白川津中々

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白川津中々

転職転職!残業なし転勤なし週休完全二日制長期休暇あり昇給賞与あり基本給25万職務内容YouTube観てるだけの職場に転職転職転職したい無理だから死ぬね。

いやいや絶対ダメ社会的に完全にアウトこれはもう毎日そんな動画アップロードしているやついないか確認していくしかないね

 休日なんとなしにショート動画を眺めているとよく知る店の客席が撮影されていた。  卓に座る女。何をするのかと再生していると、豊満なバストを曝け出し舌をペロリ。即保存、フォロー。  ……  いやいや何してんねんアホか。公共の場やぞ。OPAIを弁えろ間違えたTPOを弁えろというのだ。許されんぞこんな事。こうなったら似たような不届者がいないかチェックせざるを得まい。類似動画をチェック……うーわ酷い。もうこれは秩序の崩壊ですわ。こんなお前こんな……  ……  よーしこれから毎日パトロールだ。ふざけんなよ恥知らずども。こんな狼藉は法によって裁かれねばならない。絶対通報して裁判所に引きずり出してやる。そのためにも調査調査……  後日、この手の動画はメディアで取り上げられ各サービスで大々的に対策が取られるようになった。俺がフォローしていたアカウントは全て凍結。中には社会的制裁を受けた者もいた。  全てにおいて正しい判断がされたし、動画を上げた連中は裁かれて当然だと思った。しかし、「このアカウントは削除されました」の文字を見ると、不思議と悲しみが込み上げてくる。  あぁ、名も知らぬ君達よ。  あなたは今、どこにいますか。  僕はずっと想っています。  もう一度だけ、色々見たかったと。 

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手垢のついた戦争の犠牲者についての話

 除隊してからジョスト大尉と会うのは初めてだった。  先の戦争において終戦まで戦えなかったという不名誉はあるものの、平和になって改めて上官と出会えるのは喜ばしい事だったし、今の仕事の話もしたいと思い上等な酒を土産にやってきたわけだが、扉を叩いて現れたのやつれた老婆だった。 「軍曹さん、すみません」  老婆は大尉の母親で、手紙を出したのは自分だと暗い顔で告白をした。 「戦争から帰ってきて、息子は……」  途端、崩れそうになった老婆を支える。何があったのか聞くも答えはない。覚束ない足で「こちらへ」と促されるままに家へと入って進むと一室の前。老婆は無言で「ドア開けろ」と視線を向けた。おかしな様子に少しばかり腹を立てながらも、俺はノブを捻った。力無く、ぎいと音をたてる扉。その奥には椅子があり、ボロボロの人形のようなものが座っている。俺はそれがなんだろうかと確認しようとしたがすぐにやめて目を背けた。見なくとも、もうそれがなんだか分かってしまっていたからだ。 「戦争で、薬を注射したみたいで……もう、ずっとこうで……声をかけても返事がなくて……戦中、息子の手紙に軍曹さんの名前がよく書いてあったから、もしかしたらって……」  嗚咽しながら老婆が口にする言葉を聞きながら、俺は床と自分の靴を見ていた。正直な話、なぜ呼んだという気持ちしか湧かなかった。映画じゃないんだ。奇跡など起こるはずはないし、皆が皆善人じゃない。俺は、後ろで泣き続ける老婆に、明確な苛立ちを覚えていた。 「帰ります」  何か喚く老婆を振り切り家を出た。持ってきた酒を飲みながら帰る道中、幾度となく言葉を交わした大尉の声が思い出され、同時に、椅子に座っていたものの姿が浮かんだ。骨と皮になり、乾き切ったゾンビのような顔つきとなった上官。戦場にいたら、俺も今頃…… 「どうしろというんだ、俺に……!」  酒を飲む。  足取り重く、苦しく、辛く。  どうしようもないんだ、どうしようも…… 

