強炭酸

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強炭酸

初めまして、こんにちは。強炭酸の飲めない強炭酸です。気まぐれに色々投稿しています。よろしくお願いします。 それとコメントへのハートは見ましたという意味でつけております。

野薔薇の鮮血

産声が轟いた 辺境に野薔薇は裂いた 熱く波打つ脈動は 生きていた 生きていた 生きた 天使は奏でた 花は咲いた 死を知っていた 死は深かった 死を覚悟した 野薔薇は絵になった

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硝子の夢

割れて腐った感情を どう料理すれば良いものか 死んでしまったその瞳 見つめるほどに枯れていく 牙を剥いた、感情に 背き背かれ全て私 終わりの空はまだ見えぬ

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死して尚蘇りし花に花を

君は見ているだろうか。 いや、見ていないだろう。 視界の端にでも映ることが出来ればどんなに嬉しいことか。 月日はあの日からどれくらい経っただろう、 六年、いや、7年が正しい。 こんなに月日は経っていた。 誰も彼も前を向いていた。 なのに、私だけ。 君のことなんて、この五年間でそんなに思い出すことはなかった。 それどころか私の目は他の人を追っていた。 なのに、また。 会った瞬間に全てが蘇ってしまった。 あの日の空、あの日の思い、あの日の匂い。 私はその瞬間、記憶に捕らえられたのだ。 私ばかり、置いてけぼりだ。 そんな思いのまま、成人式を過ごした。 君はスーツをいかにも君らしく着こなして笑っていた。 あの頃から少し余裕のある柔らかいものになっている。 君は成長したんだ。 それに対して。私は。 袴とか、着物とか、そういうものを着ることを勧められたけれど、断った。 その代わりにパリッと糊を効かせた強かな黒のスーツを誰よりも着こなしていた。 その時までは、私も前を向いていた。 なのに、このザマだ。 未練タラタラもいいとこだ。 いい加減にしたい。 いい加減に。 こんなふうに会場の隅にいると、 あの人がこちらへ向かって歩いてくるのが見える。 その瞬間目がそれに釘付けになり、金縛りにあったように固まる。 まさか君から来るとは思ってもいなかった。 だから正直、怖かった。 でもどこかで期待してしまっていた。 それが間違いだった。 実は隣にも一人、女性が居たらしい。 私は今の今まで全く気付けず、親しげに、そしてゆるい二人の会話に酷く衝撃を受けた。 私はその場で、私だけ時が止まってしまったような感覚を覚えた。 でも、その感覚とは馴染みだった。 だから慣れていた。 そのはずなのに体はマニュアル通りに動かず、ただこの場に直立していた。 そのせいでまざまざと現実を見せつけられた。 もう二人が何を言っているかなんて分からない。 脳に言葉が入って理解しかけた瞬間に溶けていってしまうから。 それでも理解しかけた時に発生した感情だけが頭の中で広がる。 あぁ、また二人が同時に笑う。随分と幸せそうに。 この時、世界が回った気がした。 空気という存在が無くなった気がした。 その時やっと、足が動いた。 動いた足は、一目散に駆け出し、とにかくこの場から遠くに向かっていった。 息苦しささえ感じることもなかった。 が、会場から少し離れたところにある煙草屋が見えると足が緩やかに動きを止めた。 その瞬間、全ての現実が私に襲ってきた。 私の体はさっきまでは考えられないくらい激しく酸素を欲し、 足はその場に倒れそうになるくらいクタクタだった。 でもこの格好で良かったと思った。 袴でも、着物でもなくスーツを着ていて。 おかげで私は大事になる前にあの場から立ち去ることができた。 これが、私の正しい姿なんだ。 あるべき姿なんだ。 私は最後に大きく息を吸って、吐いた。 そして何事もなかったように、今日は別の道から帰路についた。 その時の私はさっきとは打って変わって落ち着き払い、何処か吹っ切れた気持ちだった。 その道中、朱色の、人の薄暗いところを誘うような花を見た。 そして花のすぐ近くにはぽつん、と墓があった。 なんとなく気になって覗いてみる。 墓石の文字はもう読めなかった。 が、違和感に気づいた。 この花は、なんだろうか。 彼岸花ではなかった。 それでもこんな時期に咲く花でなかったのは確かだ。 その証拠にこの一輪以外同じ花は咲いていない。 しかしそれが妙に親近感を誘った。 そして離れたくないとも思った。 だから根元近くから綺麗に手折って摘んだ。 それから摘んだ花を少し高く持ち上げて太陽の下に位置付けて見る。 すると花は持ち前の哀愁を誘うような怪しげな異質さを際立たせ、 いよいよその身の哀れを白昼の下に物語った。 もし、死んでも念か何かだけで存在することができたとすれば、 この花はきっとこの墓の中の人で、 きっと自分の苦痛、悲しみ、憧憬、そして日が重なるごとに増えていった諦めを誰かにただ伝えたかったのだろう。 でもそんな感情などは面と向かって話しても理解し合うことはないのだから成仏なんてできないのだと思う。 それが私の目にはただ美しく映った。純粋に。 なので私は花を荒っぽく引きちぎり、ちぎった花をポイと天高く放ることを繰り返した。 すると花は火の粉のように空に散り、ヒラヒラと燃え殻のように落ちた。 そうやって全てを散らしきると今度こそ前をしっかりと向いて歩き出した。 その翌日。 私は昨日のスーツを着て、キャリーケース一つで新幹線に乗った。 その日の空はどこまでも均一な青で、眩しいくらいの晴天だった。

