Sindy@山芋とろろ
12 件の小説秘密主義の先は恋
「あのさ、タケ」 「何?」 「好きな人っておる?」 私の心の中はざわめいていた。腐れ縁のタケこと雄彦と私は、ゴシップなどのこの手の話題は一度も会話ネタとして出さなかった。 しかし、私たちは現在中学二年生。この年頃だと誰であれ、恋沙汰が気になってしまうのは人間の性だろう。が、放課後の二人で帰る道中に今の今まで一歩も踏み込めず。喉元でずっと引っかかっては、結局聞けずに帰路に着く。の、繰り返し。 「なに、急に?」 悪戯っ子みたいに鼻で笑うタケ。私は咄嗟に怪しまれないように 「いや、別にタケってそういう人おるんかな〜?どうなんかな〜?って、思っただけやけど」 なんて見栄を張るような、誰にでも嘘をついているとバレてしまうような演技、台詞を打ってしまった。リュックのサイドポケットから取った水筒の水をごくっと喉に通した。 彼は、怪しむ素振りも勘づいた反応もまったく見せないまま 「まぁなー……」と、ただ口を開く。 これは……あるかもしれない。と勢いよく、且つ怪しまれないように、彼に目を向ける。口が開いた時、私はごくりと喉を動かす。 「教えへんけど」 「はぁあ?」 思わず声が漏れてしまった。期待はずれでガッカリした。いや、あの間であったら普通は言うだろう!という畳み掛けたい気持ちはぐっと飲み込んだ。 「なんでよ!別に広めたりせんやん!」 「いやいや、そういうんは誰であっても、何処かで絶対聞かれてるし、ましてや……紫帆には絶対言わん。どうせ馬鹿にされるだけやし」 「特に恋バナとかは。心当たりあるやろ?」 と、ごもっともな意見と私に思いあたる節を容赦なくぶつけた。 少し黙り込んだが、私はそれでも何故か諦めきれなかった。私は必死になる。 「学年!」 「はぁ?」 「クラス……クラスは?!」 「言わんて」 「苗字の一文字目!それは?」 「やから、言わんから」 「……名前の一文字目は?」 「言いません」 少しずつハードルを低くして出た情報を思いつく度に彼を見て、何とか言わせようとするも、一向に情報を与えず、秘密主義を貫くタケ。 私の頭には諦めるという選択肢しか残っていなかった。もう観念したか。と言わんばかりに飄々と何食わぬ顔したタケの隣で一人、落ち込んでいると、 「……なんで頑なに断ってるか、分かったら。好きな人、紫帆に教えたるわ」 と、彼は言った。諦めるという選択肢が途端に、嘘みたく綺麗さっぱり無くなった。 「おっしゃああ!!誰誰?教えて!」 なんて目を輝かせてタケを見ると 「話ちゃんと聞けよ」 と、言われタケのデコピンを一発食らう。痛みを抑えるように額を摩りながら、答えを探す為に呆然と横顔を見ていた。 何を考えているか分からない横顔は、オレンジの日差しで映えていた。 ──あれ、タケってこんなにかっこよかったっけ? タケは私の視線に気がついて、不意に私たちは何秒間か見つめ合う。目を逸らしたのは私の方。 「百面相してどうしたん?なにかの練習?」 と小馬鹿にして笑っていた。自分にもタケにもイライラして、反抗するように肩で彼を小突いた。 「……や」 信号機は赤に変わった。 待っていると直ぐにトラックが私達の前を 横切った。遠くを見つめた彼は何かを呟いた。 「え?なんて?」 肝心な言葉が、トラックの通った喧騒のせいで塞き止められて聞こえなかった。私は彼に近づいて、耳を傾けた。今度は聞き逃さないように。タケは、少し怒ってみせていた。 「……やから、」 紫帆が好きやって言うてんねん。 私は、目を丸くした。彼とまた、見つめあう。 「なんやねん、何か言えよ……」 彼は、オレンジの日差しで輝き、恥ずかしさで染まった赤い顔を逸らした。 「好きやで、私も……タケのこと」 一緒やったんやね。 ただそれだけを彼に言った。自分でも分かるほど顔が熱くて、今はもう冬に近づいているというのに、防寒具も何もいらないほどには暖かい。
聖なる夜に鍋をつつく 翌夜
