Peach tea

3 件の小説

Peach tea

Peach teaです😊🍑 趣味は小説を書いたり、詩を書いたり… 好きなジャンルは学園ものの恋愛! いろんな作品にも触れてみたいので、 よければフォローして繋がってください。 コメントやいいねもよければお願いします^_^ これからよろしくね🍑🍀

花言葉とカモミール  2章 [フレーバーティーとストレートティー]

 [私も何もわかってなかった。] [俺はずっと勘違いしてたみたいなんだ。姉ちゃんが自転車の二人乗りを許して くれなかった理由。ただ危険だからっていうことだけじゃなかったんだって。 カフェをやっていれば常連客だって いつかは増えていくし、人気になれば 多くの人に知られる。この周りに住む 人たちは噂を広めやすいって知ってる?] [知らなかった…。だから、昨日の ことも?] [追いかけファンみたいなやつか ネタ切れして集めてたやつかは わからないけど、たぶんそういう やつだと思う。でも、もう気にしなくていいから。俺のこともカフェのことも。] [来週の企画はどうするの?] [来週は急に店の方が予約が増えたから 中止にしてもらう。俺から部長に 話すからあとはいいよ。] これはきっと彼の気遣い。止めたくてももう止められない。今日だけは彼の 優しさにあまえて気持ちを 切り替えよう。ありがとう…。  [今日はもう閉店したよ。] そう言いながら志桜里さんが入って くる。手にはおしゃれなカップに入ったストロベリーティーソフト。冷たい ストロベリーティーにバニラアイスの 山を乗せ、ミントの葉とイチゴが 飾られている。  [本当はこの飾りイチゴとミントは 乗せないんだけど、 売り切れなかったからアレンジして みたの。] [可愛い!] [姉ちゃんのアレンジスイーツ久しぶり じゃね?] [そうかも…。] 家族のみんなでカフェをやっているのが少しうらやましいと思った。同じものを共有できる特別な時間が長く続く生活。憧れていたわけじゃないけど、この 二人を見ていると考えてしまう。幸せな時間を同じように共有できた時の 気持ちってどんなものだろう…。  [咲は幼い頃からフレーバーティーの イメージなんだよね。] [いろいろ不安定だって言いたいわけ?] [違うよ。いろいろな体験をしながら、 たくさんの味つまり、気持ちや考え方を学んでるよねってことよ。] [でも、強さだけには 出会えなかったんだ。] [強さ?] 木下咲はどう見ても強さを隠し持って 生きているようにしか見えない。私には見えないのか…。  [あの企画のこと。最初話を聞いた 時からもう断りたかったんだ。でも、 その返す言葉一つでこの先がどう 変わるのか怖かった。断ったときの 相手の反応や店のこと、自分の 気持ち…。どれも傷つけたく なかったんだ。] 木下咲は優しすぎる。どれも無駄じゃ ないって思えるのがうらやましい。私は必要な関係と必要なものだけを揃えて ここまできた。出会う人の数だって きっと彼の方がたくさんだ。逃げずに いろんなことと向き合っていたから。 でも、今回の企画のことは複数のことが関係している。どれだけうまくやれて いたとしてもこれはきつい。特に 何もかもを大切にする彼には…。  [姉ちゃんはいつも ストレートティーだね。どうすれば、 隠さずにいろんなことと向き合えるの?] [私も中学生まではずっと、咲と同じで フレーバーティーだったんだよ。 みんなの意見に合わせてばかりで、 やりたくないことも周りを気にして 引き受けてた。でも、ある行事の準備の時期ね、ほんとに嫌になった。 自分らしくないことをずっと やってるだけだって辛い気持ちに 襲われたの。周りはいつもどおりの 様子なのに、自分だけ浮いているような気がして本当の私がわからなくなった。でもね、それがいいヒントをくれた。] 彼女はそこで話を停め、木下咲をじっと見た。彼は口を開けたまま彼女を見て いるだけだった。彼女はため息を ついて、こんど私を見る。