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バレリーナ

脳が痺れて焼き切れる。 最近そんな感覚に幾度となく襲われる。 息が出来ない。 いや、正確には出来ないのではなく、してもしても飢餓感が残り続けるのだ。 一言で言うと気持ち悪い。 なんというか、腹の奥底から魑魅魍魎がうじゃうじゃと湧き、這い出てくるような類のものなのだ。 しかし気持ちが悪いだけではなく、この症状は外見に現れないという究極の特性も持ち合わせている。 それから対処法は存在せず、以前までなら楽しむことも出来たものも全く枯れ果ててしまったように、私の心に触れることは無くなってしまった。 それでも社会というものは回り続けるもので、こちらの都合なぞちっとも考慮してくれないので仕方がなく無理を強いて体に鞭を打って動き続ける。 こんなふうだからきっといつか私はぼろぼろと音をたてて崩れるだろう。 それを想像するとオルゴールを思い出す。 バレリーナがついた、あのオルゴールだ。 私もあのオルゴールのバレリーナのように、最初は美しく向かうところ明るい未来が見渡す限りどこまでも続くように見えるが、 時間が経つにつれて表面は薄汚れ、時代に人に置いてけぼりにされて醜く孤独に生涯を閉じるか、 逆にずっと動き続けたせいで肉体に疲労が溜まり続けて発散されずにある時ぼろっと一部が崩れて無惨に呆気なく散るのが関の山だ。 これがかつて夢見てきた自分の姿なのだろうか? 私はこんな未来を望んでいたのか? 確かにあの頃の私が思い描いていたものは現実的では全くなかった。 けれども、こんなのが現実的な将来の私、で良いのだろうか? これではあまりにいたたまれないとは思わないか? 私の頭は社会に溶かし切るように任せられたあれやこれやを溶かすので精一杯で、自分の問いかける言葉を溶かすことはできず完全な飽和状態だった。 もうダメなんだろうか?これで終わりなんだろうか?私はこのまま暗い暗い水底に沈んでいくのを待つのみなのか? それで本当にいいのか? 私はもうここがどこで、こうやって話しているのは誰で、この視界は一体誰の視点なのか判断がつかなくなってしまった。 もうまるで幽霊だ。死んだも同然だ。 でもまだ立っている。話している。笑っている。 この見せかけだけこざっぱりとして美しいバレリーナはいつ死ぬのか。 もう本当に息が詰まる。 息が出来ない。 もうしたいとも思えなくなった。 ここで気持ちははっきりとしてしまった。 もう頭の霞は晴れていた。夜の空気が肺を満たして血液と共に全身を巡った。 すると体の重みが完全に消え去り、一切の穢れが削ぎ落とされた気がした。 私は軽い足取りで街を歩いていた。 私は今日で完全な自由を手に入れるから。 肩に勢いよく人がぶつかってきた。普段なら即座に平謝りを繰り出すだろう。 でも今は違う。どうでも良かった。 結局あちら側も大人しく去っていった。 何も起きないじゃないか。 結局、どう頑張って対処したって厄災は降りかかるし、かからないときは何をしても一切面倒を被ることはないんだ。 注意したって無意味だったのだ。私の今までの人生の苦難たちは意義がまるで無かったのだ。 これはなんだろうか?皮肉か?いや、簡単な話すぎて皮肉にすらなれない。狂言だ。喜劇だ。 私はそれの主人公だったのだ。今更気がついたんだ。 私はとある建物のエレベーターに乗り、最上階のボタンを押した。 着くのにはいつもよりだいぶ時間がかかった。 しかし屋上についた瞬間待つとき特有の競るようなイラつきはパッと晴れ、風が私の体を全力で突き刺しにきた。 それでも私はそれをものともせずに冷静に真っ直ぐ歩いて街並みを見下ろす。 世界は相変わらず目まぐるしく回っていた。当たり前のように回っていた。 止まらないバレリーナ。永遠のバレリーナ。 私はバレリーナの存続を許して自分を罰すのか。 無意識に小さなため息が漏れた。もう息は白くなっていた。 この日まで私は季節が移ろうことにすら気がつけなかったのか。 そこでもう一度、幾度となく繰り返された問いが蘇る。 これでいいのか?本当に。 吹き過ぎ去る風はいよいよもって強くなった。 その中でぽつんと、一人の人間が人間としてどこまでも素直に涙を流した。

