ハシビロコウ

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ハシビロコウ

人生初の友達に言われたあだ名。 好きな獲物はアジ。 で、今年の漢字は「味」。 シリーズ「宇宙のどこか」(現在2話) 作品集「未完成」、「シアター」新年明けましたのでどちらも終了させていただきます。

森の熊さん

ある山に鬼が遭難してきました。 森が生い茂る山肌を彷徨っていると、 熊の親子が現れました。 「熊や。何を探しているのだ?」 鬼は聞きまそた。 「蜜です。」 熊は答えました。 「こんな寒い日に。」 「私たちにとって食べ物は命。お外の様子で疎かになぞできません。」 鬼には効きました。 なぜなら鬼は命に無頓着だからです。 「鬼さは何しにきたべよん?」 子熊が聞きました。 「山の頂上まで登り、日の出を見るのだ。」 熊には堪えました。 子熊は鬼が日光、 特に日の出の光を浴びることは死を意味することを知りません。 無垢な子熊は尚、聞きます。 「日の出というのは美しいの?」 熊にとって日の出は夜明け。 住処へ戻る、かたや、貴重な睡眠の時間です。 「ああ。とても美しい。生きていることを忘れてしまうほど。」 鬼は子熊の無垢に応えます。 やはり、母熊には堪えました。 子ども達が流す純水な言葉の滝の水しぶきは、 親であろうとその目を穿ちます。 「なぜ,,,何故行くのです?」 母熊が聞きます。 子熊にそれは知り得ません。 「少し体に触れてもよかろうか。」 「ええ。どうか。」 熊はここぞとばかりに鬼へ体を寄せます。 「密です。」 「温かいな。」 「鬼さはごっつ冷たいの。」 子熊は不思議に思います。 鬼の体が凍てつくように寒いのは、 今が月が見上げる夜中だからでしょうか? 「あなたが望むならいつまでもここにいましょう。どうか、温まってください。どうか。」 優しい熊でした。 その優しさが鬼には伝わりません。 鬼の体にはチタンが埋め込まれているようです。 それが善意を跳ね除ける悪行なのか、 せめてもの救いの気持ちなのかは、 山道の落ち葉でさえ伺えません。 鬼は病弱です。 母熊には分かります。 命を捨てた寒気は熱の籠った涙を冷まします。 鬼がその体を離しました。 「行くのですね。」 「あぁ。」 「日の出はまだまだ先だよ?」 「ゆっくり山道まで登るさ。走る足もないしな。」 鬼は歩き出します。 「バイバイ、鬼さん。」 「そんな言い方をしてはダメよ。いずれ帰ってくるのだから。」 「そっか。またね、鬼さん。」 「きっと、下りはさぞ明るいでしょうね。」 鬼は手も振りませんでした。 まもなく鬼は見つかりました。 大きな木の根元に見つかりました。 数歩手前は木々が生えておらず、 雲も晴れ太陽が見えます。 しかし大樹が影になり見事に日光を防いでいます。 鬼は座りこんでいます。 お腹が空いたのでしょうか。 母熊もそう願います。 熊が除きこむ、 顔がありませんでした。 子熊には最初それが布切れか何かに見えました。 母熊の唸り泣く様子から、 これが鬼の死骸なのだと分かります。 他の熊に食われたのです。 体の中はがらんどう。 まるで本物の布切れのように、 ペラペラの皮膚皮のみが、 母熊の嗚咽の響きによる風で靡きます。 大樹の裏にはチタンが乱雑に転がっています。 子熊はただ唖然とします。 涙は溢れんばかりで声が出ません。 普段母熊が持ってくる肉片がこのようになっていることを、 子熊は思い知ります。 蜂の巣をくしゃくしゃにしている時には湧いてこない、 悲しみと恐怖とその他たくさんの。 落ち葉に埋もれる木の実ほどのたくさんの重く土臭い気持ちが一気に押し寄せます。 これが自然です。 お腹が空いていたのでしょう。 そう母熊が零します。 食べることは生きること。 食べて行かなければ山道に置いていかれます。 食べられることは死ぬことです。 食べるために殺し、 食べられるために生命としての役割を終えます。 山森の熊の親子はまた一つ、 大きな成長を遂げました。 山の麓では狩猟の発砲が音楽を奏でます。 木の実も蜜も見つからず、 得体のしれない武器により無念の死を遂げた怨念 彼らは人間に殺された死体を見たことがあるのでしょうか。

