レモンティー

9 件の小説
Profile picture

レモンティー

好きなのはピーチティーです。ラーメンと言えば豚骨です。アルファポリスの方で長編に挑戦中です。名前は同じです。暇つぶしに読んでくれたら嬉しいです!

鍵が開いた先

コツン……と何かを蹴った音。 足元をスマホで照らし、蹴ってしまった物を探して手に取った。 「落し物…だよな、これ。」 朝出勤する時、このアパートの曲がり角には確かに無かったはずの物。 今朝は歩きスマホで角のブロックに足をぶつけたから、この辺りの状況はたまたま鮮明に記憶に残っていた。 「キーケース…?花柄だし、女物っぽい。」 中を開き、持ち主が特定出来そうな物が無いかを一応確認した。 「キーケースだもんなぁ…なんも無いわ。しかしこれ、多分家の鍵…だよね?でかいし。」 中に1つだけ引っ掛けられた、アパートにはよくある形の鍵。 持ち主は家に入れず困っているに違いない。 左手首に巻かれた時計は現在10時を指している。 「ん〜…持って入る訳にはなぁ…交番も遠いし、もしかしたら探しに来て、入れ違いになる可能性もあるわなぁ。」 正直、仕事で疲れたので早く帰ってさっさと風呂とメシを済ませてしまいたい。 しかし気になってしかたない。 気掛かりで仕方ない。 もしこのまま置いて知らない顔したら? 他の誰かが拾って悪用するかもしれない。 取りに来た女性に乱暴するかもしれない。 もしかしたら………。 次々頭の中に浮かぶ《最悪》。 しかし、自分であれば、危害を加えない自信がある。 自分には、そんな度胸がないからだ。 そんなリスクをわざわざ負う理由もないからだ。 「…仕方ねーなぁ。不審者扱いされるかもしれないけど…。あぁ、一応警察に連絡しとくか。」 全くの他人が信用して貰える保証はないが、後日『見つかりました』と警察に報告して貰えば問題ない。 「あ、もしもし。すみません、落し物を拾ったんですが……」 『あの!すみません!この辺りに鍵が落ちてませんでしたか!?』 「あ……すみません、落とし主がいらっしゃったみたいなんで、大丈夫みたいです。はい、失礼します。」 電話を切り、声の主を微かな明かりを頼りに確認する。 「…あ。」 ーーーー 『ねぇパパ!ママはどんな顔してたの?』 「ん〜?そうだな〜…いつも俺達を見送る時みたいに、優しく笑ってたよ。」 『ママはその時パパを好きになったの?』 「さぁね?でも、後々あの時の話をしたらそう言ってたよ。」 『どうしてー?』 「ん?…パパが良い人に見えたからだってー。」 『ママ、凄いね!』 「そうだね。」 『ねぇ、ぷろぽーずはどっちがしたの?』 「お、難しい言葉知ってるねぇ。えっとね、プロポーズはパパがしたんだよ。」 『なんて言ったのー?』 「これからずっと、一緒の鍵を使いましょう…だったかな?」 『あら。あなた、違うわよ?それは同棲する時!プロポーズは、鍵を落としてももう二度と困らせないから、だったわよ!』 「そうだっけ?」 『あと、ご飯出来たから2人とも手洗って来てね。今日は結婚記念日だから…ちょっと気合い入ってるわよ〜?』 『やったー!』 「嬉しいねー!あ、そうだ!そろそろ10年経つだろ?プレゼント準備してきたよ。」 『あら、今年はなぁに?』 「キーケース。…昔プレゼントしたのをずっと大事に使ってくれてるけどさ、そろそろキーホルダーつけてるとこが限界そうだし?」 『ん〜…気に入ってたんだけどなぁ。』 「今度のも、きっと気に入ってくれるはずだよ。……どう?」 『あ…可愛い!相変わらず私の好み、よく分かってくれてるのね。』 「また10年、使ってくれたら嬉しいなー。」 『もちろんよ。ありがとう。これも大事にするからね!あ、鍵つけ直さなきゃ。それと…これ、捨てないで取ってていい?』 「そんなに気に入ってくれてたんだなー。めっちゃ嬉しい。」 ニコニコしながら新しいキーケースに鍵を付け替えるのを見て、僕もつられて余計に嬉しくなる。 『前に旅行に行った時に買ったキーホルダーもつけてみたんだけど…おかしくない?』 「ん?うん!思い出がいっぱいのキーケースで良いじゃん!」 残念ながら、僕らの運命を開いてくれた鍵は、もうキーケースの中に納まる事はない。 しかし、僕らはこれまでの10年、そしてこれから何年もずっとお互い同じ鍵を手に、沢山の思い出を彼女のキーケースにぶら下げていく事になるだろう。 10年後は娘と3人で、同じキーケースを揃えよう。

