R
15 件の小説第二章・第八話
【裏切りの街】 霧の立ちこめる、石畳の街。 遠くで鐘の音が鳴っていた。 Rたちは、街の入り口に立つ。 「……ここ、前に来たときは平和だったよね」 ユナが、小さく言う。 ジンが、眉をひそめる。 「……でも……気配が、違う」 街は、静かすぎた。 人の声が、しない。 Rは、ゆっくり歩き出す。 「……行こう」 中へ入ると―― 全員、仮面をつけている。 住民も、商人も、 子供でさえ。 しかも―― 黒い紋章。 エクリプスの印。 「……なに、これ……」 ユナが、息を呑む。 その時―― 「……よく来たな」 聞き覚えのある声。 前方の広場に、 ひとりの男が立っていた。 街の代表―― かつて、Rたちを歓迎した人物。 「……あなた……」 Rは、唇を噛む。 「……街を、売ったんですか」 男は、仮面の奥で笑った。 「……守るためだ」 「……力がなければ、奪われるだけだ」 ジンが、低く言う。 「……それで、エクリプスに従った」 「……そうだ」 男は、腕を広げる。 「……ここはもう、 “選ばれた街”だ」 次の瞬間―― 住民たちが、一斉に動いた。 Rは、前に出る。 「……ユナ、下がって」 ユナは、首を振る。 「……一緒に、行く」 戦いが、始まった。 だが―― 住民たちは、 操られているようだった。 目が、虚ろ。 「……くそ……」 Rは、拳を止める。 「……殴れない……」 その時―― 「……甘いな」 影から、声。 仮面の男が、現れる。 エクリプスの“街管理官”。 「……この街は、もう“箱庭”だ」 Rは、歯を食いしばる。 ――守るために、戦う。 でも―― 傷つけたくない。 葛藤の中で、 Rは、初めて“迷い”を抱く。 その迷いが―― 後に、 最大の試練になる。
第二章・第七話
【最初のチーム戦】 夜の廃工場。 錆びた鉄骨が、 月明かりに照らされていた。 Rたちは、屋根の上に伏せている。 下では―― エクリプスの構成員たちが、 仮面をつけて巡回していた。 「……数は、十人以上」 ジンが、静かに言う。 「……真正面は、きついな」 カイが、にやっと笑う。 「……だから、俺たちがいる」 ユナは、短く息を吸う。 「……合図は、Rね」 Rは、頷く。 胸が、高鳴る。 ――初めての“仲間と戦う”瞬間。 Rは、手を上げ―― 下ろした。 ――開始。 カイが、先に飛び降りる。 軽やかに、 影の中へ消える。 「……っ!?」 一人、倒れる。 音もなく。 次に、ユナ。 仮面をつけた瞬間、 風が、渦を巻く。 ユナは、 敵の動きを“ずらす”。 「……今!」 ジンが、正面から突っ込む。 剣の仮面。 一閃―― 二人、倒れる。 Rは、屋根から飛び降りた。 ――仮面は、つけない。 地面に着地。 そのまま、 敵の背後に回る。 殴る。 蹴る。 止まらない。 四人の動きが、 自然と噛み合っていく。 「……連携、できてる!」 カイが、笑う。 「……初めてにしては、上出来だな」 だが―― 「……侵入者か」 低い声。 工場の奥から、 大きな影が現れた。 重装型の仮面。 力系。 「……来たな」 Rは、拳を握る。 クロウの声が、背後から聞こえた。 「……R」 「……正面から、行くな」 Rは、頷く。 「……分かった」 ユナが、風で足場を作る。 カイが、背後を取る。 ジンが、正面で引きつける。 Rは―― その“隙”に、踏み込んだ。 ――渾身の一撃。 重装型が、崩れ落ちる。 仮面が、地面に転がる。 静寂。 Rは、息を整えながら言った。 「……みんな……」 ユナが、笑う。 「……うん。チームだね」 ジンは、短く頷く。 「……これが、始まりだ」 カイは、肩を回す。 「……面白くなってきたな」 クロウは、遠くで見ていた。 何も言わない。 だが―― その背中は、少しだけ、 誇らしそうだった。
第二章・第六話