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片思い

あなたは死んだ。 もう戻らない。 帰ってこない。 生きたあなたはここにはない。 あなたはどこまでも清く、透き通ってしまった。 天国はあるだろうか。 そこにあなたはいるだろうか。 僕はそこへ行けるだろうか。 先立った後のあなたの巣は空っぽで、 埋めるものなど何もない。 あなたは文字通りの風になってしまったんだ。 僕はあなたの存在などに期待はしなかった。 しなかったが。 あなたが不在の今、 世界は酷く寒い。 温度がない。 僕に持ち合わせがないからか? 分からないが、一つ確かなのは 僕の全てはあなたであり、あなたの全てが僕の全てだったことだ。 愛しいあなた。 僕の感情の全てを司った人。 僕はあなた以外を目に入れることがきっと出来てはいなかったのだ。 あぁ、嫌だ嫌だ。 あなたは絵になってしまったのだ。 僕は絵が大嫌いだ。 無駄に脳内を美しく着飾りどこまでも研ぎ澄ましたみたいな、 それを美徳とするような佇まいが嫌いだった。 しかしあなたが絵を好きと言ったので僕は何も言わなかった。 それどころか好きになろうとさえした。 そんな時にあなたは去った。 そしてあなたはあなたの好きな絵になった。 きっと聡明なあなたなら僕の思いに気づいていただろうに。 なんと残酷で美しい人なのだろう。 僕は空っぽで仕方がない。 部屋を見回した。 そこにはあなたの好物が八割と、 生活の気配と僕のものが一割ずつあった。 高価な酒、きつい煙草、本、絵、そして筆とノート。 それから服、香水、化粧品。 あなたはあなたの形のために金を全てを費やした。 僕にはあなたが無条件に美しく映っていたが。 まぁ、あなたには分からないだろう。 あぁ、部屋は空っぽなんだ。 改めてそう思わされた。 品々に思いなどない。 ただ合理的な美への追求とゴミがあるだけだ。 僕は動けなくなった。 動けない僕には埃一つでさえ集中しなくてもはっきりと見えた。 僕は化石のようだ。 死んだのはあなたなのに。 狡い人だ。 悪い人だ。 最低な人だ。 ただ世界を見る目は乾くばかり。 悲しみや寂しささえ僕は持つことを許されない。 恋は、愛は、信用は情は、罪なのか。 罪悪なんだろうか? 僕に扉はもう存在しない。 消え失せたんだ。 僕の部屋には羽が散り乱れただけだ。 ここは鳥籠で、揺籠だ。 築いた全て、意味が消えたのだ。 僕はどうしようもないんだ。 もう治らない。 治らない僕は、あるかなきかの天国に、 いるか否かわからぬ人を想って眠りにつく。 苦しみはない。 僕には苦しみさえも贅沢品のようだから。 過ぎゆく一切は無情だ。 時は僕を引っ張るだけにすぎない。 僕に地面はない。 僕には天もない。 僕はただ、骨というものになるだけだ。