「…いらっしゃいませー」 今頃、マサは彼女とデートをしていると考えれば、俺は物凄く可哀想で寂しい男だと思う。 「シフト組んどいて空けて、俺に回すなや…」 今日に限って、一人予定ができて、俺がそのシフトの穴を埋める形で働くことになってしまった。 これくらいの愚痴は小さく呟いていないとやってられない。後一時間で。と先程から脳内でカウントダウンをしつつ、バイトをしている。 「いらっしゃいま…」 「よっ、リョウちん奇遇やな」 にっと笑って俺に挨拶をするのは、腐れ縁のアキ。 「バイト終わるまでどれくらい掛かる?」 「あー、後一時間かな」 腕時計を確認して呟いたあと、アキを見る。マフラーに少し口元をうずめている。 「待っとくわ。鍋つつこや」 今年で十回目のアキとの鍋。クリスマスとたまの冬の日に行われていたが、いつからだったろうか。 「…おう」 アキは、お茶を買って外に出た。此奴の格好が、この冬の寒さにそぐわない。上着をはおらずに、セーター一枚。俺は、バックヤードに向かった。 「おい、アキ」 「ん?うぉ…なに?」 此奴は可愛くないを反応して、笑いながら俺を見つめた。 「…これ羽織っとけ。風邪引くやろ」 「何?心配してくれたん?」 鬱陶しい絡みが始まる前に「まだバイトやから」と逃げて店に戻った。 「お疲れ様でーす」 自動ドアから出てくると、しゃがみこんでいたアキが立ち上がった。 「具材買ってる?」 「急に言われたから買ってへんよ」 「じゃあ、買いに行こう〜」 自由なアキを追いかけるように家の近くのスーパーで買うことにした。 「そういや、ミカがリョウちんのお陰でデートに着ていく服決まった〜って言うてたで?」 やるやん、リョウちん。とアキに小突かれる。 「マサも、大袈裟やねん…」 「でも、それくらいせんとリョウちん連絡返してくれへんやん」 笑いながら、鍋の具材をカゴに入れていくアキ。 「んなことないけどな」 と言えば、アキが大きく息を吐く。アキの横顔が視界に映る。 「いいなぁ、私も彼氏とデート行きたいわ」 声を大きくして、つぶやく。周りから変な目で見られるのを気にする。 「まずは相手を見つけなあかんな」 肩に手を置いて俺は、肉のコーナーに向かう。 「…それはリョウちんもやろ!」 「一緒にすんなよ?」 「え、彼女おるん?」 「おらんわ。なんでそうなんねん」 アキの思考回路には少し頭を抱える。そんなこんなで、鍋の具材が買い終わった。 「結構買ったな」 アキの耳が寒さで赤くなっていた。俺の上着についてるフードを被せる。 「さっきから何よ、もー…」 「冬にイメチェンして髪短くしたんが徒になってんねん」 数年付き合っていた彼氏に振られたからとかいう、よくある理由。 「え?」 「寒さで耳赤くなっとんねん。上着もなしで セーターだけとか。そっちこそなんやねん」 少し口が悪くなる。アキは、体を小さくしてごめんという。 「女の子は、寒さに弱いやろ。外出るんなら 着込むくらいせえよ」 ブーツの音が少しズレた。左手をポケットに突っ込んでいた。不意に左の袖が掴まれる。 「リョウちん、優しいね」 俺は、今…此奴に何を試されているのだろうか。 アキらしくない行動に頭を傾げて、変わらぬ足取りで家まで向かう。 *** 「俺、具材切っていくからアキは、食器とか切った具材置くトレイとか諸々を用意しといて」 アキにそう言うが、動く音がしない。ただ、視線が感じて視線の方に顔を動かすと、微動だにしないアキが、俺を見つめていた。 「どうした?さっきから元気ないけど」 もしかして、なにか気に障ることを言ってしまったのかと、俺は考え込む。 「なんでもない」 ふいと顔を逸らして、言われたことをし始めた。 「あ、ガスとかは俺やるからそのままにしといて」 とだけ言って、俺も具材を切った。 「ん、トレイここに置いとく」 「おう、ありがとう」 包丁の音と具材をトレイに置く音が響く。 アキは、やることが無くなったのかずっと隣で様子を見ている。その様子は───── 「なんか、私ら付き合ってるみたいやな」 「え?」 包丁を動かす手が止まる。丁度同じ事を柄にもなく考えていたのだから。 「具材持ってくわ」 アキに掛ける声が分からない空気が部屋に流れていた。