかった。 涼平のこいうところは問題だ。 人がいいだけに、悪意がないだけに、 人の気分は計り知れないという事を知らない。 父親であっても、だ。 私は即座に丁寧に社交的に挨拶をした。 媚びないように。 ココが大事。 媚びたらいけない。 ファーストインプレッションが1番大切だと、 面接の時に先輩に叩き込まれた。 『CAだからって、なんでも🆗なんて事 思わさないようにね、直ぐ調子に乗るんだから』 『女だからってまだ下に見る国の人がいるわ。 語学なんか必要ないと思ってるのね』 『男尊女卑なんてもう通用しないのに アジアはまだまだだわ、 アラ絹子そこにいたの、ごめんなさい』 そうアジアはまだまだ、なのだ。 本当にムカつくけど、当たっている。 殆どは日本は紳士な国だと思ってくれているけど お隣は酷すぎて忌み嫌われても平気だけど 涼平の国はどうだろうか? 涼平自体はもう大学が頭を変えてくれているが 祖父の真似をし頭に叩きここまれたこの紳士はどうだろう? シンガポールに拠点があるのだから、 日本の経済が衰退していくのを見通してるのだろうか? 日本の女をどう見るのか? 自分の女も日本人だ。 ただこの時代の方、日本人を愛人にするのは 大した事だったはずだ。 まだ勝ち組だった日本は、アジアでは 日本人の女はまだ手に入らね者だったはず 値踏みされてる感がままならない。 『それはそれは始めましてミス.キヌコ。 息子がお世話になっておるようです。 私は何も知らなかった。君の様な方がいる事も。 仕事ばかりですから。座って下さい』 完璧なブリティッシュ英語を使う。 イギリスのお膝元にあるから当たり前なのか。 『はじめまして、キヌコと申します。 私もサプライズで驚いております。 涼平さんの素晴らしい心配り、お父さま譲りなのですね』 テーブル越しに睨み合う結果となった。 私をその辺の日本人のお嬢さんと一緒にしないで 下さいませ 男尊女卑の娘ではなくてよ。 と、心で呟きながら。 愛人から本妻になった、貴方の女と一緒にしないでと 激しいものが胸に火をつけた。 愛人で収まるような女ではなくてよ。 結局、空々しい時間が流れ、 一通りのコースが終わり、杏仁豆腐が出てきた時、 彼は言った。 『CAさんだと伺つた。あの仕事はキツイでしょうな。 私は予々思います。腰をいわすんでしょうな。 よく年をとったら腰が悪くなるそうで、若い時には わからんそうだ。後からくるらしいです。30過ぎて あなたも気をつけて下さい』 それは、ひらたく言えばこうだ。 貴方は日々、腰を痛めているのです それは子供が産めないかもしれない 産後に弱るかもしれない、 気をつけて下さい。 と、他人事ですが、たかがCAともとれた。 息子の嫁になんて、と含みに聞こえた。 あの時は頭に血が登って、 いろんな意味に聞こえたが 決していい意味では無いのはよく理解した あの日から 涼平のメールも着信もスルーしたのだ。
Part❸ 全てを手に入れるまで。 【絹子の場合】
ヤン・涼介 彼は私の2番目の 本命だ 台湾人の父を持ち、母は日本人。 今は韓国の大手メーカーに勤めて5年目だが もうすぐ辞めて会社を継ぐ。 シンガポールを拠点にする商社。 3代目の名の知る企業だ。 ヤン一族。知っている者は知っている。 日本人の母は後妻だが、涼介の母親。 本妻の台湾人の母親は若くして癌で亡くなった。 愛人だった母親が本妻になった、それは涼介が たった1人の男児だったから。 3人いるのは姉妹だった。 愛嬌のある彼は女達に可愛がられた。 本妻になれた母。貞淑で控えめな母。 台湾の男は彼女を心から愛している。 彼は屈託なく育った素直なサラブレッドになった。 優しく、嘘のない、汚ないお金を嫌う王子サマ。 