星躔

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星躔

こんばんは星躔(せいてん)です。前は別のアカウント使って活動してました。名前は自分から証すつもりは無いです。

文通(冬)

白い雪の上を歩く。 「はぁ、はぁ、」 新しく積もった雪は重くて、足がずっしりと鉛のように動く。 あと少し、あと少し… 「やっと着いた…。」 雪が積もってほとんど姿なんて見えない郵便ポスト。 少し湿ってしまったピンクの封筒をそこに入れる。 これが毎月最初の日課。 「無事に届きますようにっ!」 そんなことを1人で呟いてまた、雪の道を歩く。 私は1人の異性と文通をしている。 幼なじみの彼だ、名前は朝陽(あさひ)という。 小さい頃に、私が女児アニメを見て憧れた文通を家が近かった頃からわざわざ郵便ポストに入れてやっている。 彼が引っ越してからもずっとずっとしている。 「電話とかメールでいいじゃん?」 そんな風に言う人も居るけれど、訳あって電話番号やメールアドレスを知れないようになっている。 離れた私たちを繋いでいるのが文通。 たった一つの手紙が何年も私たちを繋いでいる。 数日経って、雪が少し溶けた頃、、 家のポストを見ると、水色の封筒が入っている。 「朝陽からだ。」 ポストから手紙を優しく取ると、玄関で中身を読む。 内容は毎月似ていて、学校であったこと、最近ハマっていること、などなど。 少し湿って文字が擦れた所見て、しみじみ字が綺麗に書けるようになったと感動する。 彼ももう16歳、彼女くらい居るんだろうな。 そんな気持ちを胸にしまうと同時に手紙も引き出しにしまう。 朝陽は字が昔はとても汚くて、良く家の人に怒られていた。 朝陽と私が離れ離れになったのもその家の人が原因で、要は朝陽はお金持ちで一家の後継。 一般家庭の私は足元にも及ばない、関わるなとか遊ぶなとか沢山言われたらしい。 文通だけは朝陽が隠し通して今まで通り続いている。 季節は冬で、12月。 12月10日は私の誕生日で誕生日には朝陽から手紙が届く。 月に2つも手紙が届くのは12月だけ。 楽しみに楽しみに待っていて、雪がまた降って、大雪になって…。 大雪が全て溶けても、朝陽からの手紙が来る事はなかった。 「なんで、?」 頭の中にその1文字が駆け巡る。 ケーキも食べて、プレゼント貰って、気づけばお餅を食べる時期にもなって、年を越して。 届かない、届かなかった。 嫌われた?私なんてどうでも良くなった?どうして? 冬休みはほとんど部屋に閉じこもった。 心配する家族の声すら届かないくらい、私は手紙のことで頭がいっぱいだった。 今までの手紙を何度も読み返す、幸せが溢れる手紙を読み返す…。 「懐かしいなぁ、この手紙は酷かった。」 中学生に上がった頃、12月に届いた手紙はとても酷かった。 封筒も水を浴びたようなぐちゃぐちゃ具合で、中身はもっと酷くて、しわしわな紙にインクが滲んでほとんど文字が読めない手紙。 「大好きだよ由紀。」 滲んだ文字で唯一ちゃんと読めた文字。 貰った時はすごく嬉しくて、私も何故か涙が溢れた。 「あぁ、懐かしいなっ。」 ポロポロと涙が溢れるのを我慢して、私は家のポストに手紙がないか確認しに行った。 私は覚悟を決めていた。 「あぁ、入ってた…。」 どうしよう、読みたくない。 私は彼の秘密を知ることになるから、認めたくない現実を知ることになるから。 「酷い手紙…。」 水色の封筒なんてもう変色して青色。 封筒の中はテープで継ぎ接ぎになっている。 読みたくない、 読まなきゃけいない。 彼からの最後の手紙を。 由紀へ 誕生日おめでとう。僕が居ない頃には君が沢山の手紙を書いているでしょう。全てを読むことなく、この世を去るのはとても辛いことです。由紀が大好きでした。どんな時も明るくいる由紀が小さい頃の僕の支えでした。昔も今も大好きです、今の由紀に会えないのが心残りです。大好きです、ずっとずっと大好きです。会い_**;*;:&;:(+ 最後の最後でインクが滲んで大切なところが読めなかった。 「泣かないでよ、我慢してよ最後の1文くらい、我慢して書いてよ…。」 知っていた、分かっていた、、。 中学生に上がった頃に届いたあの手紙以降、彼の癖のある少し汚い字が、真っ直ぐ綺麗なお手本のような字になっていたことを。 大きな違和感があったこと。 少しだけ癖を真似したよう字になっていたことを。 病弱だった彼がこんなに綺麗な力強い字を書けるだろうか? 誕生日に届く手紙だけは…いつもの汚い字であること。 わかっていた、認めたくなかった。 疑問に答えを合わせたくなかった。 彼がもういないことを認めたくなかった。 ずるずると玄関に座り込んだ。 大切な手紙を胸に抱いて沢山の涙を流した。 「……っうっ…。」 ボロボロの手紙を大切に抱きしめて。 私は涙を流し続けた。 目が腫れるまで。 夕日が落ちた頃、出かけていた家族が帰ってくるまで私は泣いていた。 雪があったのを忘れるくらいに、雪が消えて小さな緑が現れた頃、私はいそいそと準備をしている。 あの日、手紙に夢中で気づかなかったけど、封筒にはもう1つ贈り物が入っていた。 小さな太陽の形をしたネックレス。 太陽の形をしているのに、着いている宝石は青色のアウイナイト。 本当はつけていきたいのに、つけていけないから。 そのネックレスを少しあかりに照らしてみる。 「青色の朝日なんて珍しいわね。」 後ろにいた母が言う。 「そうだね。」 静かに私は答える。 「早く準備しちゃいなさい、気をつけて行くのよ。」 喪服を持った母がそう言う。 「はーい。」 私はそのネックレスを静かにポーチにしまうと。 「絶対忘れてなんかやらない…。」 静かにそう呟いた。 家の扉を開ける。 少し肌寒いけど暖かい日差しが私を包む。 文通してたんだから、住所は知ってる。 静かに息を吸う。 「行ってきます!」 扉を閉めて歩く。 雪はなくて、歩きやすい。 それでも少し足取りは重い。 今日は彼に会いに行く。 彼の家の人には断られるかもしれない。 それでもいい、なんでもしてやる、強く踏み歩く。 小さな雫が頬を伝う。 今年の冬は少し湿った冬だった。