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情報キャンセル界隈

   情報キャンセル界隈、爆誕。  風呂キャンセルや咀嚼キャンセルなど、何かと巷を賑わす◯◯キャンセル界隈において現在最もホットでトレンドなのが情報キャンセル界隈。通称、情キャン界隈である。  SNSやネット。ニュースに新聞ゴシップ紙。他人の不幸や不祥事をあげつらえて面白おかしく批判するコンテンツに嫌悪感と疲労感を覚える人間多数が声をあげた結果認知されるようになったこの界隈はあらゆる醜聞や風評などのネガティブ情報を封殺。代わりに動植物の動画などを観ているのだった。  この情キャン界隈について、最初メディアは面白おかしく報じていたのだが規模が拡大していくにつれ一切報じなくなくなる。売上に対して影響力が無視できなくなり、認識の風化、遮断に打って出たのだ。  だが伝播は止まらなかった。猫動画の中に活動内容を表示す普及活動やSNSへの定期投稿により多数の共感を獲得して支持を集める事に成功する。  こうして支持者多数となった情キャン界隈は自分達の村を作ろうという計画を立てた。外部情報から隔絶され、動物と植物と共に生きていく自給自足の理想郷を形にしようとしたのである。  彼らの中に新しき村や人民寺院の存在を知る者がどれだけいるかは知らないが、もはや趣旨と方向性が変わってきているのは明確だったし、迎える結末もおおよそ予想ができた。  その予想し得る最後を迎えた時、メディアは再び情キャン界隈について面白おかしくあげつらえるのだろう。そしてまた情報キャンセル界隈が生まれるのだ。不毛のように思えるがしかし、人の目も耳も口も、健全であれば閉じる事はできないのである。  情報は常に、止まらない。  人がいる限り、人である限り。

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笛の音はもう響かない

 買い物の帰り、いつも笛の音が聴こえてくる場所があった。  音はアパートの一室から流れており、毎日違う曲を奏でていた。ジジババの趣味かなぁというぐらいな気持ちでいつも通り過ぎ、部屋で昼食を取るのが常だったが、ある日を境に、急に笛の音が聴こえなくなる。  どうしたのだろうと思い買い物帰りを歩いていると、アパートの前に中年の女が立っていて竹ぼうきで掃除をしていた。普段なら気にせず、挨拶もせず通り過ぎるところなのだが、その日俺は、いつもとは違う行動を取った。 「こんにちは」 「あ、こんにちは」 「すみません、ちょっとお尋ねしたいんですが……」 「はぁ……」  見ず知らずの男からいきなり「尋ねたい事がある」と言われたら警戒もするだろう。女は少し強張り、まじまじと俺を見たが、気にしないようにした。 「すみません。この辺りって、いつも笛の音が聴こえますよね」 「え? あ、はい。あぁすみません、迷惑でしたか?」 「あ、いや、迷惑って事はないんですが、急に聴こえなくなったものなので……」 「……」 「?」  女は一瞬黙った後に自分がアパートの大家だと明かし、あの笛を吹いていたのは精神疾患を持った人間だったという事を教えてくれた。 「先日ねぇ。家族の方とトラブルになっちゃって、それで、入院ですって。お部屋には戻らないらしいですよ」 「……そうですか」 「そうなんですよ。それでぇ……」  大家はその後も色々話してくれたが、興味がなかったので全て忘れてしまった。ただ、あの笛の音がもう聴こえない事実だけが、強烈に胸を締め付け、離さないのだった。感じなくてもいい罪悪感が生じ、後味の悪さだけが胸に残った。俺には関係ないはずなのに、顔も名前も知らない奏者に対する不思議な申し訳なさと、世間様への負い目に駆られ、いたたまれなくなった。  俺は今でもあの道を通っている。  笛の音は、二度と響く事はない。

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 仕事が終わり、この世の全てを呪いながら満員電車で帰宅していると、弟からメッセージが届いた。  娘が生まれました。  短くそう書かれた文章を眺め返信内容を考えるも、気の利いた言い回しも思いつかず、弟と同じように短く「おめでとう」と一言にまとめて送る。その後すぐに「ありがとう」と返ってきて、そこで終わった。  おめでとう。  実際の所、少しもめでたい気持ちなどなかった。子供が生まれて何が嬉しいのか。金も手間もかかるし、生まれてきた子供だって四苦八苦に悩まなければならない。生は苦しみ世は地獄。命などあっても百害あって一利なしではないか。それに、あの弟が子供を作る事に俺は強烈な嫌悪感を抱いていた。一丁前に親を気取る様が、気に食わなかった。 昔、弟は酷く荒れていた。 「死ね」 「殺す」 「ふざけるな」 少ないレパートリーの中から必死に汚い言葉を選び、あらん限りの力を使って親へ反抗の意を示していた。親の金で学校に行っている分際で、馬鹿な奴だなと思っていた。 「お前一人じゃ生きていけないんだから、今悪態突いたって恰好が悪いぞ、せめて働くまで黙っていろよ」  そんな風に諭そうとした事があったが、「親が好きで生んだんだからそんな風に慮る必要もないよ」と聞く耳を持たなかったし、俺も「確かにそうだな」と納得してしまった。そう、命は選べないのだ。勝手に放り出されて、生きる事を強要される。なんと悍ましく、残酷な話だろう。こんなにも辛い世の中で不幸を背負わされる。まったく子供が可哀想ではないか。  しかし、弟は子供を作った。「親が好きで生んだんだから」と、両親に欠片も親愛の情を見せなかった弟が、子供を作ったのだ。  お前も同じ事を言われるぞ。  短いやり取りが残されたモニタ。送りかけてやめた一言。代わりに、ギフト券を買って贈っておいた。それは慣習以外の何物でもなく、特別な感情も気持ちもなかった。 「生んでくれなんて頼んでない」  弟は、いつかそんな言葉を吐かれるだろう。  弟の子供が、自身の生を呪う時が必ずくるだろう。  艱難辛苦が約束され、偽りの祝詞が届けられる、命。  その命に子供ができて、同じように、不幸の数を増やしていく。   ……  なんとなしに弟とのやり取りを眺めていると、生まれてきた子供の画像が送られてきた。  可愛くもなく、愛着も湧かなかった。  命などない方がいい。  生きているだけで苦しまなければならない。  そう送りかけて、やはりやめた。  満員電車の中、俺はずっと、弟の子供の画像を見ていた。