何かに 気づけってことだろうか。カフェの ことも彼女のこともまだあまり 知らない。木下咲のことだってまだよくわからない。それなのに 考えさせるなんて…。私にも何かを 感じたのだろうか。それとも、ただこの場に一緒にいるから…。  [姉ちゃんはいつもすぐに答えを 言わせようとはしないから大丈夫だよ。正直俺もこのことは知らなかったし わからないから。でも、少し 重なってるのだけはわかる。] [ストレートティーになるって 難しいんだね、きっと…。] [なるのは簡単よ。でも、0か100かの 選択と同じくらい怖いって思った。] フレーバーティーの意味はわかったが、ストレートティーが指しているものが 全くわからない。きっと香りが紅茶 そのものってことには関係している。 だけど、志織桜里さんの指す ストレートティーっていったい…。  [今日はもう遅くなっちゃうから、夜 ここで食べていかない?] 志桜里さんの一言で私の心の状態もその場の雰囲気も一気に変わる。うまく まとめられた気はするけど、少しの間は悩まずにいられそうと思えた。私は 彼女の言葉にうなずき、木下咲を見た。彼はまだ何か考えているようだった。 自分の姉となると気になるのだろうか。 姉思いの弟か…。  [じゃあ、俺ピザ焼いてくるから。] [いいけど、カフェと同じメニューは だめだから使う具材気をつけてね。] [大丈夫だよ。姉ちゃんのアレンジ ドリンクのおかげで、俺も思いついた やつあるから!] そう言って彼は店の裏口へと姿を 消した。私が見てきた男の子はみんな、運動系や音楽系、ゲーマー、アニメ オタクが多かった。だけど、彼だけは 違う。家族とも仲がよくて、暖かい 雰囲気を絶対に壊そうとしない。 そして、趣味を持つ私とは少し違うが、興味があるものにはどんどんぶつかっているような気がする。私が思う彼の フレーバーティーという考え方はそこにあるような…だけど今のままじゃまだ 完成じゃない。何か物足りない。特別な何かを加えないと木下咲にはならない 気がしてもやもやする。  準備ができたと言われ店に入る。 今日だけ特別に裏口から入らせて もらった。ピザの焼き上がるなんとも 言えない最高のカフェの香りが店内に 広がっている。彼が焼いたピザは 2枚で、それぞれ味が違うようだった。志桜里さんの話によると、このカフェで出しているピザは全てアレンジ メニューらしい。木下咲はそれを考えてあるあるのあのピザを置いたのだろう。マルゲリータとりんごとレーズンの スイーツピザ。  [咲らしいくらいあるあるのを 作ったのね。味はもちろん咲の味だと 思うけど。] [フレーバーティーとストレートティーを表してみたんだ。ピザで表現すると こんな感じなのかなって。] [マルゲリータがストレートティー?] [そう。すごくシンプルだけど、どこか まっすぐで食べた人を引きつける味を 持っていると思うんだ。スイーツピザは見た目も名前もおしゃれだけど、 たくさんの飾りがないとその味を 出せないっていうか… フレーバーティーの香りと一緒じゃ ないかって。] [そうかもしれない…。私はずっとこの マルゲリータや ストレートティーみたいに自分らしさを見失わない人に憧れてたのかも。] 彼のピザのおかげで私もやっと わかった。そして、自分にも問いたく なってしまう。私は今どっちの自分で ここにいるんだろうと。答えはすぐにはわからなかった。でも、私の周りが 明るくなれば、きっと見つかる…。  帰り道。木下咲は今日も送ると言ってくれた。自転車ではなく 歩きだったけど。誰かに見られるのは やっぱり怖いと思った。でも、彼の ことをもっと知りたいとも思っていた。  [香奏さんって俺と同じで フレーバーティーだよね。] 私は不意に起きた二つのことに驚いて しまった。名前と意外な口の切り方。 彼は何も気にしていなさそうな 様子だったが、なぜか気持ちが 落ち着かなくなる。急に呼び方 変えるとか、この人どうしたんだろう。  [それって何が言いたいの?] [悪く言えば、いろいろ悩みやすい やつって感じかな。あの企画の ことだって元々は俺が引きずりすぎた 結果だから。] [私を巻き込んでるのはどうして?]  [きっといや、絶対に俺に恨みを持ったやつがいるんだ。誰なのかは全く わからない。でも、君を 巻き込むくらいのことになってるから、俺だけじゃなくて香奏さんも 恨まれてると思う。] 頭の中で複数のことがぐちゃぐちゃに 混ざり合う。彼を信じたいけど 信じきれない。彼の断りの言葉が 早ければ、こんなことにはならなかったはずだ。私だって勘違い されなかったかもしれない。彼は悪く ない…。だけど悪い…。でも、 やっぱり…。  [恨んでる人がいるのって嘘じゃ ないの?] [嘘じゃない。嘘だって言える簡単な ことなら、そうやって流したいよ。 でも、これは本当のことなんだよ!] かれじゃなかったとしても、誰かが 誰かを嫌いになったり、苦手意識をしてしまったりすることは不思議なことじゃない。でも、彼が恨まれる理由が わからない。どこにも 噛みつきたいようなところがないのだ。性格も見た目も家族関係やそれ以外の 人間関係もいいはずなのに…。 カフェだって休みになることなく、毎日やっていると思う。それなのに…。  [俺も姉ちゃんと同じくらいの時に 自分のことで悩んでたんだよ。 姉ちゃんは気持ちを切り替えれたけど、俺にはそれが逆効果だったんだ。] 彼がまたあのかたい表情になる。この 人とはちゃんと向き合って話したい…。私にそんな思いが生まれたのは 初めてだった。  [俺は中学生の頃同じクラスのやつと 読書に没頭してた時期があったんだ。 小説や漫画時には真面目なジャンルの ものにも手を伸ばしてみた。でも、ある時女子に馬鹿にされたんだよ。読書は おとなしい女子が持つような趣味だからやめた方がいいってね。あいつは気に しなかったけど、俺はそれに完全に 流された。本を閉じて図書室へダッシュした。怒りと悔しさがあった はずなのに、俺がそれをぶつけた相手はあの女子じゃなく読書仲間だった あいつ。読書をやめなかったあいつを 傷つけまくった。今から考えると、 俺だって言えなかったんだって思う。 カフェだって読書だって変わらない ことだったのに…。] 彼の言葉はすごく重く感じた。でも、 彼が恨まれていることは否定できなく なった。ずっと仲間だった人に 離れられたり、悪口を言われたりして 傷つかないやつはいないと思う。でも、あの女子もすごいやつだ。二人の仲を 裂くくらいのことを言って いるのだから、何か深い事情が あるのか。そして、いちばん かわいそうな人はやっぱり木下咲の読書仲間。何があったのかはわからないが、かなりめんどくさい。  [カフェをやってるってことで悪口 言われたの?その読書仲間に。] [言われたよ。すごく鋭い眼だったあの 日が忘れられない。] [怖かったんだね…。]  [うん。] 彼の目には涙がたまっていた。きっと 今まで必死に堪えていたのだろう。 少しのことで起きるこの崩れた関係は 戻すのに時間がかかるかもしれない。 彼だけが作り出したことじゃないから…。  [中学卒業後は?] [3人ともたぶん違う高校だよ。あの 女子はどうしてるか知らないけど、読書仲間だったあいつは俺とは違う高校を 受験して入った。あいつはもう関係を 戻す気は全くないと思う。俺から 言わないといけないけど、口の切り方がわからない。] [近くの高校なの?] [うん。] また一つ私に出会いという名の悩みが 与えられる。でも、これは私にとって 後悔に繋がるものじゃない。何もかもをとりかえせるチャンスとしか言えない。  [私でよければ協力するよ。] [じゃあ、企画のことだけ手伝って くれない?香奏さんも関係してるから。] [わかった。] 関係が崩れてできたフレーバーティー。香りはいいけど涙の味。今はきっと これを飲み干して無くしちゃいけない。新しく作り直すための何かが 必要なんだ…。

