冬いちご

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冬いちご

本業は介護士デス ただの自己満で書いてます✍🏻

この恋に名前をつけて。#4

 とことん好きになってやろうじゃないか。 「もう行くしかないね」   「優和辞めるなら今しかないけど  本当にこのまま好きでいるの??」 「もう認めちゃったしもう無理!」    このモードに入ったら抜け出せなくなる。  それを分かってる上であたしは空翔くんを諦めない  そう決めてしまった。 「また来たんかー」  なんて。何周連続で来てんだよって思うよね 「俺明日地元帰らなあかんから   今日はそんな飲めへんよ」    そう言いながらピッチャーに  二階堂と緑茶を入れる空翔くん。  右手の人差し指にはいつもの指輪。 右手の人差し指に指輪を付けると  仕事に集中できるから付けてるらしい。  なんだか酔わなくなるんだとか。  そんな空翔くんの横には  もう既に潰れかけている理太くん。 「優和ちゃーんカラオケ行きたくなーい?」  本当に子犬みたいな人。  今にでもクンクンと鳴きそうな  トイプードルの赤ちゃんみたい。 「理太くんの彼女怖いからやめとく〜」    なんて事情を話してくれる理太くんには  こういう事を言える。 「せやで、理太の彼女メンヘラやからな」  なんて自分の彼女はメンヘラではありません。  みたいな言い方をして変な顔でこっちを見てくる空翔くん   "でも空翔もいるでしょ、彼女"  急にぶっ込んでくる花梨。  それにちょっとびっくりして飲んでる緑ハイを吹きそうになって急いで飲み込んだら噎せた。 「優和大丈夫かー?」    なんてはぐらかして  質問には答えない空翔くん   「何も言わないって事は彼女居るってことておーけー?」  しつこくそう聞く花梨に空翔くんは   「ご想像と妄想におまかせしまーす」  なんてシラを切った。  これが真夜中の12時のお話で、  そんなお話の途中に花梨は、 「急遽明日仕事が入ったから」と言って帰った。  あたしがトイレに行ってる間に。  そこも花梨らしい所。    そからお客さんが何組かやって来て  忙しくなって空翔くんと話せなくなった。  あたしは理太くんと謎の潰し合いをして  何故か理太くんはあたしより先に酔い潰れた。    2時ぐらいになってやっと落ち着いて 空翔くんと楽しく喋ってた。 "来たよーん"  若い女の子が店員全員に手を振ってニコニコ笑ってる  結構飲んでるなぁ。この人。  なんて自分もお酒の匂いがするはずなのに  少し息を止めてしまう            嫌いだった。この人が付ける香水の匂いが。 「みーちゃんベロベロやないかーい」  忙しくやってる間他の席で飲んでた空翔くんは  少し酔っ払っていつもよりテンションが高くて。  あたしはこの空翔くんが嫌い。 あたしはスマホを触りながら1人で黙って飲んでた  そしたらきっとつまらなさそうに見えたのかな  不貞腐れてたように見えたのかな。  空翔くんとその"みーちゃん" と  呼ばれている女の子が話しかけてきた。 「おねーさんも一緒にゲームしましょ〜」 「優和ち〜ん」  あぁなんなんだこの人達は。  この女の人と勝負したらあたしは勝てるのかな  なんて思って勝負に挑んだ。  "いっせーの5!いっせーの10!"  何分続いたかな。  まぁ多分2分ほど。  短時間であたしは勝てた 「やったぁ勝ったー」  なんてあたしが喜んでる間に  その女の子は悔しそうにお酒を飲んでて、  空翔くんは瞬時に机を叩きながらコールをしてた。  あたしは一体何をしてるんだ。  みんなしてきっとアルコールが回った午前3時半。  空翔くんは"みーちゃん"と呼ばれるその女の子の  右側に座ってベタベタして。  肩に頭置いて。ちょっと腰に手回したり。  あたしが好きな事知ってる癖に  そうやってあたしに見せつけるように。  その子の左側に座れば  あたしは空翔くんの左側に居れたのに。  耐えれなくなった。もう好きなの辞めたいって  こういう仕事をしてるんだ。って  こういう風に接客してるんだ。って  壊れそうになった午前4時。あたしはタクシーを呼んだ  "○□区△▽町☆※♡番までお願いします"  住所を伝えるだけで精一杯だった  声を出すのが精一杯で。  今は一言でも喋ったら涙が出そうになるから。  slowlyに行く前に空翔くんにメッセージを  送っていた。  空翔くんからの返事に返さず未読無視をしていた  そのトーク欄開いて  "ばか。"そう打って 送信ボタンを押そうとしたけど   その言葉は消した。  そこから家に着くまでのあたしの記憶は  きっとタクシーの運転手が消してくれた。   