この調子で鍋をつつけるのか。俺はわからなくなった。 *** 「ん〜、美味しー!!」 「この鍋の素美味いな。次もこれで作るか」 前言撤回。鍋をつつける条件が揃えば、俺らは様子が一気に変わった。しかし、グツグツと煮えわたる音などは未だに大きく聞こえる。 テレビは最近までクリスマス特集だったのに、面白みが無くて、つい電源を落とした。 「お前、野菜も食えや」 菜箸で白菜やらを掴んでアキの取り皿に入れようとする。 「食べたって、さっき!」 テレビがなくたって、アキとは会話が弾むから必要がないのもひとつある。さっきからこんな調子で 野菜食べたか食べてないかを言い合っている。 菜箸を置き、自分の取り皿にある具を食べようとするリョウちんを見つめる。 「リョウちんってさ、私の事好きなん?」 「は?」 箸から具材がすり抜けていた。 「急に何言ってんねん」 中々、箸からすり抜けた白菜たちが掴めない。 「着込めよって心配してくれるし、なんなら上着渡すし…私も具材取りたいのに、取り皿確認して入れてるの…私知ってるねんで?」 続けざまに、私は口を開く。 「彼氏振られた私を気遣って優しいんかもやけど、 今の私には毒やねん」 声が震えるアキにかける声が無くて、ティッシュの箱を少しアキの方に寄せた。 その優しさが毒なのに、彼は気づいていない。 「ただ、私がリョウちんには面倒な女として 見られたくなくて気にしてるだけかもしれんかも」 俺は、乙女の心がわかるほどできた男ではない。 ただ、アキの言いたいことは少しばかり分かる。 ぐつぐつと煮える音はより大きく聞こえる。 「そんなん気にしてる方が体に毒やろ」 「でも」と声に出す。 「他の子にも同じように接するかと言われたら別かもしれん」 リョウちん、それって──── 黙って、具材を食べるリョウちんから視線を動かせない。 「…来年は、外に出かけようよ」 「随分と気が早いな。次は事前に連絡入れてくれよ」 次は、次は──── 彼氏として、彼女として────共にすごそう。 「〆はどうする?」 「うどん!」 「はいはい、取ってくるわ」 鍋が終わるにはまだ早い。空気は、今まで以上に穏やかで温かい。
聖なる夜に鍋をつつく 前夜
急遽、友人であるマサの住むアパートに行くことになった。なんでも明日のために俺の力が必要だとか。 もっと詳しいことが聞けるのかと思えば、メールでそれ以上送られることはなかった。のんびりしていた体を起こし、最低限の荷物を持って家を出た。 「なんの用やねん…」 車で小言を呟く。走る音が大きく響いて俺の声もかき消す。車窓から差す街灯の明かりで今日は特に何にもしていなかったことに気付かされる。 俺はまたマサの彼女のことで呼び出されているのだろうと思う。俺に対する仕打ちに一人で苛立ち、車の速度が上がる。 「マサ。こんな寒い中呼び出すな…」 「この服とこの服どっちがええかな?」 二〇四号室のチャイムを鳴らせば、入ってーと言う声が聞こえる。ドアを開け、小言を言い終わる前に、彼奴はそんなことを言い出す。俺の今の顔はどんな感情に当てはまるかも分からない顔が浮かんでいるだろう。 「どういうこと?てか、メールで言ってた明日の用事って?」 お邪魔しますと言って、中に入る。いつも「ここに荷物を置け」と言われるクローゼット近くの収納ケースに上着を畳み、荷物を置きながらマサに問う。 「ミカちゃんとのデート!そのことでリョウちゃんに協力して欲しいことがあるんよ!」 俺は黙ったまま、マサに耳を傾けた。 「服選びに協力してくれ!!」 「…はぁあああ?」 大学二年にもなって彼女がいなければ、そういう仲になりそうな女の子もいない。おまけに服に興味のない男で役に立てない協力要請。寧ろ俺なしの方がいいのではないかとおもう。 *** 「これってどうかな?」 こたつでぬくもりながらスマホで暇を潰す俺に聞くマサ。スマホを机に置いて目をやれば、巷で聞くモノトーンコーデを身に包んでいた。 「おぉ、めっちゃええやん。似合ってるで」 かっこええな。