犬を愛する、正義感の強い真っ直ぐな人柄。 少し甘えたな年下だけど、本命に格上げにした。 なぜなら、私を本当に愛してやまないところ。 シンガポール・ファンドがビリオンを超えたところ。 母親が日本人なところが一番の大きな理由. 結婚相手は、世界の中から探した、 中々難しいのだ。 まず言葉。これは愛し合っていたらなんとかなるらしい。 喧嘩してもキスで壁を乗り越えてる国際結婚もよく知ってる。 だが宗教は難しい。 この壁は天まで高くて、まず足止めを喰らい。 結婚したとしても、宗教の価値観は溝を埋めれないそーだ。 日本は珍しい無宗教の国 その無宗教さえ差別される。 何人かの彼を、 数カ国の彼達を見て、感じた。 トリリオンを超えてくると、もう一夫多妻なのだ。 見て見ないふりをしなけれはいけない。 それがダイヤや別荘で埋めれるか? 滝のようはお金があっても自尊心は必要だ。 年下の若い愛人で埋めれるか、 噂を、はしたない噂を耐えられるか。 かなり厚顔無恥にならなくてはいけない。 そんな度胸もない。 私は妻になっても一番に愛されたい。 素敵な夫婦だと高みにいたい 愛人を作られて平気な顔はできないのだ。 プライドを削られるような結婚なんて!。 私の母は父に愛されている。 もう65だけどまだ美しく、優雅さを忘れない。 それは父からの愛溢れる生活のせいでもある。 贅沢な本宅。有り余る時間。 なんの縛られることもなく買い物をし、舞台を観、 2人で月に一度はディナーに行く。 『女は男に愛されるのが1番の幸せ。 ニッコリ笑って歳を重ねていけばいい。 後は全て勝手に揃っていくのだから。』 敵わないけど、あんな風に歳を取りたいと思う。 化粧つけのない肌はスベスベしてて、アイラインも引かない リップだけで過ごしている。 香水もつけない。最近少しぽっちゃりしたけど ぽっちゃりいいなあ僕はその方が好きだなあ パパは目を細めて呟いている。 観葉植物と猫の犬を愛して、父の帰りを待つ毎日。 それは退屈そうだが それは凄く幸せそうなのだ。 超がつくほどでも無い裕福層だが、 日本ではそこそこの暮らし。 絹子はもう少し太った方がいいなぁ、 スリム過ぎるのも……父は言うが。 ごめんなさいパパの好みはいいのよ 私はパパ以外の人を探してるのだから。 そう言うと、それはそうだった。と お腹を抱えて笑った。 今でも気になっている腰のライン。 痩せすぎは好まれない。 特にヒップは大きくボリュームのある方が魅力的。 今日みたいなブラジリアンビキニを着ても 小さいお尻はかわいいと、言う程だ。 セクシーではない。 胸は手を入れてなくてもCをDにしてくれる メーカーは沢山あるが。 アジア人の体系は特にヒップに肉が付きにくい。 付いても引き締めるのにかなりの努力がいる。 ジムに週3で通わなくては。 ウエストよりヒップの大きさで判断する欧米人 これまでも何人かに言われた。 絹子は細過ぎるね、と。 敵わないのだ彼女達の豊満な肉体には。 私をまるで子供のように抱く彼らに 与えられる物は、この肌の白さとしなやかなさしかないのだ。 それしか自信はない。 けれどこの肌さえもってすれば、 これ以上綺麗な肌は見たことない、と まるで高級な陶器のようだ、と扱ってくれる。 壊れそうだ、と。 そうよ、丁寧に丁寧に扱ってね、と 耳元で呟くのを忘れない。 滅多にメイクラブまでいかないけど 本命にしか身体を預けないが、 SEXは終わってからが本番なのだから 全てのSEXは前戯なのだ。 男の勘違いはココからズレてる。 女はそれからが大切なのだ。 涼平がこのコテージに来るまで、どれだけの時間 プレゼントを用意してくれたか。 最初は眼中にもなかったけれど、 あまりの情熱に少し引いたほどだ。 