あーちゃん

10 件の小説
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あーちゃん

優しい人

「優しい人」というのは二種類ある。 それは、純真な優しさを持つ者 あるいは過去の自分を悔み得た優しさを持つ者 私は、後者だ。 特別何かあったのかと問われても、そんなことはない。 でも、それはきっと私が傷つけた人達に失礼だから。 ただ生きてきた。 自分の中の正しさに、忠実に生きてきた。 知らなかったんだ。 正しさがひとつじゃないなんて 正義の反対が正義だなんて 言い訳かな…なんてどうでもいいことをぼやいた。 正しさは暴力になる そう知った。そう感じた。 この世界は正しさよりも優しさを求めるのだと。 それからすぐに変われたわけじゃない。 ちょっとずつ、時間をかけて 私は優しいと言われるようになった。 「██ちゃんって優しいね」 償うように優しくなった 「██さんって本当に気が利くよね」 私は無神経に人を傷つける人だ 「██ちゃんって本当に優しいよねー」 苦しい。痛い。辛い。 過去は何も変わらない 優しいと言われる度、自分が何かわからなくなる。 優しいと言われる度、人を欺いている気さえする。 私は今日も誰かを傷つけたのだろうか 私は今日優しい人でいられただろうか 私は今日私でいられただろうか 正しさに忠実に生きる私も 優しい人であろうとする私も どちらも私で、未熟な者だと愛してはくれないだろうか。 「██ちゃんって優しいね」 今日も私は笑顔で答える 「そんなことないよ」

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優しい人

わかってない

彼は私のことをわかってない。 私が「トイレの蓋ちゃんと閉めてね」と言っても 『はぁーい』なんて生返事で結局いつも開けっ放しだし 「たまには外食したいな」って提案しても めんどくさいからって受け入れて貰えない。 そのくせ私の手料理は嫌いなものが入ってるって文句ばかり。 あぁ、しんどいな疲れるな。 そんなある日のことだった。 『お前ってほんとすぐ寝るよな。すぐ寝れるなんて羨ましいわー』 そう隣で彼は言った。 私は笑いながら 「そんなことないよ。寝れない夜の方が遥かに多いし。 悩んで考えてばっかりで全然寝れてないよ。」そう言った。 すると彼は先生の間違えを指摘する小学生のように 無邪気な笑顔で言った。 『うそつくなって。いつも気持ち良さそうに寝てるじゃん』 あぁ、やっぱり彼は何もわかってない。 私は彼を見つめながら答えた。 「それはね、あなたの隣にいるからだよ」

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わかってない

俺は人気者

俺は人気者だ 姿を現せばたちまち歓声があがる まぁ仕方ないだろう だって俺は強くてかっこいい だからこそ、そんな俺を僻む奴らも多い そんな奴らに俺は何度も命を狙われた 時には、棒状の武器で叩かれ 時には、毒ガスを浴びせられた だけど俺はかっこよく 持ち前の生命力で今なお生きている 自分の歳は忘れたがそこら辺の奴よりかは 長いこと生きている 要は経験豊富ってやつだ だから俺は人気者だ ある日沢山机が置いてある 白い城のような建物に迷い込んだ そこでも沢山の奴に命を狙われた ただ一人だけ女の子がゆっくり俺の前に来て 手を差し伸べた 「だいじょうぶだよ。こっちおいで」 女の子はそう言った そいつの手は今までに歓声をあげてきた奴らとも 殺そうとしてきた奴とも違って ただひたすらに温かかった 俺は涙が溢れてきた 溢れて止まらなかった それで俺は気づいてしまった いや、本当は最初から分かっていた 俺は人気者なんかじゃない 俺は ゴキブリは 嫌われ者だ

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俺は人気者

赤色の涙

「これで全部だね」 荷物を全てまとめた。 彼と同棲した三年間、 どこを切りとってもすごく幸せなものだった。 そんな生活も今日で終わり。 理由は簡単 彼が浮気したから。 彼と私が何度も体を重ねる中で 彼は何度も他の男と夜を越えていた。 でも、もういい 今日で終わり。 もちろん最初は怒ってたけど 今となっては呆れが勝っていた。 『じゃあ、ばいばい』 取って付けたような笑顔でそういう彼 もう会うこともないかと思うと清々した。 「じゃあ…あぁ、ごめん。私枕変わると寝れないんだよね。 だからいつも使ってた枕、やっぱり持ってっていいかな?」 『えっ、いいけど枕ってどれ?』 「これ、だよ…」 しばらくして ミロのヴィーナスと化した彼 そんな彼の倒れる床は赤く染まっていた。 彼の血と私の涙が入り交じる 汚い愛の液体で。

