こもれ

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こもれ

気ままに

小さな女の子

 この世界の全てが面倒だと感じた。  勉強に勝敗のあるゲームに飾り気がない長い道路。  気分転換に外出ることにした。  外で、小さな女の子に会った。  その子は一人で空を見上げていた。 (迷子か?)  生憎、ここら辺の道は曲がる所が多くて分かりにくい。  流石の僕も小さい子が迷子になっていたら助ける。 「こんにちは」  その子は一瞬大きな目と驚いた顔を見せて挨拶を返してくれた。 「おにぃちゃん!こんにちは!」 「うん、こんにちは。迷子になっちゃったの?」 「ぅぇ、えへへ……」 「迷子か」 「ま、まいごじゃないよ!おにぃちゃんがどっかいっちゃったんだよ!」 「そっかそっか」  むぅ、とほっぺたを膨らませる女の子に適当に返事する。  どうやら兄と一緒だったらしい。  その子は、家の近くに公園があると言うので公園に向かう。この辺では公園も少ないから探しやすい。 「おにぃちゃん!みて!かわいいおはな〜!」 「あぁ、タンポポっていうんだよ」 「たんぽぽ?」 「うん」  タンポポも知らないのか。  僕はタンポポのこといつ知ったっけ。  どうでもいい。思い出すのも面倒だ。 「こっちの、まるいのは?」 「それはタンポポの綿毛」 「わた?」 「うん。ちょっと前までタンポポだったんだよ」 「えぇー!なんでたんぽぽ?がわたにへんしんするのー⁉︎」 「それはまだむずかしいかもね。これ、フーってしてみて」 「?」  女の子が息を吹きかけると、タンポポの綿毛が風に乗って遠くへと運ばれていく。 「わぁ!すっごーい!しゃぼんだまみたい!」  だいぶ違うけど。 (嬉しそう……)  小さい子はみんなこんな感じだっただろうか。  ずっと接していなかったから忘れた。  僕自身、昔の記憶があまりない。  重要でないから、どうでもいいから忘れた。 「ふーっ!」  女の子はまたタンポポの綿毛に息を吹きかけていた。  いつのまにか、彼女の手には茎だけになったタンポポがいくつか握られていた。 「ねぇねぇ!おにぃちゃんもやって!」 「え、お兄ちゃんは大丈夫だよ」 「やだやだ!おーねーがーい!」  第一、中学生にもなってこんな……。  面倒だが仕方がない。この子はまだ小さい。 「はぁ……なら一回だけ、やらせてもらうね」  女の子の顔が、ぱぁぁ!と明るくなり満面の笑みを浮かべて綿毛を渡して来た。  この道端に生えているちっぽけな花で、小さい子はこんなにも楽しめるのか。   フゥゥ  久々の感覚だ。小学生以来と言ったところか。  すると、隣に座っていた女の子が前へ出て来た。 「うは!きゃー!わたげいっぱーい!」  向かってくる綿毛を見て、じたばたして遊んでいる。  あぁぁ……!  ふと涙が溢れて来た。  なぜだろう。どうしてだろう。止まらない。  女の子が心配して駆けつけてくる。  どうしたの?おにぃちゃん、と声をかけ、よーしよーしと小さな小さな手で頭を撫でてくれた。  本当にどうしたのだろうか。  全てが面倒だったのに、急にこの景色が輝いて見えた。  道端で会った、小さなことで楽しめるこの子が輝いて見えた。  小さな女の子に、輝きを知らされた。  あの子と会えたことは  幸運だったのか  それともある種の運命か  なんでもいい  僕に輝きを見せたのは  確かに  あの