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森の熊さん

書き留めてよ、真スター

物語を書く前にふとよく思うことがある。 「一言で表すなら何だろう」。 何かを書くときそれは一言で何だろう。 いつも考えないようにしてる。 考えすぎてしまうから。 その一言に囚われてしまうから。 その一言に注目して、 周りが見えなくなる。 見ていられなくなる。 そんな人が僕は嫌いだから。 実を言うと憧れているから。 憧れ焦がれている人は皆一言で片付ける。 僕のようなちっぽけな存在をもっとちっぽけにしていく。 「視野を広く持とう」。 囚われていく。 周りが見えなくなっていく。 見ていられなくなる。 そんな人が僕は嫌い。 実を言うと憧れている。 それを一言で表すなら「没頭」。 あの人達には僕など見えない。 見てくれない。 みてくれだけでも見て紅。 その血眼、 赤味を帯びた眼帯(がんたい)で。 いっそのこと捕縛してくれれば楽なのに。 どうか僕の焦げた憧れに味付けを。 YES, MY MASTER 照らし出して、真スター 書き留めて、master 書き止めて、masker 導き出した、 レールに沿って歩く法律が欲しい。 掻き出して、coaster 書き出して、duster 探し出して、問スター 反射した月のクレーターも、 見ることができない太陽。 日々を消耗していると自然と思うことがある。 「何かしなきゃいけないのかな」。 誰もが何か特別なことを成し遂げないといけないのかな。 何かを生み出せなきゃ、 通知なしで社会から産み出される世界。 その一区切りに囚われる。 その一区切りに注目して、 周りが見えなくなる。 見ていられなくなるなんて、 そんなことは僕は嫌だから。でも、 やっぱり憧れちゃうんだよね。 その一言に皆惑う、惑わされいく。 つま先、矛先、合わせていく。 衝動でもないのに、 その一区切りに囚われてく。 煩悩も激動もなく、 静かに縛りあげられる度、 足袋、外れるこはぜ。 真っ裸になる足。 素足じゃ外も出れない世の中で、 歩幅も心も削られるくらいなら、 進む道ごと、 動く歩みごと、 見えなくなってしまえばいいのに。 太陽の影に紛れて。 YES,MY MEISTER 抱き留めて、真スター 思考占めて、master カラダ写して、masker 抜き型から、 すり抜ける可愛そうな子を作らないように。 焚き付けて、coaster 焼き付けて、duster 見続けて、問スター 価値や意味を独占するんじゃなくて、 僕らにも分けてほしいだけ。 スターターになって、 リードしてほしいだけ。 決まった散歩道で首輪付けて、 マーキングしたいだけ。 YES,MY MONSTER 輝いて、真スター 連れてって、master 側にいて、masker 苦しんで、coaster 照らされて、duster 責め殺して、問スター 「お星さま」だけ信じればいいのに。 信じることができればいいのに。 意思が弱い僕たちは、 そこら辺の石ころにすら負ける、 歪なガラスの繊維を持っている。 ギラギラ、照り照り、 ライトを受けるそれは、 キラキラのデコレーションされた、 気持ちの飾り。

