山菜
8 件の小説名前
月曜日 四限 国語の授業 「名前とは存在を表すモノである」 先生が言った。 どうやら、名前が付いていないものはこちら側から「呼び方」がない為、存在していないものと同じである。 そういう事だと、私は解釈した。 私達が生まれ、一番最初に親からのプレゼントととしてもらう 「名前」 それはこの世で生きていくために、必要なもので、いわば、存在証明である。 名は体を表す この言葉がしっくり来たのはこの瞬間だった。 名前は私達を存在させてくれるもので、 私達は名前に合ったような人間になるべきである。 まぁ、そう言われても中々に難しい事である。
最後の時間
「お別れだね。」 梅の花が咲き始め、満開をいまか今かと、待ち望んでいるような春の日差しが差す日。 あまりにも今日には似つかわしくない言葉を発したのは、教壇の上に立つ自分達の担任だった。 春は新たな出会いの季節である。と何処かで聴いた。その反面多少の別れがあるのも忘れてはいけない。 その対象は、友達、先生、家族、誰かはわからないけれど。 きっと先生はポツリと呟いたのだろうが、この一年一緒に歩んできた仲というのだろうか。 さっきまで騒がしかったはずの教室の隅にいた人達の耳にも聴こえたようだった。 少しシンと静まり返った教室。が、すぐにさっきの騒がしさを取り戻す。 「そうだね」 と、誰かがつぶやいたような気がするが、誰かは分からない。 先生は打って変わって、聞き慣れた声のトーンで、言った。 「ほーら、挨拶の時間だよ〜!」 学級委員長が、挨拶をし、それにつづいてみんなが言う。 「さようなら」
隣
腹が立つぐらいの晴天と、それを綺麗に鏡に写し取った様な、大きな大きな水たまりの様な大地が途方もないくらいに広がっていました。 これが、生と死の狭間というのでしょうか? あまりにも現実とは思えない景色でした。 今こうして、立っていなければ上下など分からない事でしょう。 ですが、こんなに綺麗な綺麗な、場所なのに周りには誰1人として何もいませんでした。 私はたった1人でした。 1人だと気がついた途端に、この景色の美しさなどどうでも良くなりました。 キラキラと光が弾けたとしても 眩しいだけでした。 キィーンと、響いた気がした空気は より一層孤独を感じさせました。 あれほど眩しかったこの場所は 途方も無く同じ景色が続いていて、 私を絶望の方へと、ずるずると引き摺り込むだけでした。 私は、もう一度でいいからあの人に会いたいと涙を流しました。
放課後の教室にて
彼女は涙を流した。 みるみる大きな目が、僅かに揺れたと思ったら、涙が、次から次へと流れ出てきた。 ひとつひとつの涙の雫は、重力に引っ張られる様に、下に落ちていく。 その落ちていく僅かな時間でも、その雫は、自分の身体に周りの景色をこの上なく綺麗に映し出して、はじけていく。 彼女の涙を流す理由は分からない。 彼女の目線の先に誰かがいるわけでも無いため、誰かが泣かせたという事も無い。 放課後 夕日の差した教室で 1人 小説でありがちかな。 彼女はしばらく涙を流した後、教室を去った。 去る時、少し目元の赤みを気にしながら。 あの涙は、 悲しい、嬉しい、苦しい、 一体、どんな感情を含んでいるのだろうか。 きっと、そんな簡単に言葉で言い表せる事ができる感情では無い。 きっと、人間の他の感情だってそうなんだろうな。 だって 彼女が、泣いて、ここを去った後 ずっと、僕の心はズキズキと痛む気がするのに 誰も見ていないのに、誰にも見えないのに、 強がりみたいな顔して、笑うことしかできないや。 彼女の事を泣かせたのはきっと僕だ。
交差点