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赤色の涙

落とし屋

(通話開始) 「お待たせ致しました。私、odioしぶ…」 『優〜!明日十八時!掃除屋さんの情報! ついでにヘアカット!じゃ!』 (通話終了) 通話終了を知らせる電子音と、 それまで一方的に予約内容だけ言う女の声とのギャップが あまりにも可笑しくて、俺は思わず笑った。 名前も名乗らず、話も聞かない。 いつもの事だ。 明日十八時、 落とし屋はまた掃除屋の情報を求めてこの店に来る。 『優〜。久しぶり。元気してた?』 相変わらず、明るいやつだ。 こいつが店持ちだなんて考えられなかった。 「そちらこそですよ。落とし屋さん。 お会いしない間に店持ちになられたみたいで。 なんと、本社に一人で乗り込んだとか。 さすが肝が座っていらっしゃる。」 落とし屋は元々十代の頃から殺しをしていた。 ターゲットは男のみ。 不倫やDV、その他多くのトラブルで悩む女性から多額の依頼料をもらい、その見返りとして殺しをしていた。 しかし、最近になって組織の本社ビルにひとりで乗り込み、機械屋への直談判の末落とし屋の名をもらった。 『全く、相変わらずの他人行儀ね。幼馴染なんだからわざわざかしこまらなくてもいいじゃない。』 「落とし屋さんも大切なお客様ですので。そんなことより、いつも言っていますが、あなたの欲しい情報はお渡ししかねます。」 『えーなにそれひどーい』 「何度目ですかこのやり取り」 『だって優って掃除屋さんと仲良いじゃない?』 「そんなんじゃねぇよ。てか誰があんな野郎の好みなんか知ってるもんか。で?今日は髪型どうなさいますか?」 『いつもどうりで』 落とし屋とは小さい頃、よく遊んだ。 親同士が仲が良く、一緒に出かけることもよくあった。 落とし屋の両親は警官で、肩書きだけは素敵な人だった。 そう、肩書き“だけは”。 落とし屋の父親は女癖が悪かった。 そのせいで両親は常に喧嘩。 母親はそのストレスから落とし屋に日常的に暴力をふるっていた。 人前でこそ愛想は良かったが、ただの仮面家族だった。 俺はそれを知りながら何もしなかった。 事態が変わったのは十五の夏。 落とし屋の両親は掃除屋によって殺されていた。 なんてことを思い出しながら俺は落とし屋の髪をカットしていた。 「なぁ、お前にとって掃除屋は、ヒーローか?」 『え?あーうん。掃除屋さんは私にとってのヒーローだよ!』 「殺し屋がヒーロー?おかしな話だよな。」 自分でもびっくりする程低い声で俺は言った。 『ふふ。優、なんかあったでしょ。まーた背負い込んじゃって。』 「悪い。なんでもない」 『んー。あくまでね、私の考えだけどね? ヒーローは正しいわけでも優しいわけでもないと思うの。優しさや正しさそのものがヒーローだと思うんだ。だからね、ヒーローっていっぱいいるんだよ。正しさって人によって違うでしょ。優しさもそう。人の数だけヒーローはいるの。だからね、私にとってのヒーローは掃除屋さんだけどきっと掃除屋さんを悪役だと思ってる人もね、いるんだよ。だからね、んーそいうこと!」 脈絡のない言葉だった。 でもそれがいつも通りで心地よかった。 「今日の口紅も毒入ってんのか?」 『そう!これ新しいの!』 落とし屋は毒入りの口紅をつけ、 落とした相手にキスをする。 特殊な抗体のある彼女には毒が効かない。 遺体はどの店持ちよりも綺麗だと、 掃除屋から聞いていた。 『ねー優。お互いこんな世界にいるわけわけじゃん?いつ死んでもおかしくないってことだよね。』 「なんだよ急に」 お前は本当は気づいているのか? 『いやね?もしだよ、もし、 次の仕事上手くいったら花見行こうよ。 ちょうど桜咲く頃でしょ』 「なんで、花見なんだよ。」 機械屋がお前に店をやるはずがない 『小さい頃よく行ったじゃん。優の両親と、お兄さんと 私の家族で。あの時だけはお母さんもお父さんも優しくて、 楽しかったなぁ…って』 「ベタだな。いいよ。花見。絶対行こう」 俺はまた、何も出来ないのか? 『ほんと!?やったー決まりね! ってかカットもう終わってるよね?』 「あぁ。うん…」 逃げろ 『さっきからずっとといてるだけじゃん。 私次の仕事あるからもう帰る。 花見約束だからね!死なないでね!』 彼女はこれまでで一番の笑顔でそういった。 お前は今から、 「またな!」 殺されるんだ これは落とし屋と最後に話した日の物語である。