8
0

花言葉とカモミール  1章 [桜色の布]

 帰り道。いつもの道を歩いている つもりだった。なのに、見覚えのない 店がある。私はカフェ巡りが趣味だ。 友達から珍しいってよく言われる。 だけど、その趣味があるから頑張れる。今日はクラスの係り決めですごく時間がかかった。私は人前で落ち着いて話せるわけじゃないから何もしてないが…。  珍しいと思い店に入ってみた。店の 暖簾は桜色だった。おしゃれな カフェらしい。ペチュニアカフェ…。 花の名前からつけたふんわりとした 優しいそして、温かな雰囲気の店内。 席まで行くと、奥から一人の少年が出てきた。 [初めてですか?] 緊張しているのがこっちにまで伝わってくるような自信のない声が呼びかけて きた。  [はい、そうですけど…。] 彼は困った顔をして、奥の方を 見つめた。慣れていないのだろうか…。でも、これはしょうがないのかも しれない。桜がやっと 散り始めたのだから。  [咲(さく)、やることはもう決まってるでしょ!家族でやってるんだから、 そろそろ覚えてよね!] そう言いながら奥から彼の お姉さんらしき人が顔を出した。咲と 呼ばれていた少年は、ため息をついて 姉の方を見た。 [姉ちゃん、客きてるから…。] [あっ、ごめん。私、あとはやるから先にパンケーキ焼いてきて。] [わかった。] 彼はそう言うと、奥へと歩き出し 見えなくなった。 [さっきはごめんね。私の弟なんだけど、接客に慣れてなくて。私木下志桜里 (しおり)。よろしくね。] [よろしくお願いします。私、佐藤香奏(かなで)です。]  [今はストロベリーティーが 終わりがけの時期なんだけど試して みる?] [はい!] 志桜里さんは紅茶にすごく 詳しいらしい。このカフェを始めて、 彼女が手伝うようになってから紅茶の 種類が増えたと教えてくれた。 ストロベリーティーにもこだわって いるようで、ティーパックだけではなくイチゴを輪切りにして砂糖漬けにした ものも入れるらしい。 [お待たせ!これ最近すごく人気なの。 春限定になってるからイチゴの消費 すごく早いんだよね。] イチゴと紅茶の優しい香りに癒される。 サービスで付けられているミニロール ケーキとの相性も抜群だ!  [入口の暖簾が桜色の理由なんだと 思う?] キラキラした笑顔で彼女が聞く。私は 何も気にせずここに入った。でも、 それをそのまま言いたくない。何か 言えることは…。  [癒しの色だからですか?]  [それもあるけど、本当の理由は 違うよ。でも、これは咲から聞いた方がわかるかも。] [どうして?] [あの子が考え出したことだから。私は 協力したいだけ。] 桜色の暖簾の意味なんて考えたことが ない。布の良さとか人を引きつける ためなのかとかそういうことだろうか…。  店を出ると、少し暗かった。時間を 確認していると、店からあの少年が出てきた。  [自転車でよければ送るけど。] [いいよ、そんなの。] [早く乗れ!遅くなるから。] [ありがとう。] 彼の後ろに乗って二人乗りで走り出す。姉には許されてないけど今日だけ 特別だと言ってくれた。彼はゆっくりと走っていく。草木が少しずつ流れて いる。いつもと同じなのに、一つ一つが違うものに見える。後ろから吹く そよ風もすごく癒される。この不思議な時間が続けばいいのにと心のどこかで 思う自分が少し怖い。まだ店での 会話しかしてないのに…。  [じゃあ、俺店に戻るから。] [ありがとう。] [あっ、俺木下咲。今までのことは全部 秘密にしろよ!] 彼はそう言い残して走り去った。 カフェをやっている男の子ってそんなにへんだろうか。どこの店に行ったと しても、男女両方いるのに。  次の日。教室では謎の噂が広がって いた。私と木下咲が付き合い始めた…。考えられないことが起きてしまった。 私は確かに彼の自転車に乗せてもらい 送ってもらった。でも、あの時の (送るけど)はきっとそういう意味じゃ ない。その部分を聞いただけだとしても思い込み過ぎ、そんなやつにしか思え ない。  [香奏、あのことって本当なの?] クラスの女子何人かが私を囲む。 