私は悩んでいた。 この交差点で 右か、左か、それとも真っ直ぐか、 どの道に進もう? 私の後ろからゾロゾロと歩く人々は、何も迷う事なく、さっさと自分の行くべき道を進んで行った。 まるでこうであると、決められているかの様だった。 道の端によって、他の人たちが、どの道に進んでいくのか、ぼぅっと眺めてみた。 まるで工場の一連の作業を見ているかの様に淡々としていて、 一人一人が、まるでこの交差点が見えていないのでは無いかと、錯覚するほどで、 こんな所で悩んでいる自分が惨めに思えるほどであった。 でも、私は気がついた。私の見えている交差点の中のひとつ。 誰もその方向に進んで行った人がいない。 鳥肌が立つ様な、興奮が私の身体を包み込んだ。 「〜〜〜どうしようツ、すっごくワクワクする…!!!」 誰に言うわけでも無い、ただの独り言。 他の人が思うより、ちょっとデカい声で言っちゃっただけ。 気がついたら、身体が勝手に動いていた。 さっきまで、曇っていた空だって、今は青空が広がってて ずっと重い気がしていたスクールバッグは、片手で持てるぐらい軽かった。 ただの、ローファーのはずなのに、歩けばコツコツと、まるでヒールを履いているかの様な軽やかな、音が響いた。 見つけた。私だけの道。 他の人より悩んだからこそ、見つけられた道。 もう、迷えない。迷わない。 私は走り出した。 風が少し冷たいけれど、そんな事気にならなかった。
承認欲求
ただ、1人の家の中に音が欲しいと言う理由だけで、垂れ流しているテレビの無機質な音。 その内容は 有名人が結婚しただとか、何処かで起こった事件、事故だったり。 内容なんか、一つ一つ覚えている訳がなくて、 1時間、TikTokとか、Instagram、YouTubeとかを見て時間を溶かした時とほぼ同じような状態。 それぐらい、私は他人に興味なんてないし、所詮他人も、私になんて興味はない。 でも、そんな些細な事に気がついたのはつい最近の事。 でも、止められなかった。 ♡が押されたという通知一件。 コメントされたと言う通知一件。 フォローされたという通知一件。 その全部一つ一つが、私を認めてくれたような気がして、嬉しくて、もっと、もっと反応が欲しいって。 「私を見て」 って、承認欲求が溢れてたまらなかった。 ほら、また今日も無機質な音と、無機質な光が漏れ出すスマホに照らされて 「投稿」 のボタンを押す。 誰かが私の事を見つける事を願って、 投稿完了ってね。
ハッピーエンドへ
「どんなハッピーエンドがお好みですか?」 そう、先程いた場所からは考えられもしない、 精錬で、艶やかに磨かれた剣のような、佇まいをした人は言った。 なぜ、突然そんな事を聞いたのか見当も付いていない様子の疑問を投げかけられた相手。 「…それに、答えたら貴方は私をハッピーエンドまで連れて行ってくださるんですか?」 多少皮肉の様な口ぶりだった。 しかし、声は少々震えていたのは恐らく気のせいでは無い。 剣の様な人はその問いには答えない。自分が最初に問いた答えを静かに待っている。 その目は、相手の答えを全て知っている様な貫いてくるような冷たい目のようにも、何も悟ってなどいない純粋無垢なような目にも見えた。 「………………私は…、主人公が何処に、どんな状況でおかれたとしても、主人公が自分らしく生きていける事が、ハッピーエンドだと、思います…。 運命の人…だとか、人生が変わった日になった、ではなくて………………」 本当に拙い言葉で、 まるで赤子が答えているような。 物語の真をついているような。 そんな答えが返ってきた。 きっと問うた相手を間違えた。 予想の斜め上どころか、予想なんて出来やしないところを突かれてしまったようだ。 「きっとその物語は、面白味がないですよ。」 そう、答えることしか出来なかった。
休息
深い深い、呼吸を繰り返しながら、目を瞑るんだ。 そうすれば、だんだん自分の体がどこか、別の場所にあるように感じるわ。 「そんなのできるはずがない」って きっと、いうんでしょう。 そうね。できるはずないわ、だって想像だもの。 でもね、現実を見たくなくなった時、見れなくなった時、どうしようもなく消えてしまいたい時にはね。 逃げ場所だって大切だと思うの それはどこだって構わないけれど。 ほらだって、この世には 「逃げるが勝ち」って言葉があるぐらいなんだから。 無理だって思ったら逃げるんだ。 それも、なんだかんだ、きっと楽しい事に繋がってるだろうから