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文通(冬)

彼を愛した証

暑い夏だった。 教室に忘れ物をした。 そんな時にたまたま聞いてしまった会話。 「え?まじで?○○って髪長い方がタイプなの?」 たまたま聞いてしまった大好きな彼のタイプ。 忘れ物なんて一瞬でどうでも良くなったのを今でも覚えている。 髪が長いのが好きなんだ。 初めて聞いた話。 たまたま聞いただけなのに、盗み聞きをしてしまったような気がして私はその場から立ち去った。 静かに走った。 真っ白なセーラー服の襟だけが後ろになびいた。 髪の毛はなびかない。 だって、あの頃ショートだったんだもん。 「髪、伸びたなぁ。」 鏡に移る腰まで伸びる髪を見ながら私は呟いた。 高校の時から伸ばしてたもんな。 大好きな彼に少しでも近づきたくて髪を伸ばし始めた。 「懐かしいよね、蓮。」 机の上に立てられた、彼の写真を見ながら小さく呟いた。 彼は数日前事故で亡くなった。 春が来ると共に彼は消え去った。 付き合ってた。 高校最後の授業の日に告白した時から。 大好きだった。 たったの3年、他人から見ればそう見えるけど私にとってはとても長くて充実した3年だった。 愛してた。 言葉に表せないくらい。 彼に撫でられる度に揺れる髪。 「髪型が崩れるじゃん。」 なんていつもの決まり文句を口を尖らせて言った日々。 彼と同じシャンプーの匂いがついた髪。 彼が誕生日にくれたシュシュ。 「髪伸びたな。」 なんて優しく言ってくれた彼。 「短くても長くても陽菜なら何しても可愛いよ。」 付き合って2年目彼はそう言っていた。 正直に言えば、髪は長いと手入れは大変だし、シャンプーの量だってリンスの量だって変わる。 それでも何となくここまで伸ばしたし、切りたくないという思いがあった。 それでもまだ髪を切れない。 彼が亡くなってからより一層そんな気持ちが積もった。 彼なら長くても短くても愛してくれたのは知ってる。 今でもまだ、彼が頭を撫でてくれんじゃないか?って思ってしまう。 髪を見る度に思い出す。 彼との思い出。 切って気持ちの整理をつけたい、彼との想い出と彼との別れの。 毎日目を腫らしてばかりで辛い。 切るべきだ、それでも切れない。 ポツポツと目から垂れる涙が髪につく。 だって、彼の為に初めて努力したのがこの髪だから。 今もずっとずっと大好きだから…。 彼との思い出も気持ちも全部詰まってるから。 「この髪が、 彼を愛した証だと思うから。」 寒い冬が来る。 花を持って会いに行く。 短い髪を揺らしていく。 1年越しに彼に会いに行く。