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書き留めてよ、真スター

サンタさんなんかい ら ない。

「これ、あげる♪」 浮かぶ幼児の声。 園に入ったばかりの時だった。 ___ 「あら〜かわいいねぇ〜。」 「いっつも朝早起きでえらいねぇ。」 「そうだ、おばちゃんからプレゼント。 これ、あげる。」 最初は嬉しかった。 初めての登下校。 幼稚な私は何にもないから、 何でもくれた。 生まれたての子鹿に、 たくさんの松葉杖をくれた。 ___ 「え!?〇〇ちゃん、✕✕高校に行くの!?すごぉ~い!!応援しちゃうわっ。 はい、これあげる。」 「なんて真面目な子なのよ〜。もう感激。」 いえいえ。そんな。 「嬉しくてプレゼント。良いのよ〜。受け取って。 はい、これあげる。」 ___ 「〇〇ちゃん、合格おめでとう!!✕✕高校だっけ?すごいねぇ。 はい、これ」 「賢い子ねぇ。こりゃ将来良い旦那さんができるわ。 はい、これ」 はい、これ はい、これ 持ってきな持ってきな。 はい、これ はい、これ 「これ、あげる♪」 「,,,,,いらないです。,,,,,,」 ___ 〇〇ちゃんすごいね!!これ先生からのプレゼント。 〇〇ってよく食うよな、俺のも食う? これ、あげる 〇〇ちゃん〇〇ちゃん〇〇ちゃん〇〇ちゃん〇〇ちゃん〇〇ちゃん〇〇ちゃん〇〇ちゃん〇〇ちゃん〇〇ちゃん あげるあげるあげるあげるあげるあげるあげるあげるあげるあげるあげるあげるあげるあげるあげるあげるあげる やめて。 「お母さんお父さんから、プレゼント貰ってないの??じゃあ私があげる♪,,,メリー」 あげる これもあげちゃうあれもあげちゃう あげちゃうよあげるわあげようかな もうあげる持ってっていいよ あげてあげる受け取ってよ 僕より〇〇ちゃんが使ってよ あげる 〇〇ちゃんにあげたいんだ あげる 〇〇ちゃんの方が似合ってるよ あげる 〇〇が貰った方がいいと思うな あげる あげる 貰わなくて良いの? 貰っちゃえば? 貰って良いよ 貰ってほしいな 貰ってよ 貰えよ 貰え 「なんで受け取ってくれないの!?!?」 いらない!!! 何もいらない,,, 『無駄』なんだよ。全部全部っ!!! あなたの声なんて聞きたくない。 もうやめてよ。 お願いだから。 逃げても逃げても、その先に、 また「ナニカ」が待ってる。 ナニカは私の手に、心に、 ツミに積もった“負荷”をさらに高く積もうとする。 「もうやめてよ!埋もれちゃう,,,」 ナニカは今にも倒れそうな私を見て笑う。 「逃げたってさ、『無駄』なんだよ??」 恐怖で意識が遠のく。 「もらってくれるの!?」 もうだめだ。 「ありがとう!!!♪♪」 私は覚悟を持ってその場に倒れた。 「これ、ちょうだい。」 目が覚めて絶望する。 「これ。いいでしょ?」 今まで私に散々あげてきた人達が、 私が運んできたそれを奪っていく。 「だって、〇〇ちゃん、 恵まれすぎじゃん。」 ああ。 「じゃあこれ、貰ってくね。」 「私これがほしい!」 待って 「これもちょうだい」 待ってよ 「ちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだい 〇〇ちゃん〇〇ちゃん〇〇ちゃん〇〇ちゃん〇〇ちゃん〇〇ちゃん〇〇ちゃん〇〇ちゃん〇〇ちゃん〇〇ちゃん」 あああああああああああ 全部全部奪ってく。 なくなってく なにもかも 「いっつもここでうずくまってるよね。君、もしかして帰る家ないの?」 ,,,, 「親に電話は,,,そうだよね。嫌だよね。」 ,,, 「俺、いい年したおっさんだけど、家一人なんだけど、。」 ,, 「ちょっと狭いけど部屋が一つ空いてるからさ。」 , 「居場所、 あげるよ。」

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サンタさんなんかい ら ない。

人に産まれたら猫になれんの?

