店員_ほりこし
5 件の小説消しゴムを使う時
「あっ……」 授業中、消しゴムを落としてしまった。 僕は慌てて落とした消しゴムに向かって手を伸ばす。 パシッ けど、僕の手の中には消しゴムはなかった。 またあいつだ。 「にししし〜。今日も僕の勝ちだね〜」 僕は今日も彼女に勝てないのである。
出会い
ドンっ こうして僕らは出会った。 今日は珍しく学校に遅刻しそうになって、パンを咥えて走っていた。 角を曲がろうとした時、急いでいたのもあったのか壮大にぶつかってしまった。 「あっ!すみません!!」 咄嗟に僕は謝罪をする。 しかし、その謝罪は意味がないことがすぐに分かった。 マネキンだった。 通行人はくすくすと笑いながら通り過ぎていった。 ”これが僕と彼女の初めての出会いだった。“ 僕はラブコメみたいなセリフをここに置いていき、学校へ足を運ぶ。 ふと後ろから女の子の謝罪の声が聞こえてきた。 今日は噂だと転校生が来るらしい。
夢を見ない夜には
夢を見れない時には、となりで寝ている嫁さんをハグする。 嫁さんはうとうとしていていつも申し訳ないと思っているが、その後にハグを返される。それが私にとって至福の時だ。 「あなた?今日はハグをしないの……?」 今日は嫁さんの方から求めてきた。 こういう日はそういう日と決めている。要するに大人の時間だ。 歯磨きをして嫁さんをベットに向かいいれる。こういう日はよく眠れる。 けど夢は見れないけどね。
嘘
世の中には2つ、嘘が存在する。 ついた方がいい嘘とつかない方がいい嘘だ。 ついた方がいい嘘が存在する理由は明確だ。 それは人間社会が発達すると同時に、人に気を使うために生まれたものだからだ。 それと同時につかない方がいい嘘があるのも明確だ。 それは、嘘をつかれてしまった人が悲しい想いをするからだ。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「先輩、何の本を読んでるんすか?」 けだるそうに聞いてくる後輩。 こいつは部活動を真面目にしようとする気持ちはないのだろうか? 「別に何を読んだっていいだろう。そういうお前は何か読まないのか?」 メガネをかけ直し、俺は可愛くない後輩に聞く。 「えー、別にいいじゃないですかー。本とか読んだって、別に何もなんないのに」 「読む理由を聞いているのではない。俺は部活動として本を読め、と言っているのだ!」 まったくこの後輩ときたら…なんでこいつが、この部活に入ったのだろうか… この後輩、『深田』は、俺の向かいの家に住んでいる幼馴染と言うやつだ。 こいつは一人っ子だったため、小さかった頃は俺を兄のように慕っていたのに。 いつの間にか成長して、この様なクソガキになってしまった。 「あ、じゃあセンパイのベットの下にあったえっちな本でも読んじゃおうっかな〜」 「なっ、何で持っているんだよ!返せ!!」 「いやですよー。せっかくの大切なネタとして永遠に使わさせていただきます〜」 「か!え!せ!あと袋とじをひらひらさせるな!!」 全く、なぜこいつは俺の至福の読書を時間を邪魔するのだろうか。 そもそもこいつがこの部活に入ったのが謎だが…… 「あはは……。じゃあ私もそろそろ本を読もっかな?」 そう言って深田はカバンから本を取り出して、本を読み始める。 やっと俺も本が読める……。 本を読み始めて数十分後。 そろそろ読んでいた本が事件を解決し、エピローグに入ろうとしていた。 部屋には新鮮な空気が入って来て、カーテンが幽霊のようにゆらゆらと揺れていた。 (そういえばこいつ、どんな本を読んでいるのだろう?) ふと疑問に思った。 しかし、これを考えたのは初めてではない。 前にも思ったことがあった。 しかし、いざ本を見せてもらおうとしたら…… 『あ!だめですよセンパイ。この本はセンパイにはキツすぎますよ〜』 本の内容にキツいとかクソとかあるのか……。 そんなことを考えていたとき。 「あ、センパイ。私トイレに行って来ますね」 「あぁ、分かった」 チャンスだ。 目的の本は目の前にある。 あらかじめ深田が行ったことを再度確認し、俺はパンドラの本に手を取る。 