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落とし屋

元店長

俺は殺しが嫌いだ。 『優、お前また客に手だしたらしいな』 そう笑いながら言うこの人は、odio渋谷店店長のゴンさん。 そして俺は見習いで、後にここの店長になる優だ。 「だってゴンさん聞いてくださいよ。あいつ 殺しが楽しいとかなんとか言って笑ってやがったんですよ!」 渋谷の街の美容院と情報屋、 ふたつの顔をもつこの店には殺しを生業とする人達もよく来る。 『まぁここはそういう場所だからな。 お前も訳ありでここに来たんだろ。 それくらい分かってやれ。』 「そりゃあ俺、“情報屋”の見習いっすから! それくらい知ってますよ。でもね、ゴンさん。 殺しを好き好んでやる奴らの気持ちなんか 分かりたくもないですよ」 俺は殺しが大っ嫌いだ。殺し屋が嫌いだ。 だから俺はここに来た。 俺の両親はなぜ消えたのか。 兄貴はなぜ殺され、報道すらもされず、 存在ごと消されたのか。 それを知るために。 『お前の気持ちはよくわかるよ。俺だって情報屋としてここにいるのにはそれなりの理由がある。俺はあの組織も公安も人殺しは全員、肯定する気はさらさらねぇよ。でもな、優。ここで美容師をやる以上、情報屋になりたいと思うなら、そういう奴らを流せるくらい、暴力に勝る力が必要なんだよ。あくまで“お客様”だからな。敬意は持たなきゃダメだ。』 頭を軽く叩きながら、店長は珍しく 真剣な面持ちで俺に言った。 明るく人当たりのいいゴンさんは、家族のいない俺にとっての本当の家族のような存在だった。 そんなゴンさんも、今はもうこの世にはいない。 これは俺が店長になる数年前の日の物語である。

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元店長

掃除屋と氷

「おい、待て」 俺はodio渋谷店店長の優。 今日は掃除屋とそのツレが来るはずだった。 『どうかされましたか?』 「“どうかされましたか?”じゃないだろ〜。 こいつガキじゃねぇか。俺はてっきり 新しい殺し屋でも連れてくるのかと」 『彼の名は氷。殺しも、しますよ。』 掃除屋はいつもどうりひょうきんな笑顔で俺に言った。 俺は掃除屋の肩を組み、このガキに背を向けて 小さい声で掃除屋に言った。 「お前本気か?ここは渋谷だぞ? こんなガキすぐ殺られるだろ。 それにガキの子守りなんて柄でもねぇ、辞めとけよ。」 すると、掃除屋は 『やだなぁ〜優さん。お説教だなんて。 氷はきっと私が面倒みなくても殺しをすると思いますよ。 ってことであとは頼みます。 なんてったって彼、髪の毛ボサボサですし、 髪型も髪色も優さんの好きにして頂いて結構ですので。』 この時の掃除屋には、 いつもどうりのひょうきんさの奥に真剣さがあった。 「はぁ。分かりましたよ。掃除屋さん。じゃあ氷くん、 あっち座っといて…ね?」 そうこのガキに告げ、ヘアカットの準備を始めた。 俺も渋谷で情報屋をやってるくらいだ。 このガキが誰の子なのか、 どうして掃除屋と一緒にいるのか、 大方予想はついた。 「じゃあ今日は氷くんのカットとカラーだけだな… “掃除屋さん”は、何も無いので帰ってもらっても 構わないですよ。どうします?」 『何言ってるんですか優さん。 今日はたのんでたあれ、買い取りに来たんですよ。』 やっぱり誤魔化せないか…なんて思いながら 「悪いけど、その情報掴めなかったんですよ。 申し訳ないですが、今回ばかりは組織にたのんで貰うか、ご自分で確かめてください。」 そう掃除屋に言った。 『珍しいですね』 「珍しいって言われましても、俺だってただの人間ですから! 仕入れられない情報くらいありま…」 『違いますよ。』 「違くねぇよ。だからその情報は……」 『そうじゃありません。 情報を仕入れられないのが珍しいのではなく… “私に嘘をつくなんて”珍しい、ですね」 そうしているうちに氷くんの髪は白く染まっていった。 しばらくし、俺は掃除屋に言った。 「掃除屋、やっぱお前にはかなわねーな。 ただ、悪いけど晒し屋の情報は渡せない。 俺も商売だからな。敵に回したくねぇ客もいる。 お前のことだ、どーせそっちも見当ついてんだろ?」 この店は、組織による多額の資金援助で成り立っている。敵に回すと厄介…というより個人的にもしたがって置いた方がいい相手。 『そうですね。おそらくまぁ“機械屋”でしょう。』 これは氷くんの初来店の日の物語である。