【仲間、参戦】 砂漠地帯の外れ。 崩れかけた橋の前で、 Rたちは足を止めていた。 「……この先、街だな」 カイが、地図を見ながら言う。 クロウは、周囲を見渡す。 「……気配が、騒がしい」 その時―― 「Rーーー!!」 聞き覚えのある声が、 橋の向こうから響いた。 Rは、はっと顔を上げる。 「……ユナ?」 次の瞬間―― 小柄な影が、全力で走ってきて、 Rに飛びついた。 「……もう! どれだけ心配したと思ってるの!」 Rは、慌てる。 「……ユナ……なんで……」 ユナは、Rを見上げる。 「……じっとしてられなかった」 その後ろから―― 「……ま、俺も同じ」 低い声。 黒髪の青年が、 橋の影から出てきた。 冷静そうな目。 だが、どこか熱を秘めている。 「……ジン」 Rは、驚く。 「……来たのか……」 ジンは、頷いた。 「……街が、危ない」 クロウが、静かに言う。 「……君たちは……」 ユナは、真っ直ぐ答えた。 「……Rを、取り戻しに来ました」 Rの胸が、熱くなる。 ジンが、腕を組む。 「……それに」 「……エクリプスが、俺の家族を奪った」 空気が、変わった。 カイが、歯を食いしばる。 「……そうか」 クロウは、二人を見る。 「……覚悟はあるか」 ユナとジンは、同時に頷いた。 「……ある」 クロウは、少しだけ目を細めた。 「……なら、来い」 こうして―― R、ユナ、カイ、ジン。 四人が、並んで立った。 クロウは、その前を歩く。 影が、夕日に伸びる。 ――仲間が、そろった。 ここから先は、 もう一人じゃない。
第二章・第五話
【過去の影】 夜。 焚き火の音だけが、 静かに鳴っていた。 Rとカイは、 火を挟んで座っている。 クロウは、少し離れた場所で、 岩に腰を下ろしていた。 沈黙が、重い。 Rは、意を決して口を開く。 「……クロウ」 「……なんだ」 「……ゼオンと…… 何があったんですか」 クロウは、すぐには答えなかった。 火を見つめたまま、 しばらく黙っている。 やがて―― 「……あいつは、昔の俺の“仲間”だ」 Rとカイは、息を呑む。 「……え」 「……同じ師のもとで、修行した」 クロウの声は、低く、静かだった。 「……だが、道を違えた」 Rは、焚き火を見つめながら聞く。 「……どうして」 「……力の使い方だ」 クロウは、拳を握る。 「……俺は、守るために使いたかった」 「……あいつは、支配するために使いたかった」 カイが、ぽつりと言う。 「……それで、エクリプスに……」 「……ああ」 クロウは、頷く。 「……ゼオンは、ノクスの右腕だ」 Rの胸が、ざわつく。 「……ノクス……」 クロウは、火を見る。 「……あいつは、仮面の力に“酔っている”」 Rは、唇を噛む。 「……じゃあ、クロウは……」 「……俺は、仮面を一つしか使わないと決めた」 Rとカイは、驚く。 「……え?」 クロウは、Rを見る。 「……仮面を集めるほど、人は壊れる」 「……だから、俺は――」 少しだけ、間を置いて言う。 「……“一つだけ”を、極めた」 風が、吹いた。 焚き火が、揺れる。 「……だが、ノクスは違う」 クロウの声が、低くなる。 「……頂点の仮面を、欲している」 Rの心臓が、強く鳴った。 ――あの、昔話の仮面。 クロウは、続ける。 「……あいつが、それを手にしたら……」 「……世界は、終わる」 Rは、拳を握りしめた。 「……じゃあ……俺が……」 言いかけて、止まる。 クロウは、Rを見る。 「……お前が、止める」 Rは、目を見開く。 「……俺が……?」 「……そうだ」 クロウは、静かに言った。 「……だから、鍛える」 火の中で、薪が、ぱちっと弾けた。 Rは、空を見上げる。 ――遠くに、星が瞬いていた。 あの星の下に、 ゼオンがいる。 ノクスがいる。 そして―― Rは、そこへ行く。
第二章・第四話