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小さな女の子

ほんとのほんとのほんとに。

「なあなあ、お前好きな人いる?」 「んだよ急に」 「ちょい気になった」 「へぇ、いないけど」  好きな人は、いる。いるけど言えない。 「俺は、いるよ」  しばらく沈黙が訪れた後、要(かなめ)がそう言った。 「……へぇ」 「誰か知りたい?」 「……別に」  好きな人いんのか。聞きたくなかった。知りたくなかった。分かりきってたことだけど、だとしても。  そっと、視線だけ横に向ける。要は少し俯いて耳を赤らめている。好きな女の子を思い浮かべたのだろう。  俺が、俺が男じゃなければ、この気持ちを伝えられたかもしれない。  でも俺は男で、こいつの恋愛対象にもなれない。  〜1年前〜  高校生活も始まって早数ヶ月。  俺には大切な友達ができた。 「お、琴葉(ことは)じゃん。荷物重そー。半分ちょーだい」 「あ、要、嬉しいけど大丈夫だよ。」 「ちっせーのに何を言う」 「身長変わんねーだろ」  そう言って要は荷物を持ってくれた。  こいつ……優しいな。さぞモテるだろうに。 「そうだ琴葉。俺5限目体育でさー。ジャージ忘れたから貸してくんね?」 「うん。いいよ」 「マジ!さんきゅーな琴葉!それじゃあまた」  ……貸す…ジャージ。俺の。  ドクン  なんだろ。心臓の音、やけに大きく聞こえる。 「はい、これジャージ」 「助かるよ琴葉。また返しにくるわ」  そう言って要はグラウンドへ去って行った。  トク トク トク  朝からおかしいな。ずっといつもと違う気がする。こう、なんか、体中がぎゅってするような……。  教室からはグラウンドが見えて、俺の席は窓際。  要、どこかな。 (……あ、見つけた。)  相変わらず友達が多いみたいで、いつ見ても要は誰かと一緒にいる。今も友達と一緒の要を眺める。 (遊んでる…かわい)  かわいいといっても「好き付き合いたい」とかいうやつじゃない。例えるなら、小さい子を見てかわいいと思うのと同じやつだ。  と、思ってた。  眺めていたら、要と目が合った。要は俺に気づくなり、先程一緒に居た友達と離れ、きょろきょろと周りを見回した。……なんだ?  トク トク  疑問に思っていると、要がジャージのファスナーを開け始めた。 (は、ちょ、え……?!)  普通なら下に体操服を着ているからこんなに動揺することはないだろう。“普通なら”  要は綺麗な顔に苦笑いを浮かべていた。 (そっちも、かぁぁ!)  俺は体操服を取り出して丸め、窓から投げた。 「馬鹿!先言えっ!」 「ごめーんー!」 (くそっ、ナイスキャッ……) 「ナイスボール!琴葉!」  ~~~っ!同じこと、考えてた…っ!  要はにへっと笑って戻って行った。 (……ほんと、かわいいやつ)  ドクン ドクン ドクン (心臓、おかしい……)  要とは打ち合わせもしてないのに、よくハモることがあるな。  俺はうつ伏せになって顔を埋めた。  あの時から俺は要を意識し始めた。俺の1番になった要に、たまに罪悪感を覚える。 (あっちは友達として接してんだよな……)  好きな人、誰だろう。いいなあ要に好意を抱かれてる奴は。  もしその人と付き合って、要が俺の隣から要が居なくなってしまうのが恐い。 (好きだよ要……俺の好きな人は要だよ……)  こんなこと思ったって何にもならないのは分かってる。これを要に伝えることすらできないことが悔しい。 「……琴葉?どしたん黙って」 「……」 「こーとーはー」 「……あっごめん。考えごとしてた」  本当、嫌だ。 「やっぱお前好きな人いんのか〜?」 「……いないってば」自分が憎い。悔しい。 「俺の好きな人はさ、……」 「あっ」 「え、なにどうした」 「あ、や、……なんでもない」他の人の話、要の好きな人の、話。聞きたくない。 「や、やっぱり先帰るね、!」 「え、あぁ、んじゃまた明日な!」 「また明日……!」  に、逃げだしてしまったぁぁ……!いや、あれはないだろ流石に!絶っっ対嫌われた……!てかバレてないか?!いやないか……俺男だしな……。明日、謝っとかなきゃな……。 (嫌だ……)  あ、要。……昨日のこと、謝らなきゃ。 「あ、かな……」 「琴葉!!良かった来てた……!昨日、体調悪かったのか?ごめんな」 「いや、違くて……」 「そういうの、無理せず言ってくれよ?俺気づきにくいってよく言われるし……ほんとごめん」  あぁ…だめだ。酷い逃げ方したのに、優しいんだなぁこいつ。 (どうしよ、泣きそ……) 「ごめ……要、……酷い、逃げかた…して……っ、ごめ、ん」 「逃げ……?え?!琴葉?!」  よしよしと撫でてくれる要にドキドキしてしまい、また罪悪感を覚える。  落ち着いてから要はやっぱり聞いてきた。 「……『逃げた?』って、どういうこと?」  言えない……。どう誤魔化そう……。 「あ、その……」 「ん」  言ったら嫌われる、し。誤魔化しようがない。まずい。 「えっと……………………」 しばらく黙ってしまい更に気まずくなってしまったとき、ふと体に温かいものが被さってきた。 (え…………)  要、に、抱きつかれた。 「え、かな、め……?」  ハグなど同性であれば愛情表現でもなんでもない。が、俺だ。心拍数が上昇した。 「なんもないなんもない!」  そう言いつつ要はまだ俺に抱きついている。 「は、はぁ?!なんもない訳ないじゃん何?!」 「うっせえばか」 「お、前なあ!」  今こうしている意味が分からない。  なんで要は俺にハグした?本当、なんで……。 「ほんと……何……?」 「……」 「な、なぁ、かなめ……」 「困った顔しないで……、悲しそうな顔しないで……泣かないで……」 「え?」 「琴葉が言いたくないなら言わなくていいから……俺悪いことしたよな…ごめん、な?」  優しい。また、涙が溢れてきた。 「……やっぱりさっきのなし。俺の前では、泣きたいときに泣いていいよ」  要。要。やっぱり要が好きだなぁ。 「ごめん」  俺は要の背中に手を回した。 「よしよし琴葉」  要が撫でてくれた。嬉しかった。 「要、あんさ、」  それだけで良かったのに。 「なーにーどしたー?」  伝えたら嫌われちゃうのに。 「あのさ、俺」  想いが、 「要が好き」  想いが、溢れてしまった。  それから要は俺が泣き止むまで頭を撫で続けてくれた。  1度ハグの体制から元の隣合った体制に戻った。 「俺、ずっと要が好きだった」 「うん」 「去年からずっと」 「うん」 「優しい要が好きだった、っ」 「うん」  目を細めて、安心する笑みを浮かべて、要は俺の言葉を聞いてくれている。  でも、もう…… 「でも、でも、この気持ち、伝えたら、要、俺から離れちゃうと思って、っ。だけど、やっぱり要が好きで…っどうしようもなくって、、」  全部打ち明けてしまう。せっかく撫でてもらったのにまた泣いてしまう。 「嫌いになったよな……ごめん…ずっと隠して接して振舞って、こんな最低なやつでごめ……」  ん  最後の無声音が言えなかった。  要が遮るように唇を重ねてきたから。  一瞬のことで理解できなかった。  唇を離したとき、やっと何が起きたか分かった。瞬間、心拍数が急激に上がり自分の唇を抑えようとした。が、要がその腕を掴んできた。 「それ、違う」 「は、え」 「嫌いになんてならない。なるわけないじゃん……」  隣に座っている要が、俺の肩に顔を埋めた。 「ちょ、要」 「好き」  体全体がゾワゾワした。 「俺も琴葉が好き。前言った好きな人。琴葉のこと」 「……ほ、ほんとに?」 「ほんとに」 「え、……ほんとのほんとに?」 「ほんとのほんとに」 「ほんとのほんとのほんとに?!」 「ほんとのほんとのほんとに!!好きだから!から、キス……した、し」  またさっきのとは別の涙が溢れてきた。俺、めっちゃ泣くな。 「……めっちゃ泣くな。お前。」  そう行ってきた要も、目に涙を浮かべていた。  もちろん、打ち合わせもしてない。  けど、俺と要だから。  「「大好き」」 「琴葉〜!ばぁっ」 「うっ要おもっ」 「体格が良いからね、俺」 「……そうだな!」  要が言った通り、要は俺と違って体つきが良くてかっこいい。 「ね、空見て」 「え?なんかあ……」  ぎゅぅ 「琴葉、いい匂いする」 「っ、もう」 「ふへへ」  こいつ、やることが急で大胆すぎる。 「……それで、空になんかあるの?」 「なんもないわ」  要は何故か笑っていた。 「なんで笑うんだよ」 「琴葉のそういうとこ好きだよ」 「はぁ?」  意味が分からない。……けど、好きって言われて嬉しい。 「要に、ハグするために言っただけ」  要はにへっと笑って走っていった。  好き勝手やりやがって。ちょっとからかってやろ。  俺は要を追いかけた。 「ハグくらいいつでもしてあげる」  耳元で言ってみたら、思ったより照れた。俺も、要も。 「じゃあ教室でしよ」 「それはやだ」 「知ってた」 「今ならいいよ」 「まじ?キスもいい?」 「早く」 「えぇ顔真っ赤じゃん……」 「は……それいうなら要もじゃん、!」 「照れんなし!」 「照れてないし!!」 「ほんとのほんとのほんとに?」 「ほんとのほん、との、、ほんとに……  早くして」 「やっぱりまた今度で」 「え」 「うそうそ」 「っ!からかうな!」  要が大好き  ほんとのほんとのほんとにね