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彼を愛した証

走った。

まつりはあの日死んだ。 親友だった私はまつりが死んだと聞いて走っ た。 走って走って向かった。 まつりが死んだのはちょうど街が盛り上がってる頃。 都市開発をしている会社がうちの町にやってきて、新しい開発について詳しく話していた。 まつりが死ぬ数日前の事だった。 まつりはたまたま会社の人が話しているのを聞いていたらしく、酷く反対していた。 「私たちの町だ、何も知らない奴らに勝手に荒らされるのはごめんだ。」 珍しく怒った形相をしたまつりがうちに来て愚痴を言ってたのを覚えている。 まつりは正義感は強く、少し変わった子だった。 頭はいいけど、学校では浮いていて、友達と呼べるのは私くらいだった。 親友と呼べるのは私くらいだった。 「街の人は誰も反対していない、開発に乗り気になっている。」 暑い夏の中、溶けたアイスを食べながらまつりは言っていた。 「そうなんだ。」 溶けたバニラアイスの最後の一口を私は静かに飲み込んだ。 まつりは正義感が強い子だ、まだ人が多い顔見知りも多いこの町を無くしたくなかったんだろう。 寂しがり屋だ。 まつりは頭がいい、だからテスト期間になるとあまり話したことの無い子がやってきて問題の解き方を聞いていた。 「都合のいい奴ら。」 唾を飲み込みながら私はそう呟いた。 知らないクラスの子までやってきて、それでもまつりは勉強を教えていた。 結局、都市開発の話はそのまま盛り上がって盛り上がって、町のお偉いさんも大賛成。 反対してるのはまつりだけ。 「バカみたいよね。」 まつりが死ぬ5日前、まつりの義母がそう言っているのを聞いた。 家でもずっと反対していると。 「そうですね、私まつりのこと説得してきますね。」 部屋にこもって出てこないまつりを私は呼びに行った。 静かに息吸って、 「ほんとに馬鹿みたい、」 小さな声で呟いた。 「まつり、少し話そうよ。」 声をいつもより少し高くして、そう言った。 まつりは変わり者だった。 「まつりちゃんって母親が出ていったんでしょ。」 「ちょっと変わり者だよね。」 「この前なんて隣のクラスのやつ、ポイ捨てで馬鹿みたいに怒鳴られたってよ。」 「先生もこまってるよなぁ。」 まつりはたくさんの噂に埋もれていた。 私は噂に対して否定をしなかった。 気づけば、まつりはクラスの奴らにからかわれていた。 クスクスと笑う声。 見て見ぬふりの教師。 義母もまつりに呆れていたので、放置。 助けてあげれるのは私だけ。 足を引っ掛けられ 物を隠され 髪を引っ張られる そんな光景を見ながら静かに本を読む私。 馬鹿なまつりを制裁、 変人を制裁、 ガリ勉を制裁、 迷惑な人を制裁、 いつの間にか「まつり」とまで呼ばれなくなっていた。 制裁をつければなんでもいいと思っているのか。 馬鹿ばっかりだ。 うんざりしながらも、本を借りに図書室へ向かった。 たまたま、図書室へ逃げ込んでいた。 小さく怯えながら、震える背中だった。 扉を開けると驚きながら大きな目でこちらを見ていた。 体を震わせ、唾を飲み込むのが見えた。 驚いた目から、酷く悲しく怒りに染まった目に変わった瞬間に、彼女は口を開いた。 「なんで、?なんで助けてくれないの?」 私は本を置いて、静かに口を歪ませて言った。 「誰もが、あんたみたいに正義感がある訳じゃない。もうあんたとは親友じゃない。」 静かに涙を流すまつりに向かってそう言った。 涙以外にも鼻水や、嗚咽が出てきた頃また言った。 「次の休みの日の夕方、裏山来てよ。」 震えながら言った。 「あそこの裏山、都市開発で無くなるらしいから最後にあんたと行きたい。」 怖かった、返事を聞くのが。 だから顔も見ずに、静かに扉を閉めた。 まつりが死んだ。 まつりが裏山で死んだ。 包丁で刺されて死んだ。 まつりは血まみれで死んだ。 なんで? どうして? 温かく温もりがまだある。 傷跡は深い。 優しく手を近づける。 静かに抱きしめる。 血が私の服や皮膚につく。 おそろいだね、まつり。 大好きだよまつり。 好きで好きで仕方なくて、ずっと隣にいたかった。 大嫌いだよまつり。 誰よりも眩しいあんたが嫌いだった。 比べられて、責められて。 大嫌いで大好きで。 一緒にいたかった。 ずっと隣で。 図書室で否定した時、髪を引っ張られても、ものを取られても泣かなかったまつりが私に否定されて泣いていた。 でも、親友じゃなくて友達じゃなくて恋人が良かった。 手に持ったナイフを静かに自分に向けると同時だった。 小さい子供と大人の声がした。 私は走った。 馬鹿みたいに全力で走った。 静かに叫んだ! 「あぁぁぁぁあぁああ!!」 喉が潰れそうなくらい叫んだ。 夕焼けに反射するたくさんの血が綺麗に見えた。 大好きな人に包まれている気がした。 でも、本当はね… あの日まつりは殺された。

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走った。

my Bae

あなたが望むなら、誰もよりも早く走るから あなたが望むなら、足が切れても走るから あなた望むなら、苦手な人混みも走り抜けるから あなたが望むなら、あなたの好物作るから あなたが望むなら、家であなたの帰りを待つから あなたが望むなら、眠れるまで歌を歌うから あなたが望むなら、あなたの敵をわたしが倒すから あなた望むなら、あなたを静かに抱きしめるから だから、だから、私の望みも聞いてください。 傷だらけの足も、汚れた服も、焦げた鍋も、 枯れた声も、全部全部平気だから。 止まらない涙もきっと止めてみせるから。 だから… 早く目を開けてください。 あなたが望むなら私を抱きしめて。