「ふむ……。タイトルは『真実』か……。なかなか面白そうではないか」 あいつにしては、似つかわしくない本のタイトルだが、そんなのどうだっていい。 早速、本を読んでみよう。 『○月○日、今日は初めて先輩がいる高校に入学する。私は胸を期待に学校へ一歩踏み出した。』 なるほど。最近流行りの日記形式の小説だな。 こういうのは読んだことはないが、よい経験だ。 あいつが来る前に、一通り読んでしまおう。 そうして俺は本を読み進めた。 内容としては、幼馴染の男子高校生に恋をする女子高校生の心情を日記のように思い描いた小説だった。 「結構面白いではないか…」 実際俺も時間が忘れてしまうくらい、この本にのめり込めていた。 次の展開はなんだろうか。ページを読み終えるたびにそう思ってしまうのだ。 「しかし、この感じ……。まるで俺と深田みたいだな」 まあ、あいつは俺に対して恋愛感情などあるはずないと思うが。 そう思ってページをめくると、私は目を疑った。 『○月○日 先輩が死んだ。』 「!!?」 俺は目を疑った。 いくら何でもどんでん返しすぎるだろう。 こんな展開どの小説でも読んだことはないぞ! 急いで私は続きを読む。 『どうやら交通事故だったらしい。私はこれからどうすればいいのか。分からないよ。先輩がいない日常なんてそんなの… いやだ。 いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。 竹田先輩、すぐそっちへ行きますね。』 俺はこの文を読んでゾッとした。 確かにこの文を読めば誰だって気味が悪い。 しかし本当に気味が悪いのは、 竹田は俺の『名前』だからだ。 そして、そう考えるといくつかの辻褄が合う。 まず、この本は日記であること。 そして、この本を書いたのは、 深田、俺の幼馴染であり、後輩であること。 「う……嘘だよな?てことは、俺はもう死んで……」 「センパイ?」 「うわぁあああああ!!!!」 「わっ!!?全くもう驚いたなぁ……。普通に話しかけただけじゃないですか!」 「あぁ、すまない。ところで、深田」 「何ですか?センパイ」 「俺、そしてお前は生きているよな?」 「……当たり前じゃないですかセンパイ!センパイも私も生きていますよ」 その言葉が、果たしてついた方がいい嘘なのか、つかない方がいい嘘なのかいまだに分からない。 そして俺は家の帰り方を忘れてしまっていることに今、気がついた。
夜桜
春になり、桜が咲く季節になってきた。 テレビのニュースでは桜の満開予報がちらほらとやっている。 『今日は〇〇市の桜が満開となるでしょう。』 テレビの人がそんなことを言っていた。 きっと綺麗なんだろう。 「ここはまだ満開じゃないんだ…」 そんなことを誰も聞こえないようにつぶやく。 今日も仕事に行く準備をする。 「いってきます」 扉を開けると、目の前に桜が咲いていた。 どうやら、予報はハズレたらしい。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 夜になってコンビニに行き、ビールやおつまみなどを買う。 せっかくの満開だ。楽しまなきゃもったいない。 家の近所にある裏山へ登り、僕らだけにしか知らない秘密の場所へ行く。 「ついた…」 ここは見晴らしがよく、桜も満開だった。 しかし、どうやら先約がいたようだ。 僕の妻だ。 「今年は早かったね」 「君の好きだったお菓子、これで合ってたよね?」 そんなことを話して、妻との会話に花を咲かせる。 レジャーシートを開き、お花見をする準備をする。 「ほら、座って座って」 「はい、これビールだよ」 「じゃ、 かんぱーい」」 カンっ 妻をビール缶の先を合わせ、再会を果たす。 今日は満開だ。 君が亡くなった日と同じ、いや、それ以上の満開だ。 きっと、妻も喜んでいるのだろう。 一週間しか会えなくても、僕は君とまた会えるのだから、幸せなんだ。 そんなことを考えていると、夜桜が君に 見えてしまった。 今日は、満開だ。 なのに、なんで、こんなにも涙を流してしまうのだろう。