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秘密のマシマシ

「脂質や塩分の多いものは食べていませんか?」 「勿論ですよ先生。誓ってそんなもの食べていません」  嘘である。  男は昨日、マシマシインスパイア系“フライトン”の大豚をニンニクカラメヤサイチョモランマで完飲している。  彼の腎臓は現状、透析も視野に入る程のダメージを負っており、ラーメン、それもマシマシ系など控えるべきというか、生涯に渡って断絶すべき食べ物である。当然ドクターストップ。医者の前で、「昨日ラーメン食べましたぁ」などと口が裂けても言えはしない。故に、男はそれを隠すのだ。 「それならよかったです。数値も下がっているので、このまま健康な体を目指していきましょう」  嘘である。  医者は男のeGFRの数値が限界間近である事を知っている。そして、医者はこの男の状態を悪化させるつもりで薬剤師を介さずに腎機能を阻害する薬を渡している。  そんな事ができるのか。できる。医者は市販薬と一緒に該当の薬を渡し、「食後に飲んでくださいね」と指示している。彼は、「処方箋出すより安く済みますから」という明らかに問題のある言葉で男を言いくるめていたのだ。  普通なら怪しむところだが男は命よりマシマシを選ぶようなド級の異常者であるから、「安くなってラッキー」程度にしか思っていない。今日も不適切な薬を渡された彼は、自身の状態がよくなっていると錯覚しながら、妻の待つマンションへと帰るのだった。 「ただいま」 「おかえり」  男の帰りに、妻が出迎える。二人はリビングへと行き、男は着替えをしながら口を開いた。 「医者から改善してるって言われたよ」 「あらそう。よかった。大事な体なんですもの。早くよくなってね」  嘘である。  妻は男に対して明確な殺意を持っている。男にかかっている保険金は2000万。死亡後は旅行でも行こうかという腹積もり。元々結婚などする気はなかったが両親がうるさく言うため、適当に金が稼げて子供もいらないという男をチョイスして入籍。頃合いを見て離婚を決め慰謝料でもぶんどってやろうという算段だったが、死にかけとあらばこれを利用しない手はないと判断。元交際相手だった医者(飽きたからといって一方的に別れを切り出した)と結託し、男を始末する計画を立てる。 「先、ご飯食べるわ。今日の夕食なに?」 「レバーのワイン煮」 「お、いいね。美味しそうだ」 「赤も用意してるんだけど……」 「だったら、やっぱり先に風呂だな」 「うん、その方がいいと思う」  男が脱衣所へ入るのを見て、妻は電話を掛けた。 「……もしもし、どうだった? 今日の数値」 「まぁまずいね。このままいけば半年後には死ぬだろう」 「何度も言うけど、中途半端な状態で生きてもらっちゃ困るからね。ちゃんと殺してね」 「分かってるさ。ところで、事が済めば……」 「勿論、あなたと結婚する」  嘘である。  女は医者と結婚などする気はない。用が済めば、適当な理由を付けて拒絶するか、しばらく付き合って別れるつもりだった。 「そうか。頼むよ。君との結婚生活、楽しみにしているんだ」  嘘である。  医者は男を半死半生にして、男の妻に要介護者を背負わせようとしている。これは彼にとっての復讐である。自身を捨てた女への、細やかな仕返しだった。   「明日も……食べちゃうかぁ……インスパイア」  呑気に風呂に入り無謀な食計画を立てる男は自身が巻き込まれている泥沼の策謀を知らない。湯船に浮かぶ皮脂の膜はラーメンスープを彷彿とさせる。彼がラーメンを止めて健康的な食生活を始めれば、あるいは誰も不幸にならないかもしれないが、彼は秘密を貫くだろう。  ニンニクカラメヤサイチョモランマ。  いつものコール。秘密のラーメン。止まる事のないマシマシThe・Order  男にとって、死ぬよりマシか、死んだ方がマシか。どう考えるのか。答えの出る時は近い……