答えたくても答えにくい嫌な空気が…。  [私、あの店にたまたま 入っただけだよ。] [でもじゃあ、なんで木下と自転車で 二人乗りする必要があるの?] 親友だったはずの梨桜(りお)が私の 言葉に噛みついてくる。恋愛に興味 なさそうな大人しいタイプの 人だったのに。まさかへんな勘違いを してるとか?考えれば考えるほど怖く なってくる。私にはもう頼れる人が いない。木下咲に全て奪われたんだ…。  授業が終わり、調理部の部室へ 向かう。入学した理由の一つがこの 部活に入ることだった。 カフェ巡りだけじゃなく、料理に ついてやいろんなレシピ覚えたかった。調理部では調理ももちろんするが、 世界の食事について調べたり、実際に 近くの店に行ってオリジナルの メニューを試したりする。部員は女子がほとんどだが、男子もいる。調理部の 女子は恋の話にはすごく敏感だ。男子の名前が上がれば、もう耳はその音しか 拾わないくらいかもしれない…。正直に言うと、それを聞いているのがすごく めんどくさかった。数人の人が同じ人を好きになってもめるっていうのがよく わからない。大変そうだとしか 思えないのだ。  [今日もお疲れ様。連絡なんだけど、 来週1週間はペチュニアカフェに 行って、紅茶についていろいろ話を 聞くからよろしくね。] 部長の言葉が頭の中で何度もリピート 再生される。行きたくない…。木下咲や志桜里さんとの出会いもあの1回で 終わりにしたい。私は木下咲が 好きなんじゃない。あのカフェが 好き…。部室の中はやっぱりいろんな 声が飛ぶ。これじゃあ関係ない人まで 避けたり、嫌いになったりしてしまう。それだけはしたくなかったのに。  [花元夏希さんですよね。あのー… 部長の。] [そうだけど。どうしたの?] [私、その週ちょっと忙しくて 行けないかもしれないんです。これって全員参加ですよね。] [そうだよ。一応変更も大丈夫って 聞いたけど。だから、再来週に 延ばしてもいいよ。] [少しかんがえさせてください。] [じゃあ、明日答え教えて。] [はい…。] 時間がない約束をしてしまった。これはもう1週間遅らせるしか方法は ないのだろうか。私がどう動いても 規格は無くせない…。  [そういえば、香奏ちゃんあのカフェの木下君と付き合い始めたんでしょ?もしこれから会うんだったら、よろしくって言っておいてくれない?] [はい。] 先輩も知っているんだ。小さな噂だと 思っていた私。どんどんどの輪からも 追い出されていく。こんな生活が 続くなら、あんなカフェ行くんじゃ なかった。私に特別な時間をくれた はずなのに…。桜色のあの暖簾は 呪いのようなものだってことだろうか。  一人で部室を出て門へと急ぐ。あの 中にいたら、私が苦しくなるだけ。 たぶん誰も悪くないことなのに。 はじめての出会いがこんなふうにあっと言う間に終わっていくなんて…。こんなこと信じたくない。私たちを見かけた 人のことも謎に包まれている。これで 関係を終わりにしたくない。  気づくと、ペチュニアカフェの前まできていた。でも、入る気にはなれない。木下咲は私に夢の罠を仕掛けて はまらせただけ。きっと見かけた 人だけじゃない。昨日のことを 思い返しても、近くに誰もいなかった はずだ。浮かぶのは二人だけ。きっと 何かがあったんだ…。 [そこにいるなら早く入れよ。] 後ろで声が聞こえた。聞き覚えのある声。木下咲…。  [俺、店入りたいんだけど。] [ごめん。あの昨日…。] [今はやめろ。まためんどうなことに なるから。ついてきて。] 彼は真面目な顔で私をみた。こんな表情はじめてだ。何かと向き合おうとして いる顔だった。  私はカフェの奥にある広い庭に案内 してもらった。名前はわからないが、 季節に合った花がたくさん咲いている。彼はやっと私を見て笑ってくれた。  [俺が忘れてたからあんなことに なったんだ。店を始めてから顔をよく 知られるようになって。なぜかは わからないけど、女子の間では俺が すごいやつみたいに 思われてるみたいで。君は悪く ないから。ごめん。] そう言うと、またあの顔になる。私は 答えが見つけられないまま彼を見て いた。

6
0