0
0
鍵が開いた先

コントローラー

もし私が2人居て、片方の私がコントローラーを持っていたら。 そう思う時がある。 何もやりたくない時。 逃げたい時。 もう1人の私はどう動かす? プレイされてる側の私の気持ちを察して、コントローラー放置してくれるかな。 配管工おじさんのゲームみたいに、上手く障害を避けて安全に移動してくれるかな。 たくさんの言葉の選択肢から、1番平和な選択をしてくれるかな。 「でもどっちも自分なんだもんな。…結果はどうせ一緒だった。」 この人生を私が生きる以上は。 「でも、多分、最善の選択なんだよね。これが。」 退職届を手に、私は重たい身体を引きずる様に職場へ向かう。 きっかけは、些細な喧嘩。 膨大な言葉の選択肢の中から、もう1人の私が選んだ選択の結果。 「次の職場では、間違えない。きっとこの転職は、私のレベルアップに必要だった経験。」 《私》と言うキャラクターは、レベルが上がったはずだから。 こうして経験値を貯めて、より良いゲームクリアーを目指すのが人生。 職場を背にして、自分の胸に手をあてる。 「必ず良いゲームにしようね、もう1人の私。」 家路に着く私の足は、とても軽かった。

3
0

ショッピングモール

「は〜……。」 イライラする。 来るんじゃなかった。 今日はヤケに周囲がうるさい。 GWだ、と店について気がついた。 ここ最近、仕事が多くて人間関係もピリついたままだった。 ちょっと気分転換に、と久々の休みにフラフラやってきたショッピングモール。 いつもなら、この時間はもっとガラっとしているはずなのに。 身勝手な怒りを心の中でぶつける。 「ゲーセンでも行くか。」 2階にフラフラ歩いていく。 楽しそうな他人が今日は目障りで仕方ない。 眉間に皺を寄せたまま、ゲームセンターの中を歩いて物色するが、特に良いものも無かった。 そもそも景品を持って帰る、と言うのがもう面倒になってきた。 「あ〜…。あれでいいか。」 経験などないが、誰も座ってないパチンコ台に座って100円を投入し、少しずつ調節して穴を狙う。 ギャンブル好きの同僚から聞いた話を元に、左側を狙って画面の中のキャラクターが動くのを見つめた。 「……おぉ。」 ボタンがブルブル震え、何やら派手な演出が続く。 右を狙え、と言う指示に従い、右側を適当に狙った。 チャリン、チャリン、と出てくるメダル。 訳の分からない数字に演出。 「これがビギナーズラックってやつね…。」 こんな所で幸運を使うのはもったいない気はするが、頑張った自分にご褒美をくれている様な気分になる。 ボーっとしている内に、少しは気分も晴れてきたかもしれない。 しかし、困った。 無駄に出てきたメダルを抱え、使い道に悩む。 「……あ、ねぇ、君たちメダル今から買うところ?良かったらこれ、要らないから貰って。」 『え?いいんですか!?』 『え、どうしよ!お母さんに電話する!』 まだ小学生であろう2人組の男の子達は目を輝かせながら親に連絡を始め、貰ったメダルの事を嬉々として語っていた。 「それじゃ、楽しんでね。」 『『ありがとうございます!』』 100円で手に入れた500枚程度のメダルを両手に抱え、律儀に頭を下げる子どもがとても純粋で眩しかった。 「……帰るか。」 駐車場の車に乗り込み、発進させる。 「あの子達を喜ばせるために、今日があったのかもなぁ。」 些細な事かもしれないが、自分の運命は誰かに繋がってるんだ、と思うと、こんな1日も悪くなかった様に思えた。 「あ〜……明日仕事か〜…。ま、気楽にやろう。」 家に着いて洗面台で手を洗い、ふと鏡の中の自分の顔に気がついた。 「子どもの笑顔ってすげぇのな。」 この1週間、ずっとしかめっ面だった自分の顔が、とても穏やかに見えた。