「人に産まれたらさ、猫になれへんの?」 「え、人生一周目ならぬ人間一周目?今さっき猿人から進化したん?」 「人間生活にエンジン切った。なんちゃって。」 「切ってもうてるやん。人間辞めんなや。」 「いやな。猫やったらそこら辺の漁師さんに、お魚無料でもらえるやん。」 「そんなことかいな。エンジン掛け直しぃや。」 「半額やなくて、無料やで!?」 「スーパーのオバハンやないか。」 「猫やて。」 「お前な、猫さんなんかより人間の方が良いことあんで。」 「何あるか言うてみぃよ。」 「まずお箸が使えるやろ?」 「おー。」 「ほんで、お箸で口にまで持って行けてー」 「おぉ。」 「あぁ~美味し。言うて。」 「おぉ〜。 ,,,で?」 「え?」 「ほんで何か良いことあるんか?」 「かわいそぉ〜!!」 「はぁ!?」 「いやぁ、かわいそぉやわぁ〜。」 「何がやねん!」 「せやな、あれやな。お箸で食べ物を食べて美味しいと思える感性がないねんな。」 「いや、それくらいあるわっ!ちょっとショボないか?もっと何かあるやろ。」 「あれや、二足歩行できる。」 「猫だってできるよ。ハッピーハッピーハッッピー♪言うて。」 「跳ねとるだけやんかあれ。人間の子供がな、鳥さんになるんやぁ言うて腕パタパタさせとるんと一緒や。」 「酷いなぁ。」 「お前や。人に産まれて猫になるってどういうことやねん。神様舐めとんか?」 「だって肉球欲しいやん。」 「滑り止めの手袋でええんちゃう?」 「猫耳も欲しいやん。」 「カチューシャあるよ。」 「尻尾も欲しいやん。」 「もう着ぐるみ着ぃよ。」 「着ぐるみは立つやん!!」 「四足歩行で何しよる!?コンクリートでもペロペロするんか?」 「ペロペロペロ、塩分摂取♪いや、牛の鉱塩やないか。」 「他何しはります?」 「何で京都やねん。牛ペロはせんて。」 「寿司ペロみたいに言うなや。迷惑度段違いやろ。」 「ブリッジしてテケテケごっこすんねん。」 「怖ぁー!!!」 「かっこええやろ。」 「いや怖すぎる。貞子やんか。というかテケテケごっこってお前腰やるで!?」 「猫は液体やから大丈夫や。」 「お前は貞子や。」 「サダコか。変わった名前でええな。昭和の猫って感じ。」 「猫の名前やったら気持ち悪いやんか。」 「頭の毛、おかっぱにせなな。ほならアバンギャルディでもいいな、飼い主さんも呼びやすそや。」 「とにかくな、人として産まれたなら、最後まで人として、真っ当に生きぃや。それが『運命』やから。運命は壊したらあかんよ。」 よう言うた。拍手。