シフトなど知らない彼は、とりあえず 便を往復した。数えられないほど。 始めての会話からほぼ1年はかかっている。 会うたびに手紙をくれたり、 手に入りづらいチケットをプレゼントしたり、 食事に行くまでかなりの努力をしてくれた。 アクセサリーをプレゼントしないところも気に入った。 この時の彼はフランス人のアーティストだった。 半年ほどの付き合いで見えてきたのは まずお金を使わない。 プレゼントは自分が描いた絵だったり 造ったブレスレットだったりする。 一銭の価値もない。 決してお金が無いわけじゃない。 お祖父様から伯爵の家系だ。 葡萄園の中にシャトーを持っている。 家には馬を走らせる大きなエンドラスの庭付きだ。 郊外に城を持ちワインを作り、 馬もバトラーも沢山持つのに、全く使わない。 長く待たせ過ぎた頃、一度五つ星ホテルに泊まった。 『こういう言い方は好きじゃないけど、客見せパンダにされる 気がするんだ』 と言った。 『シンプルで好きなものにだけに囲まれて暮らしたい ごくごく自然にね』と。 一夜を共にした事を後悔したが遅かった。 古いシャトーなんかに泊まりたくはないのだ。 五つ星ではなくては気分が乗らないのだ。 女の性を知らないのか。 切ろう。 とチェックアウトをしている時に決めた。 ルーブルに行くはずだったが、お腹が痛いと言い、 直ぐ空港に戻った。 はぁーーハズレだった。半年…… 深くため息をついたのを覚えている。 彼の情報をくれたフランスの彼女は 『そうなのよ。伯爵の名て凄い事なんだけど あの方達お金を使うのを嫌がるのょ。 働いた事がないでしよ、労働というものを嫌うのょ 絹子が一度でいいからっていうから、彼を 紹介したけど、無理だと思ったわ』 良かっわよ、早く見切って。正解✅ 指をパチンと鳴らした。 そんな落ち込んでる便に涼介は乗っていた。 いつものK7。 灯がともりドアを軽く開いた。 彼はこちらにパソコンを向けた 一度でいいので誘ってもいいですか? 青白く浮き上がる文字に、 私が来るタイミングを外さぬよう、 眠ってないのだろう 目が少し赤い。 ハズレを引いた癇癪もあり。 一度だけでしたら。 文字を打った。 小さくガッツポーズをする彼。 まるで野球選手のようだった。 かわいいかも❤︎
Part❷ 全てを手に入れるまで。 【絹子の場合】
マーレは空港だけがある島と 船で渡ると小さな街がある。 この街には細長いビルがひしめきあって建てられ どんどん上に伸びていく。 これがマーレバブルだ。 小さな土地に建物を上に上に建てていく。 上がりつづ土地の値段。 傾いているビルでも驚く価格で買われる。 ただ外の者は買えない、見えない掟があるのだ。 10数年前にモルディブリゾートで働いて子がいた。 まだ日本が経済的に上がってる時、 彼女は流行りのヨガのクラスを持っていた。 セレブの奥サマ相手に軽いヨガレッスンをしていた。 ブリティッシュな英語にフランス語、イタリア語 を話し、もちろん美人だ。 日本でアナウンサーをしていたらしい。 ホリデーでこの土地にきて、 帰るのをやめたらしい。 あまりにも綺麗な海と、毎夜開かれるパーティ 世界の裕福層の声を聞いて。 ちっぽけな、私は小さな国のただのOLだと、 嫌になったらしい。 向上心の高い彼女は直ぐにヨガの資格をとり、そのまま そのリゾートに居着いた。 もちろんマネージャー辺りを口説き落として。 日本人の女性は意外と人気が高い。 しとやかに無口で優しい。 愛人にするには日本人がいいとよく耳にする。 彼女は愛人の地位から、リトリートの責任者に登り詰めた。 やり手だ。 その彼女から囁かれたのがマーレバブル。 『今が一番の買い時よ。