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ほんとのほんとのほんとに。

おはよう

……小夜、起きてる?  日にちを回ってもなかなか寝られなかった。 なんてったって、明日はデートなのだ。 楽しみじゃないはずがない。 そうだ。あいつはもう寝ただろうか。 そう思い、同居している彼女の元へ向かう。 「……小夜、起きてる?」 返事がない。 やはりもう寝たのかもしれない。 だが、戻るのは寂しかった。 彼女の隣で寝ようと部屋に入った。 寝てるのか、残念だ、と思いつつベッドにお邪魔する。 ___? 違和感。 …気のせいか。  眩しい。 彼女の部屋は日当たりが良いのだ。 隣でまだ寝ている人を見つめる。 陽の光のせいか、いつもより白く、美しく感じた。 見蕩れてしまう。 「おはよう小夜、起きて」 何度か声をかけても起きない。 それにしてもかわいい。 触れたくなり、手を取る。 冷たい…? 冷たい。いつも陽の光くらい温かい彼女の手が、体が、冷たい。 おかしい。 「小夜?」 おかしい。 「小夜、小夜」 いつもなら、 「小夜、小夜小夜」 いつもなら、 「小夜小夜小夜、小夜!」 温かい体で抱きついてくれるのに! おかしい。こんなのおかしい。冷たい。鳥肌。 違和感の正体を理解する。 小夜、ねえ、小夜。 小夜。俺を、 「俺を置いて、いかないで」  でかい石の前に座り、線香を挙げ両手を合わせる。 おはよう。来たよ。俺は今でも上手くやってる。これから仕事なんだ。また来るよ。 「…おはよう、小夜」 仕事に向かおう。 体を持ち上げ歩き出す。 『おはよう』 陽の光が眩しい。

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