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my Bae

あの女。

女は化け物だった。 自分から愛することはなく、かと言って真紅の薔薇を受け取ることとなかった。 女はある時黒曜石のような髪をトパーズのような髪に変えた。 もちろん単なる暇つぶしだった。 どんな姿になろうと人は自分によってくるのか? 真紅の薔薇を寄せてくれるのか? 気持ちの籠った手紙をくれるのか? 囁きをくれるのか? 結果は簡単だった。 誰もが最初は困惑した。 悩み事でもあるのか? 心の病気にでもなったのか? 彼女が思いを寄せる相手ができたのか? いや、それはない。 誰もが口を揃えて言った。 彼女は愛を囁くなんてことは無いと、誰もが確信していた。 今までどんなイケメンでも、金持ちでも、強いやつでも、彼女は振り向くことなんて1度もなかった。 いつも、つまらないと言った顔でこちらを見るだけ。 言葉は話すがそれは短いもの。 みんなが手に入れたいと思う女。 みんなが油断していた。 彼女の髪色にもみんなが慣れ始めた頃。 彼女は1人の男に出会った。 冴えない顔をした、服もボロボロの男。 男はいつも、仲間に仕事を押し付けられていた。 哀れに思ったのか、自分の歩く道にその男が居たのが邪魔だと思ったのか。 彼女は彼の元に歩き、手を差し伸べた。 みんなが驚いた。 何故? どうして? 誰にもそんな事したことないのに? 男は申し訳なさそうにぺこりとすると。 静かにその場を去った。 女は驚いた。 なぜなら、今までたった一礼をされたこと、感謝されたことがなかったから。 誰もが、自分を手に入れたといい、上から手を差し伸べるように自分に話しかけていたから。 みんなが欲しいと思うのは自分の美しさ、みんなが感謝してるのは自分の外見。 初めてだった。 自分から何かをして感謝して貰えたのは。 たった一礼が、 自分と男を対等な関係に結びつけてくれた気がしたから。 女はその日から変わった。 女の白い肌が、薄い薔薇色に染まったその日から。 何も感じなかった心臓がどくどくと早くなり始めたその日から。 周りの人間も変わった瞬間だった。

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あの女。

聞いてくれ

よそはよそうちはうち、子供の頃聞かされて嫌になっていたものを、いつの間にかかける側になっていた。 オレンジージュースや牛乳のパックが溢れるほどあったゴミ箱は、大きな文字ばかりの缶に溢れるようになっていた。 口からヨダレが出るほど何度も舐めていた飴はいつしか、口から煙が出るモノに変わっていた。 毎日楽しみにしていた、おやつの時間は消えていてお昼をとる時間すら惜しいくらいになっていた。 夢を広げていた、自由帳もいつしか、ノートばかりになって夢を広げることをやめていた。 夢を追っていたはずなのに、夢はシャボン玉みたいに静かに消えていてもう見つけることは出来なくなっていた。 夢を無くしたなんて、魂を失くしたも同然なんていう奴もいるが、俺はそれでも必死に生きて生き抜いた。 知り合い、クラスメイト、そんなものは多くいたが親友や友達という名のピースは数を減らしていた。 必死に生きいた、必死に働いていた、役に立てないそんな俺でも働いていれば国を支える1つのピースになる、なれると信じて。 でも、ピースなんて沢山あった。叶いもしない大きな欲望を立てて、たくさんのピースを使って完成させようと必死だった。 “変わりなんていくらでもいる” 耳を引きちぎって、そのまま足だけを動かしてその場から逃げてしまいたかった。 どくどくと、血を垂らしながら引きずりながらでもいい逃げたかった。 そんな事を考えながらも、俺は棒立ちで泣くのをこらえるだけだった。 “俺はなんのために生きているのか?” たった一言が頭の中によぎった。