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第8回N1 英雄にエゴを。

お題『英雄』 コメントを消し込み終えて、 職場に溜め息が舞う。 コメントというのは、 この会社の一大ビジネスである「誹謗中傷」。 私達はSNSに溢れる不快な悪口や荒らしが行き過ぎたスパムを削除して、 お金をもらっている。 消される最後まで刃を向ける言葉に投げられる退職届も少なくない。 楽な仕事だと侮ってはいけない。 そう分かったのも最近。 正社員もバイトも日々事務所の課長から日給をぶんどっている。 休憩時に会いに行くカザメ先輩もその一員。 「正義がなんだ悪がなんだって、そんなもん誰も気にしちゃいない。」 深く頷く。 先輩は私がいない時でもこんなことを心で唱えている。 そういう人だ。 そういう人だから、 会いに来るのはもう私だけだ。 「皆、「英雄」になりたいんだよ。絶対的な英雄にな。」 一体どんなコメントを消したんだろう。 いつもより口が弾んでいる気がする。 「英雄ってどんな人ですか?」 時々先輩の呪文に茶々を入れる。 こうすると話がノッて香ばしくなる。 茶葉もお湯も自分で厳選している。 「,,,お前とか。」 「私!?」 私は自分で自分がどんな人だか、 分からない。 先輩の話だって面白いから聞いているだけだし、 何の力も能もない。 そんな私を先輩はただただ褒めてくれた。 「言葉」で救ってくれた。 「英雄だなんて、私,,,」 「ぱっと頭に浮かんだだけ。そんなすごいもんじゃないよ。」 先輩はこの職場で私と会う前は、 インフルエンサーをしていた。 動画やツイートはもう灰カスになっていると思う。 それくらい燃えに燃えていた。 ただ私にはその炎が灯りのように感じた。 私は先輩に救われたんだ。 「正義も悪もでっち上げたいだけ。誰かを傷つけるような武器が欲しいんだろうなぁ。」 武器,,,。 今の私には無いものだ。 ただ自分の境遇や理不尽な世の中を受け入れて、 そこに身を任せているだけ。 それが英雄だって言うなら、 救ってくれた先輩は勇者だ。 「英雄に刃物なんか要らないんだよ。刃物を振り回すのは悪。拳を振り上げるのは正義だ。」 ドナーという言葉を知っている。 他人の命で人の心臓を動かす。 そんなようなことができる人のことを、 世間は度々「正義」という。 私はそれが嫌いだ。 「英雄は本来誰もが持ってるもの。誰もが持つべきものなんだ。」 甚だ疑問に思う。 それは「犠牲」じゃないのか? そもそも人を救うのに正しいとか悪とかあるのか。 命を掬うのに正しいとか悪とかあるのか。 「正しいとか悪いとかじゃなく、全ての人が。」 あるとすればそれは、ツギハギ。 手術みたく縫い合わせた「義善」だ。 「でも、どうしても、正しいとか悪いとかに左右される。天気より激しくね。」 それが悪いと言われれば、 仲間も捨てて逃げる。 それが良いと言われれば、 自分を捨てても手に入れようとする。 それが悪いと言われれば、 そいつを崖っぷちまで責めるし、 それが良いと言われれば、 そのままそいつを突き落とす。 人は善悪でできている。 善悪は他人でできている。 私は先輩の言葉で生きている。 「だいたいの人はそれに気づかない。自分の正義で人を踏みつぶしたことも、自分の悪で殺してることも。」 偉そうなコメントも誹謗中傷も、 相手のことなんて見ていない。 相手のおかげで刃物を持てる、 自分を見てる。 「灯台下暗しのとの字もない。自分で持っているものが見えないんだ。」 「じゃあ先輩も、英雄になりたくて私を救ってくれたんですか。」 「,,,救ったつもりはないけど。見てたんだ。動画。」 先輩とは画面越しに会っていた。 あの時の私は病気だった。 インフルエンザにかかったように、 熱っぽい頭で見た動画は燃えていた。 先輩も病気だった。 インフルエンサーという病気だった。 「色々やり過ぎだったよな。あの時の俺は過激だった。」 「今なら悪口も荒らしも容赦なく消せますよ。」 「もう自分で消したよ。動画ごとね。」 「,,,,そうですか。」 「実は、こうやって、向き合ってく内に気づいたんだ。」 先輩はこの職場に来て変わった気がする。 もちろん私は画面越しのブルーライトに映る人影しか見たことなかったけど。 「全部エゴだってこと。」 「,,,,え?」 「誹謗中傷も、ネットの声も、俺の言葉も、全部エゴイズムだってこと。」 「じゃあ私は先輩のエゴで救われたってことですか!?」 「そうだよ。やっぱりお前も気付いてなかった。」 確かに、 考えてみれば言葉の刃も棘もニセモノだ。 見せかけが仕掛けられていて、 それに怯えた私達の妄想、偶像。 そんなことに悩まされて振り回されてたんだ。 「俺達人間は馬鹿だよな。エゴで生きてるようなもんなのに、それを使い熟せないどころか、持ってることも分からない。」 正義も悪も全部エゴだ。 それを追い求める必要も、 追い詰める義務もない。 今までの疑問が晴れた気がする。 悪いも良いもなかったんだ。 「俺、辞めることにしたんだ。こうやってウジウジ考えてちゃダメだと思ってね。」 翌日、先輩は退職届を出した。 前々から迷っていたようで、 踏ん切りがついたみたいだった。 またインフルエンサーに戻ってみるよう誘ったら、 「もうあの界隈はごめんだわ。」と やんわり断られた。 最後の仕事を終えて、 最寄り駅まで付き添うことにした。 「お前もいつまでもこんなことしてないでさっさとちゃんとした職見つけた方がいいぞ。」 SNSに溢れる言葉と闘い続けて4年が経とうとしている。 先輩は1年早かった。 先輩と言える人はうちの事務所でも少なくなってきた。 6年も7年も続けている強者もいるけど。 「そういう先輩は何か決まってるんですか。」 「まだだな。今探してる途中だよ。お前もよく考えろよ。」 「先輩はもっといて欲しかったな。」 「エゴだな。」 「エゴで良いですよもう。」 駅の改札まで来て、 先輩は私の肩に手を置いた。 「負けるなよ。」 「もちろん。」 「英雄ってのは他人の文句なんかに負けないんだよ。」 「誰がなんと言おうと炎上しようと先輩は私の英雄ですよ。」 「俺のことそんなふうに言ってるやつなんかXにもいなかったぞ。」 「私だけか。」 「まぁお前のおかげで俺もこうやって決心がついたんだ。」 「先輩も頑張ってください。」 職場に溜め息が舞う。 向かう刃は怖くない。 どうせダンボール製だ。 今日もエゴで働く。 エゴで生きていく。 終 遅くなっちゃいました ごめんなさい。