【影の名「ゼオン」】 夕暮れ。 空が、血のように赤く染まっていた。 Rたちは、丘の上に立っていた。 さっき倒した斥候の仮面を、 クロウが調べている。 「……エクリプスの中でも、下の方だな」 クロウは、淡々と言う。 その時―― 拍手が、響いた。 ――パン……パン……。 静かな拍手。 三人は、振り向く。 丘の反対側に、 ひとりの男が立っていた。 長いコート。 顔には、黒と銀の混ざった仮面。 だが―― “格”が違う。 ただ立っているだけで、 空気が、重くなる。 「……いい戦いだった」 低く、落ち着いた声。 Rは、直感で分かった。 ――こいつは、違う。 クロウが、一歩前に出る。 「……エクリプスの、幹部か」 男は、くすっと笑った。 「……そう呼ばれることもある」 そして―― 仮面の下で、 ゆっくり名乗る。 「……俺の名は、ゼオン」 その名を聞いた瞬間、 Rの背筋が、凍った。 「……R、下がれ」 クロウが、低く言う。 だが、Rは、動けない。 ――体が、言うことを聞かない。 ゼオンは、Rを見た。 「……ほう。 仮面もつけずに、立っている」 少しだけ、興味を持った声。 「……面白い」 次の瞬間―― ゼオンは、消えた。 「……っ!?」 Rの視界が、揺れる。 気づいた時には―― Rの喉元に、 ゼオンの指が当たっていた。 ――一瞬。 それだけで、 Rは、動けない。 「……弱いな」 ゼオンは、囁く。 「……だが」 クロウを見る。 「……こいつの弟子か」 クロウの目が、鋭くなる。 「……手を離せ」 ゼオンは、少しだけ笑った。 「……変わらないな、クロウ」 Rは、はっとする。 「……知り合い……?」 ゼオンは、指を離し、 Rを突き飛ばした。 「……昔な」 Rは、地面に倒れた。 息が、詰まる。 ゼオンは、空を見上げる。 「……ノクス様は、こう言っていた」 クロウの方を見る。 「……“まだ、生きているとは思わなかった”」 クロウは、無言。 ゼオンは、再びRを見る。 「……R」 名前を呼ばれて、 Rは、ぞくっとした。 「……今は殺さない」 ゼオンは、背を向ける。 「……育てる価値が、ある」 そう言って、 闇の中へ消えた。 静寂。 Rは、震えながら立ち上がる。 「……クロウ……あいつは……」 クロウは、低く言った。 「……最悪の男だ」 空は、もう暗くなっていた。 そして、Rは―― はっきりと分かった。 ――いつか、あいつと戦う。
第二章・第三話
【仮面のない戦い】 廃れた集落。 風に吹かれて、 壊れた看板が、ぎい…と鳴っていた。 R、カイ、クロウは、 ゆっくりと中へ入っていく。 「……気配が、ある」 カイが、小さく言った。 クロウは、頷くだけ。 「……仮面は、つけるな」 Rは、唾を飲む。 「……でも……」 「……大丈夫だ」 クロウは、低く言った。 「……お前は、もう“立てる”」 その言葉に、 Rの胸が、熱くなった。 ――キィ……。 奥の建物の影から、 人影が、ひとつ、出てくる。 黒い仮面。 エクリプスの斥候だ。 「……見つけたぞ」 低く笑う声。 Rは、無意識に仮面に手を伸ばす。 ――だが、止めた。 クロウの言葉を、思い出す。 Rは、ゆっくりと一歩前に出る。 「……ここは、通さない」 斥候は、鼻で笑った。 「……仮面もつけずに?」 ――次の瞬間。 斥候が、跳んだ。 仮面の力で、 常人離れした速さ。 「……っ!」 Rは、身を低くしてかわす。 風圧が、頬をかすめる。 ――怖い。 でも、逃げない。 Rは、歯を食いしばり、 拳を握る。 ――踏み込む。 ――殴る。 当たらない。 だが―― Rは、止まらない。 何度も、何度も。 転んで、 立って、 また向かう。 斥候の動きが、 少しずつ、荒くなる。 「……ちっ」 苛立ちが、見えた。 ――今だ。 Rは、斥候の足元に、 飛び込んだ。 肩で、体当たりする。 「……ぐっ!」 斥候が、よろけた。 Rは、そのまま、 渾身の一撃を、腹に叩き込む。 ――ドン。 斥候が、後ろに倒れた。 仮面が、外れる。 中から出てきたのは、 ただの、若い男の顔だった。 Rは、息を切らしながら、 その顔を見る。 ――同じ、人間だ。 クロウが、近づく。 「……よくやった」 Rは、驚く。 クロウに、褒められた。 それだけで、 胸が、いっぱいになった。 「……仮面がなくても」 Rは、呟く。 「……俺、戦えた……」 クロウは、静かに言った。 「……それが、本当の一歩だ」
第二章・第二話