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掃除屋と氷

壊れない

「僕の好きな小説家がね、よく “形あるものは壊れてく”って言うんだ。 すごく好きなんだよね。この言葉。」 『どんなところが好きなの?』 隣で楽しそうに話す彼に私は尋ねた。 するとさらに楽しそうに彼は続けてこう言った。 「だって…」 「 愛に形はないからさ 」

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壊れない

ほどけないの、

君の声が聞きたくて だけどいっつも空回り 好きだから、 大好きだから 君の声が聞きたいの 君への好きが絡まって 纏わりついて ほどけない 君への好きが絡まって ほどけなくって ほっとけない︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ※ささち。さんのイラスト解釈です ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎

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ほどけないの、

プロローグ

(通話開始) はい。こちらヘアサロンodio(オーディオ)渋谷店です。 あれ、なんだ、掃除屋さんじゃないですか。 どうしたんです? まだ準備出来てませんけど。 ご予約ですか?空いてますけど この間来られたばかりじゃ… 掃除屋さんじゃない? 珍しいですね、掃除屋さんの紹介なんて 掃除屋さんもご存知だと思いますけど、 うちのお店、基本的にはお客様同士で深く絡むのはNGですよ。 はぁ…今回だけですからね お名前は? 氷…さん…?承知しました。 では明日十時、お待ちしております。 (通話終了) 東京を中心に全国展開をしているヘアサロンodio。 表向きはただの美容院。 だけどその実態は各地域の情報屋。 街のチンピラからプロの殺し屋、 警察や政府関係者まで多くの人に情報を売る。 情報の受け渡しは記録が残らないよう ヘアカットやカラーの間に口頭で行われる。 俺はodio渋谷店の店長、優。 情報屋業界の中でも最も危険で忙しいのがここ渋谷だ。 国家公認の人殺し集団公安や、 機械屋をトップに置く 店持ちと呼ばれる殺し屋が所属している組織。 ここの対立が渋谷の裏社会の中心だ。 今日予約をしてきた掃除屋もまた、 裏社会を生きる殺し屋の一人だった。 だが少し前、掃除屋は“殺さない店持ち”として 組織の中では異例の存在になった。 odio渋谷店でのルールは主に二つ。 ひとつは客同士で絡まないこと。 要は店内で乱闘騒ぎを起こさないで欲しいってことだ。 敵対する相手が運悪く同じ日に来店してる なんてことも無くはない。 情報屋と言ってもあくまで表向きは美容院。 乱闘騒ぎで死体なんてでようもんなら商売にならない。 もうひとつは欲しい情報がある時は必ず予約を入れること。 情報を仕入れるのはそれほど簡単じゃない。 お金もそれなりにとる。 と、ヘアサロンodio渋谷店についてはこんなところで… これは情報屋“優”と“渋谷の情報を求める人達”の物語である。

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プロローグ