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聞いてくれ

あなたへ

冬らしい寒さもとうに消え、少し暖かい日差しがアタシを包み始めた。 私の大好きな親友は今日、ヨーロッパへ旅立つ。 空港の便の時間も考えて、今日の昼前にはこの小さな町を出ていくそうだ。 重たい足を上げて、ポストへ新聞を取りに行くと可愛らしい桜の絵が着いた手紙が一緒に落ちてきた。 「美雪へ」 先生も顔負けの真っ直ぐとした綺麗な字で書かれたその文字は直ぐに誰からかわかった。 私は静かに、封筒を開けた。 「大好きな美雪へ」 本当なら、顔を合わせて思い出を沢山話したか ったけれど、きっといざ顔を合わせると言葉が詰まるので、手紙を書きました。 美雪と出会ってもうすぐ1年が経ちますね、 小さな塾で去年貴方と出会いました。 クラスどころか、学校すら違うのに初めて塾で話した時は直ぐに打ち解けました。 でも、結局クラス分けで頭のいい私は上のクラスになり、おバカな美雪は下のクラスになりましたね。 それでも美雪は塾の前で一緒に帰ろうと待っててくれました。 今まで、友人がいなかった私にとって美雪は直ぐに大切な友人になりました。 春の温かさから、うんざりとする程の暑さかやってくるようになりました。 肌が弱いからという理由で、過保護な母は私を運転手付きの車で私を塾まで送るようになりました。 正直いって、日焼けくらい大丈夫だし恥ずかしいから直ぐに辞めて欲しいと言ったけれど、母は聞いてくれなかった。 この小さな港町を出てもきっと私は自由になれやしない、そう思う日が増えました。 過保護すぎる母が嫌だと愚痴を言った時、美雪は私を意見を否定せず聞いてくれたのを覚えています。 明るい未来へ行けない事、大声で泣きたい事、下を向くようになった私。 塾をサボって、私を連れ出してくれた時を今も思い出します。 私を自転車の後ろへ乗せて、暑い日差しの中を一直線に走る美雪の後ろ姿をずっと見ていました。 少しすると、蒼色の綺麗な海が見えて2人で水の掛け合いを夕方までしたのを覚えてますか? 美雪と私の歩く度に砂に落ちる足跡が何度も重なって、何度も波に消されて、消される度に私はずっとずっと残っていればいいのにと思っていました。 初めて2人できた、この蒼い海こそが私にとっての大切なものになりました。 その後、2人とも親に見つかってこっぴどく叱られました、母に厳しく怒られる私を庇ってくれてありがとう。 暑さも消え失せ、秋風にそっと押されて落葉がまう季節になりました。 受験が近づく中、私の家はピリピリしていて私は涙を落とす日々が続きました。 美雪に会える日々が減っていき、重い日々が続いていたけれど、塾に行けば必ず会えるから腫れた顔を冷やして私は会いに行った。 もちろん、受験する大学は別々だったけれど、だからこそ残り少ない日々を噛み締めて過ごしたいと思った。 きっと、永遠に会えないわけじゃないと思っていたから。 耳を刺すような強い風が吹き始めて、道を埋め尽くすような雪が舞い始めました。 受験前の最後の塾で、美雪と話したのを覚えています。 「お互いに頑張ろう、琴音!」 流石の美雪も曇った不安そうな顔を隠すように笑顔で話してくれたのを覚えています。 ━━━━━━━━━━━━━━━ ーガラガラー 家のドアが開く音で寝転がって手紙を読んでいたアタシは起き上がった。 もしかして、琴音がー 「あら?何あんた、まだ家にいるの?」 「いや母さんかよ、、」 「なによ、その口の利き方は。そんな事より琴音ちゃんに会いにいかなくていいの?」 「まだ、少し時間あるし、もう少ししたら行くよ。」 「そうねぇ、、でも早めに言ったあげた方が琴音ちゃん喜ぶよ、最後くらいあんたと過ごしたいだろうしね。ほら、その汚い鼻水拭いて早く言っといで!」 「き、汚くなんかないし!泣いてないし!!手紙全部読んだら行くし!」 アタシは再び寝転がると、手紙の続きを読み始めた、長かった手紙も残り1枚のようだ。 美雪、ここまで読んでくれてありがとう。 私は少し長い旅に出ようと思います、沢山悩みました、母には内緒で沢山考えました。 やっぱり、留学になんて行きたくありませんしどれだけ、母に逆らっても意味が無いこともこの手紙を書いてる時に知りました。 なんとか、この手紙を書けたことが幸せです。 飛行機の時間は昼前ですが、私はもう少し先に家を出ようと思います。 こんなことを言ったら優しい美雪はきっと来てしまうでしょう。 美雪、大好きでした。私が溶けて無くなってしまっても、私が私じゃなくなってもまた私と過ごしてくれますか? 返事は○‪✕‬に聞くね。 足跡がしっかり残るように歩きます、海の底に着くまで歩きます。 それでは、さようなら。 ━━━━━━━━━━━━━━━ 最後の1枚を読んだ私は涙を抑えながら家を飛び出した。 嫌な予感がしたからだ、、琴音の家へ自転車を止めると琴音のお母さんが青ざめているのを私は見た。 アタシはまた、自転車を漕いだ。

