天使の誘拐
雲に顔があった
大きな大きな顔があった
やがてその雲は
家の近くの公園の方に落ちていった
私は弟と見に行った
「なんだろう、あれ!」
弟は走って
先に行ってしまった
置いていかないで、と思ったその矢先
大きかった雲は
普通サイズの人の形になり
羽を生やして
弟を連れ去った
遠い遠い空の向こうへ
羽を生やした天使のようなそれは
弟と手を繋ぎ
まるで風船のように
空の遠くに
飛んでいってしまった
弟は
抵抗する素振りは見せなかった
私はすぐお母さんに事情を説明した
「ねえ!だから早く追いかけよう?居なくなっちゃうよ!」
だがお母さんは
「何を言ってるの?あなたに弟なんて居ないじゃない。」
お母さんは
弟の存在すらも
忘れてしまったようだった
弟を連れた天使は
もう見えなくなっていた
空の彼方へ行ってしまった弟は
もう二度と
姿を現すことは無かった