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夢現

本心なんて存在しないさ。 ただただ今がここにあるだけさ。 本心なんて言葉はないさ。 視覚情報が事実の全てさ。 目に入るプリズムは脳を汚染し、 君はユニコーンの化石となるのさ。 耳に入るメロディはその身を起こし、 本当の生を教えてやるんだ。 夢を飲んでは飲まれてく。 飲まれてしまえば君は夢。 苦しむことがすごいのか? 痛み悶えるが華なのか? それらだけが美しいのか? 大夢を見るは、 それ描くは、 なんと甘美で良い事か。

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先駆者

「あなた、それで幸せなんですか?」 ええ、もちろん。私はどこの誰よりも幸せよ。 憐れまないで。 悲しまないで。 こんなことに対してそんな感情を抱いて私に訴えかけているあなたが、一番の悲劇に違いないのだから。 だって、あなたの言う「本当の愛」って、おおかた、 騙し騙され奪われて、 またそれを繰り返しても希望を持つことを美徳にする、 生傷が本体になるまで繰り返す歪なものじゃないの。 そんなものに若い私を巻き込まないで。 私はもっと合理的に、現実的に愛を築くのよ。 いいじゃない、相手が沢山いたって。 いいじゃない、相手に血が通ってなくたって。 いいじゃない、何も残らないかもしれなくて。 いつの時代にも全部言えるでしょう? でもそれらと違うところが一つあるわ。 それは、誰にも迷惑がかからないという点よ。 これほど画期的な愛が今、他にある? いいえ、ないわ。 もし反論するならこれをも淘汰する別案を用意することね。 まあ無理でしょうけど。 だって試してみたら分かるわよ、この良さが。 血の通った人間には到底無理よ。 この裏切られない、奪われない安心感に充足感。 誰が嫌なもんですか。 これこそ人類が追い求めてきた最高のロマンでしょう? もう人は傷つかなくたっていいのに。 それを分かってて自ら拒否する。 天邪鬼ですね、随分と。 あ、待って待って、およしになって。 まずはその手を下ろして。 別に馬鹿にするわけではないのですよ?決して。 ただ、不思議に思ってしまうだけですよ。 せっかく先人が努力して紡いだ結果を、 人間の動物的なむさ苦しい本能から来る恐怖心で避ける行為が。 あなた、一体いつの人間ですか? ここは現代ですよ。 もう無駄な抵抗はやめて、 素直になりましょうよ。 あら、強情な方ですね。 それなら問いましょう。 その信念を貫いてきて、 あなた今、幸せですか?

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未来物語

褪せた世界に吹く風は 軽い 重い風はとうの昔に過ぎ去った。 どこまでも永く織りなされた時も プツンと途絶えてた。 夢の跡地 若草香った 重奏の思い巡る社交場 奇跡願うた廃退の聖 そのどれも褪せた。 亡き想いども、 命ども、 再び起きる ことはなし。 風は巡る、 どこまでも。 それでも同じ、 色は来ぬ。

