凛海
5 件の小説凛海
Twitter @cat_biglove 魔法のiらんどで「Bitter sweet」を連載中です! https://maho.jp/works/15591670281202292284
関西弁長身男子
「……何」 思わず見上げ、固まっていた。 怪訝そうな顔とため息が降ってくる。 はっとして、謝る。 「身長高いなぁって思って…すみません。花緒、廊下出よう」 「あ、うん、そうだね」 「かお?」 「え?」 思いもよらない所に食いついてきた。 「いや、かお、て。」 「あたしの名前…」 「ふぅん。…俺の妹と同じやからびびった。香に中央の央で香央やねん」 「そうなの?あたしは簡単な方の花に一緒、って書く緒で花緒」 「珍しい名前やのに被るとか奇跡的やな。まぁ、よろしゅう」 「うん、よろしくね。…って名前知らないし」 「ノリツッコミえぇやん。俺は笠田 零央(かさだ れお)。まぁこの通り関西出身やけど、住んでたんは10年くらい。ある意味エセ関西弁かもしれへんな。…そっちは?」 急に私の方に話を振られた。 「私?私は峯岐 彩春」 「あだ名はねぎちゃん。可愛いでしょ?」 「何でねぎ?」 「み、ね、ぎ、だから、ねぎちゃん」 「成程な。花緒にねぎ。覚えたわ」 「何かねぎってやだなぁ」 「なんでやねん、何かねぎちゃん言いづらいやん」 「何そのこだわり」 ちょっと面白いかもしれない、この人。 「まぁ零央って呼んでや。そんで、退いてくれへん?いい加減」 「あ」 つい話し込んで退くことすら忘れてた。 「じゃあ零央、あたし後ろの席だからよろしく。ねぎちゃん、廊下行こ」 既に慣れた様子の花緒に少し驚きながら、頷くと廊下に出た。
席
どこか落ち着かない教室。 黒板に書かれた席順を見て、席に座った。 置かれた席は全部で三十。 私の席は、その中で後ろから三番目。 席は窓側の二列目。 窓の外では、運動場に桜が舞う様子が見える。 椅子と机に、1年間よろしくね、なんて心の中で呟く。 黒板に書かれていたように一通り片付けると、花緒の席に行く。 「花緒」 「もうねぎちゃん片付け終わったの?てかさぁ、やっぱり出席番号順だと席離れちゃうね。3番だし廊下側だし。やだなぁ」 「私は窓側。ラッキー」 ピース、と指を二本立てた。 花緒は口を尖らせ、 「席変わろうか。あたし今から峰岐彩春」 「やだよ、名前も席も譲らない」 「いーじゃん、初日だから分かんないよ?」 「やだ」 「葛城花緒の名前貸してあげるから」 「花緒の名前で得する事あったっけ」 「ん?えーとね。色んな女の子から喧嘩売られるかも?」 思いがけず反応に困る返答が返ってきた。 そんなことを言っていると、 「なんや元気な二人組やなぁ、ちょっとそこ退いてもろてもかまん?俺の席やねん、そこ。」 と、背後から声をかけられる。 「えっ、あ、すみません」 振り返りながら謝ると、話しかけてきた相手の身長に思わず目を見開いた。 「身長、高…」 と後ろで花緒の呟く声が聞こえた。
クラス分け
4月8日。 暖かい気候が眠気を誘う。 早咲きの桜は既に散り始め、花びらがひらりと舞う中、ひとつの門をくぐった。 まだ糊のきいた新しい制服はどこかぎこちなくて、くすぐったい気持ちになる。 ざわざわと人が並ぶ中、私は同じように並んだ。 そして、少し上を見る。 クラス分けだ。 1年、B組…峯岐 彩春。(みねぎ いろは) 自分の名前を見つけると、息をつく。 まだ顔も知らないクラスメイトの名前を眺める。 1人だけ知った名前を見つけ、思わず声が漏れた。 「あ」 それと同時に、私に抱きつく人がいた。 「ねぎちゃーん!同じクラスだ!良かったぁ…」 「花緒」 葛城 花緒(かつらぎ かお)、彼女は小学校の頃からの友達だ。 普段は優しくてのんびりとした性格の花緒だが、実は口が悪かったりするギャップが、私は好き。 「一緒に教室行こ?」 そう誘う花緒に頷くと、2人並んで案内された教室に向かう。 どんな高校生活になるんだろう。 期待に胸を膨らませながら、教室に向かって1歩踏み出した。
二人の場所で。(前作のCPです)
