おにぎり

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おにぎり

あんた

「最善を尽くしましたが、残念ながら」 もう何も聞こえない。 目の前は真っ暗で。 息ができない。 親友が、目の前で死んだ。 トラックに轢かれて、呆気なく。 「私、医者になるんだ」 キラキラした目でそう言うあんたが私は大好きだった。 昔から頭が良くて、要領良くて、 完璧だったあんたは私の自慢で。 唯一の親友だった。 なんで。 なんであんたなの? これから医者になって、 たくさんの命を救うんでしょ。 あんたが死んでどうすんの。 ねえ、答えてよ。 ねえ、目を開けてよ。 ねえ、死なないでよ。 「息子を」 震える声で涙を零す女性。 横には小さな男の子。 不安そうにお母さんの顔を見上げている。   「助けてくれて…」 そのつぶらな瞳が、今はとても憎くて。苦しくて。 君を助けたせいであの子は。 今日、桜を見に行ったんだよね。 一浪して医学部に合格したあんたと。 桜の下でたくさんたくさん話した。 大学が楽しみだって。 勉強大変だけど頑張るって。 やっと夢に近づけたんだって。 そう言って笑うあんたを見て、 私もすっごく嬉しくて。 嬉しかったのに。 それがあんたとの最後の時間だったなんて 思わないじゃん。 ねえ、あんたの人生これからだったんだよ。 「お姉ちゃんが…」 気づくと、男の子が泣いている。 つぶらな瞳から流れる大粒の涙はびっくりするほど綺麗で。 「言ってくれたの…」 無事で良かった。 ちゃんと、生きるんだよって。 「お姉ちゃん、いっぱい怪我してて」 ああ、そうだ。 あんたは、そういう子だった。 自分よりも相手を優先して助けるような子。 そんなあんたが誇らしくて、 愛おしくて、私は大好きなんだ。 あんた、すごいよ。 一人のかけがえのない命を救ったんだよ。 たった十九歳で。 ほんと、医者の鑑だよ。 「お姉ちゃん、大丈夫かな」 男の子が、不安そうに私を見つめてくる。 思わず抱きしめる。 すごく温かくて優しい香りがした。 ああ、でもやっぱり。 「大丈夫。あの子は大丈夫だから」 やっぱり、あんたには生きててほしかったよ。

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