たかが5坪でも、 一生暮らせる値段になるのよ、上がり続けるんだから てもどーしても乗り越えないといけない壁があるんだけど あなたなら大丈夫よ。その肌にはみんなが飛びつくはず』 ソレはマーレ人と結婚しなくてはいけないらしい。 血族じゃ無いと買えない土地。 イスラム教じゃ無いと手に入らない。 彼女は地団駄を踏んだ。 愛人ではダメなのよ、本妻にならないと。 でもねココの土地の男は働かないのよ。 野心もなければ欲もなくて、唱えるだけ。 一生を暮らすの。 それはもう耐えがたいほどのんびりしてるの。 要するに面白さはゼロらしい。 彼女は爪を噛んで、イライラを募らせていた。 私はまだ大学の卒業旅行だった。 若くてバブルもよく知らないし、まさかこんな リゾートに日本人がいるなんて、声をかけて来た 彼女に、ディナーに誘われたのだ。 もちろん彼もご一緒に良ければ一番いい席をご案内するわ、と。 愛を育むはずが、お金儲けの話をされて彼はすっかり 食欲をなくし、ごゆっくりと、席を立った。 彼女は平気て、おやすみなさい、と手を振って。 なんだろうこの女。 なんでこんな話を私に、と当時はわからなかった。 ただ今に思えば分かる。 チャラチャラと男と遊んでも、直ぐに時は過ぎると。 お金はタイミングさえ良ければ裏切らないと、と。 私には少し早すぎた話だった。 コテージに帰って彼の機嫌を直す方が大変だった。 あの彼女はどうしたのだろう? 何度か雑誌に特集で 世界で働く日本女性、に出ていた。 シングルらしいが、まだこの土地にいるのだろうか? まだあの土地を狙ってるのだろうか? 私には関係はないけれど…… バスに揺られて水上飛行機乗り場まで向かう。 五つ星のリゾートなら専用のラウンジがある。 それ以外は熱いバス停のよーな古屋で待つ。 もちろんラウンジに案内され時間になるまで紅茶を飲む。 此処ははスリランカの隣、とても紅茶が美味しいのだ。 お土産はほぼ紅茶だ。 小さなプロペラが回り出し、大きな音に変わってくる 数人しか乗れはプロペラ水上飛行機。 耳栓をして乗り込む。 真っ黒は肌をした男達がラゲージを軽々と乗せていく。 白人のパイロットが乗り込むと、 直ぐに水面に水飛沫が上がり、上に上に向かって飛んでいく。 この瞬間が大好きだ、 下に小さい環礁がたくさんあり、白くて水色で、いろんな形を している。飛行機は乗り慣れてるが この小さいプロペラ機はまるでおもちゃの様で 落ちそうだ。 前のカップルは男の方が下を向いて固くなっている。 この時点で嫌いになりそーだ私なら。 お揃いのティシャツ。韓国のハネムーンだろう。 8割方、ペアルックだ。 自分達のリゾートに着くと降りていく。 このカップルと一緒なはずはないだろう。 と、心の中で賭けてみる。 三つほど周り、やっと最後のリゾート。 やはり私1人だけだった。 桟橋で握手をして、歩いていく。 首からレーンなどかけないところが気に入ってる。 白い砂浜に、裸足がココの決まり。サンダルを手に持ち もうチェックインしてる部屋まで歩いていく。 砂のキユっという音が好きなのでカートには乗らない。 熱いが、かなり島の先端まで来て、そこからカートに乗る。 コテージは、木で作られている道を渡るのだが途中暑くて歩けない。 距離事に水甕が置いてあり、柄杓で足にかける。 火傷しそうは暑さだ。白い足が真っ赤になる。 コテージの前につき、 大きく深呼吸をして、ドアを叩いた。 キーを持っているけど、とりあえずコンコン。 音楽が聞こえる、ドアが開く。 彼は満面の笑みで私を抱きしめた。 『会いたかったよ、とても。』 泣きそうな声で。 海の風邪がプール越しに吹いてる。 夕日が沈みかけ、紫色に水面が溶けている。 『わたしも。』首に巻き付けた白い腕。 パーフェクトだ、 何もかも❤︎