4
5

「窓」の外

「窓かー…。窓と言えば、窓口にただの窓、窓辺に窓際。出窓に天窓。」 『あ、あと窓前とか、回転窓!』 今週のお題を見ながら、2人で知る限りの「窓」を並べていく。 「調べて見たら、宇宙の窓、なんてのもあるんやってさー。」 『え、なにそれ、かっけー。』 「春は星座が少なくて、夜空にぽっかり空いたスペースがあるんだって。で、そこから遠くの銀河が見えるらしくて。だからそのスペースを、宇宙の窓って言うらしいよ。」 『へー!スペースの空いたとこからスペースを見渡すってコト!?』 なんだよ。 上手いことを言いやがるなぁ。 「いいよねー、宇宙。」 『ねー。』 「なんか…アレだよね。窓って聞いたら小さく感じる。」 『宇宙と家の窓の規模を一緒にするなよ。』 「ごめん。」 『でもわかる。空ってすげー広いのに、そこに窓をつけたら…なんか顔出して覗いたら、すげー見えそうだし手が届きそうに感じる。』 「人間には望遠鏡が宇宙に続く唯一の窓っぽいけどね。」 『だからそのスペースを望遠鏡で覗いてスペースを覗くんだろ?宇宙の窓。』 う〜ん…なんだか ややこしくなってきたぞ…。 「あっ。そーいや、深窓があったなぁ。」 『ね、あれってどーゆー意味なん?』 「…調べるわ。」 『知らんのかい。』 「この機械の箱は、知識の窓口みたいなもんでしょ。深窓…深窓……へー、屋敷内の奥の部屋…だって。」 『箱入りムスメ…ってコト!?』 「何よ、ハ〇ワレ推し?私白くてちいさくて可愛い方が好きなんだけど。」 『誰かが作ったパチンカス動画面白くってハマった。』 今や日本で大ブームの漫画。 彼もどうやら ご執心だそうで。 「でも面白いよね。同じ窓なのにさ。使われてるのが建築物についてるもんだけじゃないところが、日本語の面白いとこよね。」 『ねー……はっ!!社会の窓とか!』 「絶対それ言うだろうと思ってた。」 『なんだよ、バレてた?』 「そりゃね。」 いつもしょーもない事を言ってるんだから、分からない訳ないよ。 いつもあなたの心を、望遠鏡で見てますから。 「恥ずかしかったらしっかり心のカーテン閉めときなよ。」 『はーい。では、閉店ガラガラ〜。』 「懐かしいネタやなぁ。」 さて。 昼食も終えた事だし、そろそろ私は掃除でも しようかな。 まずは、部屋の空気でも入れ替えますかね。 「『……さむっ!!』」 …早く終わらせて閉めよーっと。

2
0
「窓」の外

話にならないキャンプ

「今回のお題、キャンプだってさ。適当に話作ってみてよー。」 『ある日、僕はキャンプに行きました。…次の日、無事お家に帰りました。めでたしめでたし。』 「ねぇ。簡潔過ぎるでしょ、それ。」 『だいたいの話なんて、まとめたらそんなもんでしょ?』 「ちゃんとした物語!作ってみてよー。いつも小説読んでるんやし、多少浮かぶんやないのー?」 『…ん〜……でもさ、日本を代表する我らの日本昔ばなしさま だって、30秒にまとめたらそんな感じだよね?』 「……言われてみれば…まぁ…確かに。いやでもさぁ、…いや、結論それしか出てこなくなったから、考える事 放棄した私の頭の負けだわ。」 『じゃ、俺はゲームしよーっと♪』 「キャンプ…キャンプ……あー、浮かばない〜…!っつーかYou○ube!コメント消しすぎ!なんで高速で埼玉行っちゃったんですね、で消されるんだよ!この世は不思議しかないの!?」 『違うよー。理不尽しかないの。』 「……っ…!!真理…!!」 なんてことない日常会話。 そして物語にならないまま終わってしまったキャンプのお題。 今日も我が家は平和です。