【限界の先】 日が昇った頃、 Rは、倒れていた。 地面に、顔を押しつけたまま、 指一本、動かない。 「……は……は……」 呼吸だけが、やっとだった。 カイも、少し離れた場所で、 仰向けに倒れている。 「……もう……無理……」 クロウは、二人の前に立つ。 「……死んでないな」 淡々と確認する。 Rは、かすかに顔を上げた。 「……なんで……こんな……」 声が、震える。 「……仮面、使えば……もっと……」 クロウは、首を横に振った。 「……違う」 Rの前に、しゃがみ込む。 「仮面は、強くしてくれる」 「……でもな」 クロウは、Rの胸に、指を当てた。 「“強くなった気”にさせるだけだ」 Rは、目を見開く。 「……じゃあ……」 「お前は、仮面がなければ、何者だ」 Rは、言葉を探す。 だが、出てこない。 ――何者でもない。 そう、思ってしまった。 「……何も、ないです」 Rは、絞り出すように言った。 クロウは、少しだけ目を伏せた。 「……そうか」 それから、静かに立ち上がる。 「なら、作れ」 Rは、顔を上げる。 「……作る?」 「そうだ」 クロウは、空を見た。 「自分の“芯”を」 風が、吹いた。 砂埃が、舞う。 Rは、震える手で、 地面を掴む。 「……俺は……」 息を整えながら、 言葉を探す。 「……守りたい」 クロウは、Rを見る。 「誰を」 「……目の前の人を」 Rの声は、弱いけど、真っ直ぐだった。 「……仮面があってもなくても」 クロウは、ほんの一瞬だけ、 口元を緩めた。 「……それでいい」 そう言って、背を向ける。 「……今日は、終わりだ」 Rとカイは、驚く。 「……え?」 「……限界は、越えた」 クロウは、歩き出す。 「……あとは、積み上げろ」 Rは、空を見上げた。 太陽が、まぶしかった。 ――初めて、自分で掴んだ光だった。
第二章・第一話
【修練の始まり】 朝靄の立ち込める、荒野。 Rとカイは、倒れ込んでいた。 「……はぁ……はぁ……」 息が、続かない。 指先が、震えている。 遠くで、クロウが立っていた。 岩の上に腰を下ろし、 こちらを見下ろしている。 「……まだか」 淡々とした声。 「……もう無理だって……」 カイが、地面に顔を押しつけたまま言う。 「三日……寝てない……」 「……寝るから、弱い」 クロウは、立ち上がる。 「立て」 Rは、歯を食いしばって、 腕に力を込める。 ――ぐぐっ。 体が、持ち上がらない。 「……仮面、使えば……」 思わず、口に出た。 クロウの視線が、刺さる。 「……使うな」 Rは、黙る。 クロウは、Rの前に立った。 「仮面は“借り物”だ」 Rは、俯いたまま聞く。 「……だが」 クロウは、低く言う。 「お前自身は、何だ」 Rは、答えられない。 「……守りたいって言ったな」 「……はい」 「じゃあ聞く」 クロウは、Rの額に指を当てる。 「その体で、誰を守れる」 Rは、唇を噛んだ。 ――何も、言えない。 「……いい」 クロウは、手を下ろす。 「今は、それでいい」 そして、背を向ける。 「……だから、鍛える」 クロウは、剣を地面に突き刺した。 「走れ」 「……え?」 「日の出まで、あの丘を往復だ」 遠くに見える丘。 ……正気じゃない距離。 「……無理だって!」 カイが叫ぶ。 クロウは、振り返らない。 「……死ななきゃ、まだ足りない」 Rとカイは、顔を見合わせた。 そして―― Rは、立ち上がった。 足が、震えている。 でも、前に出る。 「……行こう、カイ」 カイは、苦笑した。 「……マジで、ついてくんだな」 二人は、走り出した。 朝靄の中へ。 足音だけが、 荒野に響いていく。 クロウは、背後で呟いた。 「……その目、忘れるな」
第一章・第六話
