三藤

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三藤

俺の夜遊び

空に浮かぶ満月が足元を照らしてくれている。これなら今夜は逃げやすいかもしれない。新月の方がよりスリルがあるんだが、少し残念だ。 今日の服装はスーツ。少しくたびれているが、やはり動きにくい感じがある。 靴は少し汚れた革靴。この革靴、あまり蒸れず音も程よい響きがするから、結構いい物なのかもしれない。 どれもちょっとそこの家から拝借してきたものだ。返せたら返そうかな。 さて、そろそろ悪魔が起きてきて深夜一人で出歩く俺を見つける頃合だろう。 少し準備運動をする。 コツコツと石畳を歩いてくる音が聞こえてきた。 街頭に照らされ姿が見えてきた。 今日の悪魔は中年の警官に化けているようで、深夜に街を歩いてあまり違和感がない人間になりきっていることから、 この悪魔はそこら辺をよく分かっているらしい。 ふむ、今回はなかなか楽しめそうだ。 この前のは綺麗なお嬢さんと呼ぶにふさわしい女性に化けていて、案の定人間を狩るのにまだ慣れてない生まれたての悪魔だった。あれはやり甲斐がなかったなあ。 「お兄さん、そんなところで何してるんですか。」 おっと、話しかけてくるタイプか。では少しお手並み拝見といこうかな。 「パーティーがやっと終わりまして帰ってるところなんですよ。」 「おや、そうでしたか。では あなたの魂いただきますね。」 「は、」 警官が不気味に笑いながら近づいてくる。 おいおい、もう会話終わりかよ。 まあ、悪魔なんてこんなもんか。悪魔は人間の魂を喰うことにしか興味がない。 いつものことだと頭を切り替えて、声を返す。 「やだね。」 できるだけ相手を煽るような表情を浮かべながら。 これで十分。 悪魔はどれだけ取り繕っても短絡的なことには変わらないから、 「さっさと喰ってやる。」 ほら、怒った。 そしたら、楽しいかけっこのスタートだ。 走る、走る、走る。 知らない街で知らない道をその日拝借してきた服装と靴で走っていく。 今日の悪魔は優秀だな。 危うく捕まりそうになる場面がもう既に三度あった。それに追い詰め方も上手い。突き当たりに誘導したり、角から上手く回り込んだり、となかなか 楽しい。 まあ、既に撒いてしまった後なのだが。 今日も楽しかったなあ。 さて、次はどんな悪魔がやってくるだろう。 場所を変えながら、俺はもう次回のことを考える。何度も何度もこの遊びをやっているが、飽きることがない。生死を賭け、夜の中を走る。 これが俺の夜遊びだ。 朝日が街を明るく照らし、俺の眠気を誘ってきた。 そろそろ寝ようかな。 おやすみ。

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