と言えば、嬉しそうに次は全身鏡とにらめっこして「これで行こかな」とつぶやく。 横を向いてる此奴は、恋愛経験以外は申し分ない男だった。顔も整っていれば、高身長。体型も標準。そんな男を女の子が放っておくわけがない。 白のセーター、黒のワイドスラックスとロングコート。 こんなシンプルな服でもかっこよさは増すのだから、怒りも湧くはずがない。寧ろ、俺の手を借りる必要は最初からなかったことに、より、自分が惨めであることに気づかされるだけだった。 「彼女さんに、明日どんな格好で行くんか聞いたら?それに合わせて服選ぶとかはせんの?」 と言えば、マサからは「え?」と間抜けた声が出る。彼は、頭を掻きながら 「デート前日にこんな準備してるの知られるの恥ずかしいんよな…俺だけはりきってるみたいでさぁ…」 「そんなことないやろ。考えすぎちゃう?」 笑いながら言っても、こいつはうじうじしている。 マサが懸命に服を選んでいる時、スマホでやり取りをしていた内容が頭にチラついた。 「はぁ…『フジカワくん、今時間ある?ちょっと聞きたいことがあって。明日、マサくんとデートなんやけどさ。マサくんの服の好みとか分かったりする?』 そこまでは俺はよく分からんけど、マサの服選びに今付き合わされてるよ。『そうなん?私、モノトーンコーデで行くつもりなんやけど…どうかな?』マサ、モノトーンコーデで行こかなって言うてるわ。『え、そうなん?!じゃあ、私もモノトーンコーデで行こうかな…フジカワくん、ありがとう!』」 マサの彼女とのやり取りを全部、読み上げた。できる限り、大きい声で。 「らしいっすよ。マサくん?」 少し悪い笑みを浮かべて言ってみれば、マサは顔を真っ赤にして「わかったから!!」と怒られた。 「じゃあ、もう帰るわ。明日楽しめよ」 「おう、気をつけて帰れよ」 結局俺は、そこまで役に立っていなかったが、デートが成功すれば万々歳かと思った。 外はまだ明るい。月が雲から覗いている。 「俺も彼女と出かけたいなぁ…」 マサを見ていると、そこまで気に止めていなかった彼女がいないという事実に、自分らしくなく胸を痛ませ、気にする。 寂しい言葉は、白い息とともに空中で消えた。
雨とバス停
今日は雨。私は偏頭痛持ちだから嫌い。 ジメジメするし、気分も乗らない。 車の速度によって沢山に踊る雨水が歩道まで、 伝ってくる。 良い所は簡単には挙げられない。 そんな中で雨宿りを兼ねたバス待ち。 ふと横を見ると、遠くに見えたシルエット。 「あ、」 誰かが言ってた、想い人はどんな時でも 見つけられる。なんて言葉は本当だった。 「お、綾じゃん。今日はバスなんだ」 私はいつも自転車で学校に行く私が きっと珍しく感じたのだろう。 「うん。」 私と彼の静寂に雨音が割って入る。 周りには見えるほど人がいるのに、 この静寂の空間になると二人しかいない。 そんな事を何処か心の中で思った。 「俺、偏頭痛持ちだからさ…あんま雨 好きじゃないんだよな」 と言ってバス停の先を眺む横顔はどんな展示品にも劣らない。 「高城君、偶然だね。私も偏頭痛持ち。」 私だけ親近感を抱く。彼は私に顔を向け、 「お揃いだね。」 なんて言った彼に、どうせなら晴れた日の 夜の中でのお揃いの指輪が良いな って思ってしまった。 「偏頭痛がお揃い?嫌だなぁ」 その横顔は何処を捉えているのか。 さっき彼は何を考えて言ったのか。 願わくば、私を…なんて思ったり 思わなかったり。 「でも嫌じゃないかもな。」 いつまでも掴めない彼を掴もうとする私は こんな胸の内が声に出てしまった。 お揃いにしてくれた雨に、彼には悪いけど 少し有難みを密かに感じ。
お隣さん