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神

あるところに、一人の青年がいた。 その青年は、鬼気迫る勢いで手紙を書いていた。 神の目。 恐ろしい目。 黄金に輝く目。 その目は世界の全てを統べるという。 しかし、 ある人はこう言っていた。 「神とは万物に宿るものだ。」 それからまたある人は、 「神とは己の中に宿すもので、己を信じることこそが信仰だ。」 と。 答えを数えるものでないことは明らかだ。 しかし、そんな混沌の中にも、 一つの確かな共通点がある。 それは、 信じる対象に当てはまるもの、 もっと言うなら、 依存する先のものをを人々は神と崇めるということだ。 これは随分といい加減で、ごく当たり前の答えである。 はずである。 にも関わらず、人々は神を巡って争う。 神を利用して陥れる。 そしてまた、神は泥を塗られる。 神の取り柄は、綺麗であることだ。 神との距離は、遠いのだから。 神への行為として相応しいのは、信仰だ。 信仰とは、安らぎだ。 安らぎであるべきだ。 神はそれを保証する義務がある。 そこで最後に彼は問うた。 あなたは、いつか神になれると思いますか? このような趣旨の手紙が、とあるアイドルグループの一人に宛てられた。 差し出し人は不明だ。 手紙の文字は濃く、酷く乱れていたが、不思議と読めない箇所は一つもなかった。 そして紙は真っ白で、 線が機械的に焦茶色の線が引かれたごく普通のもので、 その紙には所々不規則な凹凸が小さく目立っていた。 彼の最後は、きっと凄惨なものであったに違いない。

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Shine

ピアスの穴を開けた。 左の耳たぶに一つ、開けた。 たった一つだけ。 太さは18ゲージ。 エメラルドに似たストーンが入った、銀のピアスだ。 ちなみにピアスを開けたことには理由があり、 その理由というのは複数あるのでひとつにまとめると、 なんとなくだ。 それとこのピアスは、実はさっき買ってきたばかりのものなのだ。 しかも徒歩で。往復で2時間も歩いて。 ほんとは自転車、もしくは親の車で行けばもっとすぐ、 少なくとも徒歩よりは苦労せず手に入れられたのだが、 あいにく自転車はずっと前に故障しており、 新しく買わなければいけない状態だったのだ。 でも先週にネットで目星をつけたものがあって、 運動不足の改善のためにも購入しており あと二日待てば良かっただけの話だったのだ。 しかし私にはその二日が惜しかった。 だから歩いた。 しかし、 ただ歩いた、と短く言うが、 最近めっきり運動する機会も無くなっていた体には、 だいぶハードな運動だった。 それに、午後に買いに出たのだが、 今日は日がよく照っていて、 歩いていると少しずつ汗が滲み出て、 首筋を透明な雫がつう、と滴れるほどだった。 そんな苦労をかれこれ2時間も耐えて、 今、ピアスがある。 このピアスを選ぶ時は本当に悩んだ。 種類は10種程あって、ストーンの色、金具の色などで 結構ガラッと印象が違うように見えた。 そのため、 おそらく5分くらいはそこで難しい顔をしていただろう。 しかし結局は勘に頼って、 このピアスに決めた。 そのピアスを目の前に、 私は小さな子供のように胸を高鳴らせ、 歩いた時とは違った理由で、汗が一筋滲んだ。 まず台紙を丁寧に剥がし取り、ピアッサーを出した。 それから説明書をざっと見て、心構えを持つ。 体を静かな熱が巡る。 ピアスの切っ先を左の耳たぶにそっと当てる。 硬い冷たさが肌に移る。 深く息を吸う。 吐く。 それを数十秒繰り返して、指に覚悟を込める。 ゆっくりと力を入れ始め、次第に力を素早く入れた。 バチンと音が響く。 ヅクンとした鈍い痛みが走る。 それからそっとピアッサーを耳から離し、鏡を見た。 左耳に異物が食い込んでいる。 硬く冷たい、余所者がいる。 しかしその受け入れきれていない感覚が、 体の底を跳ねさせた。 そして、この華々しい無機質が私の肉体の一部となることは、 なんとも言えない喜びだった。 私はそんな、 体の小さくも大きなじんわりとした熱い拒絶を抱いて、 束の間であろう幸福を噛み締めた。

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