1
0
話にならないキャンプ

表裏

私が数年愛用している、このA6の小さなノート。 どのページを開いて見ても、真っ白だ。 しかし、このノートほど私の感情を書き込んだものは無い。 「どのページも空白だらけなのに?」 そう。 空白だらけでも、だ。 裏表紙だけは、何を書いてきたか もう自分ですら分からない。 私の抑えてきた言葉、感情、全てここに書き連ね、重ね、置いてある。 自分で見えない私の心の中だけは、どうか、このノートのページの様に、白であって欲しい。 お願いだから、黒にも赤にも染まらないで。

11
2
表裏

カレンダー

今日は2月8日。 特にいつもと変わりなく、いつも通りの仕事をこなして いつも通りの時間に帰宅。 いつもの様にお風呂に入り、いつもの様にスマホをいじる。 去年の今日はどうだったっけ。 一昨年は? 5年前は? 10年前は? 覚えてないや。 きっと今日も、自分に忘れられてしまう1日として過ぎていく。 それが幸せなのか、不幸なのか。 どちらだろうか。 生きてる事を幸せと思っていない自分には、ただ日々を重ねている事が不幸なのかもしれない。 でも、猫と一緒に布団に包まれる時間が好きな私には、幸せなのかもしれない。 来年か、再来年か……遅かれ早かれ、いつか猫と別れる日は来るだろう。 けど、それが今日じゃなければいい。 毎日そう考え、変化もなく過ぎる。 私の記憶に残らない日。 それはつまり、猫は元気で居ると言う証明。 私の記憶に残らない日々が続きます様に。 平穏な日々が続きます様に。 あと2時間で、また記憶に残らない今日が終わる。

4
0
カレンダー

ギター

『今日のお題は?先日は鍋がどーとか言ってたアレ。』 「あぁ、小説のアプリの?今はギターだって。なんも思いつかんわ。」 『はぁ?ギター?…ギター……ギッタギタにしーてやんよー♪』 「それミク〇クじゃん。」 『はっ!バレた!』 「バレるもなんも、音程もリズムもそのままやんw」 そんなしょうもない会話をするのが、すっかり当たり前だ。 5年前は『週1で実家帰りたい。家でのんびりしたい。』とか言ってたクセに。 今では私が「たまには実家帰ってよ。1人の時間欲しいんだけど。」と言うくらい帰らない。 彼にとって、もうすっかり ここが自分の居場所になっているらしい。 『帰る』と言わなくなった今、この人はこの家に居るのが幸せになってるんだろうか。 ちょっと聞いてみよう。 「幸せなん?」 『んー?幸せだよ〜、おん、おん。』 全く、アホなヤツ。 私とこれだけ長く居るには、これくらいアホじゃなきゃダメだって事? …なんだか複雑。 でも、これまでの誰より安心する。 地位も名誉も金も無い男だけど、私の側に長く居る才能だけは、きっと世界一なんだろう。 全く…アホ面して小説読んでんなぁ、今日も。

5
2

鍋の中

強い火に熱され、ぐつぐつと煮えたぎる鍋の中を私はじっと見つめる。 鍋。 鍋は人の心の器の様。 感情と言う熱で心を熱し、中までしっかり煮えたぎらせる。 そして中身がどれだけ狂っていようと 静かにそこに変わらずあるだけ。 それの中を覗かなければ、中身がどうなっているかも分からない。 「今夜はきっと、良い夜になる。」 おたまで掬ったスープを小皿に移し、1口飲み込んで舌舐りをした。 「今夜で終わり。」 透明の液体を1滴垂らし、満足な笑みを浮かべて火を消した。 誰も分からないでしょう? 今、この鍋を見たところで。 私の怒りや苦しみを。 この感情は鍋が全て覆い隠してくれる。 『おい、ババァ。メシまだ?』 『早くしろよ。こっちは仕事で疲れてんだよ!』 「あ、はぁい、ごめんなさいね。今夜はとびっきり美味しくなる様に作ったから少し時間が掛かっちゃって……」 『言い訳は良いんだよ!』 ぐっと感情を抑え込む様に鍋の把手(はしゅ)を掴む。 「お待たせ致しました。どうぞ。」 数分後、私は笑顔で空になった鍋の中を洗った。 「きっと数日後には、お別れだもの。お礼に今夜はしっかりお手入れしてあげなきゃね。」 その夜、台所に丁寧に置かれていた鍋は、焦げた跡ひとつ無くとても美しかった。

4
0