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第8回N1   英雄にエゴを。

フラッシュパック

顔を保湿したら、光りだした。 嘘だと思って想像したら光らないから。 光るパックを想像してみて。 そう、パックが光ったの。 あたしびっくりしちゃってぇ。 うわぁぁって。 そしたらね、彼氏が、 「なにそれ。怖い。」って。 酷くない!? 人の顔が光ったぐらいで妖怪みたいな扱い。 ムンクの叫びみたいだって。 センスないね。 でね、そのパックが本当に明るいの。 眩しいくらい。 でもちょっと温かくてフェイスマスクしてるみたいだった。 何だか元気出たの。 それくらい明るかった。 何か落ち込んでるときはやっぱ顔からだね。 それで本っ当にお肌も明るくなった。 もうピッカピカっ。 子供のおでこぐらいツルツルになったわ。 ニキビも取れたし。 助かった〜。 彼氏にもあげたら、 感電しそうで怖いだって。 ビビりなんだよね。 そんなこと言ってるからビリビリっとくるんだよって冷やかしてやったわ。 変なところで弱気なんだから。 思い出しっちゃた。 今でも使ってるよそのパック。 「LED」なんだって。 あの時の私には分からなかったなぁ。 懐かしい。 思い出すってすごい大切なのよ。 なんでフラッシュバックしたかって? 閃いちゃったのよね。 これこれ、この光ってるキノコ。 これも「LED」?

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フラッシュパック

も っ た い な い お ば さ ん

30代超えた婚活 春の芽吹きもない寒い氷河世界 頼れるマンモスはすでに凍りつき 気が利くネズミは穴に籠もる 毛皮は同業者が持ってっちゃうし 束の間の日差しも私を避ける 雨にも抗えず雪にも勝てず 正直、こんな自分になりたくなかった それでも心だけは温めてきた デートのお誘いも練習したし、 埋もれた老けにも足跡つけてやってきた も っ た い な い お ば さ ん 残りものには福がある。 華はないけど、 自分がまいた種。 発芽すれば摘んでもらえる。 も っ た い な い お ば さ ん お残しは許しまへんで。 バツイチだろうが構わない。 マルっ切り抱き寄せば、 この寒さ二人で丸まれる。 年も心も変わらない婚活生活 闇雲の月探し回っても 轢き殺したいタヌキばかり 履歴の足しにもならない質問で 不合格レッテル貼りやがって いい人は近づいただけで煙たがる 為政者じゃないんだから 約束(マニフェスト)ぐらい守れるわ ブラック企業は見に来れば分かる 分かってて助けを乞うほど まだ私は落ちぶれてないはず も っ た い な い お ば さ ん 年と経験以外何もないおばさん。 悪く言えばいくらでも言えるでしょ。 君が手をとってくれたら、 もっと掴めるようになる。 も っ た い な い お ば さ ん 物は言いよう。 誰か嘘だと言って。 夢も希望もいらないから、 隣にいてくれる男がほしい。