私が物心ついた時から住んでいるお隣さん。 農村部に住む感じではない二人。 まだあの時は未熟だったから、 「あの二人、兄妹なのかなぁ」と純粋な心で 窓越しで見ていた。 お父さんとお母さんは家から少し車を走らせて 仕事に向かうから、いつも私は家に一人。 そんな時、いつも遊び相手になってくれた。 「私たちも…」 と少し呟く時があった。どういう事か、 さっぱりだった。ただ、仲がいい訳では無い。 きっと何かがある。それは未熟な私でも思った。 月日が経てど、二人は変わらず実家のお隣さん。 だけど、未熟な私が見ていた二人は 今では血縁にある二人には見えなかった。 ただ、二人でいる事が血の繋がりではない。 今も二人はただ縁側の先の景色を眺めている。 それを私はあの時のように窓越しで見ていた。 お隣さんはもう見える所に居なくなってしまったが お隣さんが居ない縁側には変わらず 日の温もりがあって、 お隣さんが「私達も」と呟いていた物がある。
苦い、甘い
「で、本命あげるの?」 「あげないって言ってるでしょ」 さっきからずっと友人はこんな調子。 長年、誰にも好きを伝えず世界の端、ほんと端の 端で身動きしない私を友人はむず痒く 感じているのか2月14日位はと何故か催促する。 「どうすんのよ」 「どうもしないよ。何であげなきゃなんないの」 ほんとにこればかりしか頭に浮かばない。 別に好きでも無けりゃ嫌いでも無い。 かと言って付き合ってる訳じゃない。 そんな奴にチョコを渡す法律は無い筈だ。 変に弄られても「返せ」ってなるだけだし。 「友チョコは?作んないの?」 「別に欲しいって言われてないから 用意して無い。」 強がってない。事実をただタラタラと溢れる。 「てか特に好きでも気になってもない女が 急に手作り渡すとかどうかしてるでしょ。」 手作りは、好き、気になってる人、に その気持ちを込めて作って渡すから こそに意味があると思う。 でも次の日にはほとぼりが冷めるのに渡しても 意味があるの?とは思うけど そこには目を瞑ろう。 「何話してんの」 例の「彼奴」がやって来た。 「さっきから私の目の前の女がおまっ…ウグッ」 勢いよく友人に口を抑えられた。 「なんでそういう事軽々しく言うわけ? 普通言わないの。」 そこまでして隠し通すものでもないでしょ? という意味を込めて見つめると、 睨み返された。「それでも軽く口にしないもんなの」 と言わんばかりに。 「なんもない。」 渋々だが目の前の友人の言う通り、 そう言っておいた。 言い方が悪かったのか目の前の友人はまだ 納得していない顔で見ていたが、気づいてない 人を装った。 「そう…」 目の前の男に至ってはいつもに比べて よそよそしいというかぎこちないというか。 別の人に人格を蝕まれた感じがして、 違和感があった。 「あ、ごめん。ちょっと手洗い行ってくる。」 と言って、席を外した。 別に戦意喪失した訳でも負けを確定した訳でもない ただ、あの男がいつもの感じじゃない事に 気持ち悪さを感じてしまった。 これ以上あの場にいると私まで別の人格に 蝕まれそうになるから。 たかが2月14日、されど2月14日な訳で嗚呼まで 影響されるこの世は無常なのだと感じた。 ポケットに忍んでたチョコの一つを 口にした。 「苦いけど甘いな…」 恋みたいだなって勝手に思った。 これを彼奴に共有してやっても友人の言う事聞いた訳だし、罰は当たんないかななんて 罰が当たりそうな考えを思いついた この日は何処もかしこも私と同類か 別の考えの人々でこの世は溢れ返ってそう。
とりあえず
私は苦手が多かった。 今では(ちょくちょくだが)読書だって 元を辿れば苦手だった。 活字が苦手で、話が忘れないように継続的に 読む事が私には合わなくて、 そんな私だから、買った本は手付かずになり 美しいまま積みあがっていく事が多かった。 まず、継続させることが苦手だったのだろう。 新しく何かを始めても、日常に組み込んで 続ける事が出来ない。 そんな人だから、継続が命の読書とか なんならこの小説投稿とか他のしてる事 なんて以ての外。 でも本を少し好きになったのが創作を 好きになったのが、 高校の物理の授業で来てくれてる 先生と私の友人達だった。 その先生は読書家で、良く授業で 本を進めてくれる。 私は苦手だが全く読まない人でも無ければ 執筆も全然しない訳では無い。 だから −とりあえず− で、私の書いた駄文と先生お墨付きの本を読む そんな物々交換方式で創作をするという 時間を作った。 