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清算、凄惨、生産性

 300万円。  12年かけて返済した額である。  俺は今日、ようやくこの身に背負った借金の全額を返済した(延滞料金がまだあるが)。母子寡婦貸付金という制度を利用して大学へ進学したわけだが、金を借りてまで行く価値はなかっただろう。Fランだったし。今にして思えば愚かな選択をした。なにもかも部活の担任のせいだ。俺は働きたかったというのに。  ……過ぎた事をあれこれ考えるのはよそう。ともあれ借金を返済したのだ。貯金は減ったが過去の清算ができたように思う。よかった。実に。  ……よかったんだけども、なんだかちっとも嬉しくない。  カードローンで借りた上京資金を返済した時は凄く気持ちよかったのにどうしてだろう。今は全く感動がない。最近なんかおかしいんだよね。なんか喜びがないんだよ。美味しいご飯食べても「あ、食べてるな」って感想しか出てこない。どこかに行きたい欲もないし何か欲しいというものもない。昔は話を書いていると面白いなって感じてたけど、今はそれもない。酒も昔ほど飲みたいと思わなくなった。なんか凄く疲れる。ただただ寝たい。ずっと寝ていたい。何もかも捨てて一人になりたい。そんな気分。あれ? これ鬱の初期症状? いやぁまずいっすねぇ。  でも才能とか成功者とかみると胸がドキドキするんだよね。嫉妬と自己嫌悪で。負の感情しか残っていないのかな俺には。頭も回らねーし、エックスで芸能人叩いたり日本政府に文句を言うのを生きがいにする人間にでもなるか。あぁ、何もかもが面白くない。  みんなどうやって生きてるの?  死にたくならない?   腹も満たせるし、雨風を凌げる場所に住んでいるし、温かい布団で眠れるし、毎日シャワーも浴びれるし、凄く豊かな生活をしているのに、どうしてか心が死んでいく。足掻けないが事ただ苦しい。なにもできない気力が、何も求められない思考が辛い。俺はなにがしたいんだ。つまらない。つまらないなぁ、なにもかも。  今日は寝よう。明日は仕事だ。嫌だなぁ……

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転倒、直立

「きゃあ」という悲鳴が、一つ、二つ。 電車内、男が横たわり口と鼻から血を吹き出している。転倒し、怪我をしたのだ。 「大丈夫ですか」 そう言ってティッシュを差し出す女性。男は呻きながらティッシュを受け取り頭を下げる。他、散乱した荷物を拾ったり、寄り添う人間が多数。老若男女が無関係に救助に参加して慌ただしくしていた。 その中で俺は何もせず立っていた。彼らから目を背け、「俺に何ができる」という様子で静観するばかり。男が倒れる前、もしかしたら身体を支える事ができたかも知れない距離にいたのに、俺は動かなかった。 駅に着くと緊急停止を報せるベルが鳴った。誰かが「おーい」と叫び、駅員を呼ぶ。男は運ばれ、車内はがらんとなった。 男がいた場所には血がついていた。 一人の女が、ハンカチでそれを拭いた。 俺は、それを見ているだけで、何もできなかった。 「三番線、発車いたします」 アナウンスが流れ、再び電車は動き出す。「救護活動ありがとうございました」とアナウンスが流れる。 何もできなかった俺は、同じ場所に立ちづけている。 電車は、進む。 何もできない俺を乗せて。