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も っ た い な い お ば さ ん

2話 コウモリ

「このままだと不法侵入になっちゃうよ。」 中性的な顔立ちが俺を見上げている。 青く綺麗な目は心をも見透かしかねない。 110の番号が打たれたスマートフォンを持つ手は少し震えているのに、 肩はゆっくりと上下し呼吸している。 気絶していたのは分かっている。 俺は夕方、 貸しビルのエレベーターに乗って、 屋上で自殺しようとしていた。 エレベーターが着くと屋上はなく、 死んだはずの彼女と天国があった。 エレベーターは下へ落ちていき、 彼女は『宇宙のどこか』で待っていると言って消えた。 「犯罪者は物語を組み立てるのが上手だね。」 「事実だ。」 「ここで寝ていたのははっきりカメラに映ってるんだ。いずれ“ヤツら”が来る。」 「ヤツら?」 「どこから来たの?」 ホテルの一室で俺たちは対峙している。 汚れたオープンウィンドウの外は明るい。 ネオンが生命のように輝いている。 空が黒い。 太陽も雲もなくただ黒い。 マントを被せられているかのような。 下を見るとパトカーが何台も止まっていて、 ホテルに何人も入っていく。 「,,,ここはどこだ,,,?」 「ここは12階。今、5階からエレベーターが故障してるからそう簡単には来れないでしょ。」 その言葉に絶句する。 これが12階? 空はまるでブラックホールのように底が知れない。 それに吸い込まれるほどたくさんのビルが天高く登り目眩がする。 「ねぇ。」 「何?」 「一緒に逃げない?あなたなら」 ドアが勢いよく叩かれる音で声が遮られる。 「おどれぇぇ!!!騙しよったいなっ!!中でなしよりる!?開けんかいなが!!」 野太い男の罵声がドアノブを突き抜けて鼓膜をねじる。 「警察がこんな怒鳴ってるの初めて聞いたよ。」 「警察じゃなくてマフィア。開けたらあなたは撃たれるだろうね。」 「マフィアがどうしてこんなところに?」 美青年は舌打ち、俺に囁く。 「ボクもオワレル身なんだよ。」 「男か!?!?男身籠っとぉじゃかっ!?こないなことして許しゃおりゅう思ったがいいがか!?!?」 訛が酷い。 何を言っているのか全く聞こえない。 頭が痛くなってきた。 「,,,今ならいける,,,」 青年は背中から薄赤黒い羽を伸ばす。 着ていたスーツのネクタイを外すと、 そこから毛が生えていた。 「ほぉーとは、おみゃいなんすぁパトに身わたしゅうっておごみぼんやったがったがにさえ!!!」 段々と呂律がおかしくなって言ってる気がする。 ドアがメキメキと音をたてる。 窓もバキバキと音をたてる。 コウモリに化けた青年が、 分厚いオープンウィンドウを枠から引っ剥がしていた。 「何するつもりだ!?」 「決まってるでしょ。飛ぶんだよ。」 「飛ぶ!?」 「事情はあとで話す。手を貸して。」 窓の縁に立った翼が助走のようにはためき始める。 ドアはガタガタと揺れている。 「今この手を取らないとどうなるかな。」 「命乞いすることになるよ。」 手を取った瞬間、視界が揺らいだ。 体が宙を舞った。 空はどこまでも同じ色で、 本当に浮いてるみたいだ。 いや、吸い込まれてるのか。 このまま宇宙のどこかに吐き出されるかもしれない。 そんな不気味な空だった。 1話 エレベーター 3話

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2話     コウモリ

モチモチベ

気持ちというのは餅である。 こねればこねるほど粘り強くなり、 焼けば膨れ上がりパリパリになる。 何はともあれ餅なのだ。 モチベーションはこねればなおる。 柔軟な考えと柔らかい心があれば、 なんとでもなる。 モチベーションこそ諦めるな。 何度も叩け。何度もこねろ。 モチモチのモチベーションを作るんだ。 心はモチよう。 モチつ持たれつの不安定な関係からおさらばして、 やる気、根気に張り付け。 ただやり過ぎは体を壊す。 喉に詰まらせないように気を付けることだ。

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モチモチベ

情気機関

汽笛が上がる。 今日もそこに線路がある。 暗闇の中頭の炭を燃やして走る。 どこに向かうかも分からず。 いつもただ脱線が怖くて下を向く。 灯台なんてなく下暗し。 上げる煙で視界は曇り、 心はきっと晴れ模様になるなんて腫れ物のような気持ちで。 トンネルを何度もくぐる。 明日に繋がることすら祈る毎秒。 それでも滑車は止まらない。 炎は止めどない。 燃料は心。 怒り 悲しみ 憂い 喜び 興奮 そんな情気。 常時耐えない蒸せるほど情熱。 奥の奥にある意思、決意。 それをコントロールするためにも、 線路を見失ってはいけない。 乗れよ。 汽笛を上げる。 常軌を逸するほどの情気。 今日も上機嫌。

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情気機関