彼女はいつも楽しそうだった。 どんな時でも笑っていた。 そんな彼女がある日、泣いていた。 いや、泣いていたと言えば少し違う。 目にいっぱいに涙を溜めて、一粒も溢さないように耐えながら、別れを告げた。 「さよなら。」 彼女はそう言って、僕の前から消えた。 夜景を見たこの場所。 此処は2人の思い出の場所だった。 初めて恋をして。 初めて告白をした。 初めてキスをしたのも此処だった。 いつだって、君を思えば此処に行き着く。 別れを告げられた時、僕は何も言えなかった。 彼女と同じように、泣きそうになりながらも耐えて。耐えて。 涙と共に、いろんな言葉が溢れそうになる。 何で?悪いところがあるなら直すから。 最近、悩んでいたよね。悩みを聞くから。 でも、何一つ言葉にできなかった。 そんな二人を、静かに輝く月は眺めていた。 彼女と別れて、数日間。 熱が出た。熱を出したのなんていつぶりだろうか。 熱で朦朧とする意識の中、ぼんやりと彼女の顔が思い浮かぶ。 「君は優しいよね。いつだって」 「私は大好きだよ。そういうとこ。」 そう言って、頬を真っ赤にして笑っていた表情。 ある日、思い浮かんだ。これは熱のせいじゃない。熱はもう、下がっていた。 「一人は嫌だ…」 そう呟いて、一筋だけ涙を流した事があったな。 弱味を見せない彼女が見せた、一度だけの涙。 家族の事も、過去の事も、何一つとして話さない彼女が、唯一教えてくれた事。 「私ね、ずっと此処には居られないの」 そう話してくれた。 でも、理由は教えてくれなかった。 秘密主義な彼女は、いつも笑って誤魔化した。 思い出した時、何となく。 行かなきゃ、と思った。 あの場所へ。 今日が何月なのか、何日なのか。 そんな事どうでも良くて。 ただひたすらに、彼女に会いたかった。 彼女は、前よりももっと小さくなった背中を向けて、そこに居た。 びっくりさせてやろう、なんて意地悪心が働いた。 回り込んで、横から飛び出そうか。 そんな事を考えて、横顔を見た。 その頬に伝う雫は、彼女の涙だった。 「ーーーーーさよなら」 思わず、声が出た。 ーーーーーーありがとう。 今にも消えそうな彼女にそう声をかけた。かけたつもりだった。 涙が止まらない。 ちゃんと言えただろうか。 …あぁ、そうだ。 今日は2人が出会った日だった。 また怒られるな。記念日でしょ、って。 ごめんね、って謝罪も込めて、ゆっくりと笑った。
星空の下、君に。
「さよなら。」 それが最後の会話。 君との別れを告げたのは、ちょうど一年前で…同じ場所。 高いところで綺麗な夜景を見ながら、そんな会話をした。 君は優しくて、不器用で、それでも全力で私を好きでいてくれた。 そんな君を、私は捨てた。 自分の意思で、自分勝手な理由で。 さよなら、と言った時の顔はきっと、ずっと忘れられない。 泣きそうな顔をして、何かを言おうとしていた、あの表情。 離れた今は恋しくてしょうがない。 でも、もう会えない。 どんなに願っても、どんなに想っても。 だって私は、もうすぐこの世から消えなくてはならないから。 ここに居られるのは、後少し。 目を瞑ると、いつでも君との思い出が駆け巡る。 遊園地で遊んで、はしゃぎすぎてはぐれた日。 君は一生懸命に私を探してくれた。 そして、見つけてくれたよね。 探しすぎて、足が疲れて歩けなくなった。そしてうずくまっていた私を。 水族館に行って、イルカショーを見て、びしょびしょになった日。 上着を貸してくれようとしたけど、その上着がびしょびしょなのも忘れてて。 2人で大笑いした。 初めて2人過ごした夜。 あれは確か、君の誕生日の一週間前だって言ってた。 ただ幸せで、何にも考えなかった。 まさか、いつか別れの日が来るなんて。 何度も何度も、願った。 私がここに居られるように。 君と離れ離れにならないように。 でも、遅かった。時間が来たみたい。 最後に一回くらい、顔を見たかったな。 ふと、笑みを浮かべた。 此処で待ってたら、いつか会えるかな。 私が星になっても、月に帰ったとしても、海の中で泡になって消えたとしても。 君は見つけてくれるかな。 なんて、自分勝手だよね。 もう、本当に最後だ。 こんなふうに想い出に浸って居たら、お迎えが来たみたい。 —————さよなら。 最後に一言、呟いた。 それに一つだけ、返答があった。 ありがとう—————。 あぁ、もう。君は優しすぎる。 星空の下、同じ場所で。同じ日に。 涙が溢れて止まらなかった。