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「あいつは妹みたいなもんだから」

「あいつは妹みたいなもんだから」  若い人間が恋愛話に花を咲かしている際よく聞く台詞。常套句である。「お前〇〇といい雰囲気だよなー」といった言葉に対してとそれなりの確率で返ってくる一言であり、暗に「あいつとは性愛には発展しないよ」という意思表示のために用いられるわけだが、虚偽である。  だいたいの男はだいたいの女と性交に至る事が可能だ。男というのはそういうものであり、なんなら実妹であっても平気で手を出す。俺がよく見る成人向け動画配信サービスで多数アップロードされているから間違いない。そうとも。そうでなければ『シスタープリンセス』なんて作品が生まれるものか。古来、妹萌えという文化が栄えた事もあった。故に「あいつは妹みたいなもんだから」という否定はカウンターになり得ない。「妹みたいなもんだから全然いける」と解釈した方が適切である。堀江由衣万歳。  しかしそれではなぜ未だに「あいつは妹みたいなもんだから」が使われているのか。それは、「あいつは妹みたいなもんだから」と言う男のほとんどに妹がいないからだ。  上記の通り、男は妹だろうが母親だろうが関係なく欲情する。実際に妹がいた場合その経験があるから、「あいつは妹みたいなもんだから」が潔白の証明にならない事を知っているのだ。  逆に、妹がいない男は近親相姦=タブーの図式を知識のみで把握しているから、安易に「あいつは妹みたいなもんだから」発言をしてしまう。自身の想像力のなさとリビドーへの無知無理解を提示してしまっていると気付かず、勇ましい顔つきで「あいつは妹みたいなもんだか」と述べる姿を想像すると失笑を禁じ得ない。実に愚か。浅はか。浅慮軽薄。愚の骨頂である。恥じて死ぬべき。この記事を読んでいる諸兄らの中にはそんな愚か者はいないだろが、万が一、もし使っている者がいたら金輪際封印しなさい。下手な言い訳などせず、「あいつとは一発ヤりたいと思っているよ」と正直に述べた方がまだ清々しく気持ちがいいものである。ちなみに俺はそれを言って会社を懲戒処分となった。あの女、絶対に許さない。なにが「〇〇君って弟みたいで可愛いね」だ。すっかり信じ込んでこの様だよ馬鹿野郎!  というわけで、俺はこれから奇子を読むよ。それでは、失敬……    

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スミマセンスミマセン

「スミマセン……パンを……パンをください……」 痩せた男が一人、コンビニに入りカウンターへ皺だらけの紙幣を置いた。肖像はノグチ。数十年前のデザイン。過去に発行された紙幣ではあるものの金は金であり、国内であればサービスの対価として問題なく支払いできるはずであったが、店員である白肌青眼と黒肌黒目のガイコクジンは受け取ろうとはしなかった。 『おいおいこの猿は何を言ってるんだ。お前分かるか?』 『俺のガバケツにデカいのをくれって誘ってるのさ』 異国言語の下品なジョーク。完全な侮辱であるが、男には伝わらない。島国生まれ島国育ち。田舎のナショナリズムに染まった彼はガイコクゴを習得せずに成長しきってしまったからだ。 『猿。さっさと帰りな。ここは俺たち国の店だ』 『せめてEnglishを使えるようになるんだな』 「あ、スミマセンスミマセン。痛い、やめて」 ガイコクジンに追い立てられ男はコンビニから強制退店。ポンプ溢れる店外設置のゴミ箱横に捨てられる。起き上がる事もできない男。その前に一人、黄色のガイコクジンが現れた。 「ア、オマエマタヤラレタノカ」 「あ、Aさん……」 「シカタナイ、マタワケテヤル。コレタベロ」 「あ、ありがとうございます!」 男は差し出された腐りかけのパンを、涙を流しながら貪った。品位もなにもない、動物のように食い散らかす無様さは、文明人とは思えない惨めな姿である。 「オマエ、イイカゲンコトバオボエロ。シヌゾ。ワタシ、サンカコクゴハナセル。オマエナゼデキナイ」 「俺は高卒だから……」 「コトバガクレキカンケイナイ。Communication.OK?」 「そう言いつつ、Aさんこの国の税金で大学出てるじゃん……」 『なんだと貴様、私達の正当な権利を否定するのか。恥晒しの分際で』 「あ、スミマセンスミマセン。ガイコクゴで喋らないで。コワイ」 『うるさい。このマケグミが。この国は変わったんだ。いい加減に適応しろ』 「スミマセンスミマセン。分かりました分かりました」 平身低頭。謝るばかりの男を前に、黄色のガイコクジンは溜息を漏らした。 「オマエ、スミマセンバカリ。スミマセンスミマセン。スミマセンジャスマナイヨ。オマエノジンセイダヨ。チャントコトバオボエロ」 「はい。はい。スミマセン。頑張ります」 「ソウイッテガンバッタコトオマエナイ。マケイヌ、ゴミクズ、ジゴク」 「はい、仰るとおりです。誠に申し訳ない……」 続く説教。男はガイコクジンにカタコトの言葉で罵られ涙する。これがこの国の、国民の姿である。 レーワX年。 この国はガイコクジンに支配されていた。 ガイコクゴを話せない民族は淘汰され、男のように犬以下の生活を強いられる。単一民族として隆盛を極めていた時代は終わり、支配従属の時代となったこの国はいずれ、日、没するだろう。黄金はもはやクソの色。ナンバーワンは地に落ち、最後に残ったのはスミマセンばかりであった。

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