友人達には話が出来る度、 「こんな感じで出来た」 なんて子供が親に見せるあの時間のように 読んでもらう。 その時 読む存在が居るから書く存在のモチベーションが 高まり、書きたいってなるんだ。 私はそう思った。私は少し見方が変わった。 「絶対」って言葉じゃない、私には 「とりあえず」 そんな曖昧がきっと良いのかも。 ここからは、お節介かもしれないかもしれない。 一人で熱くなって、どうかしたか?って 思うかもしれない。 将来きっと使わない物があるかもしれない。 例えば、今部屋にある参考書とか 教科書、授業ノート、問題を解くノートだって。 でも、受験にはそれは必須なんだって なりたい自分に近付くための手段だって 考えると 「とりあえず」やっておこうかな…… って思わないかな? したくないならしない時間を作るのが良い。 「とりあえず」の気分で少しだけでも 向き合おうって思ったらしてみて。 私も、そんな気分屋で一緒に頑張る。 いつの間にか生きづらくなった世の中を どうやって過ごすかは皆んなの分だけあると 私は思う。 だから、とりあえず一緒に頑張ろう。
月の果て
色々と疲れてしまった。 自分を嫌いになってしまった。 −自分を愛しましょう− 出来なかった。自分を甘んじる素になるから。 自身を愛せなかったら、信じれなかったら 周りも愛せないのか。 寝れなくなった。寝てしまうと また憂鬱を体験するから。 太陽が妬ましい。これ以上輝かないで。 明るくしないで。 屋根の上で月を見た。 天の使いがやってきそうなほど妖しく光る 月が綺麗だ。 ほんとに天の使いがやってきて月の果てまで 連れて行ってくれたら良いのに。 そしたら、もうこんな鉛筆の黒鉛で塗りつぶした 真っ黒な気持ちを感じないで済むのに。 どうして、生かしておくのか。 私の遠回しの言葉も私の生きる術も価値も 答えてはくれず、ただ光る月に 自然と下に俯かせた。
幻想と思い出は海
「…」 あの人はもう居ない。 ソファに座って、本を読んでいる姿も 私の視線に気づくと私を見る姿も ベランダでたばこを吹かす後ろ姿も そこに温もりを求めると、片手でわたしの手を ぎゅっと握って腰に回す行為も 灰皿に煙草を押し付けて煙草の味がする 口付けも 私が辛い時に目から溢れる雫を拭って、 「俺がお前の分まで、全て受け止めるから」 って、カーテン越しに月が見守る部屋で 温もりを与える優しさも 私を心配してくれる優しさも 何もかも居ない。 彼は一室に、寝具にシワと微かな温もりだけを 残した。 でも顔だけが、顔だけがマーカーで 塗りつぶされたように思い出せない。 私を見た時彼は微笑んでいた? 雫を拭った時、彼はどんな顔をしてた? 何もかも思い出せない。 彼に会いに海に行こう。 また二人で沈んで行こう。 いつも海は綺麗だ。
Sugar Melt
「ねぇ、お兄さん。私との約束忘れてないよね」 フェリーで二人きりの個室。 窓から差し込む月明かりと派手な花。 そんな背景の横で 俺を上目遣いで見る女。 少し瞳を捉えた後 「仕事中に私情を挟むのは辞めてくれ。」 そう言うしか、今は出来ない。 「如何して?お兄さん約束忘れたの?」 「あぁ、忘れたよ。そんな昔に結んだ物、 何時迄も覚えてる事が珍しい。」 淡々と珈琲の様に苦く、彼女には嫌な言葉を注ぐ。 「じゃあ、思い出させてあげる。」 −お兄さん− 其奴は俺の付けていたマスクに手を掛け、 唇を奪った。 「約束。もう時効が来たの。」 俺の注いだ珈琲を砂糖が溶かす この空間は、もう甘い。 「お兄さん、仕事中なの嘘でしょ。 私に嘘付けるとでも思った?」 さっきより色っぽい声色で悪戯な笑み。 「騙されると思っていたよ。」 なんて言うと、次は少し声を出して昔と 変わらずな笑みが浮かぶ 「もう良いでしょ?お兄さん。」 この空間が甘過ぎるのは 全て目の前にいる俺よりも若い、生意気で意地悪な 少し可愛げがある女のせい。 「降参するよ。」 今夜飲む珈琲は砂糖を入れようか。 嗚呼、今日は珍しく、特別で、変な日だ。