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あなたへ

静かに破れた。

きっかけは、友人が誘ってくれた小さなライブハウスでの彼の3回目のライブでした。 ライブハウス自体初めての私はとても困惑し、ここで楽しんでいる友人に正直引け目を感じました。 小さなライブハウスの割には人が多く、人混みが苦手な私にとってはとても苦痛で、ちびちびと飲み物を飲むのが精一杯でした。 「ねぇ!紅莉(あかり)ライブ始まるよ!!」 飲んでた飲み物が溢れそうになるくらい強く私の腕を友人は引っ張り、ステージの前へ連れ出しました。 暗闇から一気に眩しい光が出てくると共に、彼らは出てきました。 「どうも、anonymousです。」 ステージの前にいる1人の男がそう言葉を落としました。 どうして、友人はこんなバンドが好きなんだろう?家に帰って、好きなアイドルのライブビデオを見たい、そう思い始めてました。 彼が、静かに息を吸って演奏と共に歌を歌い出した時、、、 「私は恋に落ちたのです。」 素敵な歌声でした、翡翠のような色の声なのに、歌詞があまりにも強烈で良く彼の声とマッチしたものだと感心しましたよ。 さっきまで飲んでいたものが口から出てきそうなくらい、叫びたくなった。 それが私と裕治の出会いでした! それからは、もう覚えてないくらい彼のために時間やお金を費やし、彼が何十回目かのライブをして、有名になるまで私は彼のファンとして支えてきました! 「あの人の名前なんて言うの!?」 「ボーカルの人の事?紅莉気に入ったの?裕治って名前だよ。」 「裕治、、思ったよりも普通の名前なのね!」 「そう?そこがあのバンドの面白いところかもねー。」 「紅莉〜!今日もライブ行くー?」 「もちろん行く!」 「紅莉〜!CD買った?」 「うん!」 「紅莉?何買ってんの?」 「チューイングガムだよ!裕治はこのメーカーのが好きなんだって!!いつでも噛んでるらしいよ!!」 「紅莉、、借金してる?よね?」 「裕治のためだもん!大丈夫よ!」 「紅莉!!キャバクラでバイトしてるって本当?大学で噂になってんだけど!?」 「裕治のためだし、次のCD買いたいし、、。」 「紅莉!!ダメだよ!これ以上!!」 「うるさい!!黙れ!!私がどれだけ裕治に救われたと思ってる!!」 「痛いっ!!紅莉やめて!!叩かないで!!」 「咲、私はこれで幸せなんですっ!!私の幸せを邪魔しないで!」 いけない、寄り道しすぎましたね、、必要な情報だけ話すと言ったのに。 とにかく、気づけば1人ぼっちになっていました。 ファンは大勢いるのに、私は友達が作れず1人になってました。 それでも構わない、ほかの女が裕治の名前を呼ぶなんで許せない。 「裕治くぅん〜♡かっこよすぎぃ〜♡」 黙れ、クソ女、、そんな汚い服で近寄るな。 いつしか、彼が歌う曲は増えて初めて行った時のライブの歌は歌わなくなった。 少し寂しさを感じながらも、私は彼のライブに通った。 孤独でも、寂しくても幸せだった。 なのに、裕治が悪いんだ…。 「有名バンドのanonymousの佐藤裕治さんが、女優の齋藤美香さんと結婚を発表しました。」 「美香さんは佐藤さんのバンドのファンだったそうですね。」 「はぁい!大好きなバンドですぅ!」 ふつふつと私は何かが溢れるのを感じました。 テレビの音が聞こえなくなるくらい、 気づけば、私は今まで調べた彼の情報を1から見ていた。 住所は?電話番号は?好きな物は?事務所は? 今どこにいるんだろう? 確か今日は水曜日、 水曜日は歌の練習で行きつけのカラオケに行くはず、 いくら、大きなお知らせがあっても彼は練習は欠かさないはず。 いた、 私服かわァいい おぉーぃ 「見つけたわ。」 やっぱりここにいた! ねぇ、私だよ? そんな顔しないでよ、、、なんでそんな顔するの? まるで、怖いものでも見たみたいなさ、 私が嫌いなの? 私の方があの女よりもあなたのこと知ってるよ? ねぇ!こっちを見てよ!! 歌えよ!ほら! あなたが今噛んでるガム私も今噛んでるよ? おそろいだよね! まって、お店に入らないで!ねぇ! 彼は怯えながら静かに私にこういった。 「あんた、誰だ、?」 気づけば、私は手に持っていた包丁を静かに彼に刺した。 彼の噛んでいたガムも静かに破れた、、 弾ける音と共に、お店の外に出てきた店員の悲鳴が広まった…。 そこから先はいまいち覚えてないなぁ…。 彼の刺された時の顔くらいしか…。 不思議ですよねぇー!!あんなに好きだったのに、愛してたのに、昔から見てたのに。 彼は私の事全然知らなかったんだもん!! ねぇ?お巡りさんもそう思いません? 彼、最後は涙流してた…私は彼の特別な笑顔見たことないなぁ…。 え?取り調べこれで終わりですか? そうですか、。 お話聞いてくれてありがとうございました! 土産話ですね! あっ、でも最後に一言言わせて貰ってもいいですか? 「味のしなくなったガムは噛み続けるものじゃないですね、こんな苦い味二度と味わいたくないもん。」 彼女は一粒の涙を垂らすと共に、小さなガムを吐き出した。     END