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この恋に名前をつけて。 #3

 短い恋だった  浅はかな恋だった。  薄っぺらい恋だった。  何なら、恋と呼んでいいのか?  こうやって自分に言い聞かせても  やっぱりそんな恋は継続中。 「市ノ瀬さん!この書類、誤字脱字多いよ!」  ほら、また怒られた。  空翔くんのせいだよ。  全部空翔くんのせいなんだよ。  なんてまた空翔君のせいにして。  「ごめんなさい、すぐ直します」    あたしは臆病だからね。  あの後ちゃんと 聞けばよかっただけなのに。  "彼女、いるの?"って。  ただそれだけの事なのに、 あたしは臆病だから聞けなかった。  怖かった。聞けなかった。  その理由はひとつしか無かった。  絶対に諦められないから。  火に油を注ぐと同じように  恋をしたあたしに 「好きな人がいる」とか 「彼女がいる」なんて言われたら  もっと好きになる。  恋心は火事。  炎が段々と大きくなって、終いには  あたしの心ごと燃え尽きてしまう。  そんな事ばかりを考えて  気が付けば仕事も終わって  夕日が浮かぶ夕空の下で車を飛ばす  午後5時半  ポケットにしまった携帯が鳴った  どうせ、花梨でしょ。 なんて思って画面を見たら  そこには文字が 【三沢花梨】と、やはり現れた 「はーい」 『今日宅飲みでもしないかね?』 「めっちゃ毎週飲むじゃん」  週末の花梨。3週間連続だ。  学生時代ぶりかな  『優和も語りたいこと いっぱいあるだろうしね〜』  なんてあたしの事を 全て見透かしたかのように そう言って、きっと画面の向こうで 口角が上がっているのだろうと 想像できる花梨の声。     「「おつかれーい」」  1杯目はビールでしょ。  なんてかっこいいこと言えなくて。  1本目はグレープフルーツサワー。  あたし達のお決まりのお酒。  花梨「そんで?     好きなんでしょ?結局」  「認めたくないね。」   花梨「逆に認めてあげたら       楽になるかもよ?」  なんかちょっと悔しい。  花梨がかっこいいことを言ってる。 「好きって認めちゃったら苦しいよ。  接客業なのに他の人に 嫉妬しそうになるし、 詮索しちゃうし、 抜け出せなくなったら怖い。  てか、彼女、いるし。」  花梨「まぁ、半年前まで      2年も片思いしてたしね〜」    "いいじゃん。奪っちゃえば"  なんてまるで空翔くんが 誰かの物ように聞こえて。  あぁ、 あたしの所有物でも なんでもないんだ。って どこかに落ちてるものでもないんだって  少し辛くなった  もうそれは誰かに拾われてるもので。  あたしの方が早く見つけてたら  あたしは空翔くんを   拾えてたのだろうか?  寧ろ私が落ちてる物の方なのか。      なんて  よく分からない考えが頭を駆け抜けて  何も考えられないほど駆け抜けて  よく分からないけど、 別に悲しいわけじゃないけど  涙が出た。  認めちゃったの。 「あー、、好きだ。」      

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この恋に名前をつけて。 #2

「じゃあ今日も行く?」 最近ちょっと気付いた。  あたしの悪い癖は  ハマったらとことんなんだ。  美味しいと思ったら 飽きるまでほぼ毎日食べるし いい曲だなと思ったら 飽きるまで毎日聴くし  面白いなと思ったら 休日はその映画観るし    ハマったら抜け出せない沼みたいに  まるで何かに 取り憑かれてるかのように     永遠にリピートだ 「行きたい。」  会いたいんだ。  空翔くんに。 「「「「いらっしゃーい」」」」  来てしまった。  これはもう後には引けない。  そう思った。   「優和ちゃんこの間の   二階堂残ってるよ!」 「この間は面白すぎたなー。   二階堂結構空けてるよ」  満面の笑顔で愛想のいい、  オーナーの宗也《しゅうや》くんと  バイトリーダー的な    恭平《きょうへい》。  それと、 「やほ!優和ちん!」  なんてふざけたあだ名で  あたしの名前を呼ぶ空翔くん  そして初めましての  理太《りた》くん。 「初めましてー!噂は聞いてます。」  色白肌で犬っぽい顔をした可愛いらしい顔立ち。  この人はモテるだろうなぁ 「この間の記憶がないんだけど、  あたし達何本空けてるの?」  みんなにそう聞くと1番最初に 宗也くんでも 恭平くんでもなく、空翔くんが  "5本!"と指を5本立てて  ドヤ顔で見てくる  なんだそのドヤ顔は。 そして2本目からない記憶。   「待って記憶が無い。」  空翔「せやろーなー、   めちゃくちゃ優和ちゃん   はしゃいどったもん」  花梨「うちも4本目から   記憶がないわ!(笑)」 あたしに比べて  花梨は倍お酒が強かった。   ゲームもしてだいぶお酒も回った。  寧ろ酔っている。    時間はあっという間に  朝の9時だった。  ここにいる9時間は早かった。  時計の分針が 1時間に3回まわるくらい早く感じた。 「じゃあそろそろ帰るよー」  店員も皆店を閉めて 家に帰って寝たいはず。 あたしの隣の椅子に座っていたはずの  花梨は少し離れた椅子に  座って恭平とお喋り中  宗也くんと理太くんは  店を閉める準備をしている  さっきまで あたしの目の前にいたはずの  空翔くんが居なかった。  理太くんに聞いてみたら  "外に行って地元にいる家族と電話"  なんて言うから女の勘が 何か言ってしまった 「うそだー」なんて。  もう営業時間は過ぎてるけど  一応仕事中だぞー  粗相だーなんて。  そんな言い訳を、  緑ハイが入ったロックグラスと一緒に 外へ持って行った。  少し歩くと角に座ってる  空翔くんを発見。  小指を立てて手を振ると  空翔くんは顔を縦に動かした。   「とりあえず飲んで」  電話中なので一応小声で話しかけて  空翔くんの空いてる 左手に渡そうとしたけど  あたしの脳はもう動かなくて  筋肉に信号を与える事が 出来なくなっていた。  ロックグラスは、割れた。  ガッシャーン  響いた。  朝の空、誰も歩いていない街。  何も聞きたくないこの耳に。            

