レモンティー
6 件の小説「窓」の外
「窓かー…。窓と言えば、窓口にただの窓、窓辺に窓際。出窓に天窓。」 『あ、あと窓前とか、回転窓!』 今週のお題を見ながら、2人で知る限りの「窓」を並べていく。 「調べて見たら、宇宙の窓、なんてのもあるんやってさー。」 『え、なにそれ、かっけー。』 「春は星座が少なくて、夜空にぽっかり空いたスペースがあるんだって。で、そこから遠くの銀河が見えるらしくて。だからそのスペースを、宇宙の窓って言うらしいよ。」 『へー!スペースの空いたとこからスペースを見渡すってコト!?』 なんだよ。 上手いことを言いやがるなぁ。 「いいよねー、宇宙。」 『ねー。』 「なんか…アレだよね。窓って聞いたら小さく感じる。」 『宇宙と家の窓の規模を一緒にするなよ。』 「ごめん。」 『でもわかる。空ってすげー広いのに、そこに窓をつけたら…なんか顔出して覗いたら、すげー見えそうだし手が届きそうに感じる。』 「人間には望遠鏡が宇宙に続く唯一の窓っぽいけどね。」 『だからそのスペースを望遠鏡で覗いてスペースを覗くんだろ?宇宙の窓。』 う〜ん…なんだか ややこしくなってきたぞ…。 「あっ。そーいや、深窓があったなぁ。」 『ね、あれってどーゆー意味なん?』 「…調べるわ。」 『知らんのかい。』 「この機械の箱は、知識の窓口みたいなもんでしょ。深窓…深窓……へー、屋敷内の奥の部屋…だって。」 『箱入りムスメ…ってコト!?』 「何よ、ハ〇ワレ推し?私白くてちいさくて可愛い方が好きなんだけど。」 『誰かが作ったパチンカス動画面白くってハマった。』 今や日本で大ブームの漫画。 彼もどうやら ご執心だそうで。 「でも面白いよね。同じ窓なのにさ。使われてるのが建築物についてるもんだけじゃないところが、日本語の面白いとこよね。」 『ねー……はっ!!社会の窓とか!』 「絶対それ言うだろうと思ってた。」 『なんだよ、バレてた?』 「そりゃね。」 いつもしょーもない事を言ってるんだから、分からない訳ないよ。 いつもあなたの心を、望遠鏡で見てますから。 「恥ずかしかったらしっかり心のカーテン閉めときなよ。」 『はーい。では、閉店ガラガラ〜。』 「懐かしいネタやなぁ。」 さて。 昼食も終えた事だし、そろそろ私は掃除でも しようかな。 まずは、部屋の空気でも入れ替えますかね。 「『……さむっ!!』」 …早く終わらせて閉めよーっと。
話にならないキャンプ
「今回のお題、キャンプだってさ。適当に話作ってみてよー。」 『ある日、僕はキャンプに行きました。…次の日、無事お家に帰りました。めでたしめでたし。』 「ねぇ。簡潔過ぎるでしょ、それ。」 『だいたいの話なんて、まとめたらそんなもんでしょ?』 「ちゃんとした物語!作ってみてよー。いつも小説読んでるんやし、多少浮かぶんやないのー?」 『…ん〜……でもさ、日本を代表する我らの日本昔ばなしさま だって、30秒にまとめたらそんな感じだよね?』 「……言われてみれば…まぁ…確かに。いやでもさぁ、…いや、結論それしか出てこなくなったから、考える事 放棄した私の頭の負けだわ。」 『じゃ、俺はゲームしよーっと♪』 「キャンプ…キャンプ……あー、浮かばない〜…!っつーかYou○ube!コメント消しすぎ!なんで高速で埼玉行っちゃったんですね、で消されるんだよ!この世は不思議しかないの!?」 『違うよー。理不尽しかないの。』 「……っ…!!真理…!!」 なんてことない日常会話。 そして物語にならないまま終わってしまったキャンプのお題。 今日も我が家は平和です。
表裏