【旅立ち】 夜。 街は、まだざわついていた。 エクリプスの襲撃の噂が、 あっという間に広がっていた。 Rは、ユナの花屋の前に立っていた。 シャッターは、半分下ろされている。 中から、灯りが漏れていた。 Rは、ゆっくりと扉を開ける。 「……R?」 ユナが、振り返った。 仮面は外している。 その顔は、少しだけ疲れていた。 「……無事でよかった」 Rは、短く頷く。 「……俺、街を出る」 ユナの目が、見開かれる。 「……え?」 Rは、拳を握りしめた。 「今日、何も守れなかった。 仮面があっても、なくても……」 言葉が、震える。 「……強くなりたい」 ユナは、しばらく黙っていた。 それから、静かに微笑んだ。 「……Rは、逃げるんじゃないんだね」 Rは、驚く。 「……逃げる人は、黙って消える。 Rは、ちゃんと“行く”って言ってる」 ユナは、カウンターの奥から、 小さな布袋を出した。 「これ……持ってって」 中には、 Rがもらった、あの小さな花の種が入っていた。 「……帰ってきたとき、植えよう」 Rは、受け取る。 「……ありがとう」 ユナは、少しだけ照れたように笑った。 「……死なないでね」 Rは、強く頷いた。 店を出ると、 路地の向こうに、カイがいた。 壁にもたれて、腕を組んでいる。 「……やっぱり、行くんだな」 「……ああ」 カイは、口の端を上げた。 「俺も行く」 Rは、目を見開く。 「……なんで」 「面白そうだから」 カイは、軽く言ったが、 その目は、本気だった。 「……それに」 少しだけ、真面目な声になる。 「お前、放っとけない」 Rは、何も言えなかった。 その時、 闇の中から、低い声がした。 「……遅い」 クロウだった。 街の外れ、 街灯の下に立っている。 「……行くなら、今だ」 Rとカイは、顔を見合わせる。 そして―― Rは、一歩前に出た。 「……連れていってください」 クロウは、Rを見る。 少しだけ、目を細める。 「……後悔するぞ」 「……しても、戻りません」 クロウは、ふっと息を吐いた。 「……いい」 そう言って、背を向ける。 Rとカイは、その背中を追った。 街の灯りが、少しずつ遠ざかっていく。 ――Rは、振り返らなかった。 もう、“戻る場所”じゃない。 ここからが、 本当の始まりだ。
第一章・第五話
【仮面の男】 クロウは、ゆっくりと前に出た。 幹部は、鼻で笑う。 「……一人で来たのか。 死にたいのか?」 クロウは答えない。 ただ、静かに仮面の縁に指をかけた。 ――カチリ。 その小さな音だけで、 Rの背中に、ぞくりと寒気が走った。 「……エクリプスのやり方は、変わらんな」 クロウは、淡々と言う。 幹部の眉が、ぴくりと動いた。 「……知っている口だな」 「昔、少しだけな」 クロウは、目を伏せる。 次の瞬間―― 消えた。 「……っ!?」 幹部が、目を見開く。 だが、もう遅い。 クロウの拳が、 幹部の腹に、静かに沈んだ。 ――ドン。 空気が、爆ぜた。 幹部の体が、後ろに吹き飛ぶ。 「な……!?」 Rは、言葉を失った。 ――仮面の力を、感じない。 なのに――強い。 クロウは、追い打ちをかけない。 倒れた幹部を、ただ見下ろす。 「……帰れ」 幹部は、苦しそうに立ち上がる。 「……名を、名乗れ」 クロウは、一瞬だけ黙ったあと―― 「……必要ない」 そう言って、背を向けた。 黒仮面たちは、 その背中に、誰も追撃できなかった。 ――本能が、止めていた。 エクリプスの連中は、 仲間を抱えて、撤退していった。 静寂が、戻る。 Rは、地面に座り込んだまま、 クロウの背中を見ていた。 「……あなたは……」 クロウは、振り返らずに言った。 「生きたいなら、立て」 その言葉に、 Rは、震えながら立ち上がった。 クロウは、初めてRを見る。 「……仮面を、外せ」 Rは、迷ったが、 ゆっくりと仮面を外した。 クロウは、Rの素顔を見て、 小さく頷いた。 「……いい目だ」 それだけ言って、 また歩き出す。 Rは、無意識に口を開いた。 「……待ってください」 クロウは、足を止める。 「……教えてください」 「何をだ」 「……どうすれば、 あんなふうに、なれますか」 クロウは、少しだけ黙った。 そして、静かに言う。 「……捨てることだ」 Rは、首を傾げる。 「……捨てる?」 クロウは、空を見上げた。 「仮面に頼る心を、だ」 その言葉は、 Rの胸に、深く刺さった。