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この恋に名前をつけて。

市ノ瀬 優和《いちのせ ゆわ》  とても普通な社会人。20歳。  恋愛を沢山してきたが、 付き合った事は...ない。  生まれてきてから20年間、  ずっと片思いをして来たわけです。  学生の頃はよく好きな人がいた。  失恋しても一旦はクヨクヨするけど  またすぐに好きな人ができていた。  その繰り返しだ。    あたしの名前は 優しく、 穏やかに育って欲しい  そんな意味を込められて付けられた。    自分で言うのもなんだけど、  人に優しすぎて、  穏やかすぎて、  私はいつも友達止まり。 「優しいね」 「静かだね」  それ以外には何も無い。  まぁ、普通な社会人ではないか。  他人《ひと》より 少しおかしな社会人です。    今日はそんなあたしの誕生日。    あたしは今日20歳になりました。 「よし、じゃあ次はBARに行ってみよう!」  こちらは私の友達の 三沢 花梨《みさわ かりん》  私より先に20歳になった花梨は お酒を飲む場所を沢山知っている。 「BAR!? そんなところで飲めれるのか心配...」  少し酔っ払っていた私のカラダが  一瞬にして冷めた。 「大丈夫!  そんなしんみーりと飲むような所じゃないの!  めーちゃくちゃ盛り上げてくれるし、  店員イケメンだし、楽しいから!」  目を輝かせながらそう言う 花梨の目を見ると私は断れない。 「じゃー、行くかー。」 「そう来なくっちゃねー!さぁ行くぞー!」  駅から5分。  ガラス張りの中が見えるBAR  中には狭そうな空間で楽しそうに  お酒を飲んで騒いでる店員と客。  (ここはちょっとうるさすぎるかな... とゆーかこんな狭い中にこんなに人入れるの凄いなぁ)  なんて思ってた矢先の事。 「ここだよ!」  なんて花梨が 手書きで描かれているかような              [slowly]    と書かれている店のドアを指さし、     中から店員が手を振っている。    なんて店だ...    花梨「やっほー」 「おー!花梨久しぶり〜」 「やっほー!この子は?」 「かーりん!新人連れて来たん?」  続々と花梨に話しかけてくる 3人の店員。    花梨「そうそう!新人連れて来た!     まだお酒覚えたてだから、     お手柔らかに!」  あー...こんな場所に来てしまった。 大丈夫かな。 「何飲む?」 「あー... 」  あたしの目線の先にあった二階堂 咄嗟に口に出た。 「二階堂で...」 「お酒覚えたてなのにイカついなぁ(笑)         緑茶割で大丈夫?」 「あ、ハイ...」 「花梨ちゃんはー?」 あたしの左側に座っていた 花梨に店員が話しかける そうしたら次は 別の店員が話しかけてきた。    さっき店に入った時には  話しかけて来なかった店員だ。   「お名前なんて言うんですか?」 「あ..優和です」   「えー!俺ゆわって名前初めて聞いた!  出会った事ない!今日初めて出会った!」  ”どんな字、書くんですか?”    関西よりのイントネーションで話す彼が  そう言って小さな紙切れ1枚と  ポールペンを持ってくる。    ”優和” そう書くと彼はこう言った。 「笑顔が似合いそうな名前してるね」  なんて臭いセリフなんだ。    でも、みんなが私に言う  ”優しそう” でも ”静かそう” なんて 在り来りな言葉じゃなく、  ”笑顔が似合いそう”なんて言われたのは初めてで、   「なんですかそれ、初めて言われました」    なんて少し気が緩んで笑ってしまった 「ほら、やっぱ似合うじゃん、笑顔。」  なんて少し意地悪そうに笑う     そんな彼の名前は    響 空翔《ひびき くうと》    色んなゲームやコールなどを覚えてしまった        2022年の冬。                  この日から私は     初めて何かにハマった。     抜け出せない何かに。     この恋をなんと呼べばいいかな。    

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