私が数年愛用している、このA6の小さなノート。 どのページを開いて見ても、真っ白だ。 しかし、このノートほど私の感情を書き込んだものは無い。 「どのページも空白だらけなのに?」 そう。 空白だらけでも、だ。 裏表紙だけは、何を書いてきたか もう自分ですら分からない。 私の抑えてきた言葉、感情、全てここに書き連ね、重ね、置いてある。 自分で見えない私の心の中だけは、どうか、このノートのページの様に、白であって欲しい。 お願いだから、黒にも赤にも染まらないで。
カレンダー
今日は2月8日。 特にいつもと変わりなく、いつも通りの仕事をこなして いつも通りの時間に帰宅。 いつもの様にお風呂に入り、いつもの様にスマホをいじる。 去年の今日はどうだったっけ。 一昨年は? 5年前は? 10年前は? 覚えてないや。 きっと今日も、自分に忘れられてしまう1日として過ぎていく。 それが幸せなのか、不幸なのか。 どちらだろうか。 生きてる事を幸せと思っていない自分には、ただ日々を重ねている事が不幸なのかもしれない。 でも、猫と一緒に布団に包まれる時間が好きな私には、幸せなのかもしれない。 来年か、再来年か……遅かれ早かれ、いつか猫と別れる日は来るだろう。 けど、それが今日じゃなければいい。 毎日そう考え、変化もなく過ぎる。 私の記憶に残らない日。 それはつまり、猫は元気で居ると言う証明。 私の記憶に残らない日々が続きます様に。 平穏な日々が続きます様に。 あと2時間で、また記憶に残らない今日が終わる。
ギター
『今日のお題は?先日は鍋がどーとか言ってたアレ。』 「あぁ、小説のアプリの?今はギターだって。なんも思いつかんわ。」 『はぁ?ギター?…ギター……ギッタギタにしーてやんよー♪』 「それミク〇クじゃん。」 『はっ!バレた!』 「バレるもなんも、音程もリズムもそのままやんw」 そんなしょうもない会話をするのが、すっかり当たり前だ。 5年前は『週1で実家帰りたい。家でのんびりしたい。』とか言ってたクセに。 今では私が「たまには実家帰ってよ。1人の時間欲しいんだけど。」と言うくらい帰らない。 彼にとって、もうすっかり ここが自分の居場所になっているらしい。 『帰る』と言わなくなった今、この人はこの家に居るのが幸せになってるんだろうか。 ちょっと聞いてみよう。 「幸せなん?」 『んー?幸せだよ〜、おん、おん。』 全く、アホなヤツ。 私とこれだけ長く居るには、これくらいアホじゃなきゃダメだって事? …なんだか複雑。 でも、これまでの誰より安心する。 地位も名誉も金も無い男だけど、私の側に長く居る才能だけは、きっと世界一なんだろう。 全く…アホ面して小説読んでんなぁ、今日も。
鍋の中
強い火に熱され、ぐつぐつと煮えたぎる鍋の中を私はじっと見つめる。 鍋。 鍋は人の心の器の様。 感情と言う熱で心を熱し、中までしっかり煮えたぎらせる。 そして中身がどれだけ狂っていようと 静かにそこに変わらずあるだけ。 それの中を覗かなければ、中身がどうなっているかも分からない。 「今夜はきっと、良い夜になる。」 おたまで掬ったスープを小皿に移し、1口飲み込んで舌舐りをした。 「今夜で終わり。」 透明の液体を1滴垂らし、満足な笑みを浮かべて火を消した。 誰も分からないでしょう? 今、この鍋を見たところで。 私の怒りや苦しみを。 この感情は鍋が全て覆い隠してくれる。 『おい、ババァ。メシまだ?』 『早くしろよ。こっちは仕事で疲れてんだよ!』 「あ、はぁい、ごめんなさいね。今夜はとびっきり美味しくなる様に作ったから少し時間が掛かっちゃって……」 『言い訳は良いんだよ!』 ぐっと感情を抑え込む様に鍋の把手(はしゅ)を掴む。 「お待たせ致しました。どうぞ。」 数分後、私は笑顔で空になった鍋の中を洗った。 「きっと数日後には、お別れだもの。お礼に今夜はしっかりお手入れしてあげなきゃね。」 その夜、台所に丁寧に置かれていた鍋は、焦げた跡ひとつ無くとても美しかった。