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静かに破れた。

もう、やめて

最近よく夢を見る。 私が沢山の白百合に囲まれて笑っている夢。 学校のセーラー服をきて、夕方の空の下で白百合の花畑に紛れ踊り笑う。 そんな夢を見た。 窓から朝日の優しい日差しが私を照らすと共に、私は夢の世界から追い出される。 そして、いつも涙を1つ垂らす。 「また、あの夢か。」 そう一言こぼすと、私はいつも通り起きる。 いつも通り、手作りの朝ごはんを食べて、顔を洗ってニコリと笑う。笑顔は完璧。 そして、いつもの道を歩く。 「おはようございます。」 必ず言う言葉、なぜだかわからないけど大切な言葉な気がするからいつも言う。 いつも通り学校に行って、いつも通り帰ってきて、いつも通り過ごす。 寝る前にはいつも嫌な事を思い出す。 「ねぇ、ねぇ、、。」 小さな声だけでいい。 小さなその一声だけでいい。 「お前なんかっっ!!」 ガガガ…ジジジ 「やめてくれ!!」 ザワザワ… うるさい雑音入らない、、思い出すな消せ。 消えろ!消えろ! お前らの声なんていらない!! 汚い音色! 醜悪なんだよ! 気づけばまた、夢の中にいる。 いつも通り私は、踊り笑う。 夕日に照らされて私は笑う。 そして、1人の女の子が私と同じくらいの背丈の女の子が泣いている、、、? いつもと違う? 「ねぇ、ねぇ、、、ᝰꪑ☆○」 え?聞こない。 女の子は1つ真っ黒な百合を持つと、花弁を1つちぎろうとする。 なんだか、それが気持ち悪くて私は女の子を百合の花畑に押し倒すと黒百合を取りあげた。 「ねぇ、ねぇ、、、、」 女の子は涙を流し続ける、私は背中に不快感を覚えて女の子から静かに離れる。 まるで、冷たい刃物でも当てられたかのように背中がゾワゾワしていた。 「はぁっ、はぁ…なんでっ、?」 背中に慌てて手を当て、私は眠りから覚めた。 忘れよう、大丈夫、 !きっと上手くいく。 いつも通りやれば大丈夫。きっと大丈夫だから。 「心配しないで…。」 ニコリと笑うと私はいつも通り学校へ行った。 私はいつも通り家へ帰ると、コンビニで買った弁当を静かに頬張った。 冷たい米が私の食道を通るのを拒む。 しおれたような唐揚げも喉を拒む。 野菜も拒む。 私は静かに嘔吐した。 ビチャビチャ…不快な音が私の口からする。 涙目になりながら私は 「大丈夫だから…。」 静かにそう呟く。 水をこぎゅごきゅと飲むと、いつも通りお皿や包丁を洗う。 ゴシゴシ、、中々落ちない油汚れに苛立つ。 ゴシゴシ、、ゴシゴシ、、。 綺麗になった包丁を見て私はいつも通り笑う。 今日も寝る前に嫌な事を思い出す。 「ねぇ、ねぇ、、、」 その声だけに全身を集中して研ぎ澄ます。 「黙れ!!お前は何もしなくていいんだ!」 ガーー、、ジジジ。 「あの子は自殺だ!自殺したんだよ!!いい加減忘れろ!」 ピーーーー、ジジジ。 「このクラスにいじめなんてありません。」 ジジジ… 「私達もぉ、彼女が死んでとても悲しいですっグスッ。」 ガーー、、 今日は雑音が多すぎる。 「やめて、!私たちは悪くないわよ!」 「いや!」 うるさい悲鳴が私の頭をよぎる。 うるさい雑音。 この雑音も明日で終わるかな?明日、あと一人。 いつもの夢にまた私は行く。 また、女の子がいる。 女の子は相変わらず泣いている。 彼女の涙で、白百合は黒く染っていく。 「どうして泣くの?どうして黒く染めるの?」 気づけば、聞いていた。 「あなたが、、あなたが、、やめないから。」 ?意味が分からず私は 「何を辞めればいいの?」 彼女は一本の黒百合を手に取り、花弁をちぎり始める。 私はまた、それが不快で彼女の手から奪い取ろうとした。 でも、出来なかった。 私の背中に刃物が突き刺さっていたから。 彼女は静かに泣くのを辞めると言った。 「もう、やめて。」 彼女は涙を拭うと、私の中から刃物を抜き取り私を静かに抱きしめた。 彼女は私を抱きしめながら 「ありがとう、なんて言えないけれど私はあなたと日常を歩めて楽しかった。楽しい生前だった。」 私は涙と血が止まらなくて、、私の体は酷く汚くなっていった。 「私は…私は…もう、あなたが居ない日常に居たくない、いつも通りじゃないから。」 私はそう彼女に言う。 「分かってる、それでもあなたに道を歩いて欲しい。たとえ、途中が汚れていたって構わないあなたならきっとそんな道を軽く超えていけるから。」 私は震えと涙が止まらなかった。 「出来るかなぁ…わたしに、」 「出来るよあなたなら、だから頑張って生きてよ。自殺したやつなんかに言われてもって思うかもしれないけどさ。」 私は静かにつぶやく、 「もう、手を汚す必要はないのかなぁ…」 「ないよ、私は殺してなんて望んでないよ、あんな地獄みたいな日々でも貴方と歩めば花畑に変わった。」 彼女、親友だった美月は私を強く強く抱きしめてくれた。 2人殺した私の体と手は昔みたいに綺麗じゃなかった。 きっと、親友や白百合を汚してしまうくらいの醜悪さに包まれてる。 彼女は静かに取り上げられた黒百合を取り返すと、最後の花弁をちぎった。 「ありがとう、百合。貴方と出会えてよかった!」 夕日がゆっくりと沈み小さな月が出てきた。 「こちらこそ沢山ありがとうっ!」 作り笑顔じゃない大きな笑顔で笑うと、 ユリの花畑が、咲き散らされ花弁に包まれながら私は沢山の涙を垂らした。 いつもよりも暖かい朝日に包まれて私は目を覚ます。 「おはよう、美月。」 窓を開けて、 静かに空に向かって呟いた。 長い夜が明けたみたいに静かな空だった。 血みどろの汚い部屋で私はつぶやく。 「警察行かなきゃ。」

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もう、やめて

最初で最後の7日間

額に入った写真を見て呟く、 「由美、私もう呑み飲んでないよ。もう、決心ついたからさ。」 いつも開けてる窓から小さな風が吹いた。 雨が酷い日だった、傘を指していても雨が身体に染み込むくらいの酷い日だった。 路地裏に、一人の男が捨てられていた。 全身びしょ濡れで、動かずにずっと雨に当たっている。 人肌が恋しかったんだろう、自分でも驚く一声だった。 「あなた大丈夫?良かったらうち来ない?」 男は、驚いた顔をして深く被ったパーカーの帽子からこちらを見た。 光がない、人の心にしまい込まれて居そうな目だった。 その日から、私と男の最初で最後7日間が始まった。 自分でも驚く事をしたな、こんな男を拾うなんて馬鹿みたいだそう思った。 一息着いて、男にコーヒーを出した。 男はここに来てからずっと無言だった。 やっと、口を開いたと思えば名前を一言話しただけだった。 気まづい、今すぐに元の場所にしてようかそれとも... 「あなたの名前を教えてくれませんか?」 男の二言目だった。 最初の1日は気まづかった、1晩泊めるだけのつもりだった。 2日目からだった、男と自分の趣味が合うことに気づいた、気づいてしまった。 人と人が交わるなんて簡単なんだと思った。 きっかけなんてなんでもいいんだと。 溜め込んでた物を吐き出すように私は沢山、男と話した。 男も私も楽しかった。 「仕事は?仕事は何してるの?」 男にそう聞かれた、 「有休使ってるの、しばらく心の整理したくて、会社も気を使ってくれてるの。だからー」 男は 「そうか、聞いて悪かったな。」 なんて言葉を散らした。 3日目4日目と好きなバンドの話で盛り上がったり、男の事を聞いて泣いたりとしていた。 男は、今は仕事をして居ないらしい、孤児院で育ったそうだ、そこは余りにも寂しく誰も男を愛してはくれないと男は泣いていた。 同情だろうか、今の自分に重ねたのだろうか、自分が泣くなんて思わなかった。 男は静かな私を抱きしめてくれた、久しぶりの人肌にただ泣くばかりだった。 私も気づけば、言葉を漏らしていた。 「大切な親友が先月亡くなったの、事故...で。」 写真は男が部屋に来た日から下へ倒していた。 男は静かに私を抱きしめてくれた。 私は静かに唾を呑み込んだ。 「......つき。」 心の中で呟いた。 5日目になると、彼はと一緒に料理をした。 料理をするのは初めてだと、彼と一緒にカレーライスを作った。 彼の大きな手で包丁を持つ姿は迫力があった。 彼は覚えが良かった、少し背丈が小さい彼の背中が大きく見えた。 6日目になった、 彼は買い物には行かないと言うので、私一人で買い物に行ったところ警察の人が何人か街を歩いていた。 私は 「あのー」 と、言葉をかけようとした自分の口を必死に抑えて呑み込んだ。 家に帰ろう、彼の...男の待つ家へ。 「おかえり。」 静かに唇を噛みながらそう言う男に 「ただいま。」 そう一言返した。 夜になり、昨日のカレーを温めて食べて、いつも開けている窓から吹く夜風に2人で吹かれていた。 男は少し寂しげな、今にも泣きそうな顔をしていた。 男の顔は整ってる方だと思う、若くツヤのある肌、整ってはいないけれど綺麗な黒髪。 自分とは7歳差くらいだろうか? 彼はこちらを見て、少しニヤケて... 「愛してる」 口パクでそう言った、、嬉しかった...嬉しくてたまらなかった。 涙が止まらなくて、私は一言返せなかった。 彼は静かにまた、私を抱きしめた。 私も抱きしめた。 彼は静かに、 「もう、思い残すことは無い。」 そう静かに言葉を放った。 聞こえない、聞こえない振りをしながら涙を流した。 彼が寝た後、私は親友の写真を元に戻して。 「あなたの言う通り、言いたいことを呑み込んでばかりの私はいつも自分を出せずにいたわ、彼とっ、男と出会って言いたいことは言えるようになったの、でもやっぱりー」 亡くなった親友の写真立てに話しかけるなんて、馬鹿だって分かってる。それでも言葉は止まらない。 「きっと、貴方なら私のやりたいようにやれって言う...だからやるの。」 こちらを見るようににっこりと笑う親友の笑顔の写真。 「本当に?」 生前の親友がよく言っていた言葉が聞こえた。 静かに聞こえないようにした。 7日目、彼は珍しく私よりも早く起きていた。 写真立ては昨日の夜中のまま。 わざとだ。 日記帳もわざと、先月のページを開いたまま置いた。 私は静かに、彼に包丁を向けた。 彼は「分かってる」そんな顔で私を見てた。 「私の親友の名前は、川江由美。貴方が先月刺し殺した人間の名前よ。」 「ごめんな、真理。」 男は私の名前を呼びながら嘆いた。 先月の事だった、大好きな親友の由美が道の真ん中で刺殺されたことを。犯人は金品を盗み逃走したと、警察から聞かされたあの時の気持ちを今も忘れない。 最初は親友が亡くなった道の近くを歩いていただけだった、なのにお前を見つけてしまった。 嘆く男の姿は男と言うよりも小さな子供に見えた。 男がっ...彼が可愛いと愛でてくれた手で私は包丁を握る、力強く。 「カレー美味しかった、初めて人として話せた時間だった。ありがとう。」 彼は泣きながら、ゆっくりと寂しげな顔で笑うと。 私を静かに抱きしめた。 掠れそうな声で 「愛してる。」 包丁を手に持ったままの私を抱きしめた彼は血の色に染まっていく。 涙が止まらなかった、紅く冷たいハグに涙が止まらなかった。 静かに、冷たくなる彼を見て。 「私も愛してる、ずっとだよ裕二。」 そう言葉を放つと、 私は彼に静かなキスをした。 彼と私が大好きな バンドの歌に包まれて、私は彼の胸に刺さった包丁を自分にも静かに刺した。 ごめんね由美、あなたの事だからきっと私がした決断なら許してくれるのを私は知ってる。 あなたは優しい人だったから、私は貴方がいないと生きて行けなかった。。1人は寂しかった、復讐したかった、憎かった。無理だった、辛かった、もう楽に彼と2人になりたかっー 血塗られた日記帳にはそう書かれていたそうだ。 いつも空いてる窓からは血なまぐさい匂いと共に、バンドの歌が外に響いていた。 I love you〜 皮肉な歌の